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運命は未だ定まらず」(2008/05/30 (金) 17:05:07) の最新版変更点

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*運命は未だ定まらず  『こんな夜遅くに申し訳ない!…』  殺し合いに参加している者の行う行為とは思えぬその発言に、乃木は軽く舌打ちをする。  その行為も覚めやらぬ内、首筋を駆け抜ける不快感を覚える。 深夜という時間帯、辺りを吹き抜ける風の影響も大きいのだろうが、最大の要因は語るまでもなく首輪である。  「愚者共と同列に扱われなければならないとは……人間の姿とは不便なものだ」  人間に擬態したその姿で、ライダーと互角以上に渡り合う実力を持つ彼が自身に違和感を感じたのは当然かも知れない。  この場に連れて来られて間もなく、彼は己の身体能力が著しく劣化していることに気付いていた。  そしてその原因が、自身を拘束する首輪にあることも。  「ワーム化も制限されている、ということだろうな」  呟きながら右足によって、僅かな湿り気を帯びた地が蹴り上げられる。足元の小石が草陰に吸い込まれた。  ただ擬態した姿の身体能力を奪ったところで、ワーム化した彼の能力の前にそのような問題は塵と化す。  彼の読み通り、当然ながらそれは許されていない。  今の彼は、本来ワームに蹂躙されるべき人間と同等の存在でしかないのだ。  制約を設けられた上での異形への変化は、人間にも可能なレベルのことである。 勿論彼の実力は様々な別世界の存在と比べた上でも評価するに値するだろう。  しかし現状、この領域において彼の突出は有り得ない。  受け止めがたい事実だ。しかしそれに迷う猶予は残されていない。  早急に帰還するため、彼は歩みだす。  「まずは……このエリアを支配下に置こうか」  歩みつつ照らされた地図に目を通す。  目指すは7-B、研究所である。そこに秘められた選択理由は3つ。  第一に、自身の現状を知るのにもっとも都合が良いことである。  本来最強のワームとして君臨する彼を縛る、首輪の調査に最適なのだ。  また、彼含む参加者に支給された地図には、通常の道路以外に鉄道線が記されている。  運行しているのかは定かでは無いが、もし利用できるのであれば都市部までの容易な移動が可能となる。  現在地からほぼ同距離である工場よりこの点で勝っている。これが第二の理由である。  そして第三の理由は――  『だ!誰!?モ、モガモガ…………』  辺り一帯に存在を知らしめた刻がようやく終わりを告げてしばらく経つ。  そう、この放送の主とそれを中断した者の存在である。  この放送を聞いたのは、おそらく自分だけではないと彼は考えていた。  中断者によって当人は殺されるかも知れないし、協力するかもしれない。  またお人よしな人間は、放送の危険性を察して助けに行こうとするかも知れない。  放送を聞きつけた「さくらいゆうと」本人の出現、  もしくは獲物の所在地を知った狩人が動く可能性も否定できない。  つまりは、これだけの行動を起こす可能性を秘めた、放送と関わった参加者達の何れかが、 放送の発せられた山の麓に位置するこの研究所に現れるという算段……ということである。    現れた者が戦うことしか脳に無いなら、その場で殺せば良い。  ――支給品を奪えた上で首輪のサンプルができて、一石二鳥といえる。    ただ脱出を望む者なら、都合良く騙してその場で殺してしまえば良い。   ――もし優れた知識があるなら、首輪の研究をさせてしまおう。    これだけの可能性を与えてくれた放送の主――デネブには、感謝しなくてはならない。  もし現れたら、殺さずに「人質」にでもしてやろうか?――    一通りの思考を終えてみたが、草陰に潜む気配の真意が乃木には読みきれない。逃げる気が無い、その事実さえあれば関係無いのだが。  「……さて、そこにいる君、出てきたまえ」  彼が、この闘いにおける方針を固めた瞬間だった。 ◆      点火したマッチ棒の頂点でその存在を誇示する焔が、その下部で待つ一枚の紙に、運命を告げようとしている。  今の自分の立場、参加させられているゲーム等を考えていれば、自然と結果は見えているのだが。  目の前にある火が、俺に気休めの言葉を掛けることは無い。ただこの戦いの結果を、断片的に通告するだけだ。  (そんなことは分かっている。だが……)  どうしても、一度はやらなくては気が済まなかった。  火が、紙へと燃え移る。  勢い良く燃える用紙には紋章が描かれている。  それはポケットに忍ばせた赤紫のカードデッキに描かれたものと同様で、則ち、次に脱落する参加者を示している。俺だ。  「あの時の占いは………当たってしまうのか?」  運命を変えた――そう思い込んで俺は、死んだ筈だった。  だが実感できてしまう命を持って、ここに存在している。  それは、許されることでは無いというのに。  (ならば俺は、どうすれば良い?)  ここで自ら死んで、あるべき場所に還るか?  いや、駄目だ。携帯に記された名簿の中に存在した名前――  そう、城戸真司を生きてこの空間から脱出させなければ、彼の死という運命を変えられなかったことになる。  それが、更なる大きな運命を悪い方向へと狂わせてしまうかも知れない。  また彼が死ぬことは、俺が死んだことを後悔するということでもある。  そして俺が後悔することは、最愛の友――雄一をも後悔させることに繋がりかねない。  だから――   「……ッ!」  先程から俺に早期の決断を行わせていた場の空気が、一段と重みを増す。  やがて暗闇の奥から、紫煙の如き淀んだオーラを包む男が現れる。  草の陰に身を潜めてはいるが、おそらくは気付かれている。  この存在感、間違いなくこいつがこの一帯を支配していた威圧感の正体だ。  しばらく尾行を続ける。一向にこちらへの反応を示さないのに、軽い恐怖を感じた瞬間だった。男の歩みが止まり。  「……さて、そこにいる君、出てきたまえ」  男が言い終えるのから間髪入れず、道路上へと飛び出す。少なくとも、戦う以外道は  「少しは聞き分けができるようだねぇ」  顔全体を覆い隠す程の髪を掻き分ける男。それに対して、曲がり道を示すカーブ・ミラーに左手でデッキを翳す。  「変身」  出現したVバックルにデッキを差し込むと、夜空の元、仮面ライダーライアがその姿を表した。 ◆   咆哮と共に目の前で跳び上がった赤紫のライダーが右腕を振り上げる。  いつもならば一瞬で移動し回避してみせるのだが、今回は制限がある。  やむを得ない。左足を軸に45度回転、最小限の動きで受け流す。そして右、左、右、左……と背部を連続で殴り付けてやる。  所詮、今の俺がいくら打撃を浴びせたところで決定打にはなり得ない。  しかしこの行為は精神には大きく作用する。このライダーは、瞬時に俺との実力差を痛感した筈だ。  だから振り向いての二撃目がワンテンポ遅れる。  それは俺に後一撃浴びせる時間が残されていることを示す。  渾身の左蹴りを腹部に突き刺し、顔面を覆う髪を再び拭う。  「つまらないな…もう少し俺を楽しませてはくれないのか」  転げ回り離れた赤紫との差を再び縮める。  立ち上がる赤紫。仮面の下で男が今どんな顔しているのか見てみたい衝動に。  と、そこで動きを止める。赤紫が腰から一枚のカードを取り出した。  ――なるほど、このタイプのライダーの戦力ということか。  それを左腕に備えた盾に読み込ませている。    ――SWING VENT――    自分が良く知るライダーとは異なる電子音声が流れる。  刹那、天から降り注いだ「鞭」が、向かって左側に装備された。  向かってくる敵。薙ぎ払うつもりらしい。左肘の辺りまで振りかぶったところで、その頭上を飛び越える。いい加減遊びすぎたようだ。 ◆     契約モンスターから与えられた鞭、エビルウィップでもって赤紫のライダー、ライアは、黒服の男――乃木に一撃を浴びせようとする。  しかし乃木は跳躍、背後を奪うと、自らの姿を変貌させた。  「遊びは、ここまでだ」  ライアが振り向いた時には、最強のワーム――カッシスが、既にその姿を晒していた。      左腕の研ぎ澄まされた刃を構え、切り掛かる。エビルウィップでは防ぎ様が無い。  咄嗟に左へ転がり込むが、今度は右腕の細剣が襲い掛かる。  赤紫色の装甲に火花が散る。生身の体を切り付けられているのではないかと思う程、確かな痛みを手塚に実感させた。      一分、二分……数分の間、更に蹴り飛ばされ、踏みつけられ、斬りつけられる。立ち上がる暇すら与えられない。  「どうした、お前の力はこの程度か」    ライアは本来、異形との単独戦闘よりも、別のライダーを含む戦場でこそ力を発揮するタイプである。  彼の持つ特殊カード「コピーベント」は、近接したライダーの装備を模造する物で、このような極面では真価を発揮できない。  加えて武器の相性差も絶望的だった。鞭一本でカッシスワームの誇る二刀を捌くのは容易なことはではないのだ。  これらの要因が重なってか、カッシスワームには今だ傷一つ付いていない。      ようやく立ち上がったライアが鞭を再び振るう。だがそれは細剣に絡めとられ。  手繰り寄せられたところで、襲い掛かるのは左腕の斬撃。  当たり場所が悪かったなら、確実に命を奪われていただろう。またデッキに直撃しなかったことも幸運だったと言える。  カッシスが接近する中、ライアは新たなカードをデッキから抜き取る。    ――ADVENT――    その音声に身構える紫の異形。カードの効果によって突如側面から出現した契約モンスター――エビルダイバーが、闇夜の中突貫する。  異形がバランスを崩したのを見届けると、続けざまにカードを装填する。  切り札を切るなら、今しか無い。    ――FINAL VENT――    跳躍し、エビルダイバーの背に乗るが、そのまま敵の体を貫くことは――叶わず。    狙った地点に到達する前に、強い衝撃。次いで落下して地面に叩き付けられる。  ライアには何が起こったのか理解する暇も、権利もない。  最大の技を破られる精神的ショックは大きいのだ。  ワームの超加速能力――クロックアップを、カッシスがここまで温存しておいたのもそれが理由である。  首輪には既に刃が突き付けられており、今にもそこを起点に彼を二分しかねない。 ―――  「別世界のライダーもこの程度か。つまらん事この上無い」  「まだだ……ッツ!」  最後の抵抗を行う猶予は無く、突如変身が解ける。  「成る程……10分か」  恐らくは変身が解けるまでの所要時間だろう、と手塚は判断する。  「この程度で、何故挑んで来たのかな…?」  カッシスワームは手塚に止めを刺すことなく、乃木へと姿を変える。      「……何故だ、何故殺さない!」  「質問に答えたまえ。こちらが答えるのはその後だ」  乃木は顔色一つ変えずに返答を要求する。  「俺には、変わったまま守らなければならない運命がある…俺にそれを守れるのか、それを知りたかった」  乃木はその目から迷う心を読み取る。  「質問には答えた。今度はそっち……ガハッ!」  「君は、自分の立場が分かっていないらしい」  倒れている手塚の腹部を、容赦無く踏み付ける。  「まあ質問には答えてやろう。単純な話だ。君は人間にしては利用できる。泳がせて置く方が参加者の減りが早そうだ」  「利用される位ならば…」  酷く消耗していた彼を、乃木は再び見下す。  「今の君には、自ら命を絶つ気力もないだろう。本当に運命を変えたままでいたいなら、おとなしく俺の言う通りにするといい」  手塚に拒否する気力は既に無く。  「…………」  こうして一人の死んだ存在は、再び大きな選択を迫られるのである。 ◆   手塚の傍に、球形の銃器と、救急箱が放り出される。  「俺には全く必要ないものだ」  一々支給品を他人に渡す。男が相当自分に自信を持っていることは彼にも分かった。  「少しは参加者の諸君を減らしてくれ」  「待て………」  足を止め、乃木が振り向く。倒れたままの手塚が指差すのは彼のデイバックだ。  「その中から…持っていけ」  聞き返すような真似はせず、中身を漁る。  「何故使わないのかは知らないが、ありがたく受け取っておこう」  乃木がその場を立ち去って行く。    乃木が知る由も無いが、彼が受け取ったのは支給された当人を死に致らしめた原因である。    (主催者の挑発に乗るつもりは無い……)    事情を知っての行為かは知らないが、手塚は紫の悪魔を秘めたデッキを支給されていたのだ。     ◆    男は、研究所への道中で、元の世界を想う。  彼の帰りを待つワーム達の為にも。  ―――望むのは、一秒でも早くの終戦。ならば―――  「……全ての参加者は、俺が殺そう」  再び彼は歩み始める。その長髪を、装束を、殺意を、漆黒の闇に埋めながら。 **状態表 【乃木怜治@仮面ライダーカブト】 【一日目 深夜】 【時間軸】 43話・サソードに勝利後 【B-7 研究所へと伸びる道路】 【状態】健康。カッシスワームに約2時間変身不可。 【装備】カードデッキ(王蛇) 【道具】 基本支給品 【思考・状況】 1.研究所で待ち伏せ。利用できるなら利用し、そうでない奴は俺の餌になれば良い。 2.ゲームの早期決着。 3.参加者の中でもZECTの諸君は早めに始末を付けたい ※備考 ※ライア・ガイのデッキが健在の為、王蛇のデッキには未契約のカードが2枚存在します。 ※ユナイトベントは本編で再現された3体の場合しか発動しません。 ※ワーム状態は第二形態の為フリーズが使用できません。通常のクロックアップのみ可能です。 ※人間体での高速移動は行えません。 ----   手塚は傍らに放置された置き土産と、友の遺品であるカードデッキに目をやる。    ――雄一、俺はこれで良いのか?    戦いを拒絶した結果モンスターに襲われ、最後を迎えた親友に手塚は問う。答えが帰って来ることは無いというのに。  乃木との戦いに突入する寸前、彼は自らの運命を占った。それが示したのは直に訪れる彼自身の死。  だが手塚は生きている。脅威であったゲームに乗っていた筈の乃木は、彼を利用しようと支給品まで与えてきた。  運命は戦いを要求したのか。確かにここで城戸真司に死なれたら、手塚が命を賭けて変えた運命は、大きなそれを変えること無く途切れる。  ライダーバトルは止まらず、雄一のような犠牲者も再び。      (これ以上、俺やお前のようなライダーバトルの被害者を生み出さない為に、戦いを終わらせる為に……) ――俺は、戦う。    それは、哀しく辛い選択。  全ては希望をあるべき処――元の世界に帰し、自身は辿り着くべき処――雄一の処へ逝く為に。    躯を引き裂こうとする痛みに耐えながら、横たわっていた自分を起き上がらせる。  救急箱で応急処置を済ますと、球形に視線を滑らせる。どうやら武器にはなるらしい。    もう迷ってはいられない。 戦う決意も、人を殺す覚悟も、もう掌中に生まれてしまったから。 **状態表 【手塚海之@仮面ライダー龍騎】 【一日目 深夜】 【時間軸】23話・死亡直後 【B-6 工場~研究所間の道路】 【状態】全身打撲。精神・肉体的に強い疲労。ライアに二時間変身不可。 【装備】カードデッキ(ライア) 【道具】基本支給品、マシンガンブレード@仮面ライダーカブト、救急箱 【思考・状況】 1.城戸を脱出させ、自身は在るべき処へ。 2.脱出の障害となる存在は全て排除する 3.あくまでゲームには乗っていないように振舞う ※城戸が自分と同じ時間軸から連れてこられたと思っています。 ※その為、城戸が死ぬ事は運命を変えられなかったことに相当すると考えています |021:[[戦士(後編)]]|投下順|023:[[クローズド・サーキット]]| |021:[[戦士(後編)]]|時系列順|000:[[後の作品]]| ||[[乃木怜治]]|000:[[後の作品]]| ||[[手塚海之]]|000:[[後の作品]]|
*運命は未だ定まらず  『こんな夜遅くに申し訳ない!…』  殺し合いに参加している者の行う行為とは思えぬその発言に、乃木は軽く舌打ちをする。  その行為も覚めやらぬ内、首筋を駆け抜ける不快感を覚える。 深夜という時間帯、辺りを吹き抜ける風の影響も大きいのだろうが、最大の要因は語るまでもなく首輪である。  「愚者共と同列に扱われなければならないとは……人間の姿とは不便なものだ」  人間に擬態したその姿で、ライダーと互角以上に渡り合う実力を持つ彼が自身に違和感を感じたのは当然かも知れない。  この場に連れて来られて間もなく、彼は己の身体能力が著しく劣化していることに気付いていた。  そしてその原因が、自身を拘束する首輪にあることも。  「ワーム化も制限されている、ということだろうな」  呟きながら右足によって、僅かな湿り気を帯びた地が蹴り上げられる。足元の小石が草陰に吸い込まれた。  ただ擬態した姿の身体能力を奪ったところで、ワーム化した彼の能力の前にそのような問題は塵と化す。  彼の読み通り、当然ながらそれは許されていない。  今の彼は、本来ワームに蹂躙されるべき人間と同等の存在でしかないのだ。  制約を設けられた上での異形への変化は、人間にも可能なレベルのことである。 勿論彼の実力は様々な別世界の存在と比べた上でも評価するに値するだろう。  しかし現状、この領域において彼の突出は有り得ない。  受け止めがたい事実だ。しかしそれに迷う猶予は残されていない。  早急に帰還するため、彼は歩みだす。  「まずは……このエリアを支配下に置こうか」  歩みつつ照らされた地図に目を通す。  目指すは7-B、研究所である。そこに秘められた選択理由は3つ。  第一に、自身の現状を知るのにもっとも都合が良いことである。  本来最強のワームとして君臨する彼を縛る、首輪の調査に最適なのだ。  また、彼含む参加者に支給された地図には、通常の道路以外に鉄道線が記されている。  運行しているのかは定かでは無いが、もし利用できるのであれば都市部までの容易な移動が可能となる。  現在地からほぼ同距離である工場よりこの点で勝っている。これが第二の理由である。  そして第三の理由は――  『だ!誰!?モ、モガモガ…………』  辺り一帯に存在を知らしめた刻がようやく終わりを告げてしばらく経つ。  そう、この放送の主とそれを中断した者の存在である。  この放送を聞いたのは、おそらく自分だけではないと彼は考えていた。  中断者によって当人は殺されるかも知れないし、協力するかもしれない。  またお人よしな人間は、放送の危険性を察して助けに行こうとするかも知れない。  放送を聞きつけた「さくらいゆうと」本人の出現、  もしくは獲物の所在地を知った狩人が動く可能性も否定できない。  つまりは、これだけの行動を起こす可能性を秘めた、放送と関わった参加者達の何れかが、 放送の発せられた山の麓に位置するこの研究所に現れるという算段……ということである。    現れた者が戦うことしか脳に無いなら、その場で殺せば良い。  ――支給品を奪えた上で首輪のサンプルができて、一石二鳥といえる。    ただ脱出を望む者なら、都合良く騙してその場で殺してしまえば良い。   ――もし優れた知識があるなら、首輪の研究をさせてしまおう。    これだけの可能性を与えてくれた放送の主――デネブには、感謝しなくてはならない。  もし現れたら、殺さずに「人質」にでもしてやろうか?――    一通りの思考を終えてみたが、草陰に潜む気配の真意が乃木には読みきれない。逃げる気が無い、その事実さえあれば関係無いのだが。  「……さて、そこにいる君、出てきたまえ」  彼が、この闘いにおける方針を固めた瞬間だった。 ◆      点火したマッチ棒の頂点でその存在を誇示する焔が、その下部で待つ一枚の紙に、運命を告げようとしている。  今の自分の立場、参加させられているゲーム等を考えていれば、自然と結果は見えているのだが。  目の前にある火が、俺に気休めの言葉を掛けることは無い。ただこの戦いの結果を、断片的に通告するだけだ。  (そんなことは分かっている。だが……)  どうしても、一度はやらなくては気が済まなかった。  火が、紙へと燃え移る。  勢い良く燃える用紙には紋章が描かれている。  それはポケットに忍ばせた赤紫のカードデッキに描かれたものと同様で、則ち、次に脱落する参加者を示している。俺だ。  「あの時の占いは………当たってしまうのか?」  運命を変えた――そう思い込んで俺は、死んだ筈だった。  だが実感できてしまう命を持って、ここに存在している。  それは、許されることでは無いというのに。  (ならば俺は、どうすれば良い?)  ここで自ら死んで、あるべき場所に還るか?  いや、駄目だ。携帯に記された名簿の中に存在した名前――  そう、城戸真司を生きてこの空間から脱出させなければ、彼の死という運命を変えられなかったことになる。  それが、更なる大きな運命を悪い方向へと狂わせてしまうかも知れない。  また彼が死ぬことは、俺が死んだことを後悔するということでもある。  そして俺が後悔することは、最愛の友――雄一をも後悔させることに繋がりかねない。  だから――   「……ッ!」  先程から俺に早期の決断を行わせていた場の空気が、一段と重みを増す。  やがて暗闇の奥から、紫煙の如き淀んだオーラを包む男が現れる。  草の陰に身を潜めてはいるが、おそらくは気付かれている。  この存在感、間違いなくこいつがこの一帯を支配していた威圧感の正体だ。  しばらく尾行を続ける。一向にこちらへの反応を示さないのに、軽い恐怖を感じた瞬間だった。男の歩みが止まり。  「……さて、そこにいる君、出てきたまえ」  男が言い終えるのから間髪入れず、道路上へと飛び出す。少なくとも、戦う以外道は  「少しは聞き分けができるようだねぇ」  顔全体を覆い隠す程の髪を掻き分ける男。それに対して、曲がり道を示すカーブ・ミラーに左手でデッキを翳す。  「変身」  出現したVバックルにデッキを差し込むと、夜空の元、仮面ライダーライアがその姿を表した。 ◆   咆哮と共に目の前で跳び上がった赤紫のライダーが右腕を振り上げる。  いつもならば一瞬で移動し回避してみせるのだが、今回は制限がある。  やむを得ない。左足を軸に45度回転、最小限の動きで受け流す。そして右、左、右、左……と背部を連続で殴り付けてやる。  所詮、今の俺がいくら打撃を浴びせたところで決定打にはなり得ない。  しかしこの行為は精神には大きく作用する。このライダーは、瞬時に俺との実力差を痛感した筈だ。  だから振り向いての二撃目がワンテンポ遅れる。  それは俺に後一撃浴びせる時間が残されていることを示す。  渾身の左蹴りを腹部に突き刺し、顔面を覆う髪を再び拭う。  「つまらないな…もう少し俺を楽しませてはくれないのか」  転げ回り離れた赤紫との差を再び縮める。  立ち上がる赤紫。仮面の下で男が今どんな顔しているのか見てみたい衝動に。  と、そこで動きを止める。赤紫が腰から一枚のカードを取り出した。  ――なるほど、このタイプのライダーの戦力ということか。  それを左腕に備えた盾に読み込ませている。    ――SWING VENT――    自分が良く知るライダーとは異なる電子音声が流れる。  刹那、天から降り注いだ「鞭」が、向かって左側に装備された。  向かってくる敵。薙ぎ払うつもりらしい。左肘の辺りまで振りかぶったところで、その頭上を飛び越える。いい加減遊びすぎたようだ。 ◆     契約モンスターから与えられた鞭、エビルウィップでもって赤紫のライダー、ライアは、黒服の男――乃木に一撃を浴びせようとする。  しかし乃木は跳躍、背後を奪うと、自らの姿を変貌させた。  「遊びは、ここまでだ」  ライアが振り向いた時には、最強のワーム――カッシスが、既にその姿を晒していた。      左腕の研ぎ澄まされた刃を構え、切り掛かる。エビルウィップでは防ぎ様が無い。  咄嗟に左へ転がり込むが、今度は右腕の細剣が襲い掛かる。  赤紫色の装甲に火花が散る。生身の体を切り付けられているのではないかと思う程、確かな痛みを手塚に実感させた。      一分、二分……数分の間、更に蹴り飛ばされ、踏みつけられ、斬りつけられる。立ち上がる暇すら与えられない。  「どうした、お前の力はこの程度か」    ライアは本来、異形との単独戦闘よりも、別のライダーを含む戦場でこそ力を発揮するタイプである。  彼の持つ特殊カード「コピーベント」は、近接したライダーの装備を模造する物で、このような極面では真価を発揮できない。  加えて武器の相性差も絶望的だった。鞭一本でカッシスワームの誇る二刀を捌くのは容易なことはではないのだ。  これらの要因が重なってか、カッシスワームには今だ傷一つ付いていない。      ようやく立ち上がったライアが鞭を再び振るう。だがそれは細剣に絡めとられ。  手繰り寄せられたところで、襲い掛かるのは左腕の斬撃。  当たり場所が悪かったなら、確実に命を奪われていただろう。またデッキに直撃しなかったことも幸運だったと言える。  カッシスが接近する中、ライアは新たなカードをデッキから抜き取る。    ――ADVENT――    その音声に身構える紫の異形。カードの効果によって突如側面から出現した契約モンスター――エビルダイバーが、闇夜の中突貫する。  異形がバランスを崩したのを見届けると、続けざまにカードを装填する。  切り札を切るなら、今しか無い。    ――FINAL VENT――    跳躍し、エビルダイバーの背に乗るが、そのまま敵の体を貫くことは――叶わず。    狙った地点に到達する前に、強い衝撃。次いで落下して地面に叩き付けられる。  ライアには何が起こったのか理解する暇も、権利もない。  最大の技を破られる精神的ショックは大きいのだ。  ワームの超加速能力――クロックアップを、カッシスがここまで温存しておいたのもそれが理由である。  首輪には既に刃が突き付けられており、今にもそこを起点に彼を二分しかねない。 ―――  「別世界のライダーもこの程度か。つまらん事この上無い」  「まだだ……ッツ!」  最後の抵抗を行う猶予は無く、突如変身が解ける。  「成る程……10分か」  恐らくは変身が解けるまでの所要時間だろう、と手塚は判断する。  「この程度で、何故挑んで来たのかな…?」  カッシスワームは手塚に止めを刺すことなく、乃木へと姿を変える。      「……何故だ、何故殺さない!」  「質問に答えたまえ。こちらが答えるのはその後だ」  乃木は顔色一つ変えずに返答を要求する。  「俺には、変わったまま守らなければならない運命がある…俺にそれを守れるのか、それを知りたかった」  乃木はその目から迷う心を読み取る。  「質問には答えた。今度はそっち……ガハッ!」  「君は、自分の立場が分かっていないらしい」  倒れている手塚の腹部を、容赦無く踏み付ける。  「まあ質問には答えてやろう。単純な話だ。君は人間にしては利用できる。泳がせて置く方が参加者の減りが早そうだ」  「利用される位ならば…」  酷く消耗していた彼を、乃木は再び見下す。  「今の君には、自ら命を絶つ気力もないだろう。本当に運命を変えたままでいたいなら、おとなしく俺の言う通りにするといい」  手塚に拒否する気力は既に無く。  「…………」  こうして一人の死んだ存在は、再び大きな選択を迫られるのである。 ◆   手塚の傍に、球形の銃器と、救急箱が放り出される。  「俺には全く必要ないものだ」  一々支給品を他人に渡す。男が相当自分に自信を持っていることは彼にも分かった。  「少しは参加者の諸君を減らしてくれ」  「待て………」  足を止め、乃木が振り向く。倒れたままの手塚が指差すのは彼のデイバックだ。  「その中から…持っていけ」  聞き返すような真似はせず、中身を漁る。  「何故使わないのかは知らないが、ありがたく受け取っておこう」  乃木がその場を立ち去って行く。    乃木が知る由も無いが、彼が受け取ったのは支給された当人を死に致らしめた原因である。    (主催者の挑発に乗るつもりは無い……)    事情を知っての行為かは知らないが、手塚は紫の悪魔を秘めたデッキを支給されていたのだ。     ◆    男は、研究所への道中で、元の世界を想う。  彼の帰りを待つワーム達の為にも。  ―――望むのは、一秒でも早くの終戦。ならば―――  「……全ての参加者は、俺が殺そう」  再び彼は歩み始める。その長髪を、装束を、殺意を、漆黒の闇に埋めながら。 **状態表 【乃木怜治@仮面ライダーカブト】 【一日目 深夜】 【時間軸】 43話・サソードに勝利後 【B-7 研究所へと伸びる道路】 【状態】健康。カッシスワームに約2時間変身不可。 【装備】カードデッキ(王蛇) 【道具】 基本支給品 【思考・状況】 1.研究所で待ち伏せ。利用できるなら利用し、そうでない奴は俺の餌になれば良い。 2.ゲームの早期決着。 3.参加者の中でもZECTの諸君は早めに始末を付けたい ※備考 ※ライア・ガイのデッキが健在の為、王蛇のデッキには未契約のカードが2枚存在します。 ※ユナイトベントは本編で再現された3体の場合しか発動しません。 ※ワーム状態は第二形態の為フリーズが使用できません。通常のクロックアップのみ可能です。 ※人間体での高速移動は行えません。 ----   手塚は傍らに放置された置き土産と、友の遺品であるカードデッキに目をやる。    ――雄一、俺はこれで良いのか?    戦いを拒絶した結果モンスターに襲われ、最後を迎えた親友に手塚は問う。答えが帰って来ることは無いというのに。  乃木との戦いに突入する寸前、彼は自らの運命を占った。それが示したのは直に訪れる彼自身の死。  だが手塚は生きている。脅威であったゲームに乗っていた筈の乃木は、彼を利用しようと支給品まで与えてきた。  運命は戦いを要求したのか。確かにここで城戸真司に死なれたら、手塚が命を賭けて変えた運命は、大きなそれを変えること無く途切れる。  ライダーバトルは止まらず、雄一のような犠牲者も再び。      (これ以上、俺やお前のようなライダーバトルの被害者を生み出さない為に、戦いを終わらせる為に……) ――俺は、戦う。    それは、哀しく辛い選択。  全ては希望をあるべき処――元の世界に帰し、自身は辿り着くべき処――雄一の処へ逝く為に。    躯を引き裂こうとする痛みに耐えながら、横たわっていた自分を起き上がらせる。  救急箱で応急処置を済ますと、球形に視線を滑らせる。どうやら武器にはなるらしい。    もう迷ってはいられない。 戦う決意も、人を殺す覚悟も、もう掌中に生まれてしまったから。 **状態表 【手塚海之@仮面ライダー龍騎】 【一日目 深夜】 【時間軸】23話・死亡直後 【B-6 工場~研究所間の道路】 【状態】全身打撲。精神・肉体的に強い疲労。ライアに二時間変身不可。 【装備】カードデッキ(ライア) 【道具】基本支給品、マシンガンブレード@仮面ライダーカブト、救急箱 【思考・状況】 1.城戸を脱出させ、自身は在るべき処へ。 2.脱出の障害となる存在は全て排除する 3.あくまでゲームには乗っていないように振舞う ※城戸が自分と同じ時間軸から連れてこられたと思っています。 ※その為、城戸が死ぬ事は運命を変えられなかったことに相当すると考えています |021:[[戦士(後編)]]|投下順|023:[[クローズド・サーキット]]| |021:[[戦士(後編)]]|時系列順|006:[[そういう・アスカ・腹黒え]]| ||[[乃木怜治]]|035:[[全ては思いのままに]]| ||[[手塚海之]]|040:[[Riders Fight!(前編)]]|

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