Hypothesis and reality

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Hypothesis and reality


ゾル大佐は先の戦闘で取り逃がした金居を追うのを止めた。
自身は――恐らく主催者に仕込まれた制限に拠って――変身出来ない上
同行者である橘朔也は気絶しているという状態で、強行軍を行うのはどう考えても無謀だ。
ゾル大佐は橘を肩に担ぎ視界の開けた現在地から民家の建ち並ぶ市街に移動し、その中の適当な1軒に入る。
その家は2階建てで周囲の家よりも若干大きく、外部からの襲撃にも比較的守りが堅い。
2階の部屋のベッドに橘を寝かせ、ゾル大佐も床に座りその身を休ませる。
今居る部屋は玄関側の壁に窓があり、照明を付けなければ外から人が居るとは気付かれ難い。
緊急時には改造人間のゾル大佐なら、その窓も脱出経路に出来る。
もっともそうなったら、橘は置いていく事になるだろうが。



「…………ここは?」
「……気付いたか」
ゾル大佐が操作に慣れる為携帯電話で名簿や現在位置の確認をしている内に、橘は目を覚ました。

「貴様が気絶した場所から、そう遠くない民家だ」
「わざわざ俺を運んでくれたのか……」
「…………一応、協力者だからな」
馴れない様子で携帯電話を操作しながら、ゾル大佐は橘に話しかける。
「橘、現時刻は放送まで1時間を切っている。放送まで、この場で休むが構わんな?」
「……ああ、頼む」
先の戦闘の影響かまだ身体に重みを感じる橘には、ゾル大佐の提案は都合が良かった。
あるいはゾル大佐の体力を鑑みるに、自分の状態を気遣っての判断かも知れない。

橘がコンビニと携帯電話について、ゾル大佐に簡単に説明する。
「なるほど。このケイタイという奴は、内部の機械はともかく操作方法は簡略化されているのだな」
飲み込みの早さから、橘にはゾル大佐の知能の高さが窺えた。
「これほどの多様な機能が内蔵された、小型通信端末を作る技術があるとは……
 ショッカー再興の為にも、これを持ち帰り使用技術を我が物とせねばな」
「……俺の時代には、ほとんど同じ機能が備わった物が市販されているぞ……」
「何っ!? これほどの技術水準が、一般的に普及しているのか…………」

橘の説明が終わってからもゾル大佐は携帯電話がよほど気になるのか、それの操作に夢中になっている。
「…………ゾル大佐、お前は長期に渡る冷凍睡眠措置を受けた心当たりは無いか?」
「無いな。そんなものがあれば、とっくに思い当たっている」
橘はショッカーが何かも続けて質問しようかと考えたが、止めにした。
他から情報を得る前に、1人で考えておきたい事が橘にはあった。
この殺し合いという状況そのものに対する、考察である。

ゾル大佐は、1971年の時点から来たと言っていた。
コンビニや携帯電話に対する反応は、とても演技とは思えない。
本当にそうだとしたら、ゾル大佐は時空間を超越して
いや、主催者が時空を操作してこの場に呼び寄せた事になる。
時空間を操作。科学者である橘にとって、方法論さえ想像もつかぬ難事である。
アンデッドに――スペードのカテゴリー10だった――時間停止能力を持つ者は居たが
それはあくまで神とも言える存在、統率者がアンデッドに与えた唯一無二の異能。
それですら僅かな時間を、停止出来るに過ぎない。
異なる時間軸上から人を集めるのは、それとは全く次元の違う問題だ。
やはり異なる時間軸上から人を集めたというのは、信じ難く思えてくる。

信じ難い事態はそれだけではない。
思い起こされるのはこの殺し合いが始まって、最初の出来事。
忘れ様も無い、部下である禍木と三輪が殺害された場面。
主催者側の説明によると、首輪の効果でその身を灰にされた。
そう人間の身体が着ている服ごと、炭化ですらなく灰化したのだ。
しかも同じ首輪を付けられている参加者に、アンデッドである金居と城光が居る。
アンデッドを簡単に灰に出来るのなら、ライダーシステムによる封印など必要無くなる。
そんな超常的な機能が、この小さな首輪に込められているなんて事が有り得るだろうか?
主催者にとって首輪の灰化機能は、自分達を守る安全装置の筈だ。
もしアンデッドにそれが効かないとすれば、参加者に選ぶだろうか?
主催者が金居と城光をアンデッドだと知らずに、偶然参加させた?
自分や剣崎や志村が参加していてその偶然は、余りにも不自然に過ぎる。

「据え置いてある電話も、使えないようだな……」
不意に聞こえてきたゾル大佐の声に、橘の意識は現実に戻された。
ゾル大佐は部屋内の机の上に置いてあった電話の受話器を、側頭部に押し当てている。
「その電話も通じないのか?」
「ああ、通話以前に何の反応も無い。回線そのものが、繋がっていないのだろう」
電話回線が繋がっていないのは、予想できた事だ。
電話で助けを呼べたら、殺し合い等成立しようが無い。
疑問となるのは、それ以前の部分だ。

橘はベッドから身を起こし、クローゼットに向かう。
クローゼットの中には、衣服と防虫剤が掛かっていた。
コンビニでは、最近仕入れたとしか思えない商品が並んでいた事からも
この場所には、最近まで人が住んでいた形跡が有る。
「ゾル大佐は殺し合いの場で、誰か見なかったか?」
「見ていない。市街地には人の居た様子は見受けられたが……」
「まるで生活空間から、神隠しの様に人間だけが抜け落ちた状態か?」
「どうやら貴様も、私と同じ印象を持った様だな」
「ああ…………」
参加者以外に人が居ない、殺し合いの為に用意されたと思しきこの場所。
だがどうやったら、こんな場所を用意出来る?
市街の様子から推して、ここは自分が居たのと近い時代の日本だと分かる。
これだけの規模の街から住人が全て消えれば、全国的に騒ぎにならない筈が無い。
まさか世界中の全ての人間が、消えた訳でも有るまい。
何処か無人の空間に、住人の居ない街のレプリカを作ったのか?
コンビニの寿司や、クローゼットの防虫剤に到る細部まで?

神の如き全能を持つ『会社』が
ゴーストタウンを作り出し
時空を超えて人間を集めて
アンデッドをも首輪の灰化機能で縛り
殺し合いを強制する。
落ち着いて考えれば考える程、これは何重にも異常な事態だと思い知らされる。
一体何がどうすればこんな理不尽を通り越して不条理な事が起こるのか、見当も付かない。
現実に行われている筈なのに、まるで夢の中の出来事だ。
個々の疑問点を突き詰めて考える程に、疑問点が増えていくのだ。
橘とて自分の科学的常識に、世界の全ての事象が納まらなければならないと考える程傲慢ではない。
しかしこの場においては、科学的常識を大幅に外れる事例が余りにも多過ぎる。

いや、1つだけこれらの超常現象に解答を与える方法が有る。
と言うより、それ以外に現状を解釈する方法は無い。
そう、全ての現象は現実に起きているという前提を外せばいい。
「やはり、そういう事か……」
「どうかしたか?」
思わず声が漏れ、ゾル大佐が声を掛けてきた。
「いや、何でも無い……」
言葉を濁す橘に、ゾル大佐はそれ以上追及しない。
橘が今考えている事は、とても他人に相談できる事ではない。
しかし確信は有る。他に考え様が無いからだ。

ここは現実の世界ではなく、仮想現実だったんだ。

そう考えれば疑問点のほとんどが解決、整理される。
この殺し合いの舞台は、現実の場所のデータから仮想現実上に作り上げたものだ。
時空を超えて集められた参加者というのも、仮想現実上にのみ存在する仮想人格だ。
アンデッドの2人も、仮想現実上のデータに過ぎない。
最初に殺された禍木と三輪も、実際に殺された訳では無い。
何故あの2人が、『見せしめ』として選ばれたのか
それは現実からの参加者である俺の――もし志村もそうなら彼も含めて――動揺を誘い
仮想現実という可能性から、目を背けさせる為だ。
では、どうやって俺を仮想現実の世界に入れたか?
心当たりは1つ、最初に参加者全員が集められた広間で眠らされた時。
あの後脳に直接電気信号を送る等して、人間を仮想現実の世界に入れる装置に組み込まれたのだろう。
それでも驚異的な技術と言えるが、タイムマシンやアンデッドを灰化させる機能を有する首輪よりよほど現実的だ。

もはや仮想現実という説は橘にとって、仮の物ではなく現状に置いて最も確かな事実となった。
悪夢的と言える不条理な現実に、妥当な解釈を与えられて
橘はようやく目前の霧が消えた様な、晴れやかな気分になれた。
現実ではないのだから、誰の死も恐れる必要は無い。
後、問題となってくるのはどうやって現実に帰還するかだが――

「橘よ、もうすぐ放送が始まる。それを聞き終わったら、今後の行動方針を決めるぞ」
ゾル大佐が話しかけて来た。
このゾル大佐も、仮想現実上にしか存在しない仮想人格だ。
何故『1971年の時点から来た改造人間』等と言う、妙な設定にしたのかまでは分からないが。
「分かった……」
適当に相槌を打つ。

仮想人格と言えど、ここでは貴重な協力者だ。
下手に機嫌を損なうのは得策ではない。
ふと剣崎と志村は本物なのかが気になったが、ここでは余り意味の無い疑問だと思い至った。
ここは仮想現実、誰の生も死も全ては偽者(フェイク)なのだから。

追跡表

【橘朔也@仮面ライダー剣】
【1日目 現時刻:早朝、放送直前】
【現在地:G-3エリア 民家の2階】
【時間軸:Missing Ace世界(スパイダーUD封印直後)】
【状態:健康】
【装備:ギャレンバックル】
【道具:基本支給品一式、ラウズカード(スペードJ、ダイヤ1~6、9)、レトルトカレー、特殊支給品×?】
【思考・状況】
基本行動方針:仮想現実から本当の現実に帰還する。
1:本当の現実への帰還方法を考える。
2:ゾル大佐と行動を共にする。
3:余裕があれば剣崎、志村との合流。
備考
※今の自分は仮想現実の中に居ると確信しています。

【ゾル大佐@仮面ライダー(初代)】
【1日目 現時刻:早朝、放送直前】
【現在地:G-3エリア 民家の2階】
【時間軸:三十九話開始直後】
【状態:健康、文明による精神的ショック。】
【装備:なし】
【道具:基本支給品一式、特殊支給品×?】
【思考・状況】
基本行動方針:生き残ってショッカーを再興させる
1:放送を聞いた後、橘と今後の行動方針について相談する。
2:後ほど一文字と本郷を倒しに行く。
備考
※基本支給品の携帯電話の使用方法を知りました。
※参加者が別々の時間軸からつれて来られている事に気付きました。
※変身制限に気付きました。
※剣世界について大まかな知識を得ました。

042:暗雲 投下順 043:ウェイクアップ・コール
042:暗雲 時系列順 043:ウェイクアップ・コール
028:それぞれの場合/NEXT STAGE ゾル大佐 051:戦いの決断
028:それぞれの場合/NEXT STAGE 橘朔也 051:戦いの決断

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