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*それが仕事な人たち 最初はたちくらみだと思った。 久々に降り立ったロンドン。事件の調査の為遠征し、仕事が一段落着いたところでふと元同僚の顔が浮かんだ。 彼女は警察を辞職し、この地で大学教授なり、今もってあの強気な目を輝せ講義をしているとのこと。 もし会いに行けば、嫌そうな態度を隠そうともせず、けれども口の端を上品に上げて迎えてくれるのは容易に想像できる。当然その口からは流れるように挑発・嫌味・悪口雑言etcと出てくるのは経験上明らかで。まあ、その点はお互い様である。 心のどこかで、あのやりとりを懐かしみつつ彼女の在籍している大学講堂に入った瞬間、視界がぐらついた。 暗転。 そうして気付いた時には、見知らぬ場所で見知らぬ携帯を通して、見知らぬ二人があっさりと命を散らす映像だった。しかも通常起こりえない死に方で。 「もし、この首輪がなかったらアンノウンの仕業かと勘繰っていたところですね…」 知らず内に思考が喉をついて漏れた。首に感じる冷たい違和感に手を触れ、現実であることを再認識する。 北條透は警察機構のエリートである。 その頭の中には警察が要注意とマークしている組織のリストが記憶としてあり、いつでも引き出せる。 だが、その詳細の中にスマートブレインなる会社名を確認することは出来なかった。 聞いたことのない社名。非人道的な行い。そして非現実的な機能を持つ首輪。 摘発するには充分すぎる証拠がいまここにあり、その渦中に自分がいる。 「まったく…こんな大きい仕事を処理するのに何日、いや何ヶ月かかるか…」 冷静になるための一時的な逃避として、脱出してからの算段を打ち切った。今はすべきは自分の地盤を固めることである。 放り出された場所は川沿い。いち早く身を隠すために移動した。しばらくすると路線が、その先には整備された道路が見えた。 開けた場所は避け、道路に並走するように点在する街灯の、その光の輪が自分に届かない草むらに身を潜めた。 この位置なら自分の姿は見えず、けれどもその灯りの恩恵に授かることは出来る。 若干暗めの光量に目を細め、手にした携帯を開く。 集めるべきは情報と協力者。携帯をいじり、参加者リストを小さなディスプレイに浮かべ顔をしかめた。 面識のある者の名の中に、風谷真魚と記されていた。 彼女は予知能力があるとはいえ、ただの一般市民だ。こんな日常から隔絶された状況でいつまで耐えられるか。出来る限り早くあの少女を保護しなくては。 次いで協力者となりえそうな葦原涼。ただ彼とは以前、確執があり良好な間柄ではないのは重々承知している。その点に関しては不安があるが、とにかく顔を見知っているというだけで殺しあうことはなく、話し合いに持ち込めるだろう。 二人以外には知っている名は無かった。その少なさに残念さと安堵と、複雑な想いがよぎった。 電池の残量を考え、携帯を閉じる。参加者の名前は頭に入った。 ならば次は現在位置。そっと辺りを見渡し、特徴となりうる地形・建物と今まで自分が歩いた場所を考慮しながら地図でおおよそ位置の見当をつける。 GPS機能を使えば、瞬時に現在位置を割り出せたろうが、充電場所を確保してない以上、節約に越したことはない。 B-7エリア。研究所と書かれた場所の近くらしい。 あの主催者側が用意した施設に、脱出の手がかりがあるとは思えないが…他に役に立つものがあるかもしれない。 当面の食料は持たされたデイパックに入っているとはいえ、先が見えない今、手に入れて損はない。 そもそも自分に支給された、あのふざけた態度の女が言っていたであろう、スペシャルアイテムとやらが、気に入らない。 複雑に色線の入った、CDの規格から外れた厚みの円盤。一体に何の役に立つのか。 幸先の悪さを覚えつつ、北條透は道路沿いに移動を始めた。スマートブレインの思惑を阻止するために。 ○ ○ ○ 風のエルは戸惑っていた。 主催者側の意志は理解した。が、それはなんら自分に関係ない。今なすべきことは、自らの子らを消すため瞑想に入った主を護ることだ。なのにこんな場所にいたのでは使命が果たせない。 光球に姿を変え主の元へ還ろうとし、それは成し得なかった。いまだ自分はここにいる。 まるでその様を笑うかのように、首の冷たい感触が不快感を煽る。 還れない。望むものが出来る。主の傍へ。ならば…。 風をその翼に孕み、風のエルは夜を飛ぶ。どこかいつもと違う感覚を覚えながら。 ○ ○ ○ 夜の闇でもひっそり白く浮かび、厭世的にそびえる建物が見えた。道路と違い、手入れを怠ったのか、荒れた印象を覚える。 侵入は容易いだろうと、一歩踏み出した瞬間、北條は何者かに強引に腕を捕まえられ地面に転がされた。 冷静になったつもりがなりきれていなかった。一瞬の気の緩みを全身で後悔し、続くであろう痛みを覚悟した彼に、届いたのは突風と言葉。 「いきなりすみません。でも、危ないところでしたね」 まだ若い、おそらく自分より年下の青年が、中腰で背中を向けている。いや、先を睨んでいる。 点々と続く光の輪。その輪の一つにいる誰かを。純白の翼。鋭利な嘴を街灯に照らさせ、優雅さすら感じる佇まいでこちらを見据えている人型の鳥を。 「徒人の子らよ。我が主の下へ還るために、悪いが死んでもらう」 「…僕にも、帰りたい場所があります。だから、死ぬわけにはいかない」 「普通に会話している場合ですかッ!?」 青年の主張に北條は転がったままの姿勢で突っ込みを入れる。 「言葉が通じるなら、まず話をします」 「ですが…!」 「アギトでない者を殺すのは忍びないが、せめて楽に…」 男とも女ともつかない声で、一方的な最後の宣告がなされる。 アギト。北條の耳が聴き慣れた音を捉えるやいなや、またも視界が急速に回る。 青年が北條を抱えて横っ飛びに転がったのである。耳の傍で盛大に鳴る葉擦れに重なり、風切音が頭上を通過する。 三半規管が程よくシェイクされ、起き上がりに時間がかかる。青年はといえば、もう体勢を立て直している。 ふらついているとはいえ、思考は冴え渡る。アギトの単語から、相手の正体がクリアに結びつく。 「ヤツはアンノウンです!普通の人間では太刀打ち出来ません、逃げましょう!」 「いえ、あの速さだと追いつかれる…仕方ない」 この暗がりで相手を視認しているのか、隙の無く視線を巡らせながら、青年はジャケットから笛を取り出した。 笛の音が広がる。小さな竜巻が空気を裂きながら青年を包みこむ。 「ハッ!」 気合一閃。手刃で風を文字通り断ち切ると人とは異なる姿の者がいた。 石膏モデルを思わせる、引き締まった筋肉。歌舞伎の面を彷彿とさせる青く縁取られた貌と、同じく青色に染まった腕に、先ほどの青年の姿はどこにもない。黒鉄の輝きをもつ肌は人のそれとは明らかに違う事が伺えた。 北條の知る異形の姿と重ならないそれは、そうまるで… 「鬼…」 草まみれの北條を残し、青年、いや鬼は道路へ跳んだ。 現実という文字をここまで無視した状況の数々に、もしこの場に、かの才媛がいたらどう言うだろう。 答えはでなかった。 ○ ○ ○ 風と風がぶつかり合う。 風のエルの動揺が広がる。 見据えた人間からはアギトの因子を感じ取ることはなかった。 だが、姿を変えこうして戦いの力を得ている。ただそれだけでも危険だ。早く主に伝えなくてはならない。 羽を飛ばし、相手の軌道をそれとなく街灯の下へと追い込む。 退路を狭ませたところで、下段から腕を大きく振り上げるが、爪の切っ先は相手の身体ではなく、街灯を切り崩すだけで終わった。 支柱から切り離され、重力に促されるまま地面に激突した街灯の突端が、そこら中にガラスカバーの破片と耳障りな重低音を撒き散らす。 その反射神経から察するに体術はそこそこのよう。だが武器もなく、防戦一方。とはいえ、正確に自分のいる位置を捉えてはいる。 遠距離から弓で射る方が安全に事が運ぶだろう。 だが風のエルは未知の者に対してより確実に、直接爪で貫き殺すことを選んだ。幾度か対峙し、攻撃し、さらに追い込む。 威吹鬼は空気の流れを読み、距離を取る。瞬間、体が反射的にさらに飛び退がる。 自分のいた一瞬後の空間を鋭利な爪が貫く。勢いを載せて繰り出される蹴りを辛うじて腕で防いだ。 あの爪はまずい。金属性の支柱をやすやすと切り崩した威力だ。 まともに喰らっては、いくら硬質化した肌でもただではすまないだろう。 近接戦より中距離戦を得意とする威吹鬼には不利な相手。音撃管もなく加えて先ほど助けた彼は叫んでいた。アンノウンと。 もし音撃管があったとしても、清めの音が効くかどうかもわからない。かといってこのままいたずらに体力を消耗するわけにいかない。 一か八か。 またも突いて来た攻撃を身を低くして避け、素早く印を結び怪人の懐に半身を捻りこみ、解き放つ。 「なっ!?」 眼前に突如現れた炎の鳥に怪人は隙を見せる。そのまま回転の勢いに乗り風を纏わせた回し蹴り、鬼闘術・旋風刃を頭に叩きつける。 一度弾み、吹っ飛んだ相手に、威吹鬼は警戒しつつも近寄る。 「何をしているんですか!?早くトドメを!」 怪人のさらに先、草まみれの男が街灯の下で叫んでいる。怪人が地を蹴り、彼に向かう。 まずい! 威吹鬼が駆け出した瞬間、体が一瞬輝き、変身が解けた。 「えっ?」 困惑に気を逸らされた。走っても間に合わない。再び印を切る。 慌てた彼が逃げようとして、脚をもつれさせ転ぶ。 怪人の繰り出した攻撃は急に目測を失い、街灯に衝撃が走る。衝撃は騒音となり、がいぃぃぃっん!と辺りの空気を震わせた。発動した炎の鳥が怪人に飛び掛ったのはその音と同時だった。 「くぅ…!」 不利と判断したのか、怪人はふらつきながらも夜の闇へと姿を消した。 ○ ○ ○ 「正直、助かりました。協力していただけて心強いです」 「いえ、こちらこそ。同じ考えの人に出会えてちょっと安心しました」 戦い終わって、二人は自己紹介も程ほどに、研究所に移動した。 笛の音やら金属音やらで散々大きな音をたて、誰か、それこそまた殺し合いにのる者が近くに来てはたまらない。 建物に入ってすぐの、とりあえず適当に選んだ部屋で各々の状況と情報を交換し合う。 最初こそ北條も、青年ことイブキ──「和泉伊織です。呼ぶ時はイブキでお願いします」と言われた──を多少警戒もしていたが、殺人者かどうかもしれない人間を助けるためにあっさり戦いに向かった姿に、どこかの誰かを思い出したのだ。 「…こんな状況下でも笑っていられるあたりとか、似てますね」 「え?何か?」 「何でもありませんよ。ただの独り言です」 イブキとて不思議だった。変身した人間を目の当たりにし、冷静でいられるものはそう多くない。好奇心が勝って尋ねてみると「似たような知り合いがいるので」と彼の知りうる変身するものの情報付きで返ってきた。 無事に帰れたら紹介してもらって、猛士にスカウトしてみようか。 無事に帰れたら──想い人の香須実と、弟子のあきらの姿が浮かぶ。あの怪人も帰りたい場所があったのだろう。 北條から危険な存在と言われても、どこか、話し合う余地があるんじゃないかと考える自分がいる。そして、猛士の一員として人々の安全を護る使命から、倒すべきと考える自分も。なるべくなら、犠牲者は出したくない。 「イブキさん?」 「あ、すみません。えっと、葦原涼さんと風谷真魚さん。この二人と早急に会う必要があると」 「ええ。それと日高仁志さんと、保護対象の桐矢京介さんですね」 「はい。風谷さんと同じく、桐矢くんもまだ学生です。この状況は酷だと思うので…」 助けるべき人間がいる。それだけで、取り乱さずにいられるのは市民を護る職務についているからだろうか。 だが、違和感はある。先ほどの戦闘時。思っていたよりも怪人が吹き飛ばなかったこと。 何より変身が自然と解けたこと。鬼になるのも、その姿を解くのも意志による判断だ。 とはいえ、戦いの最中に変身が解ける事態もある。 だがそれは当人の意識がなくなった場合やダメージ過負荷による瞬間を指し、イブキは無論そんな状態に陥ってなどいない。 ──考えるより、もう一度変身をして確かめた方がはやいか。 「北條さん、ちょっとこれから実験をしたいんですが」 北條としてはこの研究所を探索し、何か役に立つものを手に入れたかったが、真剣な表情のイブキに承諾せざるを得ない何かを感じた。 笛をかざし吹こうと口をつけた瞬間── 『こんな夜遅くに申し訳ない! 』 機械で増幅した声が聞こえた。 「馬鹿がいるー!!」 「いやツッコミ入れてる場合じゃないでふが!?」 思わず叫んだ北條の口を慌ててイブキがふさぎ、ふさぎつつ大声を出してるイブキの口を北條がふさいだ。 大の男二人が、互いの手を互いの口に押し当ててる滑稽な姿を知らず、声はなおも続く。 声の主はデネブと名乗る。どうも【さくらいゆうと】──名簿にあった桜井侑斗だろう──という椎茸嫌いの男の子を探しているらしい。 『侑斗はとっても――――――お! おわぁ!? だ!誰!?モ、モガモガ…………』 最後に機械音特有の耳障りなハウリングを残して声は途絶えた。 「…あんな放送かまして、格好の的じゃないですか」 「A-7エリアっていってましたね。山のほうか…すごく近い」 二人は地図を広げつつ確認する。 「どう思います?声の…デネブって人」 「ただの、子供が迷子になってテンパってる保護者。それ以上でも以下でもありません」 「あ、やっぱり…」 「全く、高校生以下の子供まで参加させるなんて…スマートブレインめ」 【男の子】の【嫌いな食べ物】を事細かに説明されたせいで、桜井侑斗の印象に小・中学生のイメージが定着しつつある。 当人が聞いたら、その後の展開推して知るべし、である。 「誰かに口をふさがれたようですが…心配ですね」 「僕、様子を見てきます」 「殺人にのった人が来るかもしれないのに? 今から行っても間に合わないかもしれないのに? 危険すぎます」 射抜くように問い掛ける北條に、イブキは迷わず答える。 「それが、僕の仕事です。人を助けるのが猛士の仕事なんです」 …どうにも、似ていると思った人物を北條は間違えたようだ。あのヘラヘラした津上翔一ではない。 皮肉をいっても通じない。不器用で、まっすぐな、故に危なっかしい…氷川誠の方に似ているらしい。 「……仕方ありませんね。私もついていきますよ」 「北條さん!」 「ただし、捜索は一時間ほど。危ないと思ったらすぐここに引き返します。いいですね?」 口を開けば悪口しか聞こえない彼女、小沢澄子の声が聞こえた気がする。 ――ふーん、あんたも結構やるじゃない。 幻聴と解っていても北條は返した。 ――私も、警察官ですからね。 北條は思考の邂逅を打ち切り、準備に入る。 「そうなると時間が惜しい。どういう結果になっても、この研究所には戻ります。邪魔になる荷物は置いていきましょう」 イブキがうなずく。 北條は自分のデイパックから携帯と、逡巡してマグライトを取り出す。それらと、折りたたんだ地図をポケットにねじりこんだ。 明かりは使いどころを一歩間違えれば、自身が格好の的となる。が、光源もなしに夜の山に探索に行くのは無謀だと判断した。 「イブキさんはなるべく身軽でいて下さい。私はあなたと違って変身できません。正直、戦力はあなただけです」 「はい」 促され、イブキは携帯だけをデイパックから取り出し、ジャケットの胸ポケットに入れた。 主催者側からの連絡ツールということもあるが、互いに離れ離れになる事態に陥っても、GPS機能があれば研究所に帰り着くことは可能だ。 「もし私たちのいない間にここに誰かが来て、荷物を奪われるのは痛手になります。まとめて隠して、それから行きましょう」 改めて部屋を見渡す。6条程度の広さ。ヒビが走り防音・気密性の欠けた曇りガラスの小さな窓。横長の折り畳み机に、壁紙の模様を隠すように立ち並ぶ細長いロッカー達。 そう、ここは更衣室である。 そのままロッカーに放り込むのには抵抗を覚え、机にのぼり、天井板のひとつをずらす。二人のデイパックを天井裏に押し込め、もとどおりに板をはめ戻す。 隠し場所としてはベタな場所ベスト10に入るが、致し方ない。 若干足をはやめ、辺りを警戒しながら研究所を出ると、やや頼りない星明りが広がる。 と、そこで何か思い出したようにイブキが北條に顔を向けた。 「北條さんのスペシャルアイテムってなんだったんですか?」 ジャケットの袖をめくり、左腕にくくりつけた勾玉を指しながらイブキが質問する。 イブキのスペシャルアイテムは、運良く使い方の知っている勾玉だった。 攻撃能力は低いが、相手の気を逸らしたり、火を自分で起こす必要がなくなるという点では充分に価値のあるアイテムだ。 事実、これがなければ先ほどの怪人との闘いは、正直考えたくない結果に終わっただろう。 北條は苦笑いを浮かべて答えた。 「それが…どうも運が悪かったらしく、碌な物は入っていませんでした。お陰で丸腰状態ですよ」 もし、この時点で北條が支給品のことをイブキに伝えていたら、状況は好転したといえよう。 なぜなら、彼が持たされた円盤は猛士が誇る探索式神。ディスクアニマル【アサギワシ】であったのだから。 かわいそうな保護者を探しに、二人は歩き出す。 もしイブキが、変身の実験を出来ていたら―― もし北條がほんの少しでも支給品の特徴を口にしていたら―― この先の話は少し違ったものになっただろう。 「でも変身したのに、なんで服が無事なんだろう?」 「何か言いました?」 【北條透@仮面ライダーアギト】 【1日目 深夜】 【現在地:B-7 研究所近く】 [時間軸]:最終話 [状態]:健康。 [装備]:なし。 [道具]:携帯電話・地図・マグライト [思考・状況] 1:イブキについていく(デネブを探す) 2:研究所内を探索する 3:葦原涼・風谷真魚・日高仁志・桐矢京介、そしてこの殺し合いに反発する者との合流。また風のエルに警戒。 4:無事に戻った暁にはスマートブレインを摘発する 【和泉伊織(イブキ)@仮面ライダー響鬼】 【1日目 深夜】 【現在地:B-7 研究所近く】 [時間軸]:35話付近 [状態]:戦闘による若干の疲労。鬼に二時間変身不可。 [装備]:変身鬼笛・音笛 勾玉 [道具]:携帯電話 [思考・状況] 1:デネブを探す 2:なんかいつもと色々違うなぁ… 3:葦原涼・風谷真魚・日高仁志・桐矢京介、そしてこの殺し合いに反発する者との合流。また風のエルに複雑な心境。 [備考] ※勾玉の炎は火力が低く(服の表面を焦がす程度)、距離も数メートル程度しか飛べません。回数制限は不明。 ※変身しても服が無事なのはそこだけ映画設定としてご了承ください。 [その他共通事項] ※北條透・和泉伊織のデイパックは、取り出した物以外B-7エリアの研究所に隠してあります。 ※デネブの放送により、桜井侑斗へ小・中学生のイメージを抱いています。 ○ ○ ○  風のエルは困惑していた。 未知の力を持つ者に。そして、通常の力を出せなかった最後の一撃に。 常ならば、あの程度の細さの街灯など切り裂くことが可能だ。実際切り崩した感触がまだ残っている。 だが、あの最後の一振りはそれを成し得なかった。 風のエルは知らない。それが首輪による制限であることを。 還らねば。主のもとへ。早く、はやく。こんな不可解な地と人のいる場所からはやく。 【風のエル@仮面ライダーアギト】 【1日目 深夜】 【現在地:D-7北東部】 [時間軸]:48話 [状態]:困惑気味。頭部にかなりのダメージ。二時間能力発揮不可。 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式 不明支給品(未確認)1~3個。 [思考・状況] 1:とにかく還る。 2:帰還した時には、主に未知の力を報告。 [備考] ※デネブの放送は距離と精神的動揺から聞こえていません。 |008:[[Action-DENEB]]|投下順|010:[[犀虎の十分間]]| |008:[[Action-DENEB]]|時系列順|010:[[犀虎の十分間]]| ||[[北條透]]|[[後の作品]]| ||[[風のエル]]|019:[[想いを鉄の意志に変えて]]| ||[[和泉伊織]]|[[後の作品]]|
*それが仕事な人たち 最初はたちくらみだと思った。 久々に降り立ったロンドン。事件の調査の為遠征し、仕事が一段落着いたところでふと元同僚の顔が浮かんだ。 彼女は警察を辞職し、この地で大学教授なり、今もってあの強気な目を輝せ講義をしているとのこと。 もし会いに行けば、嫌そうな態度を隠そうともせず、けれども口の端を上品に上げて迎えてくれるのは容易に想像できる。当然その口からは流れるように挑発・嫌味・悪口雑言etcと出てくるのは経験上明らかで。まあ、その点はお互い様である。 心のどこかで、あのやりとりを懐かしみつつ彼女の在籍している大学講堂に入った瞬間、視界がぐらついた。 暗転。 そうして気付いた時には、見知らぬ場所で見知らぬ携帯を通して、見知らぬ二人があっさりと命を散らす映像だった。しかも通常起こりえない死に方で。 「もし、この首輪がなかったらアンノウンの仕業かと勘繰っていたところですね…」 知らず内に思考が喉をついて漏れた。首に感じる冷たい違和感に手を触れ、現実であることを再認識する。 北條透は警察機構のエリートである。 その頭の中には警察が要注意とマークしている組織のリストが記憶としてあり、いつでも引き出せる。 だが、その詳細の中にスマートブレインなる会社名を確認することは出来なかった。 聞いたことのない社名。非人道的な行い。そして非現実的な機能を持つ首輪。 摘発するには充分すぎる証拠がいまここにあり、その渦中に自分がいる。 「まったく…こんな大きい仕事を処理するのに何日、いや何ヶ月かかるか…」 冷静になるための一時的な逃避として、脱出してからの算段を打ち切った。今はすべきは自分の地盤を固めることである。 放り出された場所は川沿い。いち早く身を隠すために移動した。しばらくすると路線が、その先には整備された道路が見えた。 開けた場所は避け、道路に並走するように点在する街灯の、その光の輪が自分に届かない草むらに身を潜めた。 この位置なら自分の姿は見えず、けれどもその灯りの恩恵に授かることは出来る。 若干暗めの光量に目を細め、手にした携帯を開く。 集めるべきは情報と協力者。携帯をいじり、参加者リストを小さなディスプレイに浮かべ顔をしかめた。 面識のある者の名の中に、風谷真魚と記されていた。 彼女は予知能力があるとはいえ、ただの一般市民だ。こんな日常から隔絶された状況でいつまで耐えられるか。出来る限り早くあの少女を保護しなくては。 次いで協力者となりえそうな葦原涼。ただ彼とは以前、確執があり良好な間柄ではないのは重々承知している。その点に関しては不安があるが、とにかく顔を見知っているというだけで殺しあうことはなく、話し合いに持ち込めるだろう。 二人以外には知っている名は無かった。その少なさに残念さと安堵と、複雑な想いがよぎった。 電池の残量を考え、携帯を閉じる。参加者の名前は頭に入った。 ならば次は現在位置。そっと辺りを見渡し、特徴となりうる地形・建物と今まで自分が歩いた場所を考慮しながら地図でおおよそ位置の見当をつける。 GPS機能を使えば、瞬時に現在位置を割り出せたろうが、充電場所を確保してない以上、節約に越したことはない。 B-7エリア。研究所と書かれた場所の近くらしい。 あの主催者側が用意した施設に、脱出の手がかりがあるとは思えないが…他に役に立つものがあるかもしれない。 当面の食料は持たされたデイパックに入っているとはいえ、先が見えない今、手に入れて損はない。 そもそも自分に支給された、あのふざけた態度の女が言っていたであろう、スペシャルアイテムとやらが、気に入らない。 複雑に色線の入った、CDの規格から外れた厚みの円盤。一体に何の役に立つのか。 幸先の悪さを覚えつつ、北條透は道路沿いに移動を始めた。スマートブレインの思惑を阻止するために。 ○ ○ ○ 風のエルは戸惑っていた。 主催者側の意志は理解した。が、それはなんら自分に関係ない。今なすべきことは、自らの子らを消すため瞑想に入った主を護ることだ。なのにこんな場所にいたのでは使命が果たせない。 光球に姿を変え主の元へ還ろうとし、それは成し得なかった。いまだ自分はここにいる。 まるでその様を笑うかのように、首の冷たい感触が不快感を煽る。 還れない。望むものが出来る。主の傍へ。ならば…。 風をその翼に孕み、風のエルは夜を飛ぶ。どこかいつもと違う感覚を覚えながら。 ○ ○ ○ 夜の闇でもひっそり白く浮かび、厭世的にそびえる建物が見えた。道路と違い、手入れを怠ったのか、荒れた印象を覚える。 侵入は容易いだろうと、一歩踏み出した瞬間、北條は何者かに強引に腕を捕まえられ地面に転がされた。 冷静になったつもりがなりきれていなかった。一瞬の気の緩みを全身で後悔し、続くであろう痛みを覚悟した彼に、届いたのは突風と言葉。 「いきなりすみません。でも、危ないところでしたね」 まだ若い、おそらく自分より年下の青年が、中腰で背中を向けている。いや、先を睨んでいる。 点々と続く光の輪。その輪の一つにいる誰かを。純白の翼。鋭利な嘴を街灯に照らさせ、優雅さすら感じる佇まいでこちらを見据えている人型の鳥を。 「徒人の子らよ。我が主の下へ還るために、悪いが死んでもらう」 「…僕にも、帰りたい場所があります。だから、死ぬわけにはいかない」 「普通に会話している場合ですかッ!?」 青年の主張に北條は転がったままの姿勢で突っ込みを入れる。 「言葉が通じるなら、まず話をします」 「ですが…!」 「アギトでない者を殺すのは忍びないが、せめて楽に…」 男とも女ともつかない声で、一方的な最後の宣告がなされる。 アギト。北條の耳が聴き慣れた音を捉えるやいなや、またも視界が急速に回る。 青年が北條を抱えて横っ飛びに転がったのである。耳の傍で盛大に鳴る葉擦れに重なり、風切音が頭上を通過する。 三半規管が程よくシェイクされ、起き上がりに時間がかかる。青年はといえば、もう体勢を立て直している。 ふらついているとはいえ、思考は冴え渡る。アギトの単語から、相手の正体がクリアに結びつく。 「ヤツはアンノウンです!普通の人間では太刀打ち出来ません、逃げましょう!」 「いえ、あの速さだと追いつかれる…仕方ない」 この暗がりで相手を視認しているのか、隙の無く視線を巡らせながら、青年はジャケットから笛を取り出した。 笛の音が広がる。小さな竜巻が空気を裂きながら青年を包みこむ。 「ハッ!」 気合一閃。手刃で風を文字通り断ち切ると人とは異なる姿の者がいた。 石膏モデルを思わせる、引き締まった筋肉。歌舞伎の面を彷彿とさせる青く縁取られた貌と、同じく青色に染まった腕に、先ほどの青年の姿はどこにもない。黒鉄の輝きをもつ肌は人のそれとは明らかに違う事が伺えた。 北條の知る異形の姿と重ならないそれは、そうまるで… 「鬼…」 草まみれの北條を残し、青年、いや鬼は道路へ跳んだ。 現実という文字をここまで無視した状況の数々に、もしこの場に、かの才媛がいたらどう言うだろう。 答えはでなかった。 ○ ○ ○ 風と風がぶつかり合う。 風のエルの動揺が広がる。 見据えた人間からはアギトの因子を感じ取ることはなかった。 だが、姿を変えこうして戦いの力を得ている。ただそれだけでも危険だ。早く主に伝えなくてはならない。 羽を飛ばし、相手の軌道をそれとなく街灯の下へと追い込む。 退路を狭ませたところで、下段から腕を大きく振り上げるが、爪の切っ先は相手の身体ではなく、街灯を切り崩すだけで終わった。 支柱から切り離され、重力に促されるまま地面に激突した街灯の突端が、そこら中にガラスカバーの破片と耳障りな重低音を撒き散らす。 その反射神経から察するに体術はそこそこのよう。だが武器もなく、防戦一方。とはいえ、正確に自分のいる位置を捉えてはいる。 遠距離から弓で射る方が安全に事が運ぶだろう。 だが風のエルは未知の者に対してより確実に、直接爪で貫き殺すことを選んだ。幾度か対峙し、攻撃し、さらに追い込む。 威吹鬼は空気の流れを読み、距離を取る。瞬間、体が反射的にさらに飛び退がる。 自分のいた一瞬後の空間を鋭利な爪が貫く。勢いを載せて繰り出される蹴りを辛うじて腕で防いだ。 あの爪はまずい。金属性の支柱をやすやすと切り崩した威力だ。 まともに喰らっては、いくら硬質化した肌でもただではすまないだろう。 近接戦より中距離戦を得意とする威吹鬼には不利な相手。音撃管もなく加えて先ほど助けた彼は叫んでいた。アンノウンと。 もし音撃管があったとしても、清めの音が効くかどうかもわからない。かといってこのままいたずらに体力を消耗するわけにいかない。 一か八か。 またも突いて来た攻撃を身を低くして避け、素早く印を結び怪人の懐に半身を捻りこみ、解き放つ。 「なっ!?」 眼前に突如現れた炎の鳥に怪人は隙を見せる。そのまま回転の勢いに乗り風を纏わせた回し蹴り、鬼闘術・旋風刃を頭に叩きつける。 一度弾み、吹っ飛んだ相手に、威吹鬼は警戒しつつも近寄る。 「何をしているんですか!?早くトドメを!」 怪人のさらに先、草まみれの男が街灯の下で叫んでいる。怪人が地を蹴り、彼に向かう。 まずい! 威吹鬼が駆け出した瞬間、体が一瞬輝き、変身が解けた。 「えっ?」 困惑に気を逸らされた。走っても間に合わない。再び印を切る。 慌てた彼が逃げようとして、脚をもつれさせ転ぶ。 怪人の繰り出した攻撃は急に目測を失い、街灯に衝撃が走る。衝撃は騒音となり、がいぃぃぃっん!と辺りの空気を震わせた。発動した炎の鳥が怪人に飛び掛ったのはその音と同時だった。 「くぅ…!」 不利と判断したのか、怪人はふらつきながらも夜の闇へと姿を消した。 ○ ○ ○ 「正直、助かりました。協力していただけて心強いです」 「いえ、こちらこそ。同じ考えの人に出会えてちょっと安心しました」 戦い終わって、二人は自己紹介も程ほどに、研究所に移動した。 笛の音やら金属音やらで散々大きな音をたて、誰か、それこそまた殺し合いにのる者が近くに来てはたまらない。 建物に入ってすぐの、とりあえず適当に選んだ部屋で各々の状況と情報を交換し合う。 最初こそ北條も、青年ことイブキ──「和泉伊織です。呼ぶ時はイブキでお願いします」と言われた──を多少警戒もしていたが、殺人者かどうかもしれない人間を助けるためにあっさり戦いに向かった姿に、どこかの誰かを思い出したのだ。 「…こんな状況下でも笑っていられるあたりとか、似てますね」 「え?何か?」 「何でもありませんよ。ただの独り言です」 イブキとて不思議だった。変身した人間を目の当たりにし、冷静でいられるものはそう多くない。好奇心が勝って尋ねてみると「似たような知り合いがいるので」と彼の知りうる変身するものの情報付きで返ってきた。 無事に帰れたら紹介してもらって、猛士にスカウトしてみようか。 無事に帰れたら──想い人の香須実と、弟子のあきらの姿が浮かぶ。あの怪人も帰りたい場所があったのだろう。 北條から危険な存在と言われても、どこか、話し合う余地があるんじゃないかと考える自分がいる。そして、猛士の一員として人々の安全を護る使命から、倒すべきと考える自分も。なるべくなら、犠牲者は出したくない。 「イブキさん?」 「あ、すみません。えっと、葦原涼さんと風谷真魚さん。この二人と早急に会う必要があると」 「ええ。それと日高仁志さんと、保護対象の桐矢京介さんですね」 「はい。風谷さんと同じく、桐矢くんもまだ学生です。この状況は酷だと思うので…」 助けるべき人間がいる。それだけで、取り乱さずにいられるのは市民を護る職務についているからだろうか。 だが、違和感はある。先ほどの戦闘時。思っていたよりも怪人が吹き飛ばなかったこと。 何より変身が自然と解けたこと。鬼になるのも、その姿を解くのも意志による判断だ。 とはいえ、戦いの最中に変身が解ける事態もある。 だがそれは当人の意識がなくなった場合やダメージ過負荷による瞬間を指し、イブキは無論そんな状態に陥ってなどいない。 ──考えるより、もう一度変身をして確かめた方がはやいか。 「北條さん、ちょっとこれから実験をしたいんですが」 北條としてはこの研究所を探索し、何か役に立つものを手に入れたかったが、真剣な表情のイブキに承諾せざるを得ない何かを感じた。 笛をかざし吹こうと口をつけた瞬間── 『こんな夜遅くに申し訳ない! 』 機械で増幅した声が聞こえた。 「馬鹿がいるー!!」 「いやツッコミ入れてる場合じゃないでふが!?」 思わず叫んだ北條の口を慌ててイブキがふさぎ、ふさぎつつ大声を出してるイブキの口を北條がふさいだ。 大の男二人が、互いの手を互いの口に押し当ててる滑稽な姿を知らず、声はなおも続く。 声の主はデネブと名乗る。どうも【さくらいゆうと】──名簿にあった桜井侑斗だろう──という椎茸嫌いの男の子を探しているらしい。 『侑斗はとっても――――――お! おわぁ!? だ!誰!?モ、モガモガ…………』 最後に機械音特有の耳障りなハウリングを残して声は途絶えた。 「…あんな放送かまして、格好の的じゃないですか」 「A-7エリアっていってましたね。山のほうか…すごく近い」 二人は地図を広げつつ確認する。 「どう思います?声の…デネブって人」 「ただの、子供が迷子になってテンパってる保護者。それ以上でも以下でもありません」 「あ、やっぱり…」 「全く、高校生以下の子供まで参加させるなんて…スマートブレインめ」 【男の子】の【嫌いな食べ物】を事細かに説明されたせいで、桜井侑斗の印象に小・中学生のイメージが定着しつつある。 当人が聞いたら、その後の展開推して知るべし、である。 「誰かに口をふさがれたようですが…心配ですね」 「僕、様子を見てきます」 「殺人にのった人が来るかもしれないのに? 今から行っても間に合わないかもしれないのに? 危険すぎます」 射抜くように問い掛ける北條に、イブキは迷わず答える。 「それが、僕の仕事です。人を助けるのが猛士の仕事なんです」 …どうにも、似ていると思った人物を北條は間違えたようだ。あのヘラヘラした津上翔一ではない。 皮肉をいっても通じない。不器用で、まっすぐな、故に危なっかしい…氷川誠の方に似ているらしい。 「……仕方ありませんね。私もついていきますよ」 「北條さん!」 「ただし、捜索は一時間ほど。危ないと思ったらすぐここに引き返します。いいですね?」 口を開けば悪口しか聞こえない彼女、小沢澄子の声が聞こえた気がする。 ――ふーん、あんたも結構やるじゃない。 幻聴と解っていても北條は返した。 ――私も、警察官ですからね。 北條は思考の邂逅を打ち切り、準備に入る。 「そうなると時間が惜しい。どういう結果になっても、この研究所には戻ります。邪魔になる荷物は置いていきましょう」 イブキがうなずく。 北條は自分のデイパックから携帯と、逡巡してマグライトを取り出す。それらと、折りたたんだ地図をポケットにねじりこんだ。 明かりは使いどころを一歩間違えれば、自身が格好の的となる。が、光源もなしに夜の山に探索に行くのは無謀だと判断した。 「イブキさんはなるべく身軽でいて下さい。私はあなたと違って変身できません。正直、戦力はあなただけです」 「はい」 促され、イブキは携帯だけをデイパックから取り出し、ジャケットの胸ポケットに入れた。 主催者側からの連絡ツールということもあるが、互いに離れ離れになる事態に陥っても、GPS機能があれば研究所に帰り着くことは可能だ。 「もし私たちのいない間にここに誰かが来て、荷物を奪われるのは痛手になります。まとめて隠して、それから行きましょう」 改めて部屋を見渡す。6条程度の広さ。ヒビが走り防音・気密性の欠けた曇りガラスの小さな窓。横長の折り畳み机に、壁紙の模様を隠すように立ち並ぶ細長いロッカー達。 そう、ここは更衣室である。 そのままロッカーに放り込むのには抵抗を覚え、机にのぼり、天井板のひとつをずらす。二人のデイパックを天井裏に押し込め、もとどおりに板をはめ戻す。 隠し場所としてはベタな場所ベスト10に入るが、致し方ない。 若干足をはやめ、辺りを警戒しながら研究所を出ると、やや頼りない星明りが広がる。 と、そこで何か思い出したようにイブキが北條に顔を向けた。 「北條さんのスペシャルアイテムってなんだったんですか?」 ジャケットの袖をめくり、左腕にくくりつけた勾玉を指しながらイブキが質問する。 イブキのスペシャルアイテムは、運良く使い方の知っている勾玉だった。 攻撃能力は低いが、相手の気を逸らしたり、火を自分で起こす必要がなくなるという点では充分に価値のあるアイテムだ。 事実、これがなければ先ほどの怪人との闘いは、正直考えたくない結果に終わっただろう。 北條は苦笑いを浮かべて答えた。 「それが…どうも運が悪かったらしく、碌な物は入っていませんでした。お陰で丸腰状態ですよ」 もし、この時点で北條が支給品のことをイブキに伝えていたら、状況は好転したといえよう。 なぜなら、彼が持たされた円盤は猛士が誇る探索式神。ディスクアニマル【アサギワシ】であったのだから。 かわいそうな保護者を探しに、二人は歩き出す。 もしイブキが、変身の実験を出来ていたら―― もし北條がほんの少しでも支給品の特徴を口にしていたら―― この先の話は少し違ったものになっただろう。 「でも変身したのに、なんで服が無事なんだろう?」 「何か言いました?」 【北條透@仮面ライダーアギト】 【1日目 深夜】 【現在地:B-7 研究所近く】 [時間軸]:最終話 [状態]:健康。 [装備]:なし。 [道具]:携帯電話・地図・マグライト [思考・状況] 1:イブキについていく(デネブを探す) 2:研究所内を探索する 3:葦原涼・風谷真魚・日高仁志・桐矢京介、そしてこの殺し合いに反発する者との合流。また風のエルに警戒。 4:無事に戻った暁にはスマートブレインを摘発する 【和泉伊織(イブキ)@仮面ライダー響鬼】 【1日目 深夜】 【現在地:B-7 研究所近く】 [時間軸]:35話付近 [状態]:戦闘による若干の疲労。鬼に二時間変身不可。 [装備]:変身鬼笛・音笛 勾玉 [道具]:携帯電話 [思考・状況] 1:デネブを探す 2:なんかいつもと色々違うなぁ… 3:葦原涼・風谷真魚・日高仁志・桐矢京介、そしてこの殺し合いに反発する者との合流。また風のエルに複雑な心境。 [備考] ※勾玉の炎は火力が低く(服の表面を焦がす程度)、距離も数メートル程度しか飛べません。回数制限は不明。 ※変身しても服が無事なのはそこだけ映画設定としてご了承ください。 [その他共通事項] ※北條透・和泉伊織のデイパックは、取り出した物以外B-7エリアの研究所に隠してあります。 ※デネブの放送により、桜井侑斗へ小・中学生のイメージを抱いています。 ○ ○ ○  風のエルは困惑していた。 未知の力を持つ者に。そして、通常の力を出せなかった最後の一撃に。 常ならば、あの程度の細さの街灯など切り裂くことが可能だ。実際切り崩した感触がまだ残っている。 だが、あの最後の一振りはそれを成し得なかった。 風のエルは知らない。それが首輪による制限であることを。 還らねば。主のもとへ。早く、はやく。こんな不可解な地と人のいる場所からはやく。 【風のエル@仮面ライダーアギト】 【1日目 深夜】 【現在地:D-7北東部】 [時間軸]:48話 [状態]:困惑気味。頭部にかなりのダメージ。二時間能力発揮不可。 [装備]:なし [道具]:基本支給品一式 不明支給品(未確認)1~3個。 [思考・状況] 1:とにかく還る。 2:帰還した時には、主に未知の力を報告。 [備考] ※デネブの放送は距離と精神的動揺から聞こえていません。 |008:[[Action-DENEB]]|投下順|010:[[犀虎の十分間]]| |008:[[Action-DENEB]]|時系列順|010:[[犀虎の十分間]]| ||[[北條透]]|033:[[ワインディング・ロード]]| ||[[風のエル]]|019:[[想いを鉄の意志に変えて]]| ||[[和泉伊織]]|033:[[ワインディング・ロード]]|

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