この言葉を知っている(後編)

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「…………」
巻き上がる土埃の中、アルビノジョーカーはただ無言でいた。視線の先には、今しがた振り下ろされた大鎌が、地面にめり込んでいる。
かすかに腕についた返り血は、アルビノジョーカーに何の感慨ももたらすことは無かった。
ただ、眼前に移る、自らの行動により引き起こされた「結果」を、如何にして受け止めるか――それだけを考えさせられた。

「ふん……それが、お前の本当の姿か」
そう、一文字は身を捻り、頬の皮一枚切らせて回避行動を成功させていた。
大鎌が一文字の真横をすりぬけた後、一文字はそのまま回転を行い、軸足を急激に捻るとともに、もう一方の足で大鎌を押さえ込み、地面に食いつかせたのだ。
そのままの体勢で、恐らくは手ごたえが無かったことにより、ほんの少し思考が空白となっているアルビノジョーカーに、声をかけたのである。
声に反応し、こちらを憎々しげに睨むアルビノジョーカーを、一文字は目を細くし、睨み返す。
白を基調とした肉体に、ところどころ禍々しい棘が突き出している。
胸の真ん中には目も眩むように赤い、いわゆるコアのような球体がむき出しになっている。
そして人ならざる瞳が存在する頭部には、カミキリムシを彷彿とさせる腰までありそうな長い触角が伸びており、真っ赤なバイザーから覗く顔面は、骸骨のように見えた。
――どこからどう見ても化け物だな――
一文字はそう考えながら、ほんの数秒、アルビノジョーカーと視線を絡ませた。
やがて、骸骨のような口が開き、言葉を発する。
「……いつ、気付いた」
喉の奥から響くような、禍々しい声が一文字の耳に届く。
そのあまりの不快さに一文字は軽く眉を顰める。
「……当然だが、怪しいと思っていたのは最初からだ。手塚ってやつのお陰で、ほんの少し警戒がとけてしまったがな」
一文字は追撃に備えて全神経を集中させながら、話を続ける。
「だが、俺のなかで確信を得たのは、放送の後のお前の反応だな。お前……俺の後部座席にいながら、放送局に行きたいと懇願したのは、ヒビキにだったよな?」
「…………」
「普通、本当に気が動転しているのなら、自分の乗っているバイクを動かせる人に頼むべきだよな?少なくとも、俺ならそうするだろうな」
「…………」
「お前は、俺に気付かれるのを心のどこかで恐れていたんだろうな。まぁ、俺よりヒビキの方が情に訴え易いというのもあっただろうが」
一文字が、アルビノジョーカーの目の前で、見下したかのような笑みを浮かべる。
それが癇に障ったアルビノジョーカーは、大鎌を握っていた左手を離し、一文字に向けた。
左手から光弾が発射されるが、一文字は悠々とかわし、横に転がりつつ追撃を防ぐ。
腰を落としつつ体勢を立て直すその瞬間、一文字は出現させたベルトに手を添え、手を滑らせた。
すると小脇にヘルメットがいつの間にか抱えられ、身体も、至る所に緑のプロテクターが施されたスーツに変化した。
立ち上がると同時に、バッタを模したヘルメットを頭上に高く掲げ上げ、勢いに任せ被ろうとした瞬間、アルビノジョーカーの声を聞く。
「お前の考えだと、もし俺が『本当にお人よし』だった場合の説明がきかない筈だが……?」

ヘルメットで顔が隠れ、唯一露出されている顎を隠す前に、一文字は口を動かす。
「残念だったな。実は俺も『本当にお人よし』なんだぜ?」
返答が済むと、一文字は顎の装甲を装着した。
ヘルメットの複眼が光り輝き、マフラーが棚引いた。ゆっくりと顔から手を下ろすと、変身を完了した改造人間――ホッパー二号が、そこにいた。

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「ふん!」
一陣の風のように、ホッパー二号はアルビノジョーカーへの距離を一瞬で縮めると、左拳を突き出した。
アルビノジョーカーはそれを大鎌の柄で受けとめる。様子見の一撃を受け止められた程度とホッパー二号は思い、右足による蹴りで追撃を仕掛ける。
がら空きだったわき腹に直撃し、アルビノジョーカーはうめき声を上げつつ、少し後ろへと蹴り飛ばされる。

まさか、実力行使に頼ることになるとは――アルビノジョーカーは、そう自嘲する。
上手く事を運んだつもりが、わずかな綻びから面倒な事態を引き起こしてしまったことを悔やんだ。
なにせ、一度敗北した相手なのだ。無防備なところを襲い、確実に息の根を止めてしまいたかった。
だが、こうなってしまった以上仕方ないだろう。アルビノジョーカーは半ば諦観し、戦って殺すための算段を練る。
前回負けたとはいえ、あの時点では実力は拮抗していたはずだ。アルビノジョーカーはそう考え、蹴られたわき腹の様子を見る。
(……これは?)
わき腹に走る痛みには、確かに違和感があった。
アルビノジョーカーの頭の中で、色々な考えが巡る。前回の戦闘と、今回の戦闘で決定的に違うもの――

「はぁっ!」
だが、答えを見つけるには至らなかった。ホッパー二号による飛び蹴りが、アルビノジョーカーの思考を中断させる。
アルビノジョーカーは、凄まじい速さでこちらに向かってくる右足に対抗し、両腕を交差させる。
済んでのところで防御に成功すると、衝撃をそのまま両腕で受け止め、更に力を込め、前に押し出す。
「ぉおおおお!」
アルビノジョーカーは腕にかかる負荷をものともせず、力任せにホッパー二号を押し返す。
前に突き出された両腕が左右に開くと同時に、行き場を失った力の反発によりホッパー二号は弾き飛ばされた。
「ちっ」
ホッパー二号は舌打ちをすると、空中で一回転し、着地する。その時、一瞬だけ全身の力が抜け、膝を崩しそうになるが、すぐに持ち直す。
(リジェクションか!?クソ……せめて、この戦いが終わるまでは、もってくれよ……!)
バイクに乗っていた時は、何とか平静を保つことが出来たが、戦闘では、僅かな機微が命取りになる。
定期的に襲い掛かるリジェクションの前兆が、ホッパー二号には早期決着を余儀なくしていた。
リジェクションによって身体に負荷がかかってしまったら、恐らく勝ち目はない。そんな相手を目の前にしているのだ。

腰を深く落とし、一瞬ためを置いてから、ホッパー二号はアルビノジョーカーへと突撃する。
加速を付けた右拳を顔面に叩き込もうとするが、
「同じ手を、食うかぁ!」
アルビノジョーカーが横にスライドするように動き、突きは虚しく空を切る。
外したことによりバランスが崩れ、ほんの一瞬隙が出来る。アルビノジョーカーはその隙を見逃さず、大鎌でホッパー二号の背中に渾身の一撃を叩き込んだ。
「がはっ!」
凄まじい衝撃を背中に受け、ホッパー二号は苦痛の声を上げる。たまらず膝をつき、血反吐を地面に撒き散らす。
そんなホッパー二号の姿に、アルビノジョーカーはチャンスとばかりに、顔面に蹴りを入れた。
なすすべも無く吹き飛ぶホッパー二号に向け、左の手のひらを持ち上げる。
「こいつも、持っていけ」
アルビノジョーカーが呟くと、左手が輝き、光弾が発射された。
遠ざかるホッパー二号にニ・三発当たると、ホッパー二号は更に勢いをつけて地面に叩きつけられた。
それでも尚連射される光弾は、容赦なくホッパー二号の周りに降り注ぎ、やがて土煙が視界を奪うほどに舞い上がった。
だが、アルビノジョーカーは執拗に光弾を連射し続けた。大半は土を抉るだけのようだが、時々、地面とは違う音がした。
アルビノジョーカーは、その音が何より心地よかったのだ。

「ハッハッハ!もう粉々にでもなったかな?」
舞い上がる土煙を少し離れた場所から眺めつつ、アルビノジョーカーはそう言った。
これだけやる必要は無かったのかも知れないが、主導権を握ったと確信したからには、必ず息の根を止めなければならなかった。
だから念には念を入れて、姿が見えなくなっても光弾を発射し続けたのだ。
しかし、何の声も聞こえなくなったところを見ると、恐らく殺害に成功したのだろう。
その結果に満足したアルビノジョーカーは、楽しさを堪えきれずに、大声で笑いを上げた。

と、その時。舞い上がる土煙から、突然何かが飛び上がってきた。
「とぉぉぉぉお!!」
「なっ!」
絶叫を上げつつ、ホッパー二号が飛び上がった。プロテクターは砕けている箇所や欠けた箇所があった。
ヘルメットの触覚のようなものは片方が中ほどから折れており、複眼は右目にひびが入り込んでいた。
そんなぼろぼろの状態で、どうやって――アルビノジョーカーがそう考える間もなく、ホッパー二号はアルビノジョーカーに向けて蹴りを放ってきた。
「はああああああああ!!」
二度目の絶叫を上げ、渾身の蹴りをアルビノジョーカーへと打ち込む。
慌ててアルビノジョーカーは防御の体制をとるが、間に合わずに不十分な体勢で蹴りを受け止めた。
「ぐっ、がぁあ!」
吹き飛ばされこそしなかったものの、衝撃の大部分を身体で受け止めたアルビノジョーカーは、後退させられ、緑色の血を口から吐き出した。
「悪いな。俺はまだ、死んでやる訳にはいかないからな!」
叫び、ホッパー二号はアルビノジョーカーに詰め寄る。
何故か微動だにしないアルビノジョーカーに、ホッパー二号は遠慮なく拳を叩き込んだ。
何度も何度も連打するが、まるで反応を示さないところをみると、やはり先ほどの蹴りが効いたのだろう。
ホッパー二号はそう考えると、とどめを刺すため、全力の右拳を胸に放った。

「何っ!?」
だが、その拳は寸前で止められた。突然動いたアルビノジョーカーに、腕を掴まれたのだ。
驚愕の声を上げたホッパー二号を前に、アルビノジョーカーは笑みを含んだ声で口を開いた。
「くっくっく……そうか、さっき感じた違和感はこれだったか!」
そう言うと、アルビノジョーカーは掴んだ右手ごと、ホッパー二号を投げ飛ばす。
何が起きているのか分からないホッパー二号は、すぐに立ち上がるものの、迂闊に手を出せずにアルビノジョーカーを見据えた。
「軽い……軽いんだよ、一文字!お前の攻撃がなぁ!!」
心底楽しそうにアルビノジョーカーは叫び、ホッパー二号を指差す。ホッパー二号は、その言葉に動揺を隠せないでいた。
――俺の攻撃が、軽い?手を抜いた覚えも、情けをかけたつもりもないのに――
ホッパー二号は、脂汗が滲み出るのを感じた。どうしようもなく立ちすくんでいると、アルビノジョーカーは言葉を続けた。
「前に、お前と戦った時は、俺は確かにこの姿では無かった……でもこの差は、それだけでは説明が付かない……お前、持病持ちかな?」
気付かれていた!そんな思いが、ホッパー二号の頭を突き抜けた。恐らく、バイクの上での表情を見られたのだろう。
目の前の化け物は、どうやら自分より一枚上手らしい。その上――強い。
前回の手ごたえから、リジェクションというハンデがあったとしても勝てない相手ではないと思っていたが、認識が甘かったらしい。
ホッパー二号はそう感じるが、それでも闘志は無くさなかった。何があろうと、負けるわけにはいかないからだ。

「確かめてみりゃいいだろ。お前程度にそれが出来るんなら、な」
精一杯の虚勢を張り、アルビノジョーカーへと殴りかかる。
だが、繰り出した拳はことごとく受け止められ、更には反撃のおまけまでも貰ってしまう。
それならばと、足払いを仕掛ける。狙った足は避けられてしまうが、そこまでは想定の範囲内。
顎を狙ったアッパーへと繋げるが、大鎌で受け止められ、膝蹴りのカウンターを腹に受ける。
腹を押さえてうずくまり、アルビノジョーカーを睨む。アルビノジョーカーは、すぐそこでホッパー二号を見下していた。
「弱いなぁ、一文字!」
そう言うと、アルビノジョーカーはホッパー二号を蹴り上げ、地べたに這い蹲らせる。
さらに、生かさず殺さずとでも言うかのように、急所を外して大鎌できり付け始めた。
ホッパー二号の身体の至るところから血飛沫が上がり、激痛が走る。悲鳴だけは、最後の意地として上げなかった。

「それじゃ、死んでもらうかな。じゃあな、一文字」
血まみれになったホッパー二号へ、ゆっくりと右手が向けられた。
その手のひらが発する輝きを、ホッパー二号はただ見つめていた。


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いつの間にか、一文字は真っ白な世界にいた。一体何が起きたのか、理解が出来なかった。
辺りを見回すが、白以外には何も無かった。自分が立っている場所も、向こう側も、空も。
わけもわからずこんな場所にいるという事が、一文字にとっては不愉快に感じた。
だが、突然目の前に現れた人物の存在に、あらゆる考えが吹き飛んでいった。

「本……郷?」

そこには、微笑を浮かべた、この殺し合いの場で死んだはずの戦友がいた。
なぜこんなところに?そんな思いが浮かんだが、この状況に既視感を覚え少し考え込む。
そして、数時間前の出来事を思い出し、ふっと笑う。

「そうか……俺を、迎えに来たんだな?」

恐らく、自分はもう死んだのだろう。一文字はそう考えた。
まだ本郷が死んだということを知らなかった自分に、夢の中にまで現れて、別れを告げるような男だ。
きっと今回も、自分が死んだ事を知って、わざわざ迎えに来たのだろう。全く、死んでからもお節介な奴だ。
一文字はそう思いながら、本郷を見た。

本郷は、少し困った顔をしたあと、苦笑いをしながら顔を横に振った。
その後、真顔になり、胸の前で握りこぶしを作り、一文字の顔を真っ直ぐに見た。

「……俺はまだ、生きてるってか? もう少し、頑張れって言いたいのか?」

本郷はその言葉を聴くと、笑顔で頷いた。人間の黒い部分を、普通より多く見続けた男の顔とは思えないほどの笑顔だった。
そのあまりに無邪気な笑顔に少し絆されそうになるが、現実の状況を考えると、一文字はつい愚痴りたくなった。

「無茶言ってくれるよな……俺はもうボロボロだぜ?全力でやってあの状況だ……もう無理だろ?」

そう一文字が呟くと、本郷はまた首を横に振る。しかし、先ほどのように、苦笑いでは無かった。
いつか見た、決意した男のような……共に死線を潜り抜けた、戦士の顔だった。
まるで、『お前の力はそんなものじゃない』と言ってくれているようだった。

「……わかったわかった。お前が言うなら、多少は無茶もしてやるさ」

少し呆れて、だが心強い激励をもらったような気がして、一文字は言葉を放つ。
それを受けて、本郷がまたも笑顔になる。一文字は、その笑顔をみると、何故か本当に出来るような気がしてきた。
と、周りが眩い光に包まれる。少しづつ、本郷の姿が見えなくなってくる。

「ま、あっちで大人しく待ってろよ。ちょくちょくお前に呼び出されちゃ、俺も適わないしな」

一文字がそう言うと、本郷がかすかに唇を動かした。声は聞こえなかったが、『大丈夫だよ』と言っていることが、何故か理解できた。
その唇の動きに合わせて、本郷が左手を腰に当てる。そのすぐ後に、右手を動かした。
指先まで伸びきったその右腕は、ゆっくりと胸の前を通過し、左肩の近くで停止する。
その本郷の動きを、一文字は黙って見つめて、強く頷いた。

――大丈夫だよ、一文字。だって、お前は――

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ホッパー二号が目を覚ますと、アルビノジョーカーの右手が目の前に見えた。
もう自分が抵抗をしないのだと判断したのだろう。左手に移し変えた大鎌は地面に下ろし、すぐには構えられない位置にあった。
さらに、右手は光を放つばかりで、いつまでも光弾は発射されずにいる。チャージでもしているのか、或いは自分の反応を楽しみたいのだろう。
すでに勝った気でいるアルビノジョーカーは隙だらけだった。右拳を握り締め、がら空きの腹に狙いを定める。そして――

「ライダァァァァァーーー!!」
「!?」

叫ぶと同時に起き上がり、懐に潜り込む。まさかまだ余力を残してるとは思わなかったアルビノジョーカーは、反応が格段に遅れた。

「パァァァァァーーーーーーーンチ!!」

そのまま、腹部に正拳突きを突き刺す。今までのどの攻撃よりも、手ごたえを感じた。
「がはぁ……!!?」
腹を押さえて、アルビノジョーカーがたたらを踏む。予想外のダメージに戸惑っているようだ。
アルビノジョーカーは、信じられないといった目でホッパー二号を見上げる。そして、歯を食いしばると大鎌で斬りつけてきた。

「ライダァァァーーーー!チョォォォーーップ!」

だが、ホッパー二号は刃を潜り抜け、大鎌を中央からチョップで叩き折った。
「馬鹿なぁ!!」
アルビノジョーカーは叫び、二つに分かれた大鎌を握り締めたまま、ホッパー二号を見た。
今まで圧倒していたはずの敵が、今度は逆に圧倒的な力を用いて反撃をしてきた。その異常な事実が、アルビノジョーカーに冷静な判断力を失わせた。
一文字の心を投影したかのような、煌々と輝くホッパー二号の複眼に僅かな恐怖を抱いたが、怒りと悔しさから我武者羅に攻撃をしかけた。
「がぁあぁぁああぁあああああああ!」
叫び声を上げながら光弾を発射するが、まるで当たらない。掠りすらしない光弾に、アルビノジョーカーは焦りと苛立ちを覚える。
攻撃を掻い潜りながら詰め寄ってきたホッパー二号に、アルビノジョーカーは左拳を突き出した。
だが、その拳は受け流されるだけでなく、絡めとられて、一瞬のうちに投げ飛ばされる。
「ぐふっ!」
背中から叩きつけられ、アルビノジョーカーは潰れたような声を上げる。
すぐに立ち上がり、辺りを見回すが、ホッパー二号は視界から消えていた。
標的を見失い、焦るだけのアルビノジョーカーに、天から声が届いた。

「ライダァァァァァァァァァァーーーー!!」

――あぁ、大丈夫さ。本郷――

「何っ!?」
力の限り叫んだ、もはや雄叫び以外に形容しようがない声に、アルビノジョーカーは硬直した。
見上げた先には、ホッパー二号が今までのどの技よりも、威圧感を放ちつつ飛び上がっていた。
高く、どこまでも高く。

――なぜなら、俺は――

「キィィィィィィィィィィーーーック!!!」

――この言葉を、知っている!――


############################


「馬鹿な……馬鹿なぁぁぁぁぁぁ!!」
――もはや肉体の限界を超えているであろう、あの傷で!
――なぜここまで戦える!
――認めない!俺は認めないぞ!!


明らかに改造人間のスペックを超える速度で迫るホッパー二号に、アルビノジョーカーは心で叫ぶ。
このままでは、何が起きたのかすら理解もできず、あの蹴りに砕かれてしまうだろう。
だが、避ける手段も防ぐ手段も思いつかない。混乱する頭では防御という考えすらまわらずに――

「ぐあああああああああああああああああああああああああ!!!!」

『ライダーキック』を、その身で味わうこととなった。


##############################


「終わった……の……か……?」
変身が解けた一文字は、息切れをしながらアルビノジョーカーの行方を見つめる。
激しい土埃のなか、志村の履いていた靴が、その方向に落ちているのが見えた。
全体像は見ることが出来なかったが、夥しい緑色の液体があたりに散らばっているのだけは確認出来た。
よく分からないが、機械のものであろう部品も落ちていた。

「倒した……ようだな……」
一文字は、それを見届けた後、大の字で地面に寝転がり、空を見上げた。
とても殺し合いが起きているとは思えないほどの青さで、雲もゆっくりと流れている。
一仕事終えた後だと、尚更それが心地よく見えた。

「まったく……感謝するぜ、本郷……」
あの時、夢で見た本郷の行動。一文字は、ほんの少しだけ理解出来た気がする。
何故かはわからないが、心も身体も奮い立たせ、自分の実力以上の力を発揮できたようだ。
恐らく、あの言葉は、まじないやジンクスとかとはまた違った――陳腐な言い回しだが――魔法の言葉なのだろう。
だが、いちいち叫ぶのは自分の性に合わない。これからも、よっぽどの事でもない限り叫びはしないだろう。
一文字は、そんな事を思いながら、少し口元を緩めた。

この後、どうしようかと一文字は思考する。
放送局に行くと提案したのは志村だ。今更、放送局に向かう義理もないはずだ。
だが……放送の主がどうなったのかは、一文字にも気になるところである。
身体を休めた後、入るだけは入ってみよう。そう考え、一文字が日陰に歩き出そうとしたその時、背後で何かが動いた音がした。

と同時に、激しい勢いで後ろに引っ張られた。

「今のは本当に効いた……本当に、もうダメかと思ったぞ……!」

首を絞められながら、聞き覚えのある声が聞こえてきた。振り向くまでもない、志村だろう。
激しい怒りの込められたその言葉は、そのまま首を絞める「何か」にも伝わってきた。
少しずつ血の気が引くのを一文字は感じながら、志村に疑問をぶつけた。
「貴様……なぜ生きて……!?」
「足元をみてみるんだな……!」
志村にそう言われ、自分の右足を見る。太もも、膝、脹脛と続き――足首が、なくなっていた。
機械部分がむき出しになり、素人にはよく分からない部品を落としながら、電気を帯びていた。
何故、こうなったのか?それは、他でもない自分が一番よく知っている。
簡単に言うと、無理をしすぎたのだ。あれほどのダメージを受けながら、痛みを無視して肉体の限界を超えた。
それに加え、最後の一撃にはありとあらゆる力を使い切ったのだ。恐らく、過負荷に足が耐え切れなかったのだろう。
「俺に当たった瞬間に砕け散った……! お陰で、俺は生き残れたってわけさ……!!」
そう志村が言うと、更に力を入れて「何か」で首を締め付けた。首の周りが斬れ、血が滲み出てくる。

(惜しかった……んだが……な……)
遠くなる意識の中、一文字はふと、一人の女性の姿が頭に浮かんだ。
この殺し合いの場で出会った、ハナという女のことを、最後まで守り通せなかったことを悔やむ。
一文字は、彼女が生きて帰れるように、心の底で祈った。
そして、意識が途切れる寸前、文字通り最後まで力を貸してくれた親友に、言葉を残した。

「本郷……俺は……お前みたいには……やれない……な……」

次の瞬間、一文字の首と胴体が分断された。

##############################

ワイヤー内蔵型指輪をしまい、志村は疲れた顔に、笑顔を浮かべていた。
「ははは……! まったく、梃子摺らせてくれたな……」
目の前に転がる一文字だったものに、志村は話しかける。
もちろん、返事など期待していないが、死して尚自分に溜まったストレスが発散されないのだ。
それ故、そこにあるのが死体だろうがなんだろが、とにかく怒りをぶつけたかった。

「これはあり難くもらっておくぞ」
そういうと志村は、一文字の首を持ち上げ、そこについている首輪を抜き取る。
人の首にしか付いていないものを持ち歩く、というのは、それだけで疑われそうだが、首輪の解除にはどうしてもサンプルが必要なのだ。
それに、見せなければ問題はない。仮に見つかったとしても、灰になっていた場所の上に落ちていたなど、多少苦しくても言い逃れは出来る。
とりあえず、これを調べることが出来る条件が揃うまでは、持っていて損はないだろう。
そう考えた志村は、首輪をデイパックの奥深くへとしまう。

「さて……」
一文字の荷物も、必要なものを自分のデイパックへと入れると、志村は放送局に向かい始めた。
思ったよりも時間がかかってしまったが、放送局へ行くと言った手前、中の様子を知っておかないといけないだろう。
中に敵がいる可能性もあるが、一応はライアのデッキも持っている。殺すとまではいかずとも、逃げ出すことは出来るはずだ。
問題は、早々に橘チーフに遭遇してしまう場合だが……適当に誤魔化して、別行動を取ればいいだろう。
自分が覚えている中でも、もっとも騙しやすい人種なのだ。分かれて動き、自分が危険ではないと触れ回ってくれればそれでいい。
今は、無理に利用する必要はない。
後は、手塚やヒビキだが……三回目の放送が始まる前には、合流しておきたいところだ。
『一文字が死んだ』と彼らが知れば、間違いなく最初に疑われるのは自分だ。出来れば、そうならないように放送前に手を打つ必要がある。

「ぐっ!」
そう考えをめぐらせていると、突然胸に痛みが走った。『ライダーキック』を受けてしまった場所である。
『ライダーキック』……志村の世界にも、カードを使用して使うことの出来る技に、酷似したものがある。
しかし、少なくとも志村が知る中では、一文字が放ったキックは、自分の世界のキックを遥かに凌駕していた。
もし、まともに受けていれば……?
もし、一文字が全快の時に受けていれば……?
(仮定なんてどうでもいい!勝ったのは俺なんだ!)
ふと、頭をよぎる考えを無理やり振り払い、志村は放送局へ向かう。
生き残るため、これからの策の下積みのため――そして、神となるため。



【一文字隼人@仮面ライダーTHE FIRST  死亡】

【残り32人】

状態表




【志村純一@仮面ライダー剣・Missing Ace】
【1日目 現時刻:午後】
【現在地:G-3 放送局裏】
[時間軸]:剣崎たちに出会う前
[状態]:腹部に軽度の火傷(応急手当済、治癒進行中)、胸に中程度のダメージ、強い疲労。2時間変身不可(アルビノジョーカー)
[装備]:無し
[道具]:支給品一式、ラウズカード(クラブのK、ハートのK)@仮面ライダー剣、蓮華のワイヤー内蔵型指輪@仮面ライダーカブト、
    ライアのカードデッキ@仮面ライダー龍騎、特殊マスク、ホンダ・XR250(バイク@現実)、首輪
【思考・状況】
基本行動方針:人間を装い優勝する。
1:放送局の中を確認する。ヒビキ達との合流は第3回放送前には済ませたい。
2:もう慢心しない。ダグバなどの強敵とは戦わず泳がせる。
3:馬鹿な人間を利用する。鋭い人間やアンデットには限りなく注意。
4:誰にも悟られず、かつ安全な状況でならジョーカー化して参加者を殺害。
5:橘チーフを始め、他の参加者の戦力を見極めて利用する。自分の身が危なくなれば彼らを見捨てる。
6:『14』の力復活のために、カテゴリーKのラウズカードを集める。
7:放送局内で橘チーフと遭遇した場合、理由を付けて離れる。







102:この言葉を知っている(前編) 投下順 103:牙の本能
102:この言葉を知っている(前編) 時系列順 103:牙の本能
102:この言葉を知っている(前編) 日高仁志 109:Traffics(前編)
102:この言葉を知っている(前編) 志村純一 105:病い風、昏い道(前編)
102:この言葉を知っている(前編) 手塚海之 109:Traffics(前編)
102:この言葉を知っている(前編) 一文字隼人(リメイク) ---
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