Weak and powerless

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Weak and powerless



パステルカラーで塗られたショッピングセンターの壁。
所々が抉れ、または焼け焦げて、今しがた刻まれたばかりの戦いのしるしも生々しい。
出入り口付近に嵌められた大きな窓ガラスは軒並み割れており、尖った先端を鋭く光らせて、荒廃した雰囲気を漂わせている。
その中の三人の人影。中年の男が一人。若い男が二人。皆一様に憔悴を顔に浮かべていた。

「……桜井君」

始めに口を開いたのは中年の男―――香川だった。
おびただしい量の緑色の血液が、大理石風の床に不気味な模様を描いている。
侑斗は膝をつき、つい先ほどまでここに無残な姿を晒していたかつての仲間が封じ込められたカードを握り締めたまま、気遣う言葉にも答えようとしない。
深い後悔と無力感に、俯いた顔は色をなくし、手はかすかに震えていた。
香川が侑斗の肩を軽く叩く。侑斗はきつく唇を噛み締めてから、ゆっくりと顔を上げる。

「はい……もう、大丈夫です」

言って立ち上がると、ぐいと香川を見返す。その様子を見て、香川も頷きを返した。

もう二度と、仲間を失いたくない。
自分達を庇い、自分達に想いを託して死んでいった―――一条、金居。
その二人のためにも、仲間を守り、この殺し合いを止めると誓う。
侑斗の胸に灯る決意の炎は、より一層激しさを増した。

手の内のカードをもう一度見つめる。
金居の作意に気付く事が無かったのは、彼にとっては幸運であった。


※※※


その様子を少し後ろで見ている青年―――木場は、金居の死に戸惑い、二人と同じく悲しみを覚える。
しかし、それと同時に彼の心には暖かな感情が広がっていた。
硝子片やコンクリート片が散らばる床に広がる、明らかにヒトのものではない血溜まり。
金色の甲冑のようなその姿をしていた男の死を悼む二人。
死んだ金居という男は、彼らに受け入れられ、信頼されていたのだ。
おぞましい、殺し合いという舞台に放り込まれてなお、自分と同じように、困難に抗う人たちがいた。
自分の考えは間違っていなかった。
その事は、こちらへ来てから人間の悪意にばかり晒されていた木場の心に慰めをもたらした。

「……木場君、と言いましたね? 改めて聞かせてもらえませんか、貴方の事を」
「はい」

桜井と呼ばれた青年が落ち着くのを待って、香川と名乗った男がこちらへ歩み寄る。
木場は頷く。何から話すべきか少し迷ったが、自分がオルフェノクと呼ばれる存在であり、先ほどの姿がそうだと説明した。

「オルフェノクは……元々人間で、一度死ぬ事で覚醒したり、他のオルフェノクに蘇らされたりしてなるんです」

香川も侑斗も、木場の話を真剣に聞いている。
木場もそうだが、彼らが自分たちと同じ世界に属さない事を薄々理解していたのだろう。
そして、スマートブレイン。その単語を木場が口にした途端、二人に緊張が走るのが見て取れた。
木場はちらと、ファイズギアに印されたロゴを見る。

「スマートブレインは、オルフェノクになったものを束ねている組織です。この殺し合いを仕組んだ理由は分からないけれど……」

木場はスマートブレインについて、知りうる事を全て話した。
反抗する自分達のようなオルフェノクを執拗に狙う事、そのために存在する三本のベルトの事。
そして、彼らの前に姿を現した、スマートブレイン社の社長―――村上峡児の正体。

「なるほど……彼もオルフェノク、という事ですか」
「ええ」
「ならば、ここで戦っていた竜のような姿をした怪人、あれもオルフェノクなんですね?」

その姿から木場との相似性を見出した香川が問う。
北崎―――ドラゴンオルフェノク。
スマートブレインの有するオルフェノクの中でも最高の強さを持つ、ラッキークローバーの一葉。
木場は彼と戦った事がある。ここに来る前と、来てから一度。
圧倒的な力。子供じみた振る舞いに滲む凶暴性。
厳しい表情をする香川と侑斗。

「でも、全てのオルフェノクが敵な訳じゃありません。オルフェノクでも、人間の心を持った者がいます。……あの」

そこまで言って、木場は二人に先刻からずっと聞きたかった質問をする。

「ここに誰か他に居ませんでしたか?俺と同じオルフェノクで、ずっと一緒にスマートブレインと戦ってきた仲間なんです」

香川は首を振る。自分達がやって来た時、北崎と戦っていたのはオルフェノクではなく別の人物だったと言う。
そして―――その人物こそ、香川の探している東條悟であった。
木場は名前こそ知らないものの、香川の語る人物評や変身後の姿を聞いて、海岸で戦ったあの青年だと思い当たる。
その時の様子を伝えると、香川の表情はより一層険しいものになった。

「彼との決着は私が着けなければなりません。それが私の、指導者としての責任です」

重苦しく決意を口にする香川の様子に、木場はまた不安が心を満たして行くのを感じていた。
東條のような危険人物が、自分が気絶した後に乱入してきたのなら、海堂は無事なのだろうか?
青ざめた木場の顔を見て、今度は侑斗が香川に言う。

「香川さん、探しましょう。仲間になってくれると言うんなら、そうするべきです」

侑斗と香川は顔を見合わせて頷いた。
仲間が増えるというのなら、文句は無い。そういった様子だった。

「では、木場君。私たちと共に、殺し合いの阻止をしてくれますね?」
「……はい!」

香川の目を見つめ、不安を打ち消すように力強く応える。心に巣くっていた闇が、僅かに薄らいだような気がした。


※※※


「香川さん、こっちです」

木場が最後に海堂を見たという店内に二人をいざなう。
めいめいがデイパックを抱えて歩きながら、香川は静かに思考を巡らせていた。
木場から得た情報に関してだ。

スマートブレイン社。木場が語るその姿は巨大複合企業に他ならない。
だが、衛星を利用した監視や、島一つバトルロワイアルの舞台にするなど、遥かにその範疇を超えた力を持っている。
香川はデイパックの中から首輪を取り出す。
銀を基調としたそれ。一部こびりついた煤に隠れているものの、スマートブレインの刻印がはっきりと見て取れた。
フレームには一体どういった金属が用いられているのか、大した重さは感じられない。
内部には相当のテクノロジーが詰まっているはずなのだが。
生きた人間を即座に灰化させる事など、その最たるものだ。香川の知るどんな方法を用いても、人体を一瞬で灰に変える事など不可能。
人智を超えた技術を有するスマートブレイン社―――それを束ねている村上なる男の正体―――オルフェノク。
一度死んだ状態から覚醒し蘇る、人類の進化系と呼ばれる存在。
香川は首輪にも、その力が使われているのではないかと推測する。依然、原理はわからないが。
だとしたら、放送で告げられた『死者の蘇生』についても、考えが変わってくる。
スマートブレイン社は死体の一部の欠損も無く、首輪を付けたままならば、死者をオルフェノクの力を使って蘇らせる事ができる。
おそらく、オルフェノクとして。
侑斗と並んで歩く木場を見やりながら思う。

(いずれ一度、オルフェノクについて、彼に詳しく聞かせてもらわなければならないでしょうね……)

そして木場と戦い、このショッピングセンターに姿を現したかつての教え子、東條。
香川の見た東條は、自分をその手に掛けようとした時と変わらず、暗黒を瞳に宿らせていた。
いびつな形に歪められた英雄願望。
東條の持つそれに薄々気付いていながら、止められなかった、正す事が出来なかった。
彼を導く立場にあった自分が今ここでなすべき事だと、香川は心に刻み付ける。

(東條君……あなたは私が止めます、今度こそ、必ず……)


※※※


海堂が目を覚ましたのは、三人がその場を離れた直後だった。
ガイのファイナルベントで少し離れたショッピングセンターの入り口付近まで跳ね飛ばされたため、三人から目視される事はなかったのだ。
バイクにもたれたまま、空を見上げた。若干雲が増えて来たように思えるものの、変わらず降り注ぐ輝く太陽の光に目を細める。
したたかに打ち付けた体がギシギシと痛むが、骨折などはないようだった。
眩しさと疲労感に瞼を閉じると、先ほどの戦いが脳裏に蘇る。
湧き上がる、仮面ライダーへの恐怖、それを凌駕する怒り。憎しみ。
狂ったような笑い声を上げながら突進してくる、犀を模した銀色のライダーと怪物。緑の血、断末魔。
竜のような姿をしたオルフェノクが変身した、黒と金の仮面ライダー。
―――そういえば、変身の仕方がファイズに似ていたような気がする。

「ってそうだ、木場だよッ木場!!」

がばりと跳ね起き、立ち上がる。
気絶した後のことは定かでないが、たしか金のライダーはどこかへ運ばれて行き、銀のライダーは仲間を殺し―――
その後、新たな獲物を探して店内に戻った者が、気絶したままの木場を発見したとしたら?
海堂の背中に冷たい汗が噴き出す。

「オイオイ、まさかやられっちまったんじゃねェだろうなぁ……」

もしそうなら、夢見が悪いとかそんなレベルじゃねーぞ!
慌てて踵を返し、ショッピングセンターへ向かう。
ふと、耳鳴りがしたような気がした。吹き飛ばされた際に頭でも打ったかと思ったが、構っていられない。

「生きてろよ……木場ぁ!」

バイクのミラーの中からこちらを伺う影に気付かず、海堂は駆け出した。


※※※


広大なショッピングセンターの中を、三人は歩く。
観葉植物の鉢植えは薙ぎ倒され、陳列されていた商品が床に撒かれている。
来店する客の購買意欲を誘うための明るさも、清潔感も、いまや見る影も無い。
普段何気なく過ごしている日常の風景に残された、戦いという名の非日常が見るものを陰鬱な気持ちにさせる。
隣を歩く侑斗とふと目が合い、木場は気分を紛らわすためにも何か話がしたいと思った。
ぎこちなくだが、柔らかい笑みを浮かべて礼を述べる。

「助けてくれて、ありがとうございます」
「別にいいさ」

ぶっきらぼうな侑斗の態度に、友人である乾巧が重なった。年のころも、同じぐらいだろうか?

「海堂は素直じゃないけど、ずっと俺達の俺たちの味方でいてくれたんです。きっと力になってくれる。オルフェノクでも―――」
「それこそ関係ない。……変な奴らと付き合うのは慣れてるし」
「変な奴ら?」

侑斗は一瞬決まりの悪そうな顔をしたが、ぽつぽつと話をしてくれた。
元いた世界では、イマジンという存在と戦っていて、その中には自分達に味方をしてくれる奴がいた、と。
そいつがまたお節介のお人好しで、自分を子供扱いばかりしていらない世話を焼いてくると来た。
話しているうちにその時の気持ちを思い出したのか、心底腹立たしげな様子の侑斗を見て木場はほほえましく思う。

「その人も、ここに連れて来られているんですか?」
「ああ」
「早く会えるといいですね」
「別に心配してない。簡単にやられるような奴じゃないしな」
「そうですね、きっと無事ですよ」

またどっかで誰かに飴でも配ってるかもな。
そう言って肩を竦める侑斗と、まだ見ぬデネブという名の相棒に、木場は好感を持つ。
彼の話を聞いていると、自分の理想とする人間とオルフェノクの共存も決して夢などではない。そう思えた。
未だ眠り続ける悪意の種子を、自らの胸に抱えたまま。

「ところで、桜井君……でしたよね? 君は何歳ですか?」
「……19だけど」
「ああ、やっぱり。俺、同じ位の年頃の友人がいるんです。何だか似てるなーと思って」
「……木場、さんは、何歳なんですか?」
「21ですけど、あんまり気にしないでください」

年齢を意識した途端、敬語になった侑斗におかしみを覚え、笑いかける。今度はだいぶ自然な笑顔が出来た。
その時、木場の耳が一つの音を捉える。立ち止まり、辺りを見回すと、香川と侑斗も足を止めた。

「木場……おーい、木場ぁーーー!!」
「海堂!」

ショッピングセンターの入り口付近から聞こえてきた声。見れば、まっすぐ駆け寄ってくるのは探していた海堂その人である。
香川と侑斗にアイコンタクトを取り、木場自身も海堂に向かって走り出す。

そして再会を果たした二人の元に訪れたのは―――
耳をつんざく爆音と、降り注ぐコンクリート片、ガラス。その熱量に弾き飛ばされる。
―――乱入者による、破壊であった。


※※※


十面鬼ゴルゴスは牙王と別れた後、血を求めて市街地を彷徨っていた。
牙王がどうやら北上した様なのと、力を持たず協力者を求める弱者ならば、
市街地に潜んでいるだろうと考えての行動だったが、未だ一人の獲物も見つけられていない。
いい加減苛立ちも限界に達していたが、しばらくすると重かった体が軽くなったような気がして、ゴルゴスは制限が解けたことに気が付く。
これなら、次に遭遇した相手を叩き潰し、その血を啜る事が出来るだろう。

ゴルゴスがショッピングセンターで起こっていた戦闘に気が付いたのは、銃声のためだった。
すぐさま向かおうとしたが、これだけ派手な戦闘をしているならば、そこに居るのは忌々しい仮面ライダーに違いない。
そう思い直し、ゴルゴスは様子見を決め込む。
死神博士は自分たちに制限が掛かっている、と言った。
たとえ相手が誰であろうと、倒す自信はある。だが、今は血を得る事が先決だ。
狙うのは弱者。制限がかかって弱体化した所を襲えば、仮面ライダーであろうと恐れるに足りぬ。

「血さえ得ることが出来れば、俺は誰にも負けん! 待っておれ、牙王、死神、影山……アマゾン!!」

ショッピングセンターから聞こえる戦闘音が収まるのを待って、ゴルゴスは目的地へ向かう。
そうして見つけたのが―――四人の哀れな贄であった。
ゴルゴスはおもむろに体を宙に浮かせると、その体に以前のように力が漲るのを感じた。
久々の狩りに胸が躍る。
積もり積もった鬱憤を加虐の愉悦に変え、ゴルゴスの大岩が火を噴いた。


※※※


それは間違いなく、彼らが今まで目にした中で、最も『異形』であった。

見上げるほどの大岩は血塗られたように赤く、いくつもの人面が埋め込まれており、岩自体も憤怒の表情を形取っている。
その上に生えた人の上半身―――同じく赤く染まった肌。
大きく歪んだ口元からは長く伸びた牙が覗き、まさに悪鬼そのものと言えるような顔を持つ。
そして信じがたいことに、その巨体を宙に浮かばせて、金色に輝く目で彼らを見下ろしているのだ。
『異形』は洞穴から響くような声で、低く笑った。

「ウハハハハハハ!! これはいい、生きの良さそうな餌がこんなに居るとはな!」

岩に埋め込まれた顔たちが一斉に笑い出す。あまりにも異様な、怖気のするような眺めである。
唯一、ゴルゴスと交戦した事のある木場が呟く。

「あいつは……!」
「オイ、木場っ! オメェ、あんなのと知り合いなのかよ!? 趣味が悪いドコロの話じゃねェーぞ!!」

はっと振り返ると、海堂がすぐ後ろから瓦礫を押しのけて現れる所だった。
幸い酷い怪我はなかったようで、悪態を付く海堂に安心しながらも再びゴルゴスに視線を戻す。
香川と侑斗の姿は見えない、どうやら分断されてしまったようだ。

「ここに来てから一度戦った、あいつは……」
「ぬっ!? 貴様はあの赤い仮面ライダー! 生きていたとは! 丁度良い、貴様の血から一滴残らず吸い尽くしてくれる!」

木場の姿に気付いたゴルゴスが、二人めがけて大岩の口からエネルギー弾を発射する。
咄嗟に駆け出すと、今まで隠れていた瓦礫が大きな音を立てて砕け散った。
続け様にエネルギー弾による爆発が何度か起こり、半壊したショッピングセンター内に轟音と土煙が充満した。

「逃がさんぞ!!」

ゴルゴスが吼えた。血に飢えた声が、照明が切れ薄暗くなった店内に響いた。


※※※


「木場さんっ……!」
「桜井君、出てはいけません!」

香川と侑斗は、ひしゃげた防火扉の後ろで様子を伺っていた。轟音と共に遮られた視界に、侑斗が思わず身を乗り出す。
どうやらあの怪物は木場と因縁があるらしい。激昂した声、ターゲットを木場に絞った事から香川はそう判断する。
木場を失う事は出来れば避けたい、スマートブレイン社の情報を持つ彼は脱出の助けになるはずだ。
香川は今にも飛び出して行きそうな侑斗を見る。
桜井侑斗、脱出のための鍵になりうる『ゼロライナー』のオーナーであり、『ゼロノスベルト』の持ち主―――
香川は一つの決断を下す。

「桜井君、私が囮になります。あの怪物を引き付けますから、木場君たちと逃げてください」
「!? 香川さん、何を言っているんです!」

驚いて香川を見返す侑斗。香川はしっかりと侑斗の目を見て告げた。
「あなたは制限のため変身する事が出来ない。戦うことは不可能です。
 それは木場君も同じ……あなたと彼はこの殺し合いを阻止するための鍵になる。逃げてください」
「駄目です! 戦えないのは香川さんも同じだ! そんな事―――」
「いいえ、桜井君」

香川の、眼鏡の奥の瞳が侑斗の体の表面を伝う。その視線はやがて、握り締められたゼロノスベルトにたどり着く。

ゴルゴスは宙に浮かび、半ば晴れかけた土煙の中にうず高く積みあがる瓦礫の中から木場の姿を探していた。
痺れを切らしたように、再び吼える。

「隠れても無駄だ!貴様ら残らず叩き潰して―――ぐぅッ!?」

衝撃に呻く。一閃の光の矢がゴルゴスの背中を射抜いたのだ。
振り向くと、ボウガンのようなものを構えたシルエットが土煙に浮かぶ。
その時、ふいに割れた窓から一陣の風が吹き込み、視界を晴らした。
立っていたのは、輝く緑の装甲、牛を模した複眼、レールを思わせる金のラインが胸に走る。
仮面ライダーゼロノス。
時の列車、ゼロライナーを司る仮面ライダー。

「また仮面ライダーか……何人居ても同じだ! この十面鬼ゴルゴスの敵ではないわ!」

新たに標的を定めたゴルゴスが両腕を掲げる。再び大岩の口からエネルギー弾が発射された。
ゼロノスはゼロガッシャーを構え直すと、走りながら無数の光弾をゴルゴスに打ち込んだ。


※※※


「何……!?」

飛び出してきたゼロノスの姿に、瓦礫の影に居た木場は驚きを隠せない。
まさかと思い、手元のファイズフォンを操作してみるが、やはり何も起きない。
では、あの姿は―――

「木場さん!」
「桜井君!? じゃああれはやっぱり……」

現れた侑斗の姿を見て確信する。あれは香川が変身したものだ。ゼロノスのベルトは装着者を選ばないらしい。

「香川さんが怪物を引き付けているうちに木場さんたちと逃げろって」

そう言いながらも、侑斗は納得していない様子だ。目は忙しなくゼロノスの動きを追っている。
ゼロノスは巧くゴルゴスの攻撃を避けているものの、火力や攻撃範囲は圧倒的にあちらが優位。
長く持つとは思えない。
だからと言って、変身できない状態でその身を晒す事は出来ない、それこそ香川の計画を無に帰す事になる。
木場の心は揺れた。ここで言うがままに逃げ出すべきなのか?
自分を信頼し、共に戦おうと言ってくれた人を危険な状況に一人残して?
そして木場は思い当たる。傍らの、本当に信頼できる、自らの仲間の存在を。

「海堂!」

海堂は差し出されたファイズギアと木場の顔を交互に見て、たっぷり十秒は沈黙した後、ようやく口を開いた。

「何、だよ……これ」
「海堂、頼む。今は、今だけは、彼らに力を貸してくれ」

無論、海堂を危険な目に遭わせたくはない。だが、木場には他に思いつく方法などなかった。


※※※


囮になっていると言うあの仮面ライダーを助けるために戦って欲しい。
そう言いたいに違いないのだ、このお人よしは。それなりに長い付き合いだ、木場の思考なんか分かりきっている。
だが、こっちにも都合と言うものがあるのだ。海堂は手をかざし、詰め寄る木場を遮る。

「ちょちょちょちょいまち。いいか、俺様はな、ついさっき仮面ライダーへの復讐を誓ったばっかなんだよ!」
「話は後だ! 今変身できるのは君だけだ、変身してくれ!」

必死に言い募る木場の手に握られているファイズギア。
自分たちのような、裏切り者のオルフェノクを始末するため、スマートブレインに作られたもの。
バトルロワイアルにおいては、参加者を屠るためのツールに他ならない。
それらを用いて変身するのが―――仮面ライダー。

仮面ライダーは、モグラ獣人を殺した。あんなに仮面ライダーを信じていたのに。

仮面ライダーは、スマートブレインの刺客。何人もの仮面ライダーが自分達を襲ってきた。

仮面ライダーは、………正義の、ヒーロー。


 『アマゾンは……仮面ライダーなんだ!』


木場の必死な眼差しに、希望に満ちたモグラのつぶらな瞳がオーバーラップする。

 『仮面ライダーってのは何てったってそりゃあ凄いんだ。ゲドンがどんな卑怯な作戦を使ったって絶対に阻止しちまうんだぜ』
 『困ってる人は絶対に見捨てないし、助けを求める人がいたらどこへだって飛んでいくんだ』

違う。
その仮面ライダーが、お前を殺したんじゃないか。
仮面ライダーの力で、殺しを楽しんでいる奴らがここにはうようよしてるじゃないか。
怒りと憎しみが海堂の中で膨れ上がる、だがその視線がファイズギアから剥がれる事はない。
それが何故かは海堂には分からない。様々な感情がない交ぜになり、答えを探すが見つけることが出来ない。

再び大きな音がした。思わず目をやると、緑色をした仮面ライダーが間一髪で圧死を免れている所だった。
ギリ、と奥歯を噛み締める。木場が、侑斗が海堂をじっと見つめている。さながら、祈るような眼差しで。

ああ、そうか。
―――こいつらも、仮面ライダーなのか。

「……ッちくしょォ!」

目の前のファイズギアを乱暴に掴み取ると、素早く腰に巻き付ける。
ファイズフォンを開き、コードを入力。5・5・5、enter。

 ---Standing by---

鳴り響く電子音。それは幸い戦闘の音に紛れて、敵に感づかれる可能性はない。

 ---Complete---

(仮面ライダーっちゅーのは……一体何なんだよッ!!)

ギアから現れた眩く輝く赤の光線が体を駆け巡るのを感じながら、海堂―――ファイズは、ゴルゴスに向かって駆け出した。


※※※


自分がゼロノスに変身できるかどうかは一種の賭けであった。

木場の持つファイズギアは、カードデッキとは違い、限られた人物しか装着資格を得られない。
ならば、ゼロノスベルトは?
侑斗は自分以外が使用した事はないと言った。
以前からその可能性は考えてはいたものの、ゼロノスベルト自体の原理は不明。
回数が限られていると言う事もあり、気軽に試してみるという考えにはなれなかった。
―――もし試すとしても、こんなギリギリの状況では御免被りたかったが。

そして香川は賭けに勝ち、今こうしてゼロノスとして戦っている。
何度かその戦いを見てきたお陰か、ツールの使い方などは頭に入っていた。
自分を押し潰さんと迫る大岩を回避し、瓦礫を盾にしながらボウガンモードで気を引きつける。

香川の目的は、ゼロライナーのオーナーである侑斗と、スマートブレインの情報を持つ木場を逃がす事。
平等性を考えて変身時間に制限が掛かっているのなら、怪人にも等しくそれは訪れるはず。
変身した時間はこちらが後。相手が力を失った隙を突いて、離脱する。
そう説明し、決して命を危険に晒す事はしないという約束の上で、ゼロノスベルトと裏の赤いカード―――これで強化形態になる事が出来るらしい――を一枚借り受けた。
香川としても、キーアイテムであるゼロノスベルトを失う訳にはいかないのだ。

「ぐぬぅう……! おのれ、ちょこまかと!」

雨のように降り注ぐ光弾にもまるで応えた様子もなく、ゴルゴスが忌々しげに腕を振り上げる。
大岩の口から、今度は白い泡のようなものを撒き散らした。

「!?」

その泡は、コンクリートの瓦礫をたちまち溶かし尽くしていく。
身を隠す場所をなくしたゼロノスを見下ろし、ゴルゴスは残忍な笑いを浮かべる。

「さあ、これで最後だ、仮面ライダー!!」

高らかにゼロノスの死を宣言するゴルゴス。
ゼロノスもゼロガッシャーを構え直す。こうなっては、多少危険でも真っ向から戦わざるを得ない。
その時目の前を横切った影―――黄色い双眸、赤い光。

「ッラァァアアアアア!!!」

掛け声と共にゼロノスへ急降下するゴルゴスを蹴り飛ばす。僅かに軌道が逸れ、大岩は床を砕くに留まった。
その姿に木場の持っていたファイズギアを認めると、ゼロノス、香川の脳裏に一つの可能性が閃く。

(木場君の仲間……たしか彼もオルフェノクだと言っていましたね……)

傍らに立ち、ファイティングポーズを取るファイズを見る。自分を助けるために、木場が彼にベルトを託したのだろう。
怨嗟の声を上げながら再び浮上を始めるゴルゴスから距離を取る。

(ならば一緒に戦ってもらいましょう……いざとなれば、“盾”にも出来る)

可能性を守るための決意。一見非情ではあるものの、狂った教え子との差異は明確。
それは“盾”としての役割を、等しく自分自身にも課しているという事だった。


状態表


【香川英行@仮面ライダー龍騎】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:G-6・ショッピングセンター内】
【時間軸】:東條悟に殺害される直前
【状態】:深い後悔、強い決意。全身に中程度のダメージ、中程度の疲労。ゼロノスに変身中。
【装備】:ゼロノスベルト
【道具】:なし
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いの阻止
1:侑斗と木場を逃がすために目の前の怪人と戦う。二人を生かすためならファイズを盾にする事も厭わない。
2:東條は必ず自分が止める。
3:ガドル(名前は知らない)、北崎を警戒
4:五代雄介に一条薫の死を伝える。
5:侑斗を生存させるため、盾となるべく変身アイテム、盾となる参加者を引き入れる。
【備考】
※変身制限に気づきました。大体の間隔なども把握しています。
※剣世界の事についておおまかな知識を得ましたが、仮面ライダーやBOARDの事など金居が伏せた部分があります。
※木場からオルフェノク・スマートブレイン社についての情報を得ました。
※死者の蘇生に対する制限について、オルフェノク化させる事で蘇生が可能なのではと思いはじめました。


【海堂直也@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:G-6・ショッピングセンター内】
【時間軸】:34話前後
【状態】 :体の各部に中程度の打撲。激しい怒りと戸惑い、ファイズに変身中。二時間変身不可(スネークオルフェノク)
【装備】:ファイズギア
【道具】:なし
【思考・状況】
基本行動方針:「仮面ライダー」を許さない。
1:目の前の怪人を倒す。
2:ライダー(アマゾン、歌舞鬼、オーガ、ガイ)の危険性を伝える。
3:「仮面ライダー」ってのは一体何なんだよ!
4:まだ対主催。
【備考】
※ 澤田の顔はわかりますが名前は知りません。また、真魚の顔は見ていません。
※ モグラ獣人の墓にはガーベラの種が植えられています。
※ 第一回放送は知っている名前がモグラのみ、ということしか頭に入っていません。
※ 変身制限について知りました。
※ゾルダのカードデッキは破壊されました。ミラーモンスターの扱いについては、後続の書き手さんにおまかせします。


【十面鬼ゴルゴス@仮面ライダーアマゾン】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:G-6・ショッピングセンター内】
【時間軸】:本編13話前後
【状態】:全身に軽い疲労、軽微なダメージ。能力発揮中
【装備】:ガガの腕輪
【道具】:基本支給品一式、ランダム支給品1~3(未確認)
【思考・状況】
基本行動方針:打倒仮面ライダーアマゾン、主催者への報復
1:目の前の仮面ライダー(ゼロノス・ファイズ)を殺し、血を吸う。
2:アマゾンを見つけ次第殺す。腕輪を奪う。
3:牙王、死神博士、影山は最終的に殺し、血を吸う。
【備考】
※岩石の9つある顔のうち一つが潰されました。
※能力制限について思い当たりました。


※※※


轟音を背に受けて、木場と侑斗が振り返った。
言うとおりにその場を離れたものの、香川と海堂、お互いの大切な仲間を残していては足も鈍る。
二人共、すぐにでも助けに戻りたいのだ。
だが、今の自分たちに変身能力は無い―――二人の心は、強い無力感に苛まれていた。
ショッピングセンターからほんの十数メートルばかり離れた場所、煉瓦で舗装された歩道に立ちつくす。

「桜井君」

背後を睨みつけている侑斗の拳はきつく握り締められ、心のうちを表しているようだ。

「心配なのはわかる。だけど、香川さんを信じて待とう。俺たちに今出来るのはそれだけだ」

木場が言って肩を叩くと、侑斗は小さく頷いた。
説得する木場の表情も硬い。本当に、自分に出来る事はないのだろうか。
そんな木場の迷いを察したのか、侑斗は一瞬のためらいの後、預けられた香川のデイパックからライフルを掴み出した。
まさか、と木場が顔を上げる。

「桜井君!?」
「すみません、木場さん。やっぱり俺は戻ります!」

侑斗は、金居に後を任せてあの場を去った事を今でも悔やんでいた。
いけ好かない奴ではあったが、無残な最期の姿を思うと胸が塞がれる思いがする。
もう二度と、誰かを失いたくない。
強い決意が、侑斗を突き動かした。

「待つんだ、桜井君!」

駆け出した侑斗の後を慌てて木場が追う。
その拍子に、持っていたデイパックを取り落とし、中身が地面に散乱した。
アルミ製のコーヒーカップが、がらんがらん、と音を立てて転がる。
人の気配の無い、うつろな街に響く音の大きさに、荷物を無視して追跡を続けようとした木場の足が一瞬止まる。
足元にひらりと、掌を広げたほどのサイズの紙―――写真が舞い落ちた。
一体何が写っているのか。それを見止めた木場に衝撃が走る。思わずそれを拾い上げ、まじまじと見つめてしまう。
俯瞰から撮影された、銃を構える男。周囲が薄暗いにも関わらず、フラッシュも焚かずに撮影したのか、その姿は不明瞭だ。
写っている男が香川であるという事はすぐに分かった。
何故銃を構えているのかはわからない、相手は写真に写っていない。おそらく敵だろう。
木場にはそんな事はどうでもよかった。

―――彼らは、信頼し合い、共に現状の打開を目指し戦っていたのではなかったのか?

どうしてデイパックの中にこのような写真が入っているのか、その目的は何か。
考えたくない、分かりたくもない。
一度信じると口にしたのだから、そうするべきだ。
それなのに、一度走り出した思考は留まることを知らず、木場の心を黒く染めていく。
残された悪意が芽を吹き出す。

胸騒ぎに、手にした写真を握り締め、木場は侑斗を追うべく再び走り出した―――。


状態表


【桜井侑斗@仮面ライダー電王】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:G-6・ショッピングセンター周辺】
【時間軸】:最終回直後
【状態】:深い後悔、強い決意。全身に中程度のダメージ、中程度の疲労。一時間半変身不能(ゼロノス)
【装備】:神経断裂弾(2発)、シグザウアー SSG-3000
【道具】:基本支給品×2、ゼロノスカード五枚(内一枚赤カード)、ラウズカード三枚(ダイヤK・ブランク二枚)
     ショッカー戦闘員スーツ×2@仮面ライダー、ディスクアニマル(ニビイロヘビ)、戦国時代のディスクアニマル(イワベニシシ)
     煤けた首輪、双眼鏡
【思考・状況】
基本行動方針:殺し合いの阻止
1:香川を助けるべくショッピングセンターへ戻る。
2:香川、木場と行動しつつ仲間との合流を目指す。
3:自分と同じ顔をした少年(桐矢)への疑問。保護が必要ならそうする。
4:ガドル、風のエル(名前は知らない)、北崎を倒す。
5:五代雄介に一条薫の死を伝える。
6:金居の死に後悔。
【備考】
※変身制限に気づきました。大体の間隔なども把握しています。
※首輪の損傷具合は不明です。
※剣世界の事についておおまかな知識を得ましたが、仮面ライダーやBOARDの事など金居が伏せた部分があります。
※木場からオルフェノク・スマートブレイン社についての情報を得ました。


【木場勇治@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:午前】
【現在地:G-6・ショッピングセンター周辺】
【時間軸】:39話・巧捜索前
【状態】:全身に中程度の打撲。他人への僅かな不信感。全身に疲労大、背中等に軽い火傷。一時間半変身不可(ファイズ、ホースオルフェ)
【装備】:なし
【道具】:基本支給品×2、コーヒーセット、デジタル一眼レフ(CFカード)、望遠レンズ
     Lサイズの写真(香川の発砲シーン)
【思考・状況】
基本行動方針:主催者及びスマートブレインの打倒、脱出
1:侑斗を信頼。追って止める。
2:写真に動揺。
3:海堂、香川を心配。
4:死神博士、ゴルゴス、牙王、風のエル(名前は知らない)、東條を警戒 。影山はできれば助けたい。
5:事情を知らない者の前ではできるだけオルフェノク化を使いたくない。
【備考】
※香川から東條との確執を知り、侑斗から電王世界のおおまかな知識を得ました。
 また、第一回放送の内容も二人から知りました。


073:恐怖!死神ショッカーライダー大部隊結成作戦!! 投下順 075:牙と軍人と輝く青年
073:恐怖!死神ショッカーライダー大部隊結成作戦!! 時系列順 075:牙と軍人と輝く青年
070:裏切りはすぐ傍に 桜井侑斗 078:零れ落ちる闇
070:裏切りはすぐ傍に 香川英行 078:零れ落ちる闇
070:裏切りはすぐ傍に 木場勇治 078:零れ落ちる闇
070:裏切りはすぐ傍に 海堂直也 078:零れ落ちる闇
046:かげやまのなく頃に~仕切り直し編~ 十面鬼ゴルゴス 078:零れ落ちる闇
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