希望と絶望と偽りの顔(前編)

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希望と絶望と偽りの顔(前編)


舗装された道路を道しるべにヒビキは走る。
合流予定の時間は既に迎えている。こりゃ遅刻だな、そう思いつつ目的地へと急ぐ。
生み出された風が道端の草をゆらゆらと揺らし、耳を澄ませば川のせせらぎも聞こえてくる。

(これで日が良ければ気持ちのいいランニングなんだろうけどな…)

空を見上げると雲がいくつか生まれており、日の光に僅かながらの陰りを混ぜる。
このまま崩れてくると降り出すかも知れない。もしも雨が降ると移動も今のように容易には行かなくなるだろう。
なんとなく不吉な物を感じて、ヒビキは速度をあげた。

          *   *   *

しばらく走り見慣れた場所へとたどり着く。間違えようの無い、一文字やハナとの合流場所だ。
見渡せば戦闘の跡がちらほらと見かけられる。しかしそんな物は恐らく他の場所でも見られるものだろう。
目立つ物がないこの場所は危険な参加者に合流地点と悟られる事は無さそうだ、それはいいのだが…

(一文字やハナちゃんはちゃんとこの場所にたどり着けるかな…?)

幸い支給品の携帯電話の機能により自分の場所は大まかには分かるので少なくとも同じエリアまで来る事は問題は無い。
だが一つ一つのエリアは広く、同じエリアですぐ合流。という訳にはいかなそうだ。

(本郷にあすかもこの近くまで来てるといいんだけどな…)

あの時、やるべき事があると言い城戸の支給品を強奪し戦闘に参加した(と思う)あすか。
彼女は狂気に取り付かれていたように思える。その正体がなんなのかはわからないが…。
その彼女を追っていった青年、本郷。もしも彼の説得が上手くいったのなら或いはこの場所に来ているかもしれない。
そんな淡い期待を抱いていたのだが、結局この場所へときたのはヒビキ一人だけであった。

(…大丈夫だ、本郷はバイクに乗って追っていった。少なくとも追いつくことはできたはず。まともに会話できなかったが…彼なら大丈夫のはずだ)

少し頼りなげだが、眼にはしっかりと輝くものがあった本郷。彼なら、大丈夫のはず。それは一文字にも言える。
そう、大丈夫のはずなのだ。だがそれでも不安は募っていく。
この場所でそもそも散り散りに分かれること自体間違いではなかったか?とも思えてくる。

(いかんなぁ、こんな考え方じゃ。こうして不安になるってことは、俺もどっかであいつらを信じていないって事なのかもな…)

頬をぱしぱしと叩き、気持ちを切り替える。これからどうすべきか、まずはそれだ。
といっても選択肢は多くない。今すぐこの場を動き、辺りを探索。或いはしばらくこの場にとどまり、それから探索する。これくらいだろう。
一応今すぐ病院へと一人で向かう、という選択肢もあるがそれでは城戸や風間と別れた意味がなくなってしまう。

(鳴かぬなら…鳴くまで待とうホトトギス、かな?いや、果報は寝て待て?これは違うか)

肩に掛けていたデイパックをおろし、近くの木に背を預ける。
穏やかな風がほんの少しだけ、冷たく感じる。見上げれば、空の雲は薄く広がり、日の光を更に弱めさせていた。

(一雨くるかなぁ…というか、ただ何もせずにぼーっとするのは…今すべき事じゃないな)

幸い休息は十分に取っており体力は有り余っている。そもそも鍛えられた肉体がそう簡単に根を上げる事も無いのだが。
しばらく考えた後に…ヒビキはとりあえず己を鍛える事にした。

          *   *   *

ジャリジャリと音を鳴らしながら、男が二人道路を歩く。
その歩みはどこかぎこちなく、二人が万全な状態では無いことを物語っている。

「志村…さん、大丈夫か?デイパックを持つくらいしか、俺にはできないが…」

引き締まった顔立ちから、強い意志が見て取れる青年…手塚は隣を歩く温和そうな青年を気遣う。

「大丈夫ですよ、手塚さん。これでも怪我には慣れてますし」

気遣われた青年、志村は穏やかな笑顔で手塚の申し入れを断る。
その笑顔は仮の姿。本性は人間と敵対する不死の生物アルビノジョーカー。彼は表立って行動する事は滅多にしない。
表立って行動するよりもこうして優しい隣人を装った方が便利なのだ、戦いというものは。そう志村は心得ている。
そうやって利用できる者は何だろうと利用し、最後に甘い汁を頂戴する。困難だがそれをやり遂げる自信があった。

「それと…志村でいいですよ、手塚さん。その方が僕も呼ばれなれてるもので」
「そう、か?それなら俺も手塚でいい」
「わかりました、手塚さん」
「志村ぁ…まぁ、いいが」

穏やかな笑顔の裏で、志村は冷静に隣を歩く手塚を観察する。

(しかしあぁも簡単に騙されるんだな…橘チーフも城戸に本郷も…こいつも。馬鹿ばっかりだ人間は。
 だが馬鹿だからといって慢心すると、またあの時の二の舞だ)

頭の中を駆け巡る緑のライダーとの戦闘。あの時自分は自らの策に慢心し、あろうことか高笑いをしていた。
これからは例え一人であろうともそのような失策は許されない。今こうして無事でいる事は単なる幸運にすぎないのだから。

(俺はもう油断しない。騙して利用して、優勝はイタダキだ。それと…)

隣の手塚にばれないように、ちらりとしまい込まれたKのカードを見つめる。

(Kのカードも、俺の物だ)

慢心しない、そう誓った矢先から志村は穏やかとはまったく対極の黒い笑みを浮かべていた。
それに気づかなかった手塚は注意力が散漫というわけでも、勿論馬鹿というわけでもない。
手塚は別の事柄に集中していたのだ。一点を見つめるその視線に志村も気づき、同じ場所を見つめる。

「「――――」」

お互い言葉を失う。それぞれの頭の中には罠やら?やら、或いは馬鹿等の単語が浮かんでは消えていく。

「スクワット、してますね」
「さっきは腕立てをしていた…」

随分と体格のいい男が、この場でトレーニングをしていた。それも結構なペースで。

「何が目的なんでしょうか」
「…鍛えてるんだろう」
「…そうでしょうね」

不意に歩き出した手塚の手を志村が掴む。

「待ってください、もしかして接触する気ですか?」
「あぁ。周りに誰か隠れている様子もない。それにあのマイペースさは…
 ある意味この場でも自分を保っている強い精神力の持ち主とも言える」

それは馬鹿と言いませんか?という言葉をぐっ、と飲み込み志村も同意する。

「そうですね、それに仮におびき寄せる罠だとしても目立たなすぎる…わかりました、いきましょう」

お互い頷くと、スクワットを続ける怪しい男に接触すべく二人は歩き出した。
手塚は頭の中で万が一この殺し合いに乗っていた場合に備えての行動を考え…
志村は手駒になりそうな馬鹿が増えると、喜んでいた。

          *   *   *

近づいて見ると男はようやく二人の存在に気づいたのかゆっくりと顔をあげた。
その顔はいい汗かきましたよ、という笑顔でなんとなく健康飲料水のCMが似合いそうな気がした。
男は手塚の顔を見てほんの少し驚き、そして隣に立つ志村を見て、笑顔を浮かべて話しかけてきた。

「なるほど。二人は乗ってない、わけだな」

よっ、と声を出し男は立ち上がる。
予想通りのマイペースっぷりに多少困惑しつつも手塚が口を開ける。

「確かに、俺達は戦いに乗ってはいない…だが何故そう言い切れる?」
「無防備な所を襲ってこなかったし、少なくとも話は通じると思ってね。丁度腕立てしてたくらいからかな、君達に気付いたのは」

手塚と志村は男の発言に言葉を失う。自分達が見つけた時には、或いはもっと前に既に二人にこの男は気付いていたのだ。
そしてそれでもトレーニングを続けていたのはつまり奇襲されても自分は大丈夫という自信があるわけで…
注意力や実力、それに自分の身を危険に晒せる心の強さ。ほんの少しまであった馬鹿かもしれないという考えは完全に吹き飛んでいた。
手塚よりも先に志村は気を持ち直し、笑顔で手を差し伸べる。

「すごい人ですね…僕の名前は志村です。よろしく…えぇと」
「ヒビキです。よろしく、志村」

シュッ、と右手で敬礼のような動きをした後に、ヒビキは差し出された手を握った。

「俺の名前は手塚だ。よろしく、ヒビキさん」
「おう、よろしくな手塚」

ヒビキは手塚とも握手する。その態度に志村は心の中でほくそ笑む。

(こいつは利用できそうだな…手塚よりは厄介そうだが…)

志村の内心を知ってか知らずか、ヒビキはマイペースにデイパックの中からタオルを取り出し顔に浮かんだ汗を拭いていた。

「そういえば二人に聞きたいんだけど途中で男女のカップル見なかったかな?」

ヒビキの質問に二人が顔を見合わせる。手塚は首を横にふり志村が答えた。

「いえ、僕たちはC-5の方から来たのですが…残念ながらヒビキさんの言うような二人組は見ませんでした」

そっか、と言いつつタオルをデイパックに仕舞い込む。その拍子にペットボトルが一本ころころと転がった。

「おっと…」
「あ、僕が拾いますよ」

ほんの1メートルほど転がったペットボトルを志村が追い、拾い上げる。

「ところで、その二人組とヒビキさんは…」

志村が振り返ると、丁度ヒビキが手塚と志村の間に立っていた。
その顔は温和なままだが、どこか違う。その身にまとう雰囲気が、違っていた。

「ヒビキ、さん?」

ヒビキの行動に手塚が困惑する。何故自分と志村の間に立つのだろうか?まるで自分を守るかのような…
一方の志村もまた困惑する。おかしい、何かがおかしい。このペットボトルはまさか…わざとデイパックから転がせたのか?

「しかし、手塚は似てるな、一文字と。一文字の事なんだ、さっき話した二人の内の一人はさ」
「…また一文字か」

ヒビキの言葉に手塚が苦い顔をする。それほどまでに似ているなら一度顔を合わせて見たい物だ。
一方の志村は一瞬顔を曇らせる。しかしすぐにその上に困惑という名の仮面を付ける。

(大丈夫だ。手塚に説明した事を再び話せばいいだけの事だ。戦っていたのは一文字と俺に良く似た男。
 そして俺は俺に似た男に襲われ、気絶した…これで問題ない。変身後の姿を説明されていたとしても、
 そう細かい所までは伝えきれないはず、一文字本人の目の前で変身しなければいいだけの事だ。)

大丈夫だ、俺は上手く切り抜けられる。そう言い聞かし口を開けようとして、迷う。

(待てよ…これは俺の口より手塚から話させた方がいいか?俺自身の口からの説明よりも第三者からの説明の方が信用は得易いかもな…
 だが手塚がそう都合よく説明してくれるとは思えないし、時間を置きすぎるのもヒビキに無駄な疑惑を持たせてしまうか)

意を決し再び口を開こうとする。しかしその前にヒビキが動いた。

「…どうしたんだ?志村」
「…っ!」

ヒビキが不思議そうな顔でこちらを見つめる。志村は時間切れという事を肌で感じた。

(失敗したな…ヒビキは恐らく心の中で何故これほどだんまりを続けるのか不思議…いや、疑わしく思っているはずだ。
 こうなってくると俺から話すのは本格的にまずいな…)

取り残された手塚はなんとなく不穏な空気と、ヒビキが自分とよく似た男…一文字と知り合いという事から事態を察知する。

「もしかして、志村を疑っているのか?ヒビキさん、それなら安心してくれ。一文字を襲ったのは志村に良く似た誰かなんだ。
 そして戦いから逃げ出した志村に似た男に志村は襲われ、気絶していた所を俺が介抱したんだ」

志村は笑顔になりかけた顔を悟られぬように引き締めるのに苦労した。それほどまでに手塚の発言は願いどおりの事だったのだから。

「…そうなのか?志村」
「…えぇ、僕がもっと早く決断し、一文字さんに加勢していれば誤解は生じなかったと思うのですが…一文字さんには、申し訳ないことを」

手塚のおかげで話は自分の都合の良いほうに進んでくれそうだ。まったく馬鹿様様だと志村は心の中で笑う。

「…志村、一つだけ聞きたいんだが、その志村に良く似た男は変身していたか?」
「…えぇ、していました、黄金色のライダーに。僕も知らないタイプのライダーでした…」

そうか、と答えヒビキは黙り込む。何を考えているのだろうか、目の前に手塚という一文字そっくりの男がいるのだ、この話を信用するに決まっているのに。
それに今の質問は恐らく、変身後の姿も伝えているのだろう。だがそれもヒビキの質問自身によって完全に効力を無くした。
もしも今の説明をする前にヒビキの前でグレイブになっていたら、恐らく今までの話は嘘と決め付けていただろう。ある意味では危機一髪だった。
志村が無言の間に押し潰されそうになる前に、ヒビキが手を差し伸べる。出合った時のように――

「わかった、すまなかったな志村、疑ったりして」
「いえ、あの時僕が冷静になれなかった事がそもそもの間違いだったんです。もう二度と、あんな間違いはしません」

笑顔で志村は握手に応じる。表面も内心も笑っていた。上手く乗り越えることができた、その安堵から。

          *   *   *

(都合、良すぎないかな)

笑顔の下でヒビキは悩んでいた。即ち志村を信用するか否かを。
志村の話には確かに破綻はない。そうですか、そっくりさんの仕業ですか、それなら仕方ないですね。
小学生の言い訳にも聞こえる答え。だが自分の目の前には現にこうして一文字の生き写しのような存在の手塚がいる。
信用せざるを得ないのだろうか、このあまりにも都合が良すぎる話を。

(しかし一文字が言っていた黄金のライダーというのは、一致しているし…)

それでも尚、志村への疑惑を拭いきれない自分。しかし先ほど自分は仲間を信用していくと、そう決めたはずでは?
違う、志村は仲間じゃない。少なくとも今はまだ…

(このまま放置して、一文字と志村が鉢合わせなんてすると…とんでもない事になるかもしれない…
 それに手塚の事も放置できない…今はとりあえず、話を信じたと装う事にしよう)

どういうわけか手塚は志村の事をかなり信用しているようだ。とすると今下手に刺激するのはまずいだろう。
ヒビキは志村という爆弾を抱える事を覚悟し、志村を受け入れる事にしたのだった。

          *   *   *

和解したヒビキ、志村、手塚の三人は木の下で休んでいる。
何故わざわざそう大きくもない木の下で休んでいるかと言えば…

「あーあ、ついに降りだしちゃったか…」

ヒビキの危惧した通り、空はこらえ切れずにポタポタと小雨が降り始めたのだった。
だが日の光は雲の隙間から覗いているし、これから晴れていくかもしれない。悪化する可能性も十分あるが。

「風も吹いているしなぁ…多分通り雨だとは思うんだけどな」
「だといいですね…このまま悪化すると厄介ですね」
「なにより、一文字という男と合流するのが難しくなりそうだ」

手塚の言葉にヒビキはポンと手を打った。

「そう、それなのよ。一時的だとは思うんだけど、この雨のせいで二人の足が鈍る事もあるかもしれない。
 それに周りの状況を確認しづらいし、もしかしたら合流地点を勘違いするかもしれないわけでさ」

ヒビキとしてはなんとかして一文字、ハナと合流したい。それがこの場所にきたそもそもの目的ではあるわけだし…

(一文字と合流して話していけば…志村の誤解も取れるかもしれない、或いは嘘がわかるかもしれない)

事の真偽をハッキリとさせる為にも、一文字とは合流したい所だった。

「迷い所なんだよねぇ…このままひたすら二人を待つか…或いは雨が降る中で二人を探すか…」
「僕としては、二人を探した方がいいと思います。確かに雨の中で動くのは危険ではありますが…何もしないよりかは」

志村としてはむしろ一文字達と合流するわけにはいかない。この状況なら下手に動く方が合流できる可能性は下がるだろう。
だからこそ動きたいのだ。だが志村の提案にもヒビキは「そうなんだけどなぁ」と適当に相槌を打つだけだ。

(駄目だ、俺の提案は恐らくヒビキは受け入れない…くそっ、やっぱりまだどこかで疑っているのか?)

多少なりとも信じてくれていると思っていたヒビキが自分の言葉を受け入れない事に志村は苛立つ。
もっとも、当のヒビキは志村の事を少しも信頼せず、表には出さないで警戒していたが…

「俺にいい案がある」

黙り込んでいた手塚が口を開き、デイパックから紙とペン、それにライターを取り出す。

「何する気だ?」

ヒビキの質問を無言で返し、手塚はペンの上に何か絵のようなものを描いていく。
描きあがった絵は…何かの記号なのだろうか。見たこともない形だった。

「占いだ。ここを動くべきか、動かないべきか…それを占う。安心しろ、俺の占いは当たる」

妙に自信満々の手塚にヒビキは眼を細めた。ここで占いが出たかぁ、という複雑そうな表情は心の中にしまって。

「雨に濡れるとまずいな…ちょっと囲んでくれ」

手塚の言葉にヒビキと志村は渋々従い、濡れないように紙を守る。その様子に満足したのか、手塚は紙に火を点けた。
雨降る木の下で、大の男3人が燃えていく紙をしゃがんでじっと見つめている。怪しいな、何してるのかな。
火は意思を持っているかのように動き、紙の中央に描かれた絵を真っ先に燃やしていく。何か燃やしてるのかな?
紙が全て燃え尽きると手塚は眉間を手で押さえ込んだ。あれ?見たことある顔かも。

「どうした手塚。占いの結果は?」

ヒビキがただならぬ様子の手塚を心配する。

「…占いの結果は、すぐに、いますぐにこの場を離れるべき。そう出ている」
「随分と強調しますね…手塚さん」
「へぇ、そんなことができるんだ面白いね、リントは」

有り得ぬ4つめの声。ヒビキと志村は飛び上がるように後ろに顔を向け、手塚はどこか観念したような様子で顔を上げた。

「やはり、遅すぎたんだな…俺の占いはやはり当たってしまうのか…」

雨に濡れる事を気にもせず、真っ白な服を着た青年は値踏みするようにそれぞれの顔を見ていく。

「ねぇ…一文字、風見、城戸、志村…誰か知ってる人いない?」
「志村は…僕です。あなたは一体…」

志村が一歩踏み出し、青年の前に立つ。何故だろうか、身体が震える。

「お前の声…どっかで…」

ヒビキは青年の声をどこかで聞いた気がして、考え込む。極最近に聞いた事があるような、そんな気がして。

「…できれば、関わらない方がいい」

手塚は自分の占いを信じ、青年とは関わらないようにヒビキと志村に勧める。どこかその声は震えている。

「…へぇ、君が『仮面ライダー』…君は、僕を笑顔にしてくれるかな?」

青年が、姿を変える。混ざるどころか、全てを飲み込むような白さで全身が包まれた異形の存在。
ン・ダグバ・ゼバ。究極の闇を齎す存在は、仮面ライダーと出会えた喜びに身を震わす。

「あの時の白い奴か!」

ヒビキがその姿を見てようやく声の持ち主を思い出した。何も出来なかった歯がゆい記憶が頭を過ぎる。

「…っ!ダグバァッ!」

手塚はまるで仇を見つけたかのように吼え、ライアのカードデッキをかざす。

「…最悪だ…っ」

志村は小声で思わず愚痴る。目の前の存在。彼こそ自分の策の中心である白い怪物。彼には思う存分暴れてもらいたい。
だから今ここでこうして対峙するのはまずい。かといって見逃す事も見逃される事もなさそうだ。

(なんで俺を指定するんだよっ…!)

拳をわなわなと震わせ、考える。城戸という名前を挙げた点で、何人か思い当たった。

(本郷かっ!もしくは橘か剣崎か!くそっ!チクショウ、どこまで俺の邪魔を!)

ともかくこの場をなんとか凌ぎ切る。
やれるはず、自分も無事で尚且つこの白い怪物ダグバも無事に終るような…そんな結末までなんとか導く。
慢心からなのか…或いは焦りからなのか。志村は自分の策に意固地になり、ダグバと戦う事を決意する。
変身したらヒビキに怪しまれる?構わない。未来の可能性よりも今が大事だ!今は変身すべきだ!
倒すのではなく、逃がすための戦いを。難しいが自分ならやれる。その自信を頼りに――

「やってみせる!」

決意を言葉に出し、意識をハッキリとさせ、グレイブバックルを取り出す。

「「変身っ!!」」

降り注ぐ小雨から現れた虚像が手塚の身体に重なり、その姿を赤紫の鎧に包まれた戦士へと変える。
グレイブバックルにカードをラウズさせ、電子音声が鳴り響くと同時に黄金色に輝く光の板が志村の眼前に現れ、その身体を通過していく。
その身体は王者の気品さえ漂う金色。黄金の騎士と赤紫の戦士が並び立つ。
変身を見届けると、ダグバはゆっくりと歩き出す。それに立ち向かうように黄金の騎士、グレイブがグレイブラウザーを振り上げ、走り出す。
赤紫の戦士、ライアはカードを一枚取り出し、エビルバイザーへと差し込む。
虚空から何かの尻尾を模したような鞭が現れ、それを手にグレイブの後に続く。

          *   *   *

(こりゃ本格的に都合がよくなってきたな…)

ヒビキの前で駆けて行く赤紫の戦士と…黄金の騎士。
顔も似ていておまけに変身した姿も黄金同士か、すごい偶然なんだな、志村。とヒビキは愚痴る。

「ま、それは後回しだな…」

二人にワンテンポ遅れたヒビキは懐から音角を取り出し、近くの木を軽く叩く。
キィンと心地よい音が広がるのを見届けると自らの額へとかざす。身体に鬼の力が漲っていく。

「ハァーー……ッ」
ヒビキの身体を炎が螺旋を描いて包み込む。衣服が無くなりその身体が異形な姿へと変わっていく。
「ハッ!!!」

炎を払い。変化した事を確認する。ごつごつとした体。見る者によって赤くも紫にも黒にも…様々な色に見える不思議な色をした姿。
清めの音を叩き鳴らす鬼、仮面ライダー響鬼。

「…なんであの時変身できなかったんだ?」

首を傾げつつ「ま、いっか」と呟き、腰に装着された音撃棒・烈火を両手に持ち、くるりと回す。

「いくぜ白童子!」

グレイブとライアを追い越さんとする勢いで鬼が走り出した。

          *   *   *

「エヤァッ!」
「タァッ!」

グレイブの黄金の剣が正面から、少し横からライアの鞭がダグバに向かってくる。

「…」

ダグバは左手でまるで摘むかのように斬撃を受け止め、右手で虫と同じように鞭を払いのける。

「クッ…」

ギリギリとグレイブが力を込める。その力に押されて少しずつ剣先がダグバの眼前へと迫っていく。

(片手でこれか…!だが、やれないことはない!)

グレイブは内心ホッとしている。もしも自分の予想に反してダグバが弱かった場合『白い怪物』として暴れられるかどうか不安だったのだ。
だがこの力なら大丈夫のはず。あとはいかにして逃がすかだが…

ドスッと鈍い音がして、よろよろとグレイブがダグバから離れる。暇になったダグバの右腕がグレイブの腹に拳を打ち込んだのだ。
強いが、耐えられないわけではない。なんとか上手く誘導を…グレイブは再び剣を掲げる。

「ハァッ!」

響鬼がダグバとグレイブの間に割り込み、音撃棒の連打をダグバの胸へと叩き込む。
ダグバがその威力に押され、後ろに下がる。響鬼は仮面の下で眉をひそめた。

(おかしい、手ごたえがないぞ)

響鬼は追撃はせずに構えたまま、ダグバと距離を開ける。

「何してるんです!一気に畳み掛けないと!」

グレイブがダグバへと突っ込んでいく。その時、響鬼はダグバの眼が光ったような気がして、走るグレイブを咄嗟に弾き飛ばした。
弾き飛ばしたのとほぼ同時に、紅蓮の炎が響鬼の胸を焼き、吹き飛ばした。

「「ヒビキさん!」」

グレイブとライアが叫ぶ。響鬼は音撃棒を軽く振り、無事をアピールした。
無事を確認するとグレイブは再びダグバへと突っ込んでいく。

「借りるぞ!」

ライアがそう叫び、カードを先ほどと同じようにエビルバイザーへと差し込む。

――COPY VENT――

グレイブラウザーが電子音声と共にぶれだし、浮かび上がった虚像がライアの手に移ると実体となり、もう一つのグレイブラウザーが現れた。
ライアは新しく生まれ出でたグレイブラウザーを振り上げ、グレイブと同時にダグバへと切り込む。

ガキィと鈍い音がした。
ダグバが左手でグレイブの剣を、右手でライアの剣を受け止めたのだ。

「このまま押し込むぞ、志村!」
「…っ、えぇ!」

グレイブとしてはこの状況はまずい。ライアは手加減などする訳もなく、間違いなくダグバを仕留めてくるだろう。
なんとかしてダグバと自分が一対一の状況にしなければ…

(…悪く思うなよ、手塚)

          *   *   *

両手で二つの剣を受け止めつつダグバは内心ガッカリとしていた。

(つまんないな…これじゃ僕を笑顔になんて到底無理だね)

そろそろ終らせようかな、そう思い始めた時に感じた違和感。

(どういうつもり?)

グレイブの剣が自分から見て右側…要するにライアの方へと動かそうとしているのだ。
それは見た目にはわからない、実際に受け止めていないとわからない僅かな変化。気付いているのはダグバだけ。
まるで受け流してくださいと言っている様なものだ。どこか、嘗められているような気がした。

          *   *   *

(なんか、やばくねぇか?)

ようやく立ち上がった響鬼はそう感じた。何か、雰囲気が変わったような感覚を。

(いい加減気付け!こうしてるのも楽じゃないんだ!)

グレイブはいつまでも自分の意図に気付かないダグバに内心苛立っていた。
だがようやくその意図を感じ取ったのかダグバはグレイブの剣を力に従うように、ライアの方へと払った。

「ぬぅっ!」
「手塚ぁっ!」

ライアの身体をグレイブの意図的な誤爆の剣が切り裂き、予想外の出来事に響鬼が叫ぶ。
その勢いに不意をつかれたのも相まって、ライアは吹き飛ばされながら変身が解除されていった。
手塚が右腕を抑えて呻く。上腕から溢れるように赤い血液が流れ始めていた。
グレイブは自分の策が上手くいった事と同時に不安を感じた。異様に力が強かったのだ、ダグバの力が。

「…馬鹿にしてるね、君」

吹き飛ばされた手塚を呆けたように見つめるグレイブに冷たく、重い声が突き刺さる。

――違う――

そう感じた。あまりにも違いすぎるプレッシャー。自分はこんな怪物と対峙していたのかという事実を肌で感じ取る。

「うぅわぁっ!」

半ば狂乱気味にグレイブラウザーを振り下ろす。狙いが定まってはいないが、力だけは込められた斬撃を。
簡単に受け止められた。先ほどと同じ展開。だが明らかに違う。
ミシリ、と音がなる。ダグバの左腕で受け止められたグレイブラウザーにヒビが入り悲鳴を上げ始めているのだ。

「…ばけもの…」
「そうだね、ばけものだね。そんなばけもの相手に…リントが手を抜くっていうのは駄目だと思うよ」

静かに、添えるようにダグバの右腕がグレイブへの腹部へと触れる。
グレイブが悲鳴を上げる間もなく、先ほど響鬼に向けた物とは明らかにケタの違う炎が、零距離でグレイブを襲った。

声とも分からぬ声をあげ、グレイブ…いや志村が宙を舞い、落ちた。グレイブバックルも今の衝撃でどこかに弾き飛ばされたようだ。
一部始終を見ていた響鬼は、自分が震えていることに気付く。

「とんでもないのを相手にしてるわけだ…ハハ…」

自分の見立てでは3人で掛かってようやく拮抗か少し有利、そう考えていた。
違っていた。甘すぎた。
死ぬ気で、気力を尽くし、今ここで燃え尽きる。言うなれば死ぬ直前の火事場の馬鹿力の3人で、ようやく五分か…

「ふぅー…」

息を一つ吐き、響鬼は覚悟を決めた。鬼になったからにはいつかはこういう日がくるという事は理解していたからだろうか…
覚悟を決めたと思うと不思議と震えは止まり、体中に熱い力が漲ってきた。それでいて心は水のように穏やかな。
未だ降り続ける小雨では決してこの熱い力を冷ます事はできず、また、心の水に波紋を起こすことも決して無い。

「よっしゃぁ!」

再び響鬼は走り出す。その勢いが衰える事は決して無いだろう。

ゆっくりとダグバは瀕死の志村へと近づいていく。志村はまだうめき声を上げ、震えている。
近づいて、気付いた。志村の口から流れる緑色の液体。それは小雨に流され、志村自身に拭われ、誰も気付く事はなかったはずのもの。
今こうして、冷静に観察できるダグバだからこそ気付けた。緑色の液体。

(だから…?)

この男がリントじゃないから、自分を嘗めていいという理由にはならない。
自分よりも遥かに劣る存在である癖に、まるで自分の方が上位と思い込んでいたこの男は…

「駄目なんだよ…そういう事は」

ゆっくりと右手をかざす。志村はその動きに恐怖したのか、ダグバから離れようと必死にもがいている。
こんな情けない奴に怒りを覚えたのか?とダグバはふと思ってしまった。
切っ掛けがあれば途端に感情は冷めていく。だが冷めた所で、やる事に変わりはない。

「じゃあね…」

そう呟いて右手に力を――

力を放つ直前に何かに縛られる。というよりも、右半身に何か張り付いている。
何か模様の描かれた丸い物。なんだこれは?と疑問に思うダグバの視界に入るのは振りかぶる、鬼。


「音撃打・猛火怒涛の型!!」


――ドドン!――

「はぁ~っ!」

――ドン!ドン!ドン!――

音撃棒を不規則に叩き込み、連続して清めの音を叩き込んでいく。
清めの音が奏でられるたびに、ダグバの身体が震える。清めの音は多少なりにもダグバに対して効果的であるらしい。
だが響鬼には関係無い。ただ無心に、清めの音を叩き込む、それだけ。

「はぁ~っ、だぁっ!」

――ドドン!――

両手の音撃棒、阿吽を同時に叩き込み、トドメの一撃が鳴り響く。
その衝撃でダグバは火炎鼓の拘束を振り切り吹き飛ばされていく――

          *   *   *

戦線を離脱していた手塚は傷の痛みに呻きつつ、自らのデイパックの元へと歩く。
そして中からマシンガンブレード取り出し、構えていた。いつでも響鬼の援護をできるように。
だがその必要も無い事を見届けると構えていたマシンガンブレードを地に下ろした。
ずるずると木に背中を預け座り込む。仇を自分の手で取れなかったことが少しだけ悔しいが、それでも構わない。
再び顔をあげる。恐らく響鬼が志村を介抱しているか、或いはこちらに向けて喜びの意を表しているかもしれない、そう思い顔をあげる。

響鬼はただじっ、とダグバが吹き飛ばされた方を見ていた。その姿に油断はない。
何故だろう。ダグバは倒したはずなのに。何故?

響鬼が見つめる先に、ダグバがゆっくりと立ち上がっていた。

「すごいね…右肩にひび…君、面白いよ」

手塚は目の前の光景を信じられず、マシンガンブレードを構える事すらできない。
何かを拾い上げたダグバと、無言の響鬼をただ眺めていた。

「君なら、僕を笑顔にしてくれるのかな?」
「…さぁな」

響鬼の視線はダグバにではない、ダグバが握る物に注がれていた。

「…あぁ、これ?ちょっと試してみようかなって…リントの力を、ね」

ダグバは青年の姿に戻ると手にしたそれを腰に当て、カードを差し込んだ。

金色の光の板がダグバの身体を通り抜ける。少し前にも見た光景。
違うのはその光に、金色の鎧に包まれていく中身だけ。
響鬼も、地に伏せたままの志村も、少し離れ眺める事しかできない手塚もその光景を眼にしていた。

「…ふぅーん、なんか妙な感じだね」

自分の身体を眺めながらダグバ…いや、グレイブは呟く。

「これは…別の力?そっか、借りて戦ってるんだ……あぁ、そういえば青い仮面ライダーと似てるかも」

グレイブがどこに仕舞っていたのか、何枚かカードを取り出し一枚を残して腰横のケースに仕舞いこんだ。
瀕死の志村の眼が見開かれる。

(ラウズカード…っ!あいつがなんで持ってるんだ!)

「えーっと…これを…あれー、どこに入れるんだろう」

グレイブがグレイブラウザーをいじり、カードをラウズしようとしている。当然、響鬼がその隙を逃すわけがない。

「はぁーっ!」
「あっ、ここか」

響鬼が音撃棒を振り上げ、叩き付ける。その動作の間にカードはラウズされ、電子音声が響く。

――TACKLE――

光の固まりが自分を襲ったと、吹き飛ばされた響鬼は感じていた、だがグレイブの体勢と電子音声から体当たりだったのだと気付く。

(それにしたって…初期動作も何も無い所からいきなり…あれかぁ)

ふらふらと立ち上がりタックルを受けた箇所に触れると激痛に呻き声をあげる。
不意打ちという事もあったが、ダグバの手加減されていたとはいえ炎を直撃した箇所だ。痛まない方がおかしい。
…と、傷に触れて気付く。右手に何も握られていないのだ。握られているはずの音撃棒が。
どこだどこだと首を振り音撃棒を探す。しかし見当たらない。

その間にもグレイブは別のカードをラウズする。何が起こるかという期待感を募らせつつ…

――ABSORB――

ピピピとグレイブラウザーに表示された数字が増えたが、特に何も起きる様子はない。

「…ハズレかな」

音撃棒を探しまわる響鬼に向かおうとして…志村がうめき声をあげたのでグレイブはとりあえず先にそちらに近づく事にした。
グイと左手一本で志村の首を掴み持ち上げる。志村は抵抗のつもりかもがいているが、ただ芋虫のように蠢くだけだ。

「ねぇどんな気分?自分の武器でこうしてやられて、どんな気分?」

もしかしたらグレイブはこの時笑顔だったのかもしれない、だがその表情はすぐに曇る。

志村の口が動くのだ。声にはなっていないが、何を言いたいのかわかってしまった。

――ほんきを だせば――

ぶんと志村の身体を放り投げる。その時に志村の身体の一部が当たったのだろうか…
ホルダーに仕舞いこんでいたカードが志村と共に辺りに散らばった。
吹き飛ばされた志村はいやにギラギラした瞳をカッと見開き、大げさに四肢を広げ宙を舞い、地面にめり込んだ。
その全てが演技に見えて…グレイブはカードを回収を後回しにして大股で志村に近づき、グレイブラウザーを振り下ろす。

――ガキィン――

金属と金属がぶつかり合う音が辺りに響く。グレイブの剣は紫色の戦士の剣により、受け止められていた。その姿は――

「…誰?」

グレイブの剣は、予期せぬ剣士に受け止められていた――



070:裏切りはすぐ傍に 投下順 071:希望と絶望と偽りの顔(後編)
069:ステッピング・ストーン 時系列順 071:希望と絶望と偽りの顔(後編)
060:僅かばかりの不信 日高仁志 071:希望と絶望と偽りの顔(後編)
056:枯れぬ策謀 手塚海之 071:希望と絶望と偽りの顔(後編)
056:枯れぬ策謀 志村純一 071:希望と絶望と偽りの顔(後編)
055:The flames of destiny/炎の果てに(後編) ン・ダグバ・ゼバ 071:希望と絶望と偽りの顔(後編)
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