出たぞ!恐怖の北崎さん

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出たぞ!恐怖の北崎さん



歌舞鬼がたんたんと食事の用意を進める。
用意といっても食卓代わりになりそうな物を適当にあしらえるだけのものであったが。

「さて…ここで大事な質問をしなきゃならねぇ」

歌舞鬼が食卓に手を乗せ、成り行きを見守っていた3人―アマゾン、京介、晴彦―を見渡す。

「京介、晴彦。おめぇら飯あるか?」

問い掛けられた二人の少年は驚愕とも呆れともとれるような表情を浮かべ、蚊帳の外の野生児は首を傾げた。

「歌舞鬼さん、当てもないのに食事にしようとか言ったんですか?」
「いやー、まぁ当てはあるにはあるんだ。水だけ支給ってのはおかしいだろ?多分…京介や晴彦には食べ物がちゃんと支給されてんじゃねぇかな。
 俺やアマゾンにはどういうわけか支給されてなかったって話でな」

京介と晴彦がお互いの顔を見合わせ、京介が首を横に振る。食料は逃げる際に落としてしまっていた。
頼みの綱の晴彦が自分のデイパックを漁り、缶詰を二つ取り出した。

「…これしかないな」

これでは4人分の食事としては少ないだろう事は明らかだ。二人は肩を落とす。
歌舞鬼も両手を広げ、ちょっと呆れた様子で――

「おいおい、晴彦。まさかその銀の塊食うつもりじゃねぇよな?」

少年二人は再びその表情を曇らせる。この人は何を言っているのだろう、お互いの目がそう語っていた。

京介が恐る恐る歌舞鬼に尋ねる。

「歌舞鬼さん、これ缶詰って言うんですけど…ご存知ですよね?」
「かん…づめ…?」

聞き慣れない言葉に歌舞鬼は首を傾げ、様子を見ていたアマゾンも真似をするように首を傾げた。

「これは缶詰って言って中に食べ物が入ってるんですよ。…多分、歌舞鬼さんやアマゾンさんにも支給されてますよ」
「いやー、確かにあるにはあったが。こんな物の中に食べ物、ねぇ…」

未だ半信半疑の歌舞鬼は食卓から離れ、自分とアマゾンのデイパックを漁って支給された缶詰を取り出す。

「信じられねぇな」

取り出した4つの缶詰をお手玉しながら運び、食卓の上に並べる。並べられた6つの缶詰はラベルがそれぞれ異なり見た目はなんとなく豪華だ。

「で、これをどうするんだ?」
「上についてるリングに指をかけて引き上げるんですよ。見ててください」

京介はカンパンの缶詰を手に取り、ゆっくりとフタを開けていく。
日の光に照らされたカンパンは鮮やかなオレンジ色をしていた。

「はっはぁ…こんな便利なもんがあるのか。すげぇな」
「他の缶詰は、とりあえず保留しますか。一度に大量に消費するよりかは…」

残りの缶詰を京介が仕舞いこもうとするがその前にアマゾンが缶詰を手に取り、フタを開けていた。

「あぁ、アマゾンさん!駄目じゃないですか!」
「…ガウ」

開きかけた缶詰に鼻を近づけ、アマゾンが顔をしかめたその隙に京介が缶詰を取り上げた。

「そっちの中身は何なんだ?」

カンパンをモソモソと食べながら歌舞鬼が京介の手元を覗き込む。
派手な黄色に怪しいインド人が描かれたそれは、サバカレー。

歌舞鬼は未知なる食べ物に興味を示し、アマゾンは独特の匂いを嫌って敬遠し、
京介と晴彦はカンパンとサバカレーという組み合わせにげんなりしていた。

「まぁ、食べながらでいいんだけどよ」

歌舞鬼の言葉に京介と晴彦が反応する。
アマゾンはというとカンパンの中に含まれていた飴を大層気に入ったようで今も口の中で転がしている。

「いつまでもここでじっとしてるって訳にもいかねぇだろ?ねぐらにするにゃここはあまりにも無用心だ」
「それなら…俺は市街地に行ってみたいです。人が集まる所ならもしかしたらヒビキさんがいるかも」

言い終えると京介は再びカンパンに手を伸ばす。随分と空腹だったらしい。

「んー…まぁヒビキを探すっていうのも悪くはねぇんだけどな…俺もまぁ会いたいっちゃ会いたい所だし。晴彦はどうだ?」

晴彦としては本音を言えば市街地に向かいたくなかった。
本郷猛や一文字隼人…或いは動物園で出会った女や緑のライダーに変身した男。出会いたくない人間は多い。
それに怯えてここでじっとしているという選択をするつもりはなかったが出会う可能性が高そうな市街地は…
しかし歌舞鬼や、特に京介が会いたがっている男がいるというのならそれを邪魔する気にはなれない。
晴彦は黙って首を横に振った。もしも本郷達と出会ってしまったらその時はその時だ、と半ばヤケクソ気味に心を決めた。

「うし、じゃぁ食べ終えたら市街地に向かって…少しでも安全そうな場所、それからヒビキを探す。これでいいな?」

歌舞鬼の言葉に―会話に参加こそしなかったが話は聞いていたアマゾンも含めた―3人は頷いた。

朝の陽射しは少しずつ強くなり、4人を見守っているかのように輝いていた。

          *   *   *

食事を終えた4人は荷物を手早くまとめ、動き出した。
しかしその歩みはさほど速くはない。歌舞鬼とアマゾンだけならば他の参加者よりも速く移動する事はできただろうが…
怪我人にお世辞にも運動能力が高いとは言えない少年を連れているのだ。自然とその移動はゆっくりとしたものになる。

「ま、のんびり行こうや」

今こうして誰とも遭遇する事無く移動できている事が幸運なのだ。その幸運がいつまで続くかわからないが。
ゆっくりと、しかし確実に4人は進んでいく。

物音が聞こえてきたのはそろそろショッピングセンターが遠目に見えてくる、そんな時だった。
音を聞き取ったのは先頭を行く歌舞鬼とアマゾンだけのようで、京介と晴彦は突然足を止めた二人を不思議に思っていた。

「…引き返すか」
「ど、どうしたんですか歌舞鬼さん!?」

突然踵を返そうとする歌舞鬼に京介が驚きの言葉をあげる。晴彦も言葉にはしないが思いは同じらしい。

「…俺達が今向かってる場所でゴタゴタやってるみてぇだ。わざわざ巻き込まれる必要はねぇよ」
「ゴタゴタって…」

先ほどよりも大きな爆発とも、何かが崩壊するようにも取れる音が今度は少年二人にも聞こえた。
離れているのにこれだけの音が聞こえるということはそれなりの規模の戦闘らしい、危険なのは間違いないだろう。
少年二人はそれならば仕方が無い、といった様子で歌舞鬼と同じように今来た道を戻ろうとしたが――

「おい、アマゾン。いくぞ」

ただ一人アマゾンだけは戻ろうとしなかった。いや、それどころか戦闘が行なわれているショッピングセンターへ向かおうとしていた。

「待て待て待てっ!」

慌てて歌舞鬼がその肩を押さえ、振り向かせる。アマゾンの目には何故止める、という疑問が浮かんでいるのが見て取れた。

「おい、いいか。わざわざ危険なとこに向かう必要はねぇって。そんなのは…」

放っておけ、そう言葉を続けようとしたができなかった。歌舞鬼もわかっているからだ。
わざわざ危険な所に向かうのは混ざりたい狂人か、或いは…誰かを守れる人間だ。
そして自分は人を守る存在の鬼だ。本来ならばいの一番に向かわなければならないだろう。
だが自分には守らなければならない者が既にいる。それをわざわざ危険な目には…

(いや、これは言い訳か)

歌舞鬼はほんの少しだけ自己嫌悪した。他人などどうでもいい、そう見捨てられる非情さが歌舞鬼の鬼としての使命を妨害しているのだ。
ただ子供だけは…そんな思いがあるのは事実だがそれを言い訳にしかけていた事に、自己嫌悪。
アマゾンはそんな歌舞鬼の事を知ってか知らずか、静止の手を振り解きショッピングセンターへと向かおうとする。

「だから待てっての!」

今度は手を掴み、歩みを止めさせる。アマゾンの顔が苛立ちからか少し歪んだ。
ああ、と歌舞鬼は理解する。子供のような心を持っているがアマゾンの本質は鬼、戦士なのだと。
誰かが危険な目にあっているのなら見捨てる事無く、自分の身を挺して守る。そんな本質が今頃になって見えてきた。
ある意味自分よりも鬼らしいと思える。いくら止めても言う事を聞かず、いずれは飛び出していくだろう。
だがそれはさせられない。ならばやる事は一つ。

「アマゾン、俺が行く。お前はここで京介と晴彦を守ってやっててくれ」

歌舞鬼はアマゾンの力を信頼していないわけではない。
戦い慣れすればそれこそ敵はいないのでは、それほどの強さをアマゾンは秘めている。
だが戦士としてはあまりにも心が幼すぎる。怒りに我を忘れ力だけを行使してしまう、そんなアマゾンの危うさを歌舞鬼は既に見ている。
ここで単独で行動させるのはあまりにも危険な行為だ。それに何より守ると決めた男だ、そうそう危険な目にはあわせられない。

アマゾンの肩をポンポンと叩き、静めさせる。納得したのだろうか、アマゾンは力強く頷いた。

「すぐに帰ってくるからよ。まぁ万が一…」

―しばらく待っても帰ってこなかったらその時は引き返せ―という言葉は飲み込んだ。

「万が一お腹が空いて缶詰を開けたら、俺の分は残しておいてくれよ?」

そう言って歌舞鬼は駆け出した。アマゾンと少年二人はその背中が見えなくなるまで見つめていた。

          *   *   *

丘を駆け抜け、見たことも無いような建物が辺りに建ち並ぶ。
今更ながら歌舞鬼はここは自分の知っている世界ではない事を実感した。

(まぁわけ分からんカラクリに缶詰だもんなぁ、当然っちゃぁ当然だが)

しばらく続いていた爆発音は少しずつ遠ざかっているように聞こえる。どうやら移動しながら戦っているようだ。
歌舞鬼がショッピングセンターについた時その場に残っていたのは建物の残骸や煙ばかりで肝心の戦闘を行なっている者の姿はなかった。
だが音だけは耳に届く。それほど遠くない所で未だに戦闘が繰り広げられているらしい。

(とりあえず様子だけ見に行くか…このペースだと間に合うかどうか微妙なとこだな)

ショッピングセンターの探索をほどほどに切り上げた歌舞鬼は再び駆け出そうとして、視線に気付く。
ゆっくりと振り向くと、少年のようなあどけなさがまだ残る青年がじっと見つめていた。
声も掛けずただじっと見つめていた青年。彼は敵なのか味方なのか、歌舞鬼には判断できずにいた。
青年はしばらくこちらを見つめていたがやがて自分の両手を何度か見つめた後に肩を落とし、踵を返した。

「ま、待ってくれ!」

何故引き止めたのか歌舞鬼にもわからないが、少なくとも敵ではないのでは、そんな気がした。
青年は気だるそうに振り向き、しばらく考えたそぶりを見せた後にこちらへとゆっくりと歩き出した。
ある程度まで近づくと歩みを止めた。

「君は、ここで何をしてるの?」
「俺もそれを聞きたい所なんだがな…俺はまぁ、野次馬よ野次馬。近くでゴタゴタしてるみたいだからな」
「ふぅん…戦いを止めるとか言わないんだ?」

それは歌舞鬼にも悩みどころではあった。仮に戦いに間に合った所でどうするつもりだったのだろうか?
危険だと判断すればトドメを刺すというのもあるが、
もしもアマゾンのような戦士であったならば…協力を申し入れるつもりだったのか?
実際それは悪い話ではない。協力できればそれだけ京介達を守るのがより確実になるのだから。

「まぁ、少なくとも止めるつもりはないな。加わるのも気が進まないが。で、おたくは?」
「僕も似たようなものだけど…探し物もあるかな」

青年…北崎がわざわざショッピングセンターまで戻ってきたのは放置してしまったバイクの為だ。
あるとないとでは随分な差がある。なんとか回収しようと戻ってくる途中で爆発や打撃音等が聞こえた次第だ。

「ふぅ…でも誰かが持ってっちゃったみたい。酷いよね、僕のなのに…」

話は終わりだとでも言うように北崎はその場を離れようとする。
歌舞鬼は悩んだ。少なくとも戦いに乗ってはいなさそうな青年…北崎と今別れるのはまずいのでは?
こうして冷静に話せる機会はそうないだろう、そういう意味ではこれは貴重な機会なのかもしれない。
不安はある。戦いに乗っていないと思える根拠はあくまで自分を不意打ちしてこなかったからというあまりにも薄い根拠だ。

「…そうだ、そういえば君は一人なの?」

北崎が振り向き、悩める歌舞鬼に問い掛ける。

「あぁ、一人だ。それがどうかしたか?」

わざわざ京介達の存在を明かす必要は無い。歌舞鬼は平然と嘘を吐いた。

「それならついて行っていいかな?やっぱり一人じゃ寂しくてさ…」

意外な言葉に面食らう。一人じゃ寂しいからとは、なんとも可愛いものだ。歌舞鬼の緊張の糸が緩んだ。
こいつなら大丈夫だろう、そう思えたのだ。

実際の所は違う。北崎は当初、歌舞鬼を殺そうと思っていた。イライラを発散させるために力の限り蹂躙しようと思っていた。
だが変身できない。いくら身体に力を込めようともオルフェノクの力が漲らないのだ。
これも制限の一種なのだと把握し、制限が解けるまでの時間をどうしようかと考え…歌舞鬼と行動する事を思いつく。
せっかく出会えた新たな獲物を逃がす手はない。制限が解け次第殺してやろう、そう決めて。

「あぁ、別にいいぜ。そうと決まれば…」

歌舞鬼の言葉は盛大な爆発音で途切れる。断続的に続いていた爆発音が遂に止んだ。どうやら決着がついたらしい。
様子を見てくるのもいいが場所もハッキリとはしていないので無駄に時間を食ってしまうかもしれない。
帰りが遅くなると京介達を心配させてしまうだろう。その前に戻る必要がある。

「あー、まぁついて来てきてくれ、俺は人を護る事が仕事の『鬼』、歌舞鬼だ。よろしくな」
「僕はね…北崎。よろしくね、歌舞鬼君…」
「君付けは、やめてくれ」

自己紹介をしつつ歌舞鬼は北崎を連れて京介達の隠れている場所まで歩き出す。
背後で北崎が微笑んでいた事など知る由も無かった。

          *   *   *

京介達はじっと身を潜め、歌舞鬼の帰りを待っていた。
守りを任されたアマゾンは辺りを警戒するように歩いている。
遠くで聞こえる一際大きな爆発音を最後に聞こえなくなり、戦闘が終った事を示していた。

「そろそろ帰ってくるのかな…歌舞鬼さん…」

京介がそんな事を呟き、晴彦が曖昧な相槌を打っているとアマゾンが何かを見つけ、立ち止まる。

「…アマゾンさん?」

アマゾンは目を見開き、口からは荒い呼吸を吐いて身を屈める。歌舞鬼以外の誰かがきたのだろうか?
京介はそっと辺りを見渡すが人影は見当たらない。だが空に赤い何かが見えた。
それが何かはわからない。だがアマゾンの視線はその空に浮かぶ赤い何かをじっと見つめている。

「ケケーッ!」

奇声を発しながらアマゾンは身体一つで突然駆け出した。突然の出来事に京介も晴彦も対応する事ができない。
いや、仮に咄嗟に反応できたとしてもすぐに離されただろう。それほどまでにアマゾンの駆ける速度は速い。
何が起こったのかさっぱりわからない、歌舞鬼が帰ってきたらどう言えばいいのだろうか、そんな事を考え京介は頭を抱えた。
空に見えた赤い何かは既に見えなくなっていた。見えないところまで移動したのか地上に降りて行ったのか、わかるはずもない。

          *   *   *

アマゾンが駆け出してからしばらくして、ガサガサと京介達の近くのしげみが揺れた。
一瞬警戒するがそこから覗かせた顔を見てほっと胸を撫で下ろす。

「歌舞鬼さん!」
「ただいまーっと、いい子にしてたかー?」

今まで座り込んでいた晴彦も立ち上がり、歌舞鬼の帰りを歓迎しようとしたが…

「あ…!」

歌舞鬼の後ろから現れた青年が声をあげた。いや、それはひょっとすると自分の声だったのかもしれない。
晴彦が何を言う前に青年…北崎は晴彦のもとへと駆け出す。
ちらりと京介の事を横目で見るが京介の方は見知らぬ青年に目を白黒させていた。
なんとなく感じが違う気がした。噛み付いてくるかと期待したのだがそのような行動に出そうにはなかった。
ともかく北崎の遊びの矛先は今は晴彦へと向けられていた。
逃げるように晴彦も駆け出す。多少なりとも回復した体力を使い切るかのように走る。
北崎は「待って青沼君」と叫びながらその後を追い、走った。

「何なんだあいつら突然!?ともかく追うぜ!…ってアマゾンはどうした?」

突然追いかけっこを始めた二人を追おうとして歌舞鬼はアマゾンの不在に気がついた。
その言葉にまるで悪戯が見つかり、親に叱られる子供のように縮こまりながら京介が答えた。

「そ、それが…何かを見つけたかとおもったら突然駆け出していっちゃって…ごめんなさい!俺、全然動けなくて!」
「マジかよ…」

京介の言葉に愕然とする。アマゾンは人を守る戦士こそが本質だと、そう信じ託したのだが…
我を忘れてしまうほどの怒りを覚えてしまったのか、それともアマゾンの本質がもしかしたら戦士ではないのか?
どちらなのか歌舞鬼にはわからないが、アマゾンが既にいないということだけが変わらない現実だった。

「とりあえずアマゾンは後回しだ…二人の後を追うぞ」
「は、はい!」

歌舞鬼はアマゾンと晴彦のデイパックも背負い込み、二人の後を追って駆け出す。京介も置いていかれないように必死に駆け出した。
二人の事も気がかりだが歌舞鬼は何よりもアマゾンが何事も無く戻ってきてくれる事を願っていた。

          *   *   *

荒い呼吸を吐きながら後ろを振り向く。その間も足を止める事はなく、晴彦は走っていた。
夢でも幻でもなく、あの青年が自分を追ってきていた。何故歌舞鬼と共にあの青年が現れたのだろうか?
歌舞鬼は青年を無害と考え連れて来たのだろうか?だとしたら危険性を事前に話していなかった自分が悪い事になる。
再び振り向くと青年は「待って青沼君」と叫んでいた。
誰だ青沼って?そんな疑問が晴彦の足並みを狂わせ、あろうことか転倒してしまった。
立ち上がろうとする背中に誰かが圧し掛かる。誰かなんて見なくても分かる事だった。
晴彦の首をグイ、と北崎が締め上げる。

「久しぶり…元気そうで何よりだね…」
「ガッ…アッ!」

ゆっくりと確実に締め上げられていく。必死に振りほどこうともがくが北崎の力は強く、逃げられない。

「お願いがあるんだけど…聞いてくれる?それとも、死ぬ?」

締め上げられながらも晴彦は必死に頷く。この状況で要求を拒む事などできようがなかった。

「うんうん…何、別に難しい事じゃないよ。ただ僕とは初対面、それだけ言いたかったんだ。良いよね?僕と君とは初対面…」

顔を赤くさせながら頷く。逆らう事など、できやしない。
晴彦の回答に満足したのか北崎は腕を放し、立ち上がる。解放された晴彦はゴホゴホと咳をしながらも必死に酸素を求めた。

ようやく呼吸が整ってきた所で歌舞鬼と京介が現れた。

「おい、二人とも何があったんだ?」

訳が分からない歌舞鬼に対し北崎が軽く答える。

「ごめんごめん、僕の友達かと思って嬉しくて駆け寄ったら驚かせちゃったみたいでさ…ごめんね?」

勿論嘘だ。青沼という男は確かにいるが晴彦とは似ても似つかない赤の他人だ。
反応を促すように膝をついている晴彦の肩に手を乗せるとビクッと震えた。

「そ、そうなんです。いきなり近寄られてビックリしちゃって…ハハ…」

妙な饒舌で晴彦が北崎の言葉を肯定する。明らかに先ほどまでとは異なる雰囲気に歌舞鬼だけでなく京介も眉をしかめた。

「三田村さん…大丈夫ですか?」

晴彦の肩に乗せられた北崎の手に力がこもる。

「だ、大丈夫…大丈夫だから…」

力に怯え、屈服する姿はどこかラッキークローバーの琢磨の姿を彷彿とさせて…北崎の心を楽しませた。

(戦ったらつまらないけど…こうして玩具代わりになると案外面白いんだね…)

再び力を込めると晴彦が小さく呻き声をあげた。それと同じくらいの小さな声で、北崎は笑った。

「さて…これからどうしようか?」

立ち尽くす歌舞鬼と京介に笑顔で問い掛ける。北崎を縛る枷が解かれる時は、近い。

状態表


【歌舞鬼@劇場版仮面ライダー響鬼】
【1日目 現時刻:昼】
【現在地:F-6南西エリア】
[時間軸]:響鬼との一騎打ちに破れヒトツミに食われた後
[状態]:健康
[装備]:変身音叉・音角、音撃棒・烈翠
[道具]:基本支給品×3(ペットボトル1本捨て)、歌舞鬼専用地図、音撃三角・烈節@響鬼、GK―06ユニコーン@アギト、ルール説明の紙芝居、不明支給品(0~1個)
【思考・状況】
基本行動方針:子供は護る。
1:三田村、桐矢、北崎と行動する。
2:三田村、北崎の態度が何か変だ。
3:アマゾンが心配。
4:俺はこの状況下で、何がしたい?
5:響鬼と決着をつけてみるのもいいが、とりあえずまずは合流?

【桐矢京介@仮面ライダー響鬼】
【1日目 現時刻:昼】
【現在地:F-6南西エリア】
[時間軸]36話、あきらに声を掛けた帰り
[状態]:やや疲労、軽い擦り傷。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(食料紛失) ラウズカード(スペードの10、クラブの10)
【思考・状況】
基本行動方針:生き残る
1:歌舞鬼、北崎、三田村と共に行動する。
2:激しい恐怖(特にダグバ・ゾルダに対して)
3:三田村、北崎の態度が何か変だ。
4:アマゾンが心配。
5:響鬼が助けてくれることへの僅かな期待。
【備考】
※自分を助けてくれた男性(水城)の生存の可能性は低いと予想
※食料は移動中に紛失しました。

【三田村晴彦@仮面ライダー THE FIRST】
【1日目 現時刻:昼】
【現在地:F-6南西エリア】
[時間軸]:原作での死亡直前から
[状態]:全身に中度の疲労、胸に強い痛み、北崎に対する恐怖
[装備]:特殊マスク、鞭
[道具]:基本支給品・不明支給品×1
【思考・状況】
基本行動方針:彼女を救いたい。
1:望みを叶える為にも、バトルロワイヤルに生き残るしかない。
2:生き残るために今は北崎に逆らわない。
3:生き残る為に歌舞鬼、北崎、桐矢と共に行動する。
4:いざとなれば迷わない……はず。
【備考】
※変身制限がある事をなんとなく把握しました(正確な時間等は不明)

【北崎@仮面ライダー555】
【1日目 現時刻:昼】
【現在地:F-6南西エリア】
[時間軸]:不明。少なくとも死亡後では無い。
[状態]:全身に疲労。頭部、腹部にダメージ。背部に痛み。オーガ、ドラゴンオルフェノクに30分変身不可。
[装備]: オーガギア
[道具]:無し
[思考・状況]
基本行動方針:殺し合いを楽しんだ上での優勝。
1:制限が解け次第、歌舞鬼と遊ぶ。
2:五代雄介、「仮面ライダー」なる者に興味。
3:桜井侑斗、香川英行とはまた闘いたい。
4:ゾル大佐、橘朔也と会ったら今度はきっちり決着をつけ、揺ぎ無い勝利を手にする。
5:「仮面ライダー」への変身ツールを集めたい。
6:木場勇治はどうせだから自分で倒したい。
7:三田村晴彦は面白い。玩具的な意味で。
※変身回数、時間の制限に気づきましたが詳細な事は知りません。
※桐矢京介を桜井侑斗と同一人物かどうかほんの少し疑問。

         *   *   *

五感をフルに活用し、素早く移動しながら辺りを探る。
赤い奴はしばらく浮かんでいたが突然力を失ったように地上に降りていき、その姿を見失った。
だが近くにいるのは間違いない。必ず見つけ、仇をとる。

遂に見つけた名も知らぬ宿敵を目にしてアマゾンが理性を保つ事等できるはずもなく…
バゴーや、ジャングルの仲間達への復讐に燃える男は、戦士ではなく――自由な草原に解き放たれた一匹の獰猛な獣であった。

【山本大介@仮面ライダーアマゾン】
【1日目 現時刻:昼】
【現在地:G-6北エリア】
[時間軸]:アマゾン本編1話終了後
[状態]:健康、激しい怒り
[装備]:ギギの腕輪、コンドラー
[道具]:無し
【思考・状況】
基本行動方針:十面鬼(名前は知らない)を殺す。
1:近くにいるはずの十面鬼を探し出す。
【備考】
※言葉は人と会話をしていけば自然と覚えます。
※コンドラーはナイフやロープ代わりになります。
※ギギの腕輪を奪われるとアマゾンは死にます。
※第一回放送をまるで聞いていません。


079:restart 投下順 081:継ぐのは魂
079:restart 時系列順 081:継ぐのは魂
062:泣く少年 歌舞鬼 083:EGO(前編)
062:泣く少年 山本大介 093:鬼³
062:泣く少年 桐矢京介 083:EGO(前編)
062:泣く少年 三田村晴彦 083:EGO(前編)
070:裏切りはすぐ傍に 北崎 083:EGO(前編)

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