Fatality-Cross(前編)

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Fatality-Cross



 唯一無二……互いの命を賭けた孤島でのデスマッチも開始から既に十二時間、半日が経過しようとしていた。
 北側に若干暗雲が覗く以外は概ね澄み渡っているといって差し支えない空模様に、島全域を見渡そうと天高く輝くお天道様。


 「む………………」

 どのくらいの時間に渡り、自分の意識は暗黒の中をさ迷っていたのだろうか――目覚めたゴ・ガドル・バが第一に浮かべた疑問。
 それは支給品の携帯電話を開いたり、保養所の外で空を眺めればある程度の判断が可能なことだった。
 故に、ガドルは目を開く。携帯の時計にしても、空模様にしても、両目が閉じられた状態では見ることなど出来はしないからだ。
 そして、ガドルは確認する。青い空に、真っ白な雲達の姿を。様子を見るにまだ日中。まだそれ程時間は経っていない。
 そこで、ガドルは疑問を持つ。何故空を拝めるのか。それは屋外に出ているからだ。
 疑問は続く。いつ外に出たのか――答えは、「あの激突」だとガドルは答えを導き出す。
 温泉内で行われた二人のライダーによる激戦。二枚の「ファイナルベント」は施設に被害を与え、当事者達にも甚大なダメージを与えた。


(そうだ、俺は非道の戦士を打ち倒し……む?)


「こんなしけた食い物しかねえとは……飯にまで当たり外れがあるって訳か」

 ガドルにとって、確かに聞いたことがある声だった。それも、つい先程聞いたばかりな気さえする。
 声の主は、何かを頬張っている最中らしい。 相変わらず固定したままの視線が示す青空を見るに、昼食の機会をもっても可笑しくは無い時間だろう。

(食事……食べる……食う?)

 「食う」。そのワードから記憶がとある発言をリフレインさせ、そこに傍らから聞こえる声がリンクしていく。

『……そろそろ食っちまうか』

(馬鹿な……この声は……)

 勝利に浸っていた筈であったガドルの表情に、驚愕という名の剣が傷をつけた。
 一連の思考を統合し、顔を声の主へと向けて行く。そこにあったのは――

「ようやく起きやがったか、カブトムシ野郎」

 お世辞にも美味しそうとは言えない乾パンを口にする――確かに全力を尽くして打ち破った筈の、「非道の戦士」の姿だった。



『じゃあ、放送を終えたら病院で落ち合いましょう』
『了解!』

 D-4エリアの南部にて歩を進める集団の面々は、それぞれが多様な表情を見せ、思いを胸の内に秘めていた。

 ――これまで頭の片隅にも置かなかった、「死」という概念に対する不安を持つ者。
 ――盲目的とすら言える信頼を他者に寄せることで、芽生えつつある闇を奥底へ封印しようと試みる者。
 ――最たる信頼を寄せる漢が仲間を守って来た姿に、自分のあるべき姿をもう一度見つめ直す者。
 ――好意を寄せた存在の死を受け、何れは自身がたどり着かなければならない受難に恐怖を覚える者。
 ――仲間を失った悲しみを、全ての元凶に打ち勝とうとする確固たる決意へと転化する者。

 そんな彼らが目指すのは、放送局。島全土へと放送を行い、首輪解除の「鍵」となる存在の延命を図るのが狙いだ。
 一人の命が賭けられている以上、可能な限り早急に行うことが望ましい。
 故に保有していた二台のバイクを明け渡すというのは、城光にとって不本意な行為であった。
 しかしヒビキの率いるもう一方のチームが複数の負傷者を抱えている以上、貸し出しを拒否する訳にもいかない。
 過ぎたことを思い返しても無駄だと思い、何も口にせず光は黙々と歩みを続けていた。
 しかし、余計なことを考えまいとしていると、今度は疲労感に襲われる。
 普段の光ならば、この程度で脚部に負担を感じたりはしない。原因は深く考えるまでもなく首輪だ。
 改めて枷に嵌められたことへの苛立ちが募り、かえって光の歩行ペースは上昇していた。

「光さん、何かあったんですか?」

 増して行く歩みの速さへ疑問を持った五代が、小走りして光の横に並んで尋ねた。
 二人の後方にはイブキ、結花、ハナ。いつの間にか距離が広まってらしい。
 光はその事実へ気付くと、立ち止まって足元の小石を蹴り飛ばす。
 やや薄白く写った小石が転がるにつれて、本来の外観である黒色を取り戻していく。
 その様子に言い様の無い何かを感じつつも、光は五代へと向き直った。

「ただ、急いでいるだけだろうが」

 ぶっきらぼうに答える光に、再度歩き出す間も与えず次の言葉が投げ掛けられる。
 声の主はイブキだ。彼はあくまでも、足取りが重い少女二人に合わせたペースで光へと歩み寄っていた。

「女の子が二人もいるんですし、もう少しゆっくり歩いても……」
「私は女では無い……そうお前は言いたいのか」
「見た目も言動も態度も、少なくとも女の『子』じゃな……うぐっ」
「か弱い女の子とやらで無くて悪かったな」

 光の裏拳を鼻先に受けたイブキが、思わず膝をついて倒れかける。
 それを結花が支える傍ら、まだイブキ達との行動が初めてのハナは心中で思わず呟いた。

(この人、もしかして天然……というか空気読めないタイプ……?)

 本当にこれが、あの頼りがいのあったヒビキと同じ「鬼」なのか――?
 ハナは少々疑問に思いつつも、結花に合わせる様に逆サイドからイブキを支える。
 その様子に思わず苦笑する五代は、隣にいる光がデイパックを地面へと下ろし、腕を組んで溜め息をついていたことに気付く。

「俺、イブキさんの言うことはもっともだと思います」
「私には可愛い気が無いと、お前までそう言いたいのか」
「そうじゃなくて、歩く速さのことです。俺達はともかく……あの二人にはキツイですよ、この道」

 D4-5エリアの中部には、丘が存在している。
 北側から迂回すれば地図にも記される規模の道路が放送局へと通っているのだが、流石に使う余裕も無い。
 その為少々険しい南側を進んでいる訳だが、足場がお世辞にも良いとは言えなかった。
 日頃から様々な環境での戦闘に対応してきた五代、イブキ、光はともかく、結花やハナにとって悪路でデイパックを抱えての移動は、それなりに堪えるものと言える。

「……勝手にしろ」

 どこと無く淋しげな表情を見せた光が、足元に残るもう一つの小石を蹴り転がし、前屈してデイパックに右手を掛ける。
 先の言葉と合わせて提案が承諾されたと解釈したイブキが打たれた際に落としたデイパックを拾い上げ、更に結花のものを逆手で掴む。

「これ、僕が持つよ」
「あ、ありがとうございます……」
「気にしないで、鍛えてるから大丈夫だよ」

 イブキを見直すと共にハナが若干の寂しさを覚えた。
 野上良太郎やモモタロス、デンライナーの仲間達――或いは一文字隼人ならば、こんな時に……。

 ハナがチーム分けで一文字と離れたことは、彼女にとっても納得が行く編成ではあった。
 バイクに乗れるのは怪我人である志村と手塚を除けば、それぞれの操縦を担当する二名まで。
 元々ヒビキが二人を病院へ連れて行くつもりだったのだから、その時点で残り一人。
 実質的にこちらのグループのリーダー格となっている光はヒビキと別チームが望ましい。
 素人に毛が生えた程度の実力しか持たない結花やハナが四人目では、両チームに戦力差を生むことに。
 結花はイブキに最も心を開いていたし、別チームにする訳にもいかないだろう。
 そうなれば一文字と五代が残り、ヒビキと既に面識があった一文字の方が連携し易い、という訳だ。
 ハナが羨望の眼差しを結花へ向けていたのに気付いたのか気付いていないのかは不明だが、彼女のデイパックもまた男の手に持ち上げられた。

「じゃあハナさんのは、俺が持ちますよ」
「え、でも……」
「俺、冒険でこういうの慣れてますから」

 ハナも、屈託の無い笑顔を向けて来る青年の申し出を断る気にはならず、好意に甘えることを程無くして決めた。
 正直な所、五代にしてもイブキにしても今更その様な提案を行うのは、少々配慮に欠けていると言えるのだが。
 手伝う位なら最初からそうしろ、などと光が短く愚痴を漏らすのだが、生憎四人の誰一人として気付かずに終わる。

「用事が済んだなら行くぞ。E-4まで下り次第、通常の路へ合流して放送局へ南下する」

 一行が再び歩き出すと、それを遮らんとばかりに向かい風が一際強く吹きつけた。
 吹き上げられた白めの砂から目を防護しながら、結花は不安に襲われる。
 砂を巻き上げて向かって来る灰じみた疾風が、隠している自分の本性と何故か重なり、不安を煽る。
 間に入って風を遮断したイブキの後ろ姿が、彼女にはそれまで以上に大きく見えていた。



「お前が何故、生きている?」
「そいつは俺の台詞だろうが……ったく、誰のお蔭でここにいると思ってやがる」

 ガドルの質問に心底不快な表情で解答した牙王が、ペットボトルのキャップを回転させる。
 乾パンを流し込むように水を飲み終えると、軽くなったボトルが地面に転がされ、僅かに残っていた水が地面に染みをつくった。

(あの暴れ龍が追い掛けてこなかっただけの話だがな……)

 ガドルの処遇に悩んだ牙王の方針は、黒龍――
 ドラグブラッカーが現れた時点でガドルを「喰い」、制限の状態に応じて抗戦か離脱を行う、というものだった。
 つまり、ドラグブラッカーが出現しなかった為にガドルは生きながらえただけのことだ。

「まあそんなことはどうでもいい。今度は最後まで喰らわせてもらおうか、ガドルよ」

 マスターパスを構えた牙王が、悠然たる態度で立ち上がる。その様子を見上げたガドルもまた、合わせる様にして起き上がった。
 が、そこでガドルの中に違和感が一つ生まれる。オルタナティブ・ゼロのカードデッキが手元に無いのだ。
 表情こそ冷静さを欠いていないが、牙王にはガドルの動揺が見て取れた。
 確かに、双方の実力が拮抗していることは既に先の戦闘から互いに認め合うところだ。
 しかし、それは戦闘手段の保有数が並んでいるから成り立つのであって、デッキが失われればパワーバランスは崩れ去る。

「ククク…………」

 牙王は笑う。飽くまでも態度を崩さないガドルの姿に、確かな強者たる風格を感じながら。
 その勇姿に何か心打たれるものがあったのか、牙王は懐に手を忍ばせ。

「ナァ、お前が探しているのは……」

 デッキを見せ付けるかの様に取り出し、胸元で固定。

「……コイツか?」

 ガドルはそれが自分の使用していたデッキと理解してなお、頑なに態度を変えずにいる。
 冷静に考えれば、自身より先に牙王が目覚めていた時点で、これは当然の結果。
 生きていただけでも奇跡といって差し支え無いのだ。ならばと、ガドルは覚悟を決め、構えると同時に口を開く。

「お前にも、戦う前に尋ねておく。……ン・ダグバ・ゼバという、俺と同様の変化能力を持つ白服の男に見覚えはあるか?」

 経緯の都合上行えなかった質問を、ガドルは牙王へと行った。
 ダグバの名を出すことで、自らにも喝を入れようとするのが狙いだ。

(この危機を越えられぬようでは、ダグバを倒すことなど出来ん……)

「そんな名前を聞いた覚えは無いな……あの糞やかましい放送でも、そんな名前は呼ばれなかった」
「そうか」
「待て……」

 怪人の姿へと変化しようとしたガドルへ浴びせられたのは、意外なことに牙王からの静止要求。
 ガドルからすれば意味不明の行為だ。
 そもそも再戦を求めてきたのは牙王の方であり、デッキまで見せて挑発してきた牙王からその様な発言が飛び出るなど。

「どうした」
「今更お前を喰ったところで腹の足しにもならなそうだからな。ただ、代わりに聞かせてもらう……何故ダグバって奴をを探す? そしてそいつは強いのか?」

 牙王の投げたマスターパスがデイパックの辺りに転がったのを見て、ガドルは構えを解く。
 牙王の気まぐれは解せなかったが、答えて都合の悪いことでも無い為、ガドルは質問に答えることを決めた。

「ダグバを探すのは……何れは俺が倒す為。他に理由などない」
「成る程なぁ、お前じゃ今すぐ喰らいに行ける様な相手じゃねえって訳か」

 「何れ」という単語は、牙王にダグバをガドルより格上の存在と推測させる決め手となった。
 ガドルが即座に否定しなかった為、牙王は予想に確信を持ち始める。

「ダグバは強い。今の俺など比べ物にならない程にな」

 牙王はダグバへの、期待に満ちた興味を募らせた。
 浴場での戦闘とここまでの会話――牙王がガドルの人柄に触れたのは僅かな時間だ。
 それでも、自身を過小評価する様な漢では無いことくらい承知している。
 そのガドルをして「比べ物にならない」と言わしめるダグバ。
 どれ程の力を秘めているのか牙王には皆目見当がつかない。

「故に、俺は強くならなければならない。……ザギバス・ゲゲルを成功させる為に、ダグバをこの手で倒す為に」

 ガドルは首輪探知機能を備えた携帯を取り出す。牙王がいくら兵だと言っても、戦意が無ければ無意味だ。

「ダグバか……喰い甲斐がありそうじゃねぇか。……おい、何をしてる」

 牙王の見る限り、ガドルは携帯電話を熱心に弄るような性格では無い。
 にも関わらず、ガドルは携帯の小さなディスプレイへと真剣なまなざしを向けている。
 それが牙王には可笑しく感じられて、思わず疑問をぶつける結果を生んだ。

「首輪を探知している。お前が戦わないならば、他の強者を打ち破るのみ」
「首輪探知だぁ…………?」

 牙王が首を突っ込み、ガドルの握る携帯へと視線を落とした。
 そこには自分達の現在位置及び所在エリアと、それを中心とした周囲一エリア分の地図が表示されていた。
 これだけならばただの自エリアを中心に据えた拡大地図に過ぎない。
 重要なのは、その地図上に記された点だ。現在自分達がいるD-3エリアには、二つの点。
 南のE-3と南東のE-4にもそれぞれ一つずつ光点が煌き、東のD-4には固まった五点と外れた一点の計六つ。
 ガドルは選択を迫られる。どの点へと向かうべきなのか。
 E-3の光点が既に戦いを終えた者であることは、ガドルも保養所へ向かう前に確認済みだ。
 東か南東にて単独で輝く点へ向かうべきか、それとも四つの点が指し示す場へと向かうべきか――
 迷うガドルの左肩に、牙王の年季を感じさせる右手が掛けられた。

「ガドルよ、その点が首輪だとして……死んだ奴の首輪はどうなる?」
「……首輪さえ無事ならば、生死は関係ないとのことだ」
「だったら、こいつは“ハズレ”だ」

 牙王の爪先にはE-4の反応。そう、既に喰らった狼男。牙王はその首輪の残り香に過ぎないと見た。
 ガドルはその忠告を疑うことなく選択肢から切り捨てると、残り二択に思いを馳せる。
 そんな中熟考するガドルへ、再度横槍が入れられた。

「お前が強くなるつもりなら、より多くの連中を片っ端から喰らうに限る。……行こうじゃねぇか、こいつらの所へ」

 牙王は地面に接した二つのデイパックを手に取ると、内一つをガドルへと投げ渡す。
 脱衣所に放置されていたのを衣服や自身のデイパックと共に回収してきたものだが、ガドルのものだという予測は牙王にもついていた。
 もう片方――所有していた二つのデイパックの支給品を一まとめにした中へと腕を突っ込み、牙王はガドルに同行する意思を告げる。
 本来牙王は共闘を良しとする思考の持ち主では無い。島で一度チームを組んだ際にも、長続きせずに脱退を行っている。
 だが、あの時とは事情が違う。あくまで強者との闘争を欲するガドルの存在は、ゴルゴスや影山との違いを感じさせ。
 勝敗がついたにも関わらず双方生き延びることとなった、奇妙な間柄でもある。そして何より――――

「そして、強くなったガドル……お前と、ダグバを俺が喰ってやる」
「……良いだろう。ならばもう一つ聞いておく……貴様の名をな」
「俺か……? 牙王。そう、全てを喰らいつくす牙……それがこの俺、牙王だ」



 E-4エリアに南下した五代達は、放送局へ向かって邁進を続けていた。
 このまま何も起きない場合、二時間も歩けば放送局へ到達できる見込みだ。
 そう。あくまでも、「見込み」だった――

「…………!?」

 結花がいち早く「異変」を聞き取った。それに光とイブキが反応し、更に五代とハナにも連鎖する。

「邪魔が入る様だな」
「ヒビキさん達の可能性は?」
「おそらく低いな。奴らは東からE-5を迂回する手筈だった」

 光が結花を匿うようハナに指示して、五代とイブキは彼女達にデイパックをそれぞれ返還する。
 二人が鍵の掛かっていない側の民家に入ったことを確認すると、残り三人は素早く音源へ向き直った。
 戦闘に備えてイブキが鬼笛を握り、五代はベルト――アークルを出現させる。
 その間も接近を続けたバイクが三人の視界に出現すると同時に光の足元が爆ぜ、彼女に跳躍を行わせた。
 側まで寄って停止したバイクの騎乗者は二名。オルタナティブ・ゼロと呼ばれる鎧を纏った牙王と、ボウガンで奇襲を決行したガドルだ。

 遡ること数十分前。
 D-4エリアに確認された五つの反応。南に移動していたそれらを追うことにした二人が最初に問題としたのは、距離だった。
 対象が停止しているのならばともかく、常時移動を続けていた反応と徒歩で距離を詰めるのは困難といえる。
 それを克服するのに必要な移動手段――バイクの入手先は保養所。ガドルが運用していたものを彼がオルタナティブへ変身して回収。
 伴っていた牙王に運転を任せD-4へ移動、再び南に表れた反応へバイクを走らせて、現状に至っていた。

「三人か……残り二人は逃げたか、そこの家にでも隠したか?」
「何のことだ」

 顔色一つ変えず光はガドルへ応対する。五人チームであることを読み当てられた事実はもう覆らない。
 せめて、その手段だけでも見極めなければ。光は身構えたと同時に、額から確かな冷や汗の感触を感じていた。

「ふん、惚けたって無駄だぜ。心当たりが無いなら、二人喰ったか? それならそれで、お前らは喰い甲斐がありそうだがな……」

(チッ…………首輪か。どこまでも足を引っ張る)

 自分達三人が「二人の同行者を伴っている」「二人の参加者を殺している」のどちらかと推測されるならば、可能性が高いのは首輪の数だろう。
 また、五人と予想したグループに対して二人で仕掛けるという辺りから自信も伺えた。
 いかなる手段で「五つの首輪」を探り当てたのか、光は思考を巡らせる。

(首輪を作った連中ならば、センサーの一つや二つ用意しても不思議ではないが)

 仮にセンサーや探知器の類が存在するとして、何故参加者に支給されているのかが頭に引っ掛かる。

(好戦的な連中ならともかく、使う者次第では殺し合いの抑止剤になりかねんというのに――――)

 思考を中断し、ガドルの腕が動くと同時にタイガーアンデッドへ変化。真横へと飛び離れる。
 ガドルがボウガンを剣へと変化させ、オルタナティブが腰元から一枚カードを引き抜く。
 スラッシュされたカードがその場で消滅する。

「変身!!」

 ソードベントの電子音は叫びと鬼笛の二重奏に掻き消され、端から見れば唐突にオルタナティブの右腕へスラッシュダガーが握られた格好となった。
 タイガーアンデッドの両翼には紫のクウガと威吹鬼が得物を構えて並び立つ。

「クウガ……」

 ガドルが紫縁の銀鎧を纏った戦士へと歩むのを見て、牙王は「クウガ」という存在を認識する。
 クウガからも、距離を詰めてくる眼前の戦士が未確認生命体であることは容易に判断できた。
 各部に施された装飾や、腰部に蓄えられたそれは間違いなく今まで倒してきた未確認、そして剣崎を殺した化け物と同一だった。
 ハナに連れられて住居の二階へと駆け上がり、窓から戦場を見下ろした結花が呟く。

「…………怖い」
「……うん、私も」

 空間そのものが内包する殺気の規模は、自分達が割って入れるものではないと二人が悟る。
 眼下では、真の開戦を告げる金管の音色が、高らかに鳴り響いていた。



 ――もし、木場さんや海堂さん、乾さんに啓太郎さんがここにいたら、こんな風に戦っているのでしょうか。

 私には、ただ見ていることしか出来ない。
 イブキさん達は私達を匿って必死に戦ってくれているのに、何もしてあげられない。
 隣にいるハナさんは、「いつでも戦える様に」といって黒いケースを握っているのに。
 私は城さんが返してくれた白いケースを、怖くてポケットにしまったまま。

 一体私は、何をしているのだろう。

 事ある毎に、余計な心配をさせていて。
 皆の足を引っ張って、放送局へ着くのを遅らせているだけ。
 けれど、この場から消える勇気がある訳でもない。
 今此処にいる『私』を失ったら、もう『私』は完全にいなくなってしまう気がするから。

 私が邪魔で、何の役にも立っていないことは私自身が一番良く知っている。
 それなのに、目にしている光景でイブキさんや城さんが傷つけられるのを目にすると、一人前に心配していて。

 ――そんな自分に嫌気が差した時でした。視線に気付いたのは。

 城さんとイブキさんを打ち払った黒い仮面が、私の方を見てきたのです。
 何となく、この後起こることが予測できました。
 仮面は腰からカードを抜き取ると、腕にそのカードを通しました。
 白いカードケースを使ったことがあるから、オルフェノクとは違う「怪物」が現れても、違和感は覚えません。
 バイクに姿を変えたのも、木場さんの変身を見たことがあるからそこまで驚かない。
 五代さんはもう一人の敵に動きを抑え込まれていて、城さんとイブキさんが仮面に攻撃します。
 そんな中で黒仮面がバイクに乗って、勢いをつけてからバイクを蹴って私達と外を隔てる窓ガラスへ――
 無感動に一連の流れを見ていた私に、横から力が加わりました。

「危ない!!」

 押し飛ばされて部屋を転がされた私は、突き飛ばした張本人のハナさんが窓から離れるのを見ました。
 瞬きをして改めてその光景を見ると、いつの間にかガラスの破片が背景に加わっていて、ハナさんの頬を一筋の朱が伝っています。
 もう一度同じ動作をしたら、今度は黒い仮面が部屋に入り込んでいました。

「こいつはいい。まさか隠れてたのがお前だったとはなぁ……」
「よ、よりによって牙王なんて……最悪」

 飛び散ったガラスの中で、一際大きな破片にハナさんがデッキを翳します。

「へ、変身」

 たちまち姿を変えるハナさん。その姿は、よくよく見れば私が『変身』した姿に似ていました。

「今の内に、逃げて!!」

 細剣を抜いて切り掛かるハナさんが言いました。ようやく恐怖を感じた私は、目前にあった部屋の出入り口へ走ります。
 無我夢中だった私を現実へ引き戻したのは、手の甲に刺さっていた小さなガラスという名の棘。
 昇ってきた階段の手前で、棘を払いながら一瞬考えます。
 私も『変身』して、ハナさんに加勢するべきなのか。言われた通り逃げ出すべきなのか。
 すぐに結論は出ました。

 ――逃げるしかない、と。

 イブキさんの時みたいに、邪魔をさせたくない。ただその一心で。
 邪魔な私は、荷物も持たずに無心で階段を降りていました。


 ガドルの振り下ろす剛剣が、異様な唸りを上げてクウガの頭上へ振り下ろされる。
 辛うじてタイタンソードが軌道を反らし、肩の鎧を掠めた。

「おりゃぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 好機と見たクウガが剣先をガドルの強靭な腹部へ向かわせ、突き刺す。
 刺さった感触は確かにあるのだが、問題はその次のステップだ。
 貫けない。限界まで体重を掛けて押し出すが、剣は遅々として進まない。何合か打ち合って両手が痺れているからだろうか。いや、違う。
 余裕綽綽といったガドルの左腕がタイタンソードを掴む。片手で軽々と剣を抜くと、右手に握るものと瓜二つの姿へと剣を変換した。

「ぐっ……超変身!!」

 剣を持たぬ紫のクウガなど、ただの鈍重な的――それを察した五代は姿を青に変え、一跳びで相互間の距離を広げた。
 結花とハナが退避した民家の二階が視界に映りこむ。割れた窓ガラスが侵入者の存在を主張する。
 救援に向かうべきか思考したことで隙が発生し、それは緑目のガドルが放ったボウガンを無防備な状態で受ける結果を招いた。
 紫だったら耐えられたかも知れない。自ら防御を捨てて回避をとったクウガ――五代には、意味の無い仮定ではあるのだが。

「五代さん!!」

 威吹鬼が音撃管を発砲するが、ガドルは動じない。
 ボウガンの標的を威吹鬼へと切り替えようとするが、既の所で引鉄を引くことなく右腕が蹴り上げられた。
 威吹鬼が気を引いた内に接近したタイガーアンデッドが、更にボウガンに爪を振るって地に叩き落す。
 元の飾りに変化したボウガンのことは忘れ、三人の敵を相手に立ち回ることのみを念頭に入れるガドル。
 五代達からすればチャンスであった。飾りを再び剣へと変えたガドルに捌かれてこそいるものの、攻撃を繰り返す度動きは僅かずつだが鈍っている。
 反射的にクウガを救援した光とイブキにはオルタナティブを放置するのが心苦しかったが、階段を駆け下りる音と刃物が打ち合う音の二種を聞き取ったことで迷いを振り切っていた。
 ガドルを倒した後に二階で交戦しているナイトかファムを救援するのが、最善手であることに疑いは無かった。
 威吹鬼が再び音撃管をガドルに向け、適当な棒を拾い上げたクウガとタイガーアンデッドが駆け出す。
 積み重ねた連携が、実を結ぶまでそう時間は掛からない「筈」だった。

「あっ……」

 カランカランと音を立て、ドアが開き結花が飛び出してくる。
 打ち付けられたドラゴンロッドを無視したガドルが、剣を三度ボウガンへと切り替えたのを威吹鬼は目にしてしまった。
 故に、彼は結花とガドルの間に迷わず割り込んでしまう。
 実の所、ガドルが結花を攻撃することは有り得ないのだが――ボウガンの発射音と獲物を見つけた黒龍の雄叫びがシンクロした。



 オルタナティブの突撃した部分と全く別方向の部屋から、身体中に傷を色濃く残した黒龍が出現する。
 労せずして獲物を食する千載一遇の機会だった。
 無防備な鬼と少女を一手に得て、散々甚振ってくれた男へと復讐する。
 だというのに、不幸な黒龍――ドラグブラッカーの思惑は、またしても外れる結果となった。
 ほぼ同タイミングで出現した蝙蝠――ダークウイングによる超音波が、一時的な停止を余儀なくさせる。
 意図して行われた行為では無い。オルタナティブ・ゼロに苦戦するナイトが、苦し紛れに一枚カードを使用しただけなのだ。
 同様に室内で苦しむオルタナティブに、ナイトがダークランサーで我武者羅に切り掛かった。
 少々腕っ節が強い程度の素人であるハナが行える攻撃では、最も効果的なものらしい。
 やかましい騒音の中では長時間捌ききれないため、一撃を加えてナイトを倒れこませると数分前と逆に窓から飛び降りる。

「やかましさが二倍増しだと思えば……お前までいやがったのか」

 もがき苦しむ黒龍を見て牙王がぼやく。超音波に続けてガドルと、態勢を立て直した威吹鬼の連射に相次いで行動を遮られている様子だった。
 クウガとタイガーアンデッドは牽制を終えたガドルに仕掛けている。
 想定外の事態を受け入れ、それでも皆が戦う中で、ただ一人生身を晒す女の姿が牙王の勘に障った。
 ドラグブラッカーに応戦する威吹鬼の傍らに隠れてながら結花は愚かな自分の選択を嘆いている。
 ここまで来てしまったなら、腹を括って戦うしか無いと思い始めた矢先、再び「仮面」と視線が合う。
 やはりカードを一枚オルタナティブはデッキから引き抜き、一切の情けも無く「アクセルベント」のカードを切る。
 猛烈な速度で一直線に、無防備な結花目掛けてオルタナティブ・ゼロが突撃。
 全くぶれの無いスラッシュダガーが肉体を貫き、盛大な鮮血がオルタナティブの装甲を、そして――




「イ……ブ………キ…………さん?」




 ――相変わらず無防備なままな長田結花の衣服を、紅く染めていた。


093:時の波 投下順 094:Fatality-Cross(後編)
時系列順
089:それぞれの思考 五代雄介
長田結花
城光
和泉伊織
ハナ
086:おふろでやりたいほうだい 牙王
ゴ・ガドル・バ
071:希望と絶望と偽りの顔(後編) ン・ダグバ・ゼバ
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