龍哭(中編)

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龍哭(中編)

川辺に沿って進む、男が二人。二人ともまだまだ若く、青年というよりも少年といったほうが近い気さえした。
二人の間に会話は無く、片方が進めば後ろがそれに追いつくように進む。ずっとこれの繰り返しだ。
あまりにも静か過ぎるこの状況は、後ろの男――――三田村晴彦の緊張をどんどん張り詰めさせていく。
いつどこから襲撃があるかというのもそうだが、一番の懸念は目の前を歩く、東条悟の存在そのものだった。

(大切な人……殺して英雄になる、なんて馬鹿げているな。)

心の中でだけ、そっと呟いた。英雄の話をする東條に宿った輝きは、本気としか言いようの無い輝きだ。
あの輝きは以前見たことがある……そうだ、北崎。つい二時間ほど前に逃げ出してきた、恐るべき龍人の仮面ライダー。
東條や北崎は互いに同じ側の存在だということはすでに承知している。人を殺すことを躊躇せず、自分のために突き進むところなどそっくりそのままだ。
ただ興味の無いものに対して、とことんまで排他的なところも似ているとまでは思っていなかった。
少し前に放送を行った橘とかいう男に対しても、最初こそ放送をじっと聞いていたものの、終わったら何事も無かったかのようにまた歩き始める。
怪訝に思い、放送のところに行かないのか?と問いかけて見れば、

「…………行きたいの?」

と、あからさまに機嫌の悪そうな声で返された。さながら蛇に睨まれた蛙のように……もっとも、この場合睨まれている側が蛇なのだが。

「い、いや……」

ぎこちない声で否定の意思を伝えると、今度は詰まらなさそうな表情を浮かべながらまた歩き出した。
東條から聞く限りでは、城戸真司や「先生」とやらはこの殺し合いに乗るような人間じゃないらしい。
だったら、龍騎のデッキを持つ真司は放送の元に向かうのではないか?
もしくは、放送の元へ向かえば「先生」とも出会えるのではないか?
などと言うことは容易に想像できる――――心や頭でわかっていても、その言葉を口にすることは出来なかった。

(……怖がってるんだろうな、東條のこと。)

あまりの不甲斐なさに、笑みがこぼれてくる。
病気に侵されていた体を捨て人としての限界を超えたというのに、知り合って間もないただの人間一人におびえている自分に対しての、自重の笑みが。
迂闊な事を言って、機嫌を損ねでもしたら待っているのは明確な死だ。改造人間の晴彦にそう思わせるほど東條は大きな存在だった。

(でも……俺は死ねない。)

愛する人の顔が浮かぶ度、心なしか地面を踏みしめる力が強くなる気がする。こんなところで震えてとまっている場合ではない、とでもいわんばかりに。
なんとしてでも生き残る……そのためにも東條を最大限利用し参加者を減らしてもらう。だから、今はこの恐怖にも耐えなければならない。
幸い改造人間のことはまだ知られていない。いざとなったら戦闘で消耗したところをコブラで仕留めればあるいは――――

「三田村君、あれ。」

はっと気がつくと、いつのまにか前方に壊れかけの建物の姿。林なんてとうに抜けきっており、今はもう小高い丘のような場所に立っている。
東條の指は今まさに建物の中に入ろうとする男たち、その一番左にいる茶髪の青年を指していた。
常人には見えないだろうが、コブラの特性を持って生まれ変わった三田村の目は、その青年のポケットからはみ出す黒い物体を捉えていた。
黒い背景に四角い角、ほんの少し見える黄金色のモールド。先の戦闘で自分が使ったシザースや、東條の持つタイガののカードデッキと酷似している。
視線を東條に向けると、まるでこちらの考えていることがわかるかのように頷き、口を開いた。

「あいつが――――」



「――――城戸真司だよ。」


「何だ貴様は? 許可も無く人の庭に入り込んで……」
「ねえ、君たちは仮面ライダー?」

乃木が威圧を与えてみるが、相手はまったく気にしていない。それどころかこちらに対して仮面ライダーかと問いかけてくるではないか。

「違う、といったらどうする?」
「そう、じゃあ……」

ふ、と白い服の青年が微笑んだかと思うと、その傍らに真っ白な怪人の影が重なって映る。ゆっくりと右手を持ち上げ、異形となった白い指を突きつけた。
何の真似だ……と言う前に、乃木の体に違和感が走る。身に着けた服から炎が噴出し、乃木と傍に居た北條の腕を炙った。

「クッ!」

すぐさま乃木怜治の擬態を解き、本来の姿であるカッシスワームへと変貌する。間髪入れずにクロックアップを行い、北條を抱えて炎から退避した。
離れたダンボールの上に放り投げた瞬間、切り離された時間が元の速度へと戻った。こんなところまで制限がかかっているのかと歯噛みしながら、侵入者と対峙する。

「ぐっ……あれは、第0号!?」

白い怪人、ダグバはそのワードに聞き覚えがあった……確か、リントが自分たちを呼ぶ仮の呼称のはず。
再び超自然発火を起こそうとするも、北條の位置はギリギリ射程範囲外だ。近づいて行こうとする足を、見えない斬撃が襲った。

「遅いな、そんな事では俺に追いつくことなど到底不可能だ。」

首筋に当てられた刃をたどって行くと、そこにいたのは紫の甲殻に覆われた巨大な蟲。ダグバにとって、初めてであったリントでもグロンギでも無い存在だった。
左手を押し当て、カッシスへ向けて瞬間的に炎を巻き起こした。が、火の手が回る前にその影が掻き消えてしまう。
胸に一撃走ったかと思えば、左足の肉が薄く削ぎ落とされ、次の瞬間には右の角に僅かな傷が刻まれた。

「どうした、その程度か!?」

加速した声はダグバに届かないとわかっていても、その物足りなさに叫ばずに入られなかった。両の武器をあわせ、完全に無防備なベルトへと繰り出す。

(これで止めだ……ッ!?)

一瞬カッシスは我が目を疑った。クロックアップはまだ持続しているのに、時間の外にいるダグバがベルトへの攻撃に介入してきたのだから。

「ふふっ、見つけた。」

相手の声が耳に入り込んだ。加速の解けた証拠に、ミシ、ミシリと刃に亀裂が入る音まで聞こえてくる。
刃と繋がった腕が捻り上げられ、カッシスワームの巨体が宙に浮いた。必死に力を込めるも押し返すことはおろか、ほんの少し動かすことすらままならない。

「チィッ……」

左右の足で蹴りを互い違いに打ち込み、渾身の一撃を避けられないように固定する。異変に気づいたダグバが顔をしかめるが、もう遅い。

金属同士をぶつけ合わせる重い音が響き、ダグバの額から暖かい液体が溢れ出た。目に流れ込んでくるそれが赤い色をしているのを見て、ようやく額を割られたのだと気づいた。
本来ダグバの角、特に紋章が描かれた額はベルトと並び最も硬度が高い部位だ。そこを砕き、血を流させるなど生半可な硬度では到底不可能だ。

「ククク……まさかこれが役に立つとは。」
目には目を、歯に歯を――――角には、角を。カッシスワームの体表は、かつてサソードのライダースラッシュを受けても傷一つつかなかったほどである。

巨大な角は勿論の事、その鎧は文字通り頭の先からつま先までの至る所を覆いつくし形成している。ダグバの皮膚を貫いても、なんら不思議は無い。
ほんの少しだけ拘束が緩む。その僅かな隙を見逃さず、三度目のクロックアップで出来るだけダグバから距離をとった。
クロックアップの効力がまだ続いているうちに右手をダグバの方へと向け、パチン、と指を打ち合わせる。今こそカッシスワームの能力を見せ付ける時だ。

「自分の炎を、食らうがいい。」

その瞬間、ダグバの体から真っ赤な炎が立ち上がった。
カッシスワーム第二形態、グラディウスの能力は受けた技のコピー。一番初めに頂いた炎の分を今、返しただけに過ぎない。
人間だろうがワームだろうがなんだろうが、体から炎が噴出せばひとたまりも無いはず。事実、目の前のダグバもいきなりの出来事に我が目を疑っているらしい。

「……まさかね。」
「何!?」

しかし、彼にも『究極の闇には超自然発火が効かない』という誤算は予期していなかった。
信じられないといった風に掌を見つめていたが特別苦しんでいる様子はない。手を横なぎに振り払うと、炎は白い肌を焦がすことなく燃え尽きた。

「やっぱり……クウガじゃなければ駄目なんだね。」

ダグバの青い切れ長の目がギロリ、と煌いた瞬間、カッシスの体をかつてないほどの威圧感が襲った。

(目が合った……いや、そんなはずはないか。)

クロックアップ中の存在を探知するなど考えられない。即座に身構えるが、ダグバの動きは鈍いまま……何かの間違いだろうと納得する。

「……」
手近なダンボールを掴み、ダグバがカッシスのほうを睨み付ける。ゆっくりと振りかぶって投げつけたかと思うと、一瞬でそのダンボールを発火させた。

(何のつもりか知らんが、届くまでに燃やし尽くしてくれる。)

ダグバ同様に手を突き出し、ダンボールに超自然発火現象を引き起こす……が、火の手は強くならずにカッシスにぶち当たった。

「ちっ、コピーは一度限りか……!?」

炸裂したダンボールから、何かの粉が飛び散って視界を遮る。開発用の原料か何かだろうか、床の炎が微かに引火していた。

……待て、煙の回りが速すぎる。これではまるでクロックオーバー――――

「ッ!?」
「やっと気づいたね。」

いつの間にか懐に潜んでいたのは、さっきまで離れた場所にいたダグバ。さっきの違和感を、勘違いで片付けるべきではなかった。
ダンボールを投げる直前、動きが鈍いままだったのはフェイク。あの時、すでにカッシスワームのクロックアップは解けていたのだ。
勿論解いた覚えもないし、加速が終わりを告げれば気づくはず……その自覚を阻害した要因に、カッシスは心当たりがあった。

「さっきの気当たりか……チッ!」

ダグバの超感覚は、五感全てを特化させたクウガのペガサスフォームを凌ぐ超感覚を持つアルティメットフォームとほぼ同等の感度を持つ。
ダグバの気は、人間態のままでありながらクウガのペガサスフォームを一瞬で押しつぶし、グローイングフォームへ弱体化させる凄みがある。

首輪の制限下にありながら衰えを見せないこの二つの能力なら、如何なクロックアップでも強引に引き戻すことなど造作もない事。
後は時間の流れに沿うよう体をゆっくりと動かし、緩やかな軌道を描くように力を抑えて投げればこの通り。カッシスに隙を生ませる事が出来た。
眼前に迫った硬質的な白の仮面に、ニィと笑みが浮かぶ。自分が割った額の血が、皮肉にも恐怖をかきたてるエッセンスとなった。
肘の突起が鎧に触れ、ここに来てダンボールを投げた意図を掴んだカッシスは、絶叫を上げようとする。

「やめ――――」


ガッ、と一撃を浴びせ火花が生みだす。その火花は、さながら爆弾のように周囲の粒子ごと爆ぜた。

「っぁ!」

爆発の余波を受け、北條が吹き飛んだ。離れた場所にいたため彼に対して直接の被害は無いが、中心地の二人の姿は爆炎に包まれて一切見えない。
砂塵爆発、可燃性の粒子が立ち込めている所で火を散らすと、連鎖爆発を引き起こし威力を何倍にも膨れ上がらせる現象。北條の知る範囲ではそれが一番近いものだった。
さて、どうしたものか……と考え始めた瞬間、炎の中から一人の影が顔をのぞかせた。所々黒く焦げてはいるが、元は白い服であることが伺える。

「第0号のほ……」

言葉の途中で、体が見えない何かに引っ張られ……いや、抱えられていく。薄っすらとだが紫の影が工場内から飛び出した。
一部始終を見ていたダグバはため息をほうとついた後、ダンボールの上へと寝転がり天井を見つめる。額の血は既に止まって、固まり始めていた。

「逃げられちゃった。」

一言呟くとよほど爆発の衝撃が強かったのか、そのままうつうつと眠ってしまった。


「ッハァ、ッハァ」

ワームの姿から戻った乃木は、爆発のダメージとクロックアップの全力疾走の疲れで倒れこんだ。
認めたくは無いが、あの場は逃げ出すしかなかった。その選択肢しか取れなかった自分に苛立ちを抑えきれず、思わず歯軋りをしてしまう。
一方北條は地図を広げ、自分たちが今どのエリアにいるのかを確認する。工場が大分遠くに見えることを考えると、大体C2かC3エリアといったところか。
休める施設を探していると、ふと保養所――――よつば療養所の名前が目に入る。手早く荷物を纏めると、息も絶え絶えな乃木に語りかける。

「すみませんが、もう少し歩きませんか?」
「なんだと?」
訝しげな表情の乃木をなだめ、一番近くにある施設が休養と首輪の手がかりを兼ねている事を伝えた。
しばらく考えていた乃木は不意に、デイパックに入っていた飲料水をぶちまけ、同じく取り出した紫のデッキを掲げる。

「変身。」

王蛇の装甲に現れると同時に、少し離れていろとの命令が伝えられる。逆らう理由も無いため四歩ほど後ろに下がると、王蛇の杖から電子音声が鳴り響いた。

―― ADVENT ――

刹那、紫の大蛇が水溜りを突き破って天に舞い上がった。いつものことながら、非現実的だと北條は頭を抱える。
王蛇が一息で大蛇、ベノスネーカーの頭部に飛び乗って、どっかと座り込んだ。

「乗りたまえ北条君。これなら歩く必要も無かろう。」


「影山! 城戸を連れて外へ出よ!」

ロビーに死神の怒声が木霊した。瞬時にイカデビルへと変化し真司を手にかけたデストワイルダーを縛り上げた。
真司を殺されたことを怒っていたのではない。渦巻いているのは自分への怒りと、単純な襲撃者への憎悪だけ。
ショッカーの大幹部ともあろう者が、どこの誰とも知れぬ襲撃を受け、仮面ライダーとは言えただの人間に助けられたのだ。情けなくて笑い話にすらならない。

「この死神、ここまでコケにされたのは初めてだッ!」

触手が唸りをあげて、入り口の扉を破壊しながら突き進む。表に出ると、どことなく虎の怪人に似た仮面ライダーがこちらに走ってくるのが見えた。
視界の隅には真司を背負う影山と、それを追いかける小童が一人。いざとなれば龍騎のデッキがあるから大丈夫だとは思うが、さっさと片付けて向かわねば。

「貴様、仮面ライダーのくせに卑怯な手を!」
「卑怯? しょうがないよ、僕が英雄になるためなんだから。」

―― FREEZE VENT ――

電子音と共にイカデビルの足元が凍りつき、身動きが取れなくなった。埒が明かないと腕を天に掲げて、隕石を呼び込んだ。
攻撃を加えようとタイガが駆け出すが、僅かに隕石のほうが早い。最初の隕石で氷を砕き、残りの四発がイカデビルの命令のままに動き出す。

(……あんまり早くない。)

飛び跳ねたタイガが、デストバイザーを横なぎに一閃。前方に迫った二つを砕き、その勢いのままに背後の二つを挟んで、押しつぶした。

「どこを見ている!?」
声に驚いて振り返った首を真っ白な触手で締め付け、吊り上げられたタイガを振り回しながら地面に穴を作り出した。
一つ、また一つ作るうちにまた新しいのがもう一つ。勝負はこのままイカデビルの勝利に終わるかに見えたが。

「ヌゥ!?」

どこからとも無く銃撃が降り注ぎ、振り回した触手を打ち貫く。きっと弾の来た方向を見据えると、小高い丘に立っている異形が一人。
カブトムシを髣髴とさせる一本角と、緑の目に映る鉛色のボウガン。ゴ・ガドル・バ射撃体であった。


その頃、影山はアスファルトを必死に駆けていた。真司をつれているというハンデもあるが、まさか追っ手もまた怪物だったなんて。

「っ、うわぁあ!!」

木の枝に足を取られ、情けなく転ぶ。背負っていた真司の体は投げ出され、コブラの足元に転がりこむ。
真司の体を跨ぎ、コブラはついに影山を追い詰めた。変身も出来ない状態で、影山の恐怖はどんどん頂点へと近づいていく。

「来るな、来るなよお!」

デイパックの中のものを手当たりしだい投げつける。水、食料、携帯……そのすべてが漆黒のボディースーツに弾かれ、空しく宙を舞う。
その中で一つだけ、何かの液体が入った小瓶が偶然コブラの顔に当たった。影山が役にたたなそうだと判断した、ランダム支給品だ。

「グゥッ……」

衝撃で瓶は砕けて中の液体が、仮面を突き抜けて進入する。目や口、鼻の穴から体内に侵入した液体に一瞬怯み、隙が生まれる。
その隙に影山は真司を抱え、必死に来た道を逆戻りする。その道がどこに繋がっているか、追い詰められた彼に想像できる筈もなかった。

「……ちっ、待て!」
後ろから、再び追跡を開始したコブラが迫ってくる。改造人間とただの兵士、どちらの体力が長く続くかは明白だった。

「……影……山……」
「きっ、城戸!? まだ生きてたのか!?」

驚愕に染まる影山の言葉に、酷い奴だな……と消え入りそうな声を出す。まだ会話できるほどの体力は残っているようだ。
しかしそれでもだいぶ無理をしているらしく、咳き込んだ真司の口から血が漏れ出し、地面を濡らした。

「こ……これ……」

真司が震える手で差し出したのは、龍騎のカードデッキだった。影山に握らせて、これなら誰でも使えるから、と付け加える。
コブラもそのデッキに気づき、追跡の足を止めて呼びかけた。

「そのデッキを渡せ、そうすれば殺しはしない。」

ぴくり、とその言葉に影山の動きが止まった。このデッキを渡せば自分は殺されないのか? 手がカタカタと震え、渡すか渡さないかの二つに頭が混乱する。
渡せば殺さないと言う、しかし現に真司がこうやって殺されかけている。信用できるのだろうか?
かといって渡さなければ、真正面からこいつと戦うことになる。使い方もわからないようでは、ザビーのように戦うわけにも行かない。

(どうする……どうする……どうする!?)



「わ……渡せ……影山……」

静寂を破ったのは、今にも死にそうな真司だった。影山の背から降りて、倒れそうになりながらもしっかりと立ち上がる。

「なぁ、あんた……渡せば影……影山を……殺さないんだな。」

真司の問いかけにコブラは一度だけ頷き、デッキを渡すよう腕を出した。その返答に安堵し、影山の手からデッキを奪い取る。

「っ、オイ城戸!?」
「悪い影山、やっぱ俺……目の前で誰かが死ぬなんて、見てらんない……二人ここで死ぬぐらいなら
 今お前が生きて、死神博士と一緒に……この戦いをぶっ壊してほしい……から……」

死に際とは思えない真司の言葉に圧倒され、口を挟むことすら出来ない。ただただ、ここまで真司に言わせてしまう自分が情けなかった。

「…………。」
無言でコブラはデッキを受け取り、デイパックから取り出したカードを組み込む。炎を纏ったカードの絵柄に、真司は驚愕する。

「い、今の……!」

次の瞬間、森の中から紫の巨体が顔を出し、上から人影が二つ降ってきた。片方は蛇を模した鎧を着込み、その形状には真司も見覚えがあった。
以前真司の世界でも猛威を振るった王蛇のデッキ。しかしそれを持っていた浅倉威は招待されておらず、何者かに支給されたのだと推測できた。

「大丈夫ですか?」

生身の方がまず話しかけてきて、真司の傷に顔をしかめた。北條と名乗る男は二人に敵対の意思がないことを確認し、それを王蛇へと伝える。
コブラは自分と似た戦士に驚きながらも、後頭部の鞭で襲い掛かった。が、王蛇は持っている杖を器用に操り、鞭を巻きつけてコブラの武器を捕らえる。

「なっ!?」
「武器を防がれたぐらいで動揺していては、生き残れんよ。」

―― STEAL VENT ――

電子音声とともに、コブラの手から龍騎のカードデッキが消える。王蛇の手に収まっていく光景を見て、何かの力で取られたのだと理解した。

「ほう、このライダーと同じ道具か……ならば次はこれだ。」
―― SWORD VENT ――

蛇腹の剣が何処からともなく現れ、すれ違い様に鞭の先端を切り落とした。同時に鞭を引き返そうとしていたコブラはその力のままに後ろへ仰け反り、砂埃を巻き上げ倒れる。
立ち上がろうと腕に力を入れて、すぐに別の方向へと向けられる。眼前に、べノサーベルを振りかざす王蛇が迫ったからだ。

「クッ!」

間一髪防ぎ――――切れなかった。
切っ先は僅かにマスクの目を抉り、三田村の文字通り目の前まで来ていた。が、すんでの所でその進行は両の腕で阻まれる。
少しでも押されればその瞬間視界が闇に染まるだろう。ギリギリと機械仕掛けの腕が痛み出し、黄金の刀身と火花を散らした。

退けない、負けない、死ねない。様々な感情が熱を持ち、体の内側から吹き上がってくるような錯覚――――いや、錯覚ではなかった。

「ッアァアァアアアァアァァアァッ!!」
「何!?」
突如、コブラから喉を引き裂かんほどの絶叫が発せられ、ほんの少しだけ王蛇の力が緩んだ。その隙に片手でべノサーベルを払って、右の拳を握り締める。

「しまっ……」

王蛇の反応よりも早くその胸に、収束された漆黒の気が炸裂した。重い一撃は醜く装甲が拉げさせ、中にいる乃木の意識を容赦なく奪う。

「ヴァアァァアッッ! ア゛ァァア゛ァァッ!! ワア゛ア゛ァァア゛ァア゛!!」
「これは……」
「オイ! しっかりしろよ!」

北條と影山が身構えるも、コブラは襲い掛かる様子を見せない。後ずさりながら無茶苦茶に鞭を振り回し、まるでもがき苦しむように叫び続ける。


「グゥア゛ア゛ア゛ア゛アァアァアア゛ァアアァアァァア゛アアァァァァア゛アアァァアアア!!!!」


一際大きな絶叫が木霊し、何処へともなく走り出す。程なくして、その姿は森の木々の狭間に掻き消えてしまった。

「……とりあえず、去ったようですね。」
「あ、ああ。」

自己紹介を済ませ、影山はすぐそこで寝転がっている蛇の戦士について尋ねた。何度かその仮面を見たあと、少し小さな声でただの同行者だと伝えた。
北條は抱きかかえられた真司を下ろし、服を脱がせて傷口を見る。ジャンパーを染める血は、その命ももう長くないことを物語っていた。

「……くっ、出血がひどい。何か止血の道具はありませんか!?」

その言葉にはっとして、影山はデイパックの中を見渡して愕然とする。中に入っていた殆どの物はさっきの怪人に投げつけて辺りに散らばっている。
そして、その中に止血の道具はおろか絆創膏一枚もない。つい先ほどまでそういった道具がありふれている病院にいたのに、だ。

「クソッ! こんなことなら持ってくればよかった……。」

自分の迂闊さを呪い、影山のイラつきは地を殴ることでしか解消されない。その音の所為かはいざ知らず、倒れ伏していた戦士の意識を揺り起こす。

「……俺としたことが、二度も敗北を喫するとはな……む?」

今だ変身は解けない王蛇の仮面越しに、乃木は見知った顔を見つけた。今の状態になる前に、一度ねじ伏せた相手だ。

「おやおや、そちらに見えるのはZECTのやさぐれバッタではないか。まさか最初に会うZECTのメンバーが貴様だとはな……」
「なっ……お前、なぜ俺がZECTだと知っている!? それにやさぐれバッタだと……?」

まるで初対面であるかのような影山の反応に、些か違和感を覚えた。それに戦った時よりかは目が死んでおらず、服装や声色もしゃんとしている。
立ち直ったか、あるいは――――落ちぶれるよりも前から、連れ去られたか。どちらにせよ、さほど重要視するべき部分でない事は明らかだ。

「まあいい、貴様。首輪について知っていることはあるか?」

乃木はべノサーベルをちらつかせながら問いかける。気を失っていたとはいえ、今だ変身状態であるのは大きな強みだ。
案の定顎を震わせながら、知っていることをペラペラと話し始める。同行者のこと、襲撃のこと、首輪に関する施設を回っていることなど洗いざらいだ。

「今、向こうで博士が戦っている……ちょうどいい手伝ってく……っうあああああ!」
「少し立場を弁えろ。」

目にも留まらぬ速さで右手を動かし、影山の顔に斜めに切り傷をつける。薄皮一枚捲れただけでこうも騒ぐのか、と改めて乃木は人間が小さい生き物だと感じた。

「!……出来れば、その辺にしていただけるとありがたいのですが。」
「何、今は殺さん。死神とやらの元へ連れて行ってもらわねばな。」

べノバイザーで影山の尻を小突き、さっさと案内しろと伝える。おぼつかない足取りながらも、影山は戦場へ向かって走り出していった。
途中振り返ると、北條が血まみれの真司を抱えてついてくる。その所為で速度を落としているのは、誰が見ても明らかだ。

「置いていけ、いずれ死ぬ身だ。足手まといにしかならん。」
「私は、警察官です。」

警察は一般市民を守る仕事。目の前で死に掛かっている人が居れば、それが例え殺し合いの最中だとしても見捨てるわけにはいかない。

北條の力強い一言に、乃木は何どうしてだか、言い返す気になれなかった。


一方、保養所前の戦いもピークを迎えていた。それぞれの死力を尽くした戦いは地形を大きく変え、元の平地は見る影もなかった。

「フン。」

胸の装飾物を引きちぎり、力を込めると歪な黒住が表面に現れ大剣と化した。首筋に巻きついたイカデビルの触手を切り裂き、その勢いを使い横から攻まるデストバイザーを受け止める。
互いの獲物の間で火花が散って、激突部分が爆ぜた。爆煙で一瞬視界が遮られた隙に、デッキから引き抜いたカードを読み込ませる。

―― STRIKE VENT ――

デストクローを召還したタイガが、ガドルごと地面を突き刺す。しかし手ごたえはなく、攻撃を交わされたことはすぐにわかった。
煙が晴れると、地面と大きな爪が露になる――――いや、それ以外に黒い何かが刺さっていた。槍のようにも、刺又のようにも見える。

「あいつ、何処に行っ」
目線を下から前に向けた瞬間、顔面に突き刺さる鋭い蹴り。デストクローを置き去りにしたまま白銀の体が仰け反って、ゴロゴロと地面を転がった。

タイガが目撃したのはつい先ほどまで剣として戦っていたもの。ガドルが器用にその先端に立ち、その胸からもう一本の剣を作り出す。
蒼の瞳がほんのり赤みを増し、足場の槍を引き抜いた。地面に足の裏が接する直前に、左腕の槍が再び剣の姿へと還った。
半身を持ち上げたタイガの、まだ揺れ続けている脳でもはっきりとその姿を認識できた。召還したばかりの武器は遠く、召還器自体も先の一撃で吹き飛んでしまった。
この場にはもう一人イカデビルがいるが、こちらを助けるはずもない。つまり、今タイガは殆ど丸腰で戦っているのだ。

「……っ!」

迫り来る二振りの剣に対し、無意識にあとずさってしまう。デッキにまだ最後のカードは残っているが、バイザーがないのでは宝の持ち腐れ。
四度ほど下がったところで、手に直に土の触感が伝わる。十分間の変身が終わりを告げ、ただの人間東條悟に戻ったのだ。
ガドルの変身もそう長くは持たないだろうが、それでも止めを刺すぐらいの時間はあるはずだ。

「こんなところで終われない……僕は英雄になるんだ、英雄に、英雄に……」

まるで呪詛のように自分の理想を呟き続けるが、振りかざされる剣に映る姿はまるで程遠い。剣の上昇が止まったのを見て、この後の光景を思い浮かべて思わず目を瞑った。

(英雄に英雄に英雄に………………………………先生――――――――!)


二つの剣が振り下ろされたのと、二人の間に何者かが割り込んだのは、殆ど同時だった。
衝撃がこない事を不思議に思い、恐る恐る目を開くと……立っていたのは、真っ黒い人影。全く姿形は違うのに、その広々とした背中は自分の大切な人の鎧を髣髴とさせる。
がっ、と再び脳が揺れ動く。当身だと気づいたのは、首筋に添えられた太い腕を見てからだった。

「せん……せ……」

その言葉は最後まで紡がれず、東條の意識は闇に沈んだ。


「博士! 大丈夫ですか!?」

変身の解けた死神博士が振り返ると、こちらへと走ってくる影山の姿が見えた。顔に薄い傷がある事以外は、先程までとなんら代わりがない。
無事だったかと声をかけようとして、やめる。後ろから見慣れない二人の人影が見えたからだった。

「……何者だ?」
「待ちたまえ、我々に敵対の意思はない……死神博士というのは、貴様で間違いないか?」

大鎌を構える死神を制したのは高圧的な喋り方が特徴の男――――乃木怜治だ。肯定の頷きを返すと、いい物を見つけた、と言わんばかりの微笑を浮かべる。
死神の視線を感じ、北條は背負っていた真司を下ろした。苦しそうな表情を貼り付けたまま、意識を失っているらしい。

「……ここまで傷口が深いと、もう……」

苦しげな言葉な言葉を聴いて、死神の表情は曇った。しかしそれとは裏腹に、内心まだ真司が生きていることに驚いていた。

(普通なら傷を負った瞬間ショックで死にかねない……仮にも仮面ライダー、戦いを重ねるうちで僅かながら鍛えられていったか。)

自分を助けたあの瞬間、死神は真司への興味を失った。もともと捨て駒として扱う予定だったのが、ほんの少し早まっただけの事。
その様子を見てくつくつと笑う乃木に、死神はいぶかしむような視線を送った。この男、腹の内が読めない上に隙がないのだ。

「さて、本題に移ろう……手を組む気はないか? 俺たちは首輪を外す手段を求めている、是非とも技術者としての腕を買いたい。」
「……ワシ達に対するメリットは?」

死神の言葉にしばし考え込むと、乃木は北條のデイパックからついさっき手に入れた物を取り出し、突き出した。

「この首輪の設計図をくれてやろう。また、今参加者にとある御使いを出していてな、それが手に入れば首輪の解析も早く進むだろう。
 ……それに……こちらには中々頭の切れる友人もいる。悪い話では、ないと思うが?」

ちらり、と横目で北條の顔を伺う。その額にうっすらと光るものがあったのは気のせいではあるまい。

「……おもしろい、貴様の話に乗ってやろう。」
「いい返事が聞けてうれしいよ……さて、」

乃木と死神が同時に振り返り、それに釣られるように残りの二人も自然とそちらを向く。その視線の先には、息も絶え絶えな二人の人物。

連戦で息が上がり、折れかかった二本の剣を持つガドルと――――青い毛並みの、獣人と形容にするのが相応しい先の乱入者。
突然現れたかと思うと東條を守るように戦い始め、途中死神博士の姿を見つけると、一瞬驚くような素振りも見せた。

「ゥゥ……ァアァアァアァァッオォオォォォンッッ!!」

何より死神博士の脳内に設置されたコンピューターと、どこかひしめき合うような感覚を覚えさせる、あの雄叫び。これは間違いなく、ショッカーの技術の結晶。
しかしながら、この雄叫びを持つ男は放送ですでに呼ばれたはず。では、あの獣人はいったい何者なのか? ショッカーの改造人間なら、自分の仲間なのだろうか?
その判断を決めあぐねている内に乃木たちが現れた、というわけだ。

「そろそろ決着がつく様だな。」

ガドルのボウガンが圧縮された空気をはなたんと震えるが、その間に獣人は大地を蹴って跳躍、地上めがけ鋭い爪を振り下ろす。
引き金を引いても弾が間に合わないと判断し、盾として爪を受け止める。が、落下の勢いもあってかいとも容易く細切れにされ、懐へ潜られた。

「なっ……。」
「ァアァアオォオオン!!」

首筋に牙が突き立てられ、甲虫の皮膚に穴が――――開かない。すんでのところで首をつかみ、紙一重で傷はついていない。
とはいえ、ガドルの目が紫……力に特化した剛力体に変化しなければその進行を止められなかった。現に今も、ほんの少し押し返すのがやっとだ。

(このままでは……!?)

一瞬ガドルは我が目を疑った。ふと獣人の力が抜けたかと思うと、そのわき腹にいつの間にか、機械仕掛けの刃が刺さっていたのだから。
獣人の口から絶叫が聞こえたのとほぼ同時に、一台のバイクが唸りをあげて現れた。乱暴に着地し、バイクから飛び降りた男はガドル、そして死神と影山も見覚えのある男だった。

「よう、ずいぶん人がいる割には、旨そうな餌が少ないな。」
「貴様……牙王!!」

持っていた鎌を向け、怒りを込めて睨み付ける。対する牙王はそんな死神を気にかけることもなく、淡々と獣人からデストロイヤーを引き抜いた。

「そうカッカするな。この狼野郎を食ったあとで、お前たちも……」

そういって牙王の目が再び死神の方を見た一瞬。そのほんの僅かなの間に、獣人は瞬速の風になった。
後ろ足で地を踏みしめ、一秒もしないうちに東條の元へ駆け寄る。意識がないのを確認すると、器用に背負って遠吠えを一つ。その場にいた誰かが反応するよりも早く荒野を駆け抜けていった。

「……ちっ。」

牙王は獲物が逃げたイライラに耐えかねて、力任せにデストロイヤーを地面に突き刺した。その際の舌打ちと共に、ガドルの変身が解け人間の姿へ戻る。

「……それで、どうする。私は私のゲゲルのルールに従うが。」
「はっ、知るか。俺ぁお預け食らってんだ、もう我慢なんてもん出来ないぜ。」

さも当たり前といった風な口ぶりに、ガドルもそれ以上詮索はしなかった。こうなってはもう何を言っても止まらないと知っているからだ。

「まずいな……乃木とやら、変身は残っているか?」
「生憎と連戦で使い果たしてしまった。その様子だとそちらもないようだな。」

互いの変身回数を確認し、最善の選択を模索する。手持ち支給品のうち、使用者を選ばないのは二つのカードデッキのみ。
北條は戦闘経験が皆無、変身したところで役に立たないだろう。また自分もガドルとの戦いで消耗しており、出来得るならば戦いは避けたい。
となると理想は乃木と影山なのだが……表情には出さないが、乃木の体には戦闘の傷と思わしき大火傷がある。下手に挑んで戦力を減らされでもしたらたまったものではない。

(……仕方がない、影山には人柱になってもらうか。)

もともとそのつもりで引き入れたのだ、その決断に何も苦しいところはない。影山に命令しようと口を開き、デッキに手を伸ばした――――その時。

誰かの腕が、先の龍騎のカードデッキを奪い取った。

力強く掴んでいるその腕は、
乃木にも、
影山にも、
北條にも、
もちろん死神にも繋がっていない。


「俺が……道、開きます!」

――――つい先ほどまで死を待つだけだった男。城戸真司の腕だった。


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