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決断の刻は目の前に」(2008/06/23 (月) 01:08:03) の最新版変更点

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*決断の刻は目の前に  都市部の様な多くの建物も無ければ、研究所や工場といった目立つ施設も無い。  エリアE-5。参加者全員に配布された地図で言えば、丁度中央部に位置するこの地区に、青年が一人。  3人の「仮面ライダー」との激闘を制し、新たなる玩具――カードデッキを手に入れた。  その事実が改めて生み出す高揚感に、ドラゴンオルフェノク――北崎は、身を預けている。  これといった目的地を持たなかった故に辿り着いた地だが、決してその居心地は悪く無い。  ゲームを楽しんだ上での優勝。それを実行へと移す門出の場としては、この上無い場所である。  辺りで風を受けた繁みが微かに揺れる音を感じる。時間が時間だけあって、揺れ自体は見えないが、それらが織り成す旋律は北崎を十分に喜ばせた。  各地に散らばった「仮面ライダー」を始めとする参加者達は、自分達が舞い踊る劇場の中心から、等しく全体へ振り撒かれている殺意に気付いているだろうか?    自身をここまで運んだ騎馬から降りると、北崎は草むらの中にそり立つ一本の大木を目にする。  やがて微笑を浮かべると、その根元周りに、デイバックと共に腰を下ろした。    昂ぶっていた身体が落ち着きを取り戻す中、北崎は支給品である携帯に目をやる。  これまで確認していなかった「名簿」。ゲームを満喫する為に必要不可欠な、参加者達の名前を直に確認していく。  彼の手によってその最後を迎えた一人の「戦士」と、その言葉に在った一人の男の名前が目に入る。  男――五代と戦い、殺す。その刻を迎えるのが楽しみだが、それと同時に一つの問題を北崎は思い出す。  先程の戦いで彼を襲った違和感のことである。オルフェノクへの変身が、自分の望まないタイミングで突如解けた点である。 「まあ……面白ければ別に良いけどね……」  これらの現象にどのような理由、意図が込められていたとしても、北崎はゲームを楽しめさえすればそれで良いのだが。  「でも、たくさん戦えないとつまらないなぁ……」  いざ戦闘となった際に、戦闘手段を失ってしまったならば、彼は戦闘を楽しむことができなくなってしまう。    「あの二人は、ここで待ってれば来るかなぁ」  二人とは、先程まで彼と戦っていたライダー達のことを指す。  圧倒的実力差を見せ付けても、人間は、仮面ライダーはしつこく向かって来る。  そして彼の知るライダー達には、常に仲間の存在がついて回る。  戦闘の長期化や、連戦になるケースも多々ある。だからこそ、少しでも長く戦える様にしておきたいというのが北崎の本音だ。      「今は誰も来てないみたいだし……少し眠ってみようかな」  様々な想い渦巻く中心部に佇む絶望の樹の元で、しばしの休息を彼はとる。  目覚めた時、戦意を取り戻した彼等が、新たな参加者が現れることに多大な期待を寄せて。 ◆  胸に伸し掛かる強烈な圧迫感。虎に敗れた蛇が、気を取り戻して最初に感じた物がそれだった。  「ハァ、ハァ…急がないと…」  苦しみに身を捩らせる暇等、改造人間――三田村晴彦には残されていない。  その場に立ち上がる晴彦。一層高まる圧迫感が、この戦いに生き残ることの厳しさを彼に感じさせる。  彼に牙を剥いた虎が、その身を喰らうことをしなかったのかは彼の知る処では無い。  しかし、胸を刺す苦しみは、晴彦にもまだ機会が残されていることを確かに示している。      一歩一歩大地を踏み締め、彼を捕らえていた動物園から抜け出す。  頭の中に響く、愛しい人の声。目を閉じれば浮かぶ、無邪気な笑顔。  取り戻したいその存在を思う内、晴彦はすっかり渇いた自分自身の喉に気付いた。  同時に、渇きを潤す為の水を入れたデイパックが、手元に無いことを彼は思い出す。  もっとも、大それた失態では無い。存在自体が頭から抜けていただけで、決して場所が分からない、ということでは無いのだから。  それほど間をおかず、晴彦はデイパックを見つける。  疲労を忘れて駆け出す。素早く中身を確認する。幸いにも何かが奪われている、ということも無かった。  つまりは現在、彼以外にこの周辺には誰もいない、ということになる。  それならば彼としてはいつまでもこの道に身を置いておく意味は無く。  早急に荷物をまとめると、ペットボトル片手に歩き出す。    晴彦は整った道路から外れると、気が進むままに歩み続ける。  その歩みを妨げるものは無く。次に見つけた参加者を殺す――彼の決意の現れだろうか。  ただ辺りの暗闇が、怪しげに彼の周りを漂うだけだった。    「美代子さん……」    青年は走り出す。マグライトで前方を照らし、ただひたすらに。   その先で待つ者も知らずに、だ。 ◆    樹に止まる小鳥が、少々早いモーニング・コールを行う。  それに呼応して起き上がる青年が一人。その顔は天使の様に穏やかだ。  ――尤も、その内面は180度反対ではあるのだが。    既に暗闇は辺りから失せ、周りを照らす必要は無い。太陽はまだ出ていないが辺りを見回すのには十分な明るさである。  ペットボトルの口を開くと、水を口に含む。本来なら灰となって消え失せるそれが、平然とその手に握られたままの理由を北崎は知らない。  そんな中、砂利を踏みしめる靴の音が北崎の耳に響く。  北崎の心情は、欣喜雀躍…といったところか。振り向いた瞬間には、既に紫のマスクを取り付け、異形となった青年がいたのだから。  「君は…仮面ライダー、じゃないね」  北崎はその笑みを僅かに歪ませ、異形に問う。  異形――コブラの姿は、北崎から見れば自分が戦ってきた「仮面ライダー」では無く。  どちらかと言えば、色合いこそは違えど、「オルフェノク」の部類に入るだろう。    「……ハァッ!」   その問いに異形は答えることをせず、拳を北崎へと突き出していた。  北崎はそれを回避。切羽詰っていることは容易に想像できたようで、すぐに間合いを広げる。    刹那、彼の顔には龍の紋様――――  (このまま倒しちゃおうか…)    それはすぐに掻き消され、ポケットからは猛牛の紋章を備えたカードデッキ。  (いや、こっちの方が面白いかな)    立ち上がるや否や、左手に掴んだままのペットボトルを落とし。  「君みたいな悪い奴は、倒さないと、ね。仮面ライダーが……」   口元には僅かな笑みが取り戻され、右から左へと住まいを変えるデッキ。そしてそれは突き出され――   「変身」   出現したバックルと、デッキが再開する。黄金に輝く紋章は、幾重に重なる鋼を召集し、やがて一つの戦士を形成させた。  「始めに言っておくよ」    仮面の下で北崎が笑う。数時間前に聞いた台詞を改変し――    「僕は、世界一強いんだ」 ◆  異形――コブラは動揺していた。目の前の悪魔が持つ、底知れぬ自信に。  改造人間とも、先程戦った雌虎とも違う形式の異形。改めてこの戦いに勝ち残ることがいかに困難かを彼に思わせる。  しかし今更決意を崩す晴彦では無い。拳を握り締めると、改造されたことで得たその力を敵に叩き込もうと、一直線に突き進む。  「ウォオオォ!」  「ふぅん……」  最終的な目的こそ同じだが、そこへ至るまでの考えは明らかに別物だ。  型もへったくれも無く繰り出されたコブラの拳を、ゾルダは左腕でブロック。  逆に腹へ右腕を短く突きこみ、左腕で腰を抑えるとその場に叩き伏せる。  倒れ込んだ体へ降るのは銃撃の雨。その一発一発がコブラの体に火花を散らす。    「弱い、弱い。こんなんじゃ面白くもなんともないよ」    屈辱的な言葉が、コブラの耳を打つ。次の瞬間には、両腕をバネにして立ち上がる。  「うぁあああぁあ!」  悲鳴にも似た叫びを上げて、再び拳を振るいだす。  ここに来る前は、こんな風に彼が叫んで戦う事など無かったというのに。 ◆    一刻も早くあの場から離れたかった。だから駆けた。  疲労がどんどん蓄積していくのが、自分にも良く分かる。それでも駆けた。  荷物の一部を途中で落としたのにも気付いている。しかし、止まる気は無い。  「安全な場所を見つけて隠れる」  そう願った時には、都市部――あの場所――を遠ざけるようにひたすら走っていた。    人が集まりそうな施設には近寄らず、川の緩流を経由して北へとへ向かう道中も、あの悪魔を思い出す。  今でも自分の尻に火が点いているのではないかと錯覚してしまう程の距離に上がった火柱の熱さ。   いつそれが自分に向けられるか分からないという事実を認識させた、助けてくれた男性の乾いた銃声。    あの場、あの時間に不釣り合いな出で立ちをした悪魔の微笑み。     既に過ぎ去った筈の過去なのに、生々しくそれらは視覚に、聴覚に、触覚に突き刺さって来る。  感じる物全てが敵に思えてしまう。が、間違っても殺し合いなんてする訳には行かない。  自分には他人を死に至らしめる悪魔のような力は無いし、響鬼さんみたいに鬼になることもできない。  なんとか逃げ延びて、信頼できる人を捜すしかない。      脇腹と喉から上がる悲鳴を抑える為、一度足を止める。酷く後悔した。  ガクン、と膝が崩れ落ちてしまった。暫くは走り出せそうにも無い。  ペットボトルの口を開けて、水を飲む。自分自身で驚く程の勢いで喉にそれを通すと、あっという間に一本が空になってしまった。  後悔なんてしていられない。色々考えるのは、安全な場所取りをしてからだ。  段々と鮮明になって行く景色。それが、完全な明るさを取り戻すよりも早く―――― ◆    すっかり慣れてしまった荒い息継ぎが、ようやく収まる。  コンパスも確認せず目茶苦茶に移動し続けたせいで、ここが何処なのかも分からない。  確かなのは、この辺りには目立つような建造物が無いこと、あの場所より空気が美味しいことだ。  小鳥の囀りに耳を傾けながら、隠れ場所を探す。すると、一本の大樹が目に入った。  森林の様にそれをもり立てる樹木は他には無く、ただ一本で堂々とその存在を主張している。    (…………何だ?)    耳に伝わってくる何か。それが銃撃音と、その炸裂音だと気付いたのは、大樹をがっしりと支える根に目をやった時だ。      目にしたのは、ルールに則り殺しあいを演じる二体のシルエット。  一体――緑銀のそれが放つ弾丸に、もう一体――紫色のそれが飛び込んで行った。  紫の接近で銃撃が中断され、続けて至近距離での殴り合い。それでも片手が銃で塞がれている緑の方が押している様だ。  紫が後頭部から、触手の様な物を取り外すと、緑は腰から抜き取ったカード状の何かを銃に差し込み、再び引き金を引いていた。    (あれに弾が!?)  必死で冷静に考え直す。あんな物に銃弾が入っている筈が無い。  (だとしたら、一体……)  その疑問はすぐに解かれた。銃撃に紫が突っ込んで触手を振るうと、緑の左手に分厚い盾が構えられていた。  それも、その盾は空から降ってきたのだ。  カードを使うと武器が現れる――まるでいつかテレビで見たカードアニメだ。  でも、これは現実だ。視界に描かれた二人は殺し合っている。  そう考えると、自分はこんな場所にいつまでも居られない。    (逃げないと……)  しゃがみを解き、逃げようと立ち上がる。幸いあの二体は戦いに必死で、まだこちらには気付いて無い様だ。  急いで駆け出したが、足は直ぐに、動きを再び止めた。  今の今まで自分がしゃがみ込んでいた場所が――――爆発した衝撃の為だ。  どっと冷や汗を流し始める背中の冷えた感触。加速する心臓の熱い鼓動。その温度差に、今再び自分が、あの恐怖に襲われていると分かった。    慌てて二体に目を向けると、大砲を構えた緑が、こちらを向いている。  (気付かれていた!?)  逃げようと思っても、体が動かない。緑が大砲を構え直し、後退りとともに放たれた弾丸が視界に入り、そして――。 ◆    ゾルダとコブラ、それぞれの左と右の拳が突き進む。  それぞれ交錯し、相手の頬へと叩き付けられるのが本来の姿だ。 しかしゾルダの左拳が軌道を変えたことで、その結果は無効となる。  頬へのカーブを止め、右肩への直進。根元を止められたことで、連動する様にコブラの右拳が停止する。  同時にコブラの腹部へ突き付けられていたマグナバイザーが火を噴き、三歩、四歩とコブラを後退させる。  射撃を軸にして戦うのなら、一定の間合いを保つのがセオリーだ。しかし、ゾルダはそれを行わない。  保つどころか詰められる間合い。マグナバイザーをコブラの足元に二射。続けて胸部へと三連射。  四肢への牽制から一瞬で、左ストレートが無抵抗の顔面に叩き込まれる。  今度はコブラが倒れ込んだのをゾルダは確認、マグナバイザーを右腰へとゆっくりと戻す。  それと同時に左腕でコブラの首を押さえ、持ち上げる。  外部要因により持ち上げられたコブラの腹部へ、待っていたと言わんばかりの乱打を加えるゾルダの右拳。    「弱いなぁ……もう終わりかい?」  異形のマスクに包まれた晴彦の表情が、一層険しくなる。  いくら弱くても、ここで負ける訳には、死ぬ訳にはいかない。そう言い聞かせて体に力を込める。  コブラが歯軋りを立てていることに気付くと、左手を解き放つゾルダ。  再び倒れ込んだコブラだが、今度は違う。ゾルダが次の行動に入るよりも早く立ち上がり、右拳をお見舞いする。  想定よりも早く現れた反撃。それに吹き飛ばされ、僅かな時間ゾルダが宙に踊る。  この戦いで初めて感じた、地面へとたたき付けられる感触。  コブラはこの機を逃すまいと、精神を研ぎ澄ませ接近する。  その姿から、先程までの様な隙を感じられない。起き上がらせるつもりも、銃弾の直撃を許すつもりも無いらしい。  その闘気に満足しながら、ゾルダ――北崎は呟く。 「そう来ないと面白くないよね」    マグナバイザーに右手が掛けられ。神速を尊ぶ晴彦の意思に合わせ、コブラの両腕が防御体制を取る。  次いで、発砲音。場を舞うのはコブラへの着弾を示す火花では無く、大樹の新緑。脳改造が解けていなければ、コブラがその光景に顔を上げることは無かっただろう。  ゾルダはその一瞬の隙を突いて立ち上がる。二度発砲すると、火花が舞踏会へと新たに加わった。  やがてそれらの舞いが終わり、二人のワルツを再開する合図となった。  先程までと同様に、コブラが懐に飛び込む。そこから続けられる左腕の突貫。  読んでいた筈だった動き。しかし、ゾルダはそれを防ぎきれない。  装甲の厚い胸部への直撃だった為、ダメージは無い。そのまま左拳を握り、突き出す。  半テンポ待たずにコブラからは右拳が打ち込まれる。前回は肩へ狙いを変えて阻止した一撃だが――  (……速いッ!!!)  小細工を労する暇は無く。かつその思考により僅かに鈍った左ストレートを、コブラは躱して見せる。  逆にクリーンヒットした紫の拳。俗に言うクロス・カウンターの様な形になった。  それでも幸いだったのは、北崎の顔面を覆う鋼の鎧が、頑丈だったことだろう。  すぐに体勢を立て直し、マグナバイザーを連射するゾルダ。  それはコブラにダメージこそ与えなかったが、追撃を見事に阻止した。  「……そろそろ僕も、本気を出させてもらうよ」  このタイミングである。会場へと観客――桐矢京介が紛れ込んでしまったのは。 宣言に続いて、再開される発砲。その命中精度、連射スピードの上昇をコブラは感じとる。  再び縮まった戦場。手数では倍の差があるにも関わらず、ゾルダは観客にそれを感じさせなかった。  一発、二発…………互いの拳が澄んだ空気を震わせ、強化された肉体と銀の装甲を軋ませる。  攻防の最中、コブラが間合いを広げた。後頭部に右腕を滑らせ、触手を取り外す。  これを自ら使う機会は少ないのだが、このままではじり貧である。  故にコブラは奇策に出た。しかしそこで違和感を彼は感じる。  数発は受けることを覚悟していた銃撃が来ない。ゾルダは腰部から取り出したカードを銃に差し込んでいた。  ――GUARD VENT――  何れにせよコブラには好機だったのは間違い無い。触手を鞭として右から左へと振るう。  ゾルダが砲撃を再開したが、コブラは手痛い一撃を浴びせる確信を持っていた。しかし――  天から飛来した分厚い装甲は、ゾルダの左手に装備されると、その守りを強固なものとする盾と化す。  「へぇ……結構大きいなぁ」  使用した本人すら感嘆の声を上げる。  「ガード」ベント。その電子音が流れた時点で気付け無かった己をコブラは内心責める。  そして、ゾルダがまだこの様な戦力を温存していた事実も、コブラへと現実をたたき付ける。  ゾルダは盾をその場に転がすと、二枚目のカードをデッキから抜き取る。  仮面の下で、北崎の顔に笑みが浮かぶ。カードを手際良くマグナバイザーに読み込ませると、無慈悲な電子音が再び空気を震わせた。  ――SHOOT VENT――    数時間前に、一つの命を散らせた記憶。それを再現せんとばかりに、手元にギガランチャーを受け止める。  ゾルダが砲身を向けた先に立ち尽くす異形――コブラは、既に回避行動を取り始めていた。  「フンッ!!」  歯を食いしばり放たれた砲弾は、僅かにコブラの側面を霞めて、少し離れた草陰を焼いた。  コブラが一撃を回避したことに一瞬驚く北崎。だが、彼の視線に浮かぶのは、一人の青年だけだった。  着弾地点から左に10m。果てしない恐怖に顔を歪めている青年の姿は、ほんの数時間前に北崎へと挑んで来た「仮面ライダー」の一人そのもの。  しかし、今現在この場にいる青年は、仮面ライダーゼロノス――桜井侑斗では無い。  今回のゲームにおいて、他者と渡り合える特筆事項を持たぬ一般人――桐矢京介なのだ。  顔付きこそ瓜二つだが、服装の違いや同行者の有無、そして北崎への反応等異なる点は多い。  それでも北崎が別人と判断出来なかった――いや、しなかったのは、彼が心から彼との闘争を望んでいるからだろうか。  「おいでよ……」  無論桐矢にこの呟きは届かない。ギガランチャーを握る手に力を込めるゾルダ。  桐矢に向けて、砲身を微調整しながら狙いを即座に定める。そして砲弾が放たれようとした――その時。  「うわああぁぁぁぁ!!」    意識から完全に外されていた存在、コブラの拳がゾルダに打ち込まれた。  ズレる角度。それが示す着弾点は、桐矢を中心として一発目と真逆の位置。  彼は再び、生き残る為に殺さなければならない筈の参加者に命を救われることになった。  ――尤も、今回はただの偶然なのだが。  桐矢が視界から消え失せたのを何となく把握したゾルダは、ギガランチャーを手放す。  風を裂きながら迫るコブラの拳を正面から受け止めるゾルダ。  「調子に乗るなよ……お前」  静かに、ゆっくりと放たれたその言葉遣いに、先程までの面影は既に無く。  例えるならば、親の説教を受けて爆発寸前の反抗期児童と言った所か。  覚悟を固めた筈の改造人間すら戦慄させる、鋼の戦士。  その左手に握られた一枚が、マグナバイザーにセットされて――  ――FINAL VENT――  ゾルダの前方に現れた猛牛――マグナギガが、持ち得る全ての砲門を開く。  「消えなよ……弱い奴は」  マグナギガの背部にバイザーが接続され、終焉の刻を待つ。  「ヒッ……ヒィィィイイ!!」  改造人間の威厳もへったくれもないその叫びに、北崎は満足する。  最後には皆、こうなるんだよ…と。  引き金をゾルダは引く。それに合わせて砲撃を開始するマグナギガ。  その惜しむ事なき砲撃を行う姿は、血と灰で塗り固められた栄光を手にしようとする悪魔の契約者として、相応しいものだと言えよう。  「ハハハ……ハハ……ハハハハハハハハ!!」      エンド・オブ・ワールド。  一つの終焉を呼び込む矢は、解き放たれたのだ――。 ◆    「ハァ、ハァ……ウッ……」  大樹から少し距離を置いた、本当に小さな廃墟に座り込む青年が一人。  ある程度の時間が身を寄せてからある程度の時間が経っているにも関わらず、青年は肩を上下に揺らしながら呼吸を行っている。  その場に漂う悪臭は、彼の食道を遡ったものだ。  といっても、ゲームの開始から4時間以上、水以外に何も口にしていなかった為、床に零れているのは胃液だけなのだが。  (安達君、天美さん、君達ならこんな時……)  鬼の人達の様な信頼できる人を探して、共にゲームの終結を願うのか。  それとも、あの手この手を駆使して、自らゲームを終結させるのか。  脳裏に浮かぶ二人の人間は、何も話そうとはしない。    一際大きな音を立て、桐矢の視界に青年が倒れこんで来る。  桐矢の消耗しきった体からは、安否を気遣う言葉も無い。  (ひょっとして、あれの持ち主かな)  二つ寄り添う様に放置されたデイパックに視線を移す桐矢。  一つは彼自身に支給された物。そしてもう一つは、ここに隠れる道中で拾った物だ。  (あれになら……)  自分にも使える物が入っているかも知れない――と桐矢が期待するのも無理は無い。  彼に与えられた物は、使いようが無いカードなのだから。  極限まで追い込まれた状態で、青年の選ぶ道は―――― **状態表 【桐矢京介@仮面ライダー響鬼】 【1日目 早朝】 【E-5 南部廃墟】 【時間軸】36話、あきらに声を掛けた帰り 【状態】:疲労大。軽い擦り傷。空腹。 【装備】:なし 【道具】:基本支給品(食料紛失) ラウズカード(スペードの10、クラブの10) 【思考・状況】 基本行動方針:生き残る 1.死にたくない 2.激しい恐怖(特にダグバ・ゾルダに対して) 3.響鬼が助けてくれることへの僅かな期待 ※自分を助けてくれた男性(水城)の生存の可能性は低いと予想 ※食料は移動中に紛失しました。 【三田村晴彦@仮面ライダー THE FIRST】 【1日目 現時刻:早朝】 【E-5 南部廃墟】 [時間軸]:原作での死亡直前から [状態]:中程度の疲労、胸に強い痛み、気絶、約2時間変身不可 【装備】:なし 【道具】:なし 【思考・状況】 基本行動方針:彼女を救いたい。 1.望みを叶える為にも、バトルロワイヤルに生き残るしかない。 [備考] ※廃墟内に支給品(基本支給品・不明支給品×1)が桐矢のデイパックと隣り合わせに置いてあります。 ◆    「また、試せなかったね……」  北崎はまたも出番を逃したベルトへと目をやる。  「そろそろもっと強い奴と会いたいなぁ……」  強い相手ならば、必然的により強大な力が必要になるのだから。    「五代って人が強いと良いんだけど」  最も深い殺意を向ける相手が、その力を持っていることを期待して。    ――悲劇の中心から龍と猛牛を従えし帝王が何を起こすのか。朝未き空すら、それをまだ知りはしない。     【北崎@仮面ライダー555】 【1日目 早朝】 【E-5 中心部】 【時間軸】:不明。少なくとも死亡後では無い。 【状態】:軽度の疲労、ダメージ。勝利による満足感。ゾルダに2時間変身不能。 【装備】: カワサキのZZR-250、オーガギア、カードデッキ(ゾルダ) 【道具】:基本支給品一式、不明支給品(0~1個) 【思考・状況】 基本行動方針:殺し合いを楽しんだ上での優勝。 1.強者と闘い、オーガギアを試したい。 2.五代雄介、「仮面ライダー」なる者に興味。 3.桜井侑斗、香川英行とはまた闘いたい。 4.「仮面ライダー」への変身ツールを集めたい。 ※変身回数、時間の制限に気づきましたが詳細な事は知りません。 ※桐矢京介を桜井侑斗と同一人物と見なしています。 ※三田村晴彦の生死に興味を持っていません。 |029:[[駆ける海堂]]|投下順|031:[[激闘の幕開け]]| |023:[[クローズド・サーキット]]|時系列順|031:[[激闘の幕開け]]| |021:[[戦士(後編)]]|[[北崎]]|051:[[戦いの決断]]| |015:[[蠢く甲蟲]]|[[桐矢京介]]|053:[[二匹の蛇は何を唄う]]| |016:[[囚われの虎と蛇]]|[[三田村晴彦]]|053:[[二匹の蛇は何を唄う]]|
*決断の刻は目の前に  都市部の様な多くの建物も無ければ、研究所や工場といった目立つ施設も無い。  エリアE-5。参加者全員に配布された地図で言えば、丁度中央部に位置するこの地区に、青年が一人。  3人の「仮面ライダー」との激闘を制し、新たなる玩具――カードデッキを手に入れた。  その事実が改めて生み出す高揚感に、ドラゴンオルフェノク――北崎は、身を預けている。  これといった目的地を持たなかった故に辿り着いた地だが、決してその居心地は悪く無い。  ゲームを楽しんだ上での優勝。それを実行へと移す門出の場としては、この上無い場所である。  辺りで風を受けた繁みが微かに揺れる音を感じる。時間が時間だけあって、揺れ自体は見えないが、それらが織り成す旋律は北崎を十分に喜ばせた。  各地に散らばった「仮面ライダー」を始めとする参加者達は、自分達が舞い踊る劇場の中心から、等しく全体へ振り撒かれている殺意に気付いているだろうか?    自身をここまで運んだ騎馬から降りると、北崎は草むらの中にそり立つ一本の大木を目にする。  やがて微笑を浮かべると、その根元周りに、デイバックと共に腰を下ろした。    昂ぶっていた身体が落ち着きを取り戻す中、北崎は支給品である携帯に目をやる。  これまで確認していなかった「名簿」。ゲームを満喫する為に必要不可欠な、参加者達の名前を直に確認していく。  彼の手によってその最後を迎えた一人の「戦士」と、その言葉に在った一人の男の名前が目に入る。  男――五代と戦い、殺す。その刻を迎えるのが楽しみだが、それと同時に一つの問題を北崎は思い出す。  先程の戦いで彼を襲った違和感のことである。オルフェノクへの変身が、自分の望まないタイミングで突如解けた点である。 「まあ……面白ければ別に良いけどね……」  これらの現象にどのような理由、意図が込められていたとしても、北崎はゲームを楽しめさえすればそれで良いのだが。  「でも、たくさん戦えないとつまらないなぁ……」  いざ戦闘となった際に、戦闘手段を失ってしまったならば、彼は戦闘を楽しむことができなくなってしまう。    「あの二人は、ここで待ってれば来るかなぁ」  二人とは、先程まで彼と戦っていたライダー達のことを指す。  圧倒的実力差を見せ付けても、人間は、仮面ライダーはしつこく向かって来る。  そして彼の知るライダー達には、常に仲間の存在がついて回る。  戦闘の長期化や、連戦になるケースも多々ある。だからこそ、少しでも長く戦える様にしておきたいというのが北崎の本音だ。      「今は誰も来てないみたいだし……少し眠ってみようかな」  様々な想い渦巻く中心部に佇む絶望の樹の元で、しばしの休息を彼はとる。  目覚めた時、戦意を取り戻した彼等が、新たな参加者が現れることに多大な期待を寄せて。 ◆  胸に伸し掛かる強烈な圧迫感。虎に敗れた蛇が、気を取り戻して最初に感じた物がそれだった。  「ハァ、ハァ…急がないと…」  苦しみに身を捩らせる暇等、改造人間――三田村晴彦には残されていない。  その場に立ち上がる晴彦。一層高まる圧迫感が、この戦いに生き残ることの厳しさを彼に感じさせる。  彼に牙を剥いた虎が、その身を喰らうことをしなかったのかは彼の知る処では無い。  しかし、胸を刺す苦しみは、晴彦にもまだ機会が残されていることを確かに示している。      一歩一歩大地を踏み締め、彼を捕らえていた動物園から抜け出す。  頭の中に響く、愛しい人の声。目を閉じれば浮かぶ、無邪気な笑顔。  取り戻したいその存在を思う内、晴彦はすっかり渇いた自分自身の喉に気付いた。  同時に、渇きを潤す為の水を入れたデイパックが、手元に無いことを彼は思い出す。  もっとも、大それた失態では無い。存在自体が頭から抜けていただけで、決して場所が分からない、ということでは無いのだから。  それほど間をおかず、晴彦はデイパックを見つける。  疲労を忘れて駆け出す。素早く中身を確認する。幸いにも何かが奪われている、ということも無かった。  つまりは現在、彼以外にこの周辺には誰もいない、ということになる。  それならば彼としてはいつまでもこの道に身を置いておく意味は無く。  早急に荷物をまとめると、ペットボトル片手に歩き出す。    晴彦は整った道路から外れると、気が進むままに歩み続ける。  その歩みを妨げるものは無く。次に見つけた参加者を殺す――彼の決意の現れだろうか。  ただ辺りの暗闇が、怪しげに彼の周りを漂うだけだった。    「美代子さん……」    青年は走り出す。マグライトで前方を照らし、ただひたすらに。   その先で待つ者も知らずに、だ。 ◆    樹に止まる小鳥が、少々早いモーニング・コールを行う。  それに呼応して起き上がる青年が一人。その顔は天使の様に穏やかだ。  ――尤も、その内面は180度反対ではあるのだが。    既に暗闇は辺りから失せ、周りを照らす必要は無い。太陽はまだ出ていないが辺りを見回すのには十分な明るさである。  ペットボトルの口を開くと、水を口に含む。本来なら灰となって消え失せるそれが、平然とその手に握られたままの理由を北崎は知らない。  そんな中、砂利を踏みしめる靴の音が北崎の耳に響く。  北崎の心情は、欣喜雀躍…といったところか。振り向いた瞬間には、既に紫のマスクを取り付け、異形となった青年がいたのだから。  「君は…仮面ライダー、じゃないね」  北崎はその笑みを僅かに歪ませ、異形に問う。  異形――コブラの姿は、北崎から見れば自分が戦ってきた「仮面ライダー」では無く。  どちらかと言えば、色合いこそは違えど、「オルフェノク」の部類に入るだろう。    「……ハァッ!」   その問いに異形は答えることをせず、拳を北崎へと突き出していた。  北崎はそれを回避。切羽詰っていることは容易に想像できたようで、すぐに間合いを広げる。    刹那、彼の顔には龍の紋様――――  (このまま倒しちゃおうか…)    それはすぐに掻き消され、ポケットからは猛牛の紋章を備えたカードデッキ。  (いや、こっちの方が面白いかな)    立ち上がるや否や、左手に掴んだままのペットボトルを落とし。  「君みたいな悪い奴は、倒さないと、ね。仮面ライダーが……」   口元には僅かな笑みが取り戻され、右から左へと住まいを変えるデッキ。そしてそれは突き出され――   「変身」   出現したバックルと、デッキが再開する。黄金に輝く紋章は、幾重に重なる鋼を召集し、やがて一つの戦士を形成させた。  「始めに言っておくよ」    仮面の下で北崎が笑う。数時間前に聞いた台詞を改変し――    「僕は、世界一強いんだ」 ◆  異形――コブラは動揺していた。目の前の悪魔が持つ、底知れぬ自信に。  改造人間とも、先程戦った雌虎とも違う形式の異形。改めてこの戦いに勝ち残ることがいかに困難かを彼に思わせる。  しかし今更決意を崩す晴彦では無い。拳を握り締めると、改造されたことで得たその力を敵に叩き込もうと、一直線に突き進む。  「ウォオオォ!」  「ふぅん……」  最終的な目的こそ同じだが、そこへ至るまでの考えは明らかに別物だ。  型もへったくれも無く繰り出されたコブラの拳を、ゾルダは左腕でブロック。  逆に腹へ右腕を短く突きこみ、左腕で腰を抑えるとその場に叩き伏せる。  倒れ込んだ体へ降るのは銃撃の雨。その一発一発がコブラの体に火花を散らす。    「弱い、弱い。こんなんじゃ面白くもなんともないよ」    屈辱的な言葉が、コブラの耳を打つ。次の瞬間には、両腕をバネにして立ち上がる。  「うぁあああぁあ!」  悲鳴にも似た叫びを上げて、再び拳を振るいだす。  ここに来る前は、こんな風に彼が叫んで戦う事など無かったというのに。 ◆    一刻も早くあの場から離れたかった。だから駆けた。  疲労がどんどん蓄積していくのが、自分にも良く分かる。それでも駆けた。  荷物の一部を途中で落としたのにも気付いている。しかし、止まる気は無い。  「安全な場所を見つけて隠れる」  そう願った時には、都市部――あの場所――を遠ざけるようにひたすら走っていた。    人が集まりそうな施設には近寄らず、川の緩流を経由して北へとへ向かう道中も、あの悪魔を思い出す。  今でも自分の尻に火が点いているのではないかと錯覚してしまう程の距離に上がった火柱の熱さ。   いつそれが自分に向けられるか分からないという事実を認識させた、助けてくれた男性の乾いた銃声。    あの場、あの時間に不釣り合いな出で立ちをした悪魔の微笑み。     既に過ぎ去った筈の過去なのに、生々しくそれらは視覚に、聴覚に、触覚に突き刺さって来る。  感じる物全てが敵に思えてしまう。が、間違っても殺し合いなんてする訳には行かない。  自分には他人を死に至らしめる悪魔のような力は無いし、響鬼さんみたいに鬼になることもできない。  なんとか逃げ延びて、信頼できる人を捜すしかない。      脇腹と喉から上がる悲鳴を抑える為、一度足を止める。酷く後悔した。  ガクン、と膝が崩れ落ちてしまった。暫くは走り出せそうにも無い。  ペットボトルの口を開けて、水を飲む。自分自身で驚く程の勢いで喉にそれを通すと、あっという間に一本が空になってしまった。  後悔なんてしていられない。色々考えるのは、安全な場所取りをしてからだ。  段々と鮮明になって行く景色。それが、完全な明るさを取り戻すよりも早く―――― ◆    すっかり慣れてしまった荒い息継ぎが、ようやく収まる。  コンパスも確認せず目茶苦茶に移動し続けたせいで、ここが何処なのかも分からない。  確かなのは、この辺りには目立つような建造物が無いこと、あの場所より空気が美味しいことだ。  小鳥の囀りに耳を傾けながら、隠れ場所を探す。すると、一本の大樹が目に入った。  森林の様にそれをもり立てる樹木は他には無く、ただ一本で堂々とその存在を主張している。    (…………何だ?)    耳に伝わってくる何か。それが銃撃音と、その炸裂音だと気付いたのは、大樹をがっしりと支える根に目をやった時だ。      目にしたのは、ルールに則り殺しあいを演じる二体のシルエット。  一体――緑銀のそれが放つ弾丸に、もう一体――紫色のそれが飛び込んで行った。  紫の接近で銃撃が中断され、続けて至近距離での殴り合い。それでも片手が銃で塞がれている緑の方が押している様だ。  紫が後頭部から、触手の様な物を取り外すと、緑は腰から抜き取ったカード状の何かを銃に差し込み、再び引き金を引いていた。    (あれに弾が!?)  必死で冷静に考え直す。あんな物に銃弾が入っている筈が無い。  (だとしたら、一体……)  その疑問はすぐに解かれた。銃撃に紫が突っ込んで触手を振るうと、緑の左手に分厚い盾が構えられていた。  それも、その盾は空から降ってきたのだ。  カードを使うと武器が現れる――まるでいつかテレビで見たカードアニメだ。  でも、これは現実だ。視界に描かれた二人は殺し合っている。  そう考えると、自分はこんな場所にいつまでも居られない。    (逃げないと……)  しゃがみを解き、逃げようと立ち上がる。幸いあの二体は戦いに必死で、まだこちらには気付いて無い様だ。  急いで駆け出したが、足は直ぐに、動きを再び止めた。  今の今まで自分がしゃがみ込んでいた場所が――――爆発した衝撃の為だ。  どっと冷や汗を流し始める背中の冷えた感触。加速する心臓の熱い鼓動。その温度差に、今再び自分が、あの恐怖に襲われていると分かった。    慌てて二体に目を向けると、大砲を構えた緑が、こちらを向いている。  (気付かれていた!?)  逃げようと思っても、体が動かない。緑が大砲を構え直し、後退りとともに放たれた弾丸が視界に入り、そして――。 ◆    ゾルダとコブラ、それぞれの左と右の拳が突き進む。  それぞれ交錯し、相手の頬へと叩き付けられるのが本来の姿だ。 しかしゾルダの左拳が軌道を変えたことで、その結果は無効となる。  頬へのカーブを止め、右肩への直進。根元を止められたことで、連動する様にコブラの右拳が停止する。  同時にコブラの腹部へ突き付けられていたマグナバイザーが火を噴き、三歩、四歩とコブラを後退させる。  射撃を軸にして戦うのなら、一定の間合いを保つのがセオリーだ。しかし、ゾルダはそれを行わない。  保つどころか詰められる間合い。マグナバイザーをコブラの足元に二射。続けて胸部へと三連射。  四肢への牽制から一瞬で、左ストレートが無抵抗の顔面に叩き込まれる。  今度はコブラが倒れ込んだのをゾルダは確認、マグナバイザーを右腰へとゆっくりと戻す。  それと同時に左腕でコブラの首を押さえ、持ち上げる。  外部要因により持ち上げられたコブラの腹部へ、待っていたと言わんばかりの乱打を加えるゾルダの右拳。    「弱いなぁ……もう終わりかい?」  異形のマスクに包まれた晴彦の表情が、一層険しくなる。  いくら弱くても、ここで負ける訳には、死ぬ訳にはいかない。そう言い聞かせて体に力を込める。  コブラが歯軋りを立てていることに気付くと、左手を解き放つゾルダ。  再び倒れ込んだコブラだが、今度は違う。ゾルダが次の行動に入るよりも早く立ち上がり、右拳をお見舞いする。  想定よりも早く現れた反撃。それに吹き飛ばされ、僅かな時間ゾルダが宙に踊る。  この戦いで初めて感じた、地面へとたたき付けられる感触。  コブラはこの機を逃すまいと、精神を研ぎ澄ませ接近する。  その姿から、先程までの様な隙を感じられない。起き上がらせるつもりも、銃弾の直撃を許すつもりも無いらしい。  その闘気に満足しながら、ゾルダ――北崎は呟く。 「そう来ないと面白くないよね」    マグナバイザーに右手が掛けられ。神速を尊ぶ晴彦の意思に合わせ、コブラの両腕が防御体制を取る。  次いで、発砲音。場を舞うのはコブラへの着弾を示す火花では無く、大樹の新緑。脳改造が解けていなければ、コブラがその光景に顔を上げることは無かっただろう。  ゾルダはその一瞬の隙を突いて立ち上がる。二度発砲すると、火花が舞踏会へと新たに加わった。  やがてそれらの舞いが終わり、二人のワルツを再開する合図となった。  先程までと同様に、コブラが懐に飛び込む。そこから続けられる左腕の突貫。  読んでいた筈だった動き。しかし、ゾルダはそれを防ぎきれない。  装甲の厚い胸部への直撃だった為、ダメージは無い。そのまま左拳を握り、突き出す。  半テンポ待たずにコブラからは右拳が打ち込まれる。前回は肩へ狙いを変えて阻止した一撃だが――  (……速いッ!!!)  小細工を労する暇は無く。かつその思考により僅かに鈍った左ストレートを、コブラは躱して見せる。  逆にクリーンヒットした紫の拳。俗に言うクロス・カウンターの様な形になった。  それでも幸いだったのは、北崎の顔面を覆う鋼の鎧が、頑丈だったことだろう。  すぐに体勢を立て直し、マグナバイザーを連射するゾルダ。  それはコブラにダメージこそ与えなかったが、追撃を見事に阻止した。  「……そろそろ僕も、本気を出させてもらうよ」  このタイミングである。会場へと観客――桐矢京介が紛れ込んでしまったのは。 宣言に続いて、再開される発砲。その命中精度、連射スピードの上昇をコブラは感じとる。  再び縮まった戦場。手数では倍の差があるにも関わらず、ゾルダは観客にそれを感じさせなかった。  一発、二発…………互いの拳が澄んだ空気を震わせ、強化された肉体と銀の装甲を軋ませる。  攻防の最中、コブラが間合いを広げた。後頭部に右腕を滑らせ、触手を取り外す。  これを自ら使う機会は少ないのだが、このままではじり貧である。  故にコブラは奇策に出た。しかしそこで違和感を彼は感じる。  数発は受けることを覚悟していた銃撃が来ない。ゾルダは腰部から取り出したカードを銃に差し込んでいた。  ――GUARD VENT――  何れにせよコブラには好機だったのは間違い無い。触手を鞭として右から左へと振るう。  ゾルダが砲撃を再開したが、コブラは手痛い一撃を浴びせる確信を持っていた。しかし――  天から飛来した分厚い装甲は、ゾルダの左手に装備されると、その守りを強固なものとする盾と化す。  「へぇ……結構大きいなぁ」  使用した本人すら感嘆の声を上げる。  「ガード」ベント。その電子音が流れた時点で気付け無かった己をコブラは内心責める。  そして、ゾルダがまだこの様な戦力を温存していた事実も、コブラへと現実をたたき付ける。  ゾルダは盾をその場に転がすと、二枚目のカードをデッキから抜き取る。  仮面の下で、北崎の顔に笑みが浮かぶ。カードを手際良くマグナバイザーに読み込ませると、無慈悲な電子音が再び空気を震わせた。  ――SHOOT VENT――    数時間前に、一つの命を散らせた記憶。それを再現せんとばかりに、手元にギガランチャーを受け止める。  ゾルダが砲身を向けた先に立ち尽くす異形――コブラは、既に回避行動を取り始めていた。  「フンッ!!」  歯を食いしばり放たれた砲弾は、僅かにコブラの側面を霞めて、少し離れた草陰を焼いた。  コブラが一撃を回避したことに一瞬驚く北崎。だが、彼の視線に浮かぶのは、一人の青年だけだった。  着弾地点から左に10m。果てしない恐怖に顔を歪めている青年の姿は、ほんの数時間前に北崎へと挑んで来た「仮面ライダー」の一人そのもの。  しかし、今現在この場にいる青年は、仮面ライダーゼロノス――桜井侑斗では無い。  今回のゲームにおいて、他者と渡り合える特筆事項を持たぬ一般人――桐矢京介なのだ。  顔付きこそ瓜二つだが、服装の違いや同行者の有無、そして北崎への反応等異なる点は多い。  それでも北崎が別人と判断出来なかった――いや、しなかったのは、彼が心から彼との闘争を望んでいるからだろうか。  「おいでよ……」  無論桐矢にこの呟きは届かない。ギガランチャーを握る手に力を込めるゾルダ。  桐矢に向けて、砲身を微調整しながら狙いを即座に定める。そして砲弾が放たれようとした――その時。  「うわああぁぁぁぁ!!」    意識から完全に外されていた存在、コブラの拳がゾルダに打ち込まれた。  ズレる角度。それが示す着弾点は、桐矢を中心として一発目と真逆の位置。  彼は再び、生き残る為に殺さなければならない筈の参加者に命を救われることになった。  ――尤も、今回はただの偶然なのだが。  桐矢が視界から消え失せたのを何となく把握したゾルダは、ギガランチャーを手放す。  風を裂きながら迫るコブラの拳を正面から受け止めるゾルダ。  「調子に乗るなよ……お前」  静かに、ゆっくりと放たれたその言葉遣いに、先程までの面影は既に無く。  例えるならば、親の説教を受けて爆発寸前の反抗期児童と言った所か。  覚悟を固めた筈の改造人間すら戦慄させる、鋼の戦士。  その左手に握られた一枚が、マグナバイザーにセットされて――  ――FINAL VENT――  ゾルダの前方に現れた猛牛――マグナギガが、持ち得る全ての砲門を開く。  「消えなよ……弱い奴は」  マグナギガの背部にバイザーが接続され、終焉の刻を待つ。  「ヒッ……ヒィィィイイ!!」  改造人間の威厳もへったくれもないその叫びに、北崎は満足する。  最後には皆、こうなるんだよ…と。  引き金をゾルダは引く。それに合わせて砲撃を開始するマグナギガ。  その惜しむ事なき砲撃を行う姿は、血と灰で塗り固められた栄光を手にしようとする悪魔の契約者として、相応しいものだと言えよう。  「ハハハ……ハハ……ハハハハハハハハ!!」      エンド・オブ・ワールド。  一つの終焉を呼び込む矢は、解き放たれたのだ――。 ◆    「ハァ、ハァ……ウッ……」  大樹から少し距離を置いた、本当に小さな廃墟に座り込む青年が一人。  ある程度の時間が身を寄せてからある程度の時間が経っているにも関わらず、青年は肩を上下に揺らしながら呼吸を行っている。  その場に漂う悪臭は、彼の食道を遡ったものだ。  といっても、ゲームの開始から4時間以上、水以外に何も口にしていなかった為、床に零れているのは胃液だけなのだが。  (安達君、天美さん、君達ならこんな時……)  鬼の人達の様な信頼できる人を探して、共にゲームの終結を願うのか。  それとも、あの手この手を駆使して、自らゲームを終結させるのか。  脳裏に浮かぶ二人の人間は、何も話そうとはしない。    一際大きな音を立て、桐矢の視界に青年が倒れこんで来る。  桐矢の消耗しきった体からは、安否を気遣う言葉も無い。  (ひょっとして、あれの持ち主かな)  二つ寄り添う様に放置されたデイパックに視線を移す桐矢。  一つは彼自身に支給された物。そしてもう一つは、ここに隠れる道中で拾った物だ。  (あれになら……)  自分にも使える物が入っているかも知れない――と桐矢が期待するのも無理は無い。  彼に与えられた物は、使いようが無いカードなのだから。  極限まで追い込まれた状態で、青年の選ぶ道は―――― **状態表 【桐矢京介@仮面ライダー響鬼】 【1日目 早朝】 【E-5 南部廃墟】 【時間軸】36話、あきらに声を掛けた帰り 【状態】:疲労大。軽い擦り傷。空腹。 【装備】:なし 【道具】:基本支給品(食料紛失) ラウズカード(スペードの10、クラブの10) 【思考・状況】 基本行動方針:生き残る 1.死にたくない 2.激しい恐怖(特にダグバ・ゾルダに対して) 3.響鬼が助けてくれることへの僅かな期待 ※自分を助けてくれた男性(水城)の生存の可能性は低いと予想 ※食料は移動中に紛失しました。 【三田村晴彦@仮面ライダー THE FIRST】 【1日目 現時刻:早朝】 【E-5 南部廃墟】 [時間軸]:原作での死亡直前から [状態]:中程度の疲労、胸に強い痛み、気絶、約2時間変身不可 【装備】:なし 【道具】:なし 【思考・状況】 基本行動方針:彼女を救いたい。 1.望みを叶える為にも、バトルロワイヤルに生き残るしかない。 [備考] ※廃墟内に支給品(基本支給品・不明支給品×1)が桐矢のデイパックと隣り合わせに置いてあります。 ◆    「また、試せなかったね……」  北崎はまたも出番を逃したベルトへと目をやる。  「そろそろもっと強い奴と会いたいなぁ……」  強い相手ならば、必然的により強大な力が必要になるのだから。    「五代って人が強いと良いんだけど」  最も深い殺意を向ける相手が、その力を持っていることを期待して。    ――悲劇の中心から龍と猛牛を従えし帝王が何を起こすのか。朝未き空すら、それをまだ知りはしない。     【北崎@仮面ライダー555】 【1日目 早朝】 【E-5 中心部】 【時間軸】:不明。少なくとも死亡後では無い。 【状態】:軽度の疲労、ダメージ。勝利による満足感。ゾルダに2時間変身不能。 【装備】: カワサキのZZR-250、オーガギア、カードデッキ(ゾルダ) 【道具】:基本支給品一式、不明支給品(0~1個) 【思考・状況】 基本行動方針:殺し合いを楽しんだ上での優勝。 1.強者と闘い、オーガギアを試したい。 2.五代雄介、「仮面ライダー」なる者に興味。 3.桜井侑斗、香川英行とはまた闘いたい。 4.「仮面ライダー」への変身ツールを集めたい。 ※変身回数、時間の制限に気づきましたが詳細な事は知りません。 ※桐矢京介を桜井侑斗と同一人物と見なしています。 ※三田村晴彦の生死に興味を持っていません。 |029:[[駆ける海堂]]|投下順|031:[[激闘の幕開け]]| |023:[[クローズド・サーキット]]|時系列順|031:[[激闘の幕開け]]| |021:[[戦士(後編)]]|[[北崎]]|051:[[戦いの決断]]| |015:[[蠢く甲蟲]]|[[桐矢京介]]|053:[[二匹の蛇は何を唄う]]| |016:[[囚われの虎と蛇]]|[[三田村晴彦]]|053:[[二匹の蛇は何を唄う]]|

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