Traffics(前編)

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Traffics(前編)


『まず、この放送を目にしている参加者の皆様に突然の無礼を詫びさせてもらう』

 唐突に携帯電話から流れた放送。

『私……橘朔也は、君達と同様、このゲームの参加者だ』

 参加者の一人である橘朔也から、全ての参加者へと発信されたメッセージである。

『単刀直入に言わせてもらおう。……私は、ゲームの終了に必要な鍵を所有している』

 それはあるいは喉から手が出るほど求める物に。

『こちらの現在地は――――君達も察しがついているだろう。……そう、放送局だ』

 それはあるいは格好の獲物の在り処を示すものに思えただろう。

『ここから我々は――!?』

 唐突に始まったその呼びかけは、終わりも唐突であった。

◇ ◆ ◇

 北崎は放送を見終わり、携帯をしまう。

「放送局か……」

 今の放送で、放送局に集まる参加者は少なくないだろう。橘を救い出そうと、もしくは息の根を止めようと。

「面白そうじゃない……」

 見る者に恐怖を与える、凶悪な笑みの浮かんだ幼い顔。
 変身の制限時間が切れるのを待つために不本意に時間をつぶしていた不満を解消する機会がじきに巡ってくる。
 多数の参加者を全てねじ伏せ、自分が絶対の力を持っている事を思い知らせる。
 それは自分にとって至福の時間となる。

「……だけど、まだ早いかもな」

 現在地から放送局までは程近い。今から向かって到着する頃にはまだ参加者は集まっていないかもしれない。
 それに、オーガとシザースの制限が切れるまでにはまだ少し時間が必要だ。
 それなら。

「寄り道していこうっと」

 つぶやき、凱火を走らせる。
 まだこの近くにいるはずの歌舞鬼を探しに。

◇ ◆ ◇

「……今の、どう思う?」

 澤田は隣に座る真魚に尋ねた。

「どうって……」

 予想通り答えに詰まった真魚を見て、携帯を閉じる。
 先刻、侑斗と一戦交えた地点から少し北に移動し、彼がまた来るかもしれないと警戒していたがその気配もなく、今後どこへ向かうべきか考えていた所だった。

「はっきり言って、他人の心配をしていられる余裕なんかないでしょ?」
「そうだけど……」

 木陰に並んで座るその光景は、傍目には普通のカップルにしか見えないだろう。

「でも、気になるじゃない」
「まあね」

 認める。特に最後、あんな中途半端に終わったのを見れば何かあったと思うに決まっている。

「だけど、ここからその放送局までかなり遠いんだよ? 僕らが着く頃にはもう彼はいないかも知れない」

 救出されるにしろ殺されるにしろね、とは言わないでおく。

「まあともかく、僕らがこれからどうするのかはちゃんと考えないとね」

 東西を禁止エリアに挟まれたこのエリアでは北か南しか進みようがない。
 真魚には、北の研究所に参加者が集まるかもしれないと言ってある。
 スマートレディから電話で聞いた事は伏せ、首輪を外す方法を研究所で探す参加者がいるかもしれないと話した。
 人の多い所は避けたいので北へは向かいにくい。
 しかし、南には先ほど倒し損ねた侑斗(澤田は名前を知らないが)が逃げていったはずだ。
 それを言った所、真魚は南へ行く事に難色を示した。
 彼女は彼に対してあまり悪い印象は持たなかったようだ。
 それを考えるとなぜか面白くなくなってくる。彼女は自分を頼りにしているのではなかったのか。
 彼女を待たせて、そいつを片づけてこようかとも考えた。
 ひょっとすると多少態度に出たかもしれない。彼女はとりあえず落ち着いて考えよう、と提案してきた。
 そこに今の放送があった。

「とりあえず南に行って、人のいなさそうな所を探そうか?」

 と言ってみるが真魚は、

「ん……」

 まだ悩んでいる。
 いよいよ不機嫌になり始めた澤田はデイパックからペットボトルを取り出し、水をゴクゴクと飲み始めた。

◇ ◆ ◇

 急に途切れた放送に、侑斗は思わず立ち上がった。

「なんだ? 一体どうしたんだ?」

 橘という男の身に何かあったに違いない。
 今すぐに放送局に駆けつけたい所だが、さっきゼロノスに変身したばかりで制限の時間はまだ過ぎていない。
 それに、はぐれてしまった香川を放っておく事もできない。

「くそ、どうすればいいんだ……」

 歯がゆい思いをしながらつぶやく。
 しかしその場には彼一人しかおらず、答えてくれる者はいない。

「香川さん……デネブ……」

 そのつぶやきも風の中へ消えていく。
 一人でいる事がこんなに心細いとは思わなかった。
 いつも一緒にいて、共に戦ってくれたデネブ。
 この殺し合いの中で幸運にも最初に出会い、様々な助言をくれた香川。
 だがデネブは殺されてしまい、香川は消息が知れない。
 この殺し合いはなんとしても阻止したい。そう意気込んでいた。
 だが現実には一条や海堂、放送で呼ばれた見知らぬ人々はことごとく命を落としている。
 それらの人々どころか、自分の隣にいた人さえ守り切れていない。

「ちくしょう……!」

 吐き捨てても現実は何も変わらない。
 がっくりと肩を落とす。
 自分は人に頼り切りの子供だったことを痛感する。
 強くならなければならない。人を守るために。

「もうこれ以上、誰も……!」

 拳を強く握りしめ、侑斗は歩き出した。
 たとえ一人でも、それでもできる事があると信じて。

◇ ◆ ◇

 侑斗を――正確には侑斗にそっくりな京介を探している葦原と木場は一旦カブトエクステンダーを停めて放送を聞いていた。
 いきなり中断され、顔を見合わせる。

「どうしたんでしょう?」
「さあな」

 葦原は答えるとヘルメットのバイザーを下ろした。

「とにかく、まずは侑斗ってヤツとちゃんと話をつける事だ。その後で考えていい」
「……わかりました」

 カブトエクステンダーが走り出したので葦原にしがみつく木場。
 色々と取り留めのない事を考えていると、葦原が声をかけてきた。

「あんまり何でも背負い込もうとするな。誰にでも限界はある」
「でも……」
「今のは俺だって気になるさ。だが、考えることはそれ以外にもたくさんある。一つずつ片づけていくしかないんだ」
「…………」

 気休めを言うでもなく、突き放すでもない。葦原の言う事は現実的だ。
 どうにもできなかった事態は木場も経験がある。一度や二度ではなく。
 確かに、いくつもの問題を同時に手につけていたらかえって上手くいかないかもしれない。
 それなら、一つに集中した方がまだマシだろう。

「……ん?」

 と、何かが聞こえた気がして声を上げる。

「どうした?」

 木場のつぶやきが聞こえたのだろう。葦原が聞いてくる。

「いえ、今何か聞こえたような……なんだか何かがぶつかる音だったような」
「どっちだ?」
「多分……こっちです」

 木場は北への道を指差した。

◇ ◆ ◇

 バイクにまたがったまま後ろの京介と共に放送を聞いていた歌舞鬼は携帯をしまい、エンジンを噴かす。

「い、いいんですか歌舞鬼さん?」
「んん?」

 声を上げる京介。まだ落ち着いていないようだ。

「そうは言ってもなぁ、こんな事になったらお前、そのホーソーキョクとやらに人が集まるだろ? 北崎みてえのもいるかもしんねえぞ?」
「そ、そんな」

 情けない声を上げる京介に笑いながら、

「だからよ、逆に人の少なそうな所に行こう。北の方だったらあんまりいないんじゃないかと思うんだよ」

 地図で見ると、北側のエリアには人の集まりそうな施設はほとんどない――と歌舞鬼は思っていた。
 研究所や大学などがどういう場所かよくわからないゆえの思い込みなのだが。
 それに北崎は南側のエリアにしばらく留まるのではないかと思われた。
 さっき遭遇したのはこの近辺だし、今の放送で放送局のある南側に人が集まると予想できるからだ。
 アクセルをひねり、バイクを走らせる。

「よし、少し急ぐか」
「は、はい」

 必要以上に強く歌舞鬼にしがみつく京介。相当不安らしい。

「そんじゃ、スピードアップだ!」

 少し深めにアクセルをひねり込み、加速する。

「おお、速ぇな!」

 予想以上の加速に歓声を上げる。

「よし、もっと上げるか!」

 風を切る感覚に爽快になり、さらに加速し――

ガッシャーン!

 カーブを曲がりきれず転倒してしまった。

「つ~」

 歌舞鬼は背中を押えながら立ち上がった。調子に乗りすぎたらしい。

「おい、京介、大丈夫か?」
「いっててて……」

 京介は胸と顔を押さえている。けっこう強く倒れて顔もすりむいたようだ。

「運動神経ねえなあ、お前」
「ひどいっすよ歌舞鬼さん……」

 なんとか二人でバイクを起こして再び乗ろうとした時、自分達が来た方の道路から別のバイクが走ってくるのに気づいた。

「ん?」

 京介も気づいて見る。そして声を上げた。

「あ、あいつらさっきの!」

 乗っているのは先程京介に迫っていた二人組の男達だった。京介を追ってきたのか。
 こちらに気づいたらしく、後ろに乗っている者がこちらを指差している。

「行くぞ、京介!」

 再び走り出す歌舞鬼。
 京介はまたも強くしがみついた。

◇ ◆ ◇

 森を抜け、川を渡り、坂を越える。
 そうして道なき道を進み、ようやく舗装された道路が見えてきた。

「お、見えてきた見えてきた」

 橘という人物の放送を聞いて彼の元へ向かった一文字・志村と別れ、病院を目指して竜巻を走らせるヒビキは歓声を上げた。
 禁止エリアを迂回するためとはいえ、悪路ばかり走っていては手塚のケガにも響く。
 肩越しに手塚の様子を伺うと、自分の背中に顔を突っ伏したまま動かない。やはり相当参っているようだ。

「手塚、そろそろ休憩にするから、もう少し頑張ってくれ!」

 道路へ乗り上げ、そのまま南へ向かってハンドルを切った。

◇ ◆ ◇

 動物園とはこんなに不気味な場所だったろうか。
 動物どころか人っ子一人いない動物園を歩き回り、香川はため息をついた。
 さっき自分がいたホテルと同様、ここも数ヶ月は放置されているようだ。
 侑斗や海堂の姿はなく、人がいた気配もほとんどない。
 とりあえず入り口へ足を向ける。誰か通りがかったり立ち寄るかもしれない。

(動物園か……)

――パパ!

 数年前、家族で動物園に遊びに言った事を不意に思い出した。
 息子の裕太が嬉しそうにたくさんの動物達の檻の前を走り回り、妻と一緒に追いかけるのが大変だったほどだ。
 ミラーワールドを巡る戦いに身を投じ、神崎士郎によって手を引く事と家族の命とを選ぶ事を強要された時、迷わず家族を見捨てる選択をした。
 家族はもちろん大事だったが、ミラーワールドを閉じなければ多数の人々がミラーモンスターの餌食になってしまう。
 それを阻止するためには犠牲は覚悟しなけらばならない。彼の持論である英雄的行為だ。
 だからオルタナティブ・ゼロに変身し戦ったが、その最中に現れた龍騎に家族は無事だと教えられ、戦闘の後すぐに連絡を取った。
 電話がつながった時の安堵感は忘れられない。ミラーワールドの問題は解決していないとはいえ、やはり家族が無事だったのは嬉しかった。
 あの時ばかりは龍騎――城戸真司に感謝した。だから彼は英雄の器ではないのだが。
 思わず感傷的な気分になってしまう。もう一度家族に会いたい。
 必ず生還する。ミラーワールドを閉じるためにも、家族のためにも。
 そういえば、城戸もこの殺し合いに参加させられていたはずだ。名簿に名前があった。
 会えば、恐らく手を貸してくれるだろう。そうでなくても、誰かに協力しているに違いない。
 考えながら歩いていて、入り口に着いた。
 入場券売り場に入ろうとして、音が聞こえてきた。
 耳を澄まし、しばらく聞き入っていると、どうやらバイクのエンジン音のようだ。
 塀に身を隠し、その陰からのぞく。
 やがてバイクが北の方から走ってきたのが見えてきた。運転しているのは男のようだ。
 段々近づき、その後ろに誰か乗っているのが見えた。
 仲間だろう。という事は友好的な人物である可能性が高い。
 一か八か、香川は道路で飛び出し、両手を振った。
 当然バイクの男は気づき、自分の近くで停車した。

「こんにちは」

 にこやかに挨拶する男。歳は30前後ほどだろう。

「私は香川と申します。この殺し合いを止めようと考えています」
「俺は日高仁志。ヒビキって呼んで下さい。こっちは手塚」

 ヒビキは後ろの男の紹介もした。思った通り友好的だった。
 ただ、彼の言葉に二重の意味で知る名があった。

「手塚……?」

 名簿を思い出す。そこには確かに手塚という名があった。しかも直接の面識はないものの、彼の知る人物の名前だ。
 手塚海之。
 神崎士郎からライアのデッキを渡されながら、戦いを止めようとしていたライダーだ。
 だが彼はすでに命を落としたはず。名簿を見た時から不思議に思ってはいた。
 彼以外にも、芝浦淳も同様に死んだはずだが名簿に名があった。第一回放送でその名前が呼ばれたが。

「ちょうどいいや。手塚はケガしてるんです。この中に運ぶの手伝ってもらえませんか?」
「ええ、いいですよ」

 バイクごと動物園の中へ入る三人。
 自分の幸運に感謝しつつ、色々と情報を聞かねばならないと考えていた。

◇ ◆ ◇

 彼らが歩む道は、同じ空間にありながら全て異なる方向へ向いていた。
 ある道は他の道と交わり、またある道はさらに違う道へ分岐し。
 この島そのものが大きな運命の交差点と言えるだろう。
 そして今、いくつもの道が一本に交わりつつあった。

◇ ◆ ◇

 澤田はすっくと立ち上がった。
 彼の耳が遠くから風に運ばれた音をとらえたからだ。

「どうしたの?」

 尋ねる真魚。

「あっちの方、遠くから何か音が聞こえたんだ」

 北の方を指す。
 結構遠いのかはっきりとは聞こえなかったが、バイクのエンジン音ではないだろうか。
 真魚はそちらへ目を向ける。

「誰かいるのかな?」

 澤田は少し考え、

「よし、行ってみよう」

 座っていた真魚の手を引いて立たせ、丘を登る。

「ねえ、道路から行かないの?」
「ばったり出くわすのは避けたいからね」

 正直、真魚が動く事を渋っていたので、動かすいい口実が出来たと思った。
 様子を見に行くだけだ。いざとなれば自分が真魚を守る。
 自分がかなり自然に真魚を守るべき対象として意識している事に、澤田は違和感を感じないでいた。

◇ ◆ ◇

「ありがとう、香川さん」
「いえ」

 休憩所のベンチに寝そべり礼を言う手塚。
 すでに情報交換はかなり進んでいた。
 ヒビキからは第2回放送の内容を教えてもらい、海堂とデネブが死んだ事。
 橘の放送が行われた事。
 ヒビキ達のグループは手塚を病院へ連れて行くために別行動中である事。
 そのグループに城戸真司がいる事。
 北條と言う人物が首輪の分析のために乃木と言う怪人に連れて行かれた事。
 さらに志村と一文字という人物が橘を助けるために放送局へ向かった事などを聞いた。
 香川も侑斗が時の列車の持ち主で恐らくこの島からの脱出の最重要キーパーソンである事。
 木場に襲われた事と彼、ひいてはオルフェノクは危険である事、主催者であるスマートブレイン社長もオルフェノクである事。
 立ち寄ったホテルで起こったと思われる事などを話し合った。
 そして自分は神崎士郎の目論見を打ち砕くべく動いている事を手塚に話した。
 それを聞いて、手塚は驚きながらも自分を信用してくれたようだ。
 ライアのデッキは別行動中の志村に預けたという。聞けば別の変身アイテムがあるらしい。
 彼が死んだはず、という事は言わなかった。さすがにケガ人にそんな事は聞けない。

「他のメンバーは、その乃木と言う男の指示で動いているんですね?」
「ええ。青いバラを探せって言われてるらしいです」
「青いバラ?」

 その言葉に、先ほど林の中で見た美しい青いバラを思い出す。

「なんでかはよくわからないんですけど、多分この首輪に関わりがある事だろうって」

 自分の首元を指しながらヒビキ。
 それならば、ちゃんと教えた方がいい。

「青いバラなら知っていますよ。この目で見ました」
「本当ですか!?」

 その言葉に驚くヒビキと手塚。

「ええ。このすぐ近くに咲いていました」
「案内してもらえます?」

 言いながらヒビキは立ち上がり、自分の荷物を肩に担いだ。

「手塚、ちょっと行ってくる。少し待っててくれ」
「わかりました」
「念のため、バイクは置いてくから」

 バイクのキーをテーブルに置き、二人は動物園を後にした。

◇ ◆ ◇

「来ないな……」

 斜面にしゃがみ、双眼鏡をのぞいていた侑斗はつぶやいた。
 さっき遭遇したナオミらしい少女と男がこっちへ来るのではないかと考え、遠くから双眼鏡で様子を伺っていたのだ。
 香川は北にいると考えられるので、なんとかこの道を北上したい。
 だが、まだ変身できないので鉢合わせは避けねばならない。
 しばらく待っていたものの、北側からは人影は見えない。

「どうするかな……ん?」

 考えていると、逆の方向からバイクの音が聞こえてきた。
 こっちから来る事は考えていなかった。そちらへ双眼鏡を向ける。
 二人が乗ったバイクが道路を走っている。
 運転している男に見覚えはない。後ろに乗っている人間の顔はよく見えない。と、

ガッシャーン!

「あ」

 カーブを曲がろうとした時、バイクごと転倒してしまった。
 二人ともケガは大した事はなさそうで、フラフラと立ち上がってバイクにまた乗ろうとしている。
 そこで後ろに乗っていた男の顔が――

「えっ!?」

 思わず大声を出していた。
 そこには自分がいた。
 自分と同じ顔をした男だった。
 最初に会場で見かけた自分にそっくりな男に違いない。
 すぐにそこへ向かおうとすると、彼らの後ろからもう一台バイクが走ってきた。
 彼らの近くでバイクを停め、彼らへゆっくり近づく。
 運転していたのはやはり知らない男。だが後ろに乗っていたのは――

「木場……さん!?」

 間違いなく、木場勇治だった。
 気がつくと侑斗は走り出していた。
 行かなければ。ちゃんと話さなければ。
 自分のせいで事態はおかしくなってしまった。
 だから、自分が何とかしなければいけないのだ。
 転がりそうになりながら踏ん張り、斜面を駆け下りていった。

◇ ◆ ◇

「ってぇ~……」
「歌舞鬼さん……勘弁して下さいよ、ホント……」
「たはは、ワリぃワリぃ」

 立ち上がりながら恨み事を言う京介。
 今度は尻を打ったらしくさすっている。
 歌舞鬼はというと、どうという事はない。
 すぐにバイクを起こそうとするが、そこへ後ろから別のバイクが到着した。

「あ……!」

 京介が声を上げる。
 バイクから男が二人降りてくる。

◇ ◆ ◇

「大丈夫ですか? ケガは?」

 ようやく追いついたが、相手はバイクで転倒してしまったようだ。
 心配だったので木場は二人に声をかけた。

「く、来るなよ!」

 後ずさる侑斗――らしい人物。木場は足を止めて、

「落ち着いてください。俺の話を――」
「おい」

 もう一人が侑斗の前に立ちはだかる。
 すると木場の表情が急に引きつった。

「も……森下さん!?」
「あ?」

 木場は青ざめ、よろめいた。
 それは見覚えのある顔だった。
 かつて木場の恋人だった千恵の兄の義正だ。
 自分が殺した彼女の仇を探して自分を訪ねてきた後オルフェノクに襲われ、彼自身もオルフェノクへ覚醒してしまった。
 そして彼は自分がオルフェノクになったのは妹の仇を討つために神が授けてくれたものと思い込んでしまい、暴走して無差別に人を襲ったためファイズ――乾巧に倒された。
 すべての発端となったのは、自分が千恵を殺した事だ。それさえなければ彼は人の道を踏み外す事はなかっただろう。
 それゆえ、彼に対しては強い悔恨の情が残っていた。
 その彼を目の当たりにして、木場は心を押しつぶされそうになっていた。

「森下さん……なんですか!? どうしてこんな所に……あなたはもう死――」
「待て待て待て、俺は歌舞鬼だ。モリシタなんて名前じゃあねえ」

 手を上げて否定する森下――いや歌舞鬼。木場はそれを聞いてしばし呆然としていたが、

「そ、そうですよね……あの人はもう死んでるんだし、名簿にも名前なかったし……」
「そんなに似てるのか?」

 葦原が聞くので、頷く。

「はい……とてもよく似ています」
「へぇ、俺みてぇな男前がいるってぇ? どう思うよ、京介?」

 おどけながら後ろの侑斗に声をかける歌舞鬼。
 だが彼はそんな事を言っている場合かとばかりに非難のまなざしを向けてくる。

「キョウスケ? そいつは桜井侑斗じゃないのか?」

 歌舞鬼の言葉に、葦原が反応した。木場も耳を疑った。

「おい京介、名乗ってやったらどうだ?」
「お、俺は桐矢京介だ。サクライなんてし、知らない」

 それを聞いて木場と葦原は顔を見合わせた。

「おい、こっちは名乗ったんだからよ、そっちの名前も教えちゃくんねえか?」

 言われて、二人とも再度顔を見合わせる。

「俺、木場勇治っていいます」
「俺は葦原涼だ」
「キバにアシハラか。悪いがこいつは京介だ。お前らの探してるサクライとかいうのとは違う」
「でも……」
「木場さーん!」

 不意に大声。その方向を全員が向いた。

「えっ!?」

 京介がもう一人走ってきていた。
 同じ顔の人間を二人も目の当たりにして、全員が驚いていた。
 四人の前に現れたもう一人の京介はハアハアと肩で息をしながら口を開いた。

「木場さん……ハア、ハア……」
「君……」

 木場がつぶやく。

「お前、桜井侑斗か?」

 息を切らしながら葦原の問いかけに頷くもう一人の京介――侑斗。

「……たまげたな、こりゃ」

 侑斗と京介は本当にそっくりだった。これではみんな間違えて当然だろう。

「そっくりさんって、意外といるもんなのかね」
「そ、そうですね」

 と、今も間違えられた歌舞鬼と間違えた木場。
 京介も侑斗の顔をまじまじと見つめる。

「……ホント、気持ち悪いくらい似てるな」
「まったくだな」

 京介の言葉に葦原が同意を示した。そして木場に声をかける。

「おい、こいつに話があるんじゃなかったのか?」
「あ……はい」

 二人がそっくりすぎる事に呆然としてしまっていたが、気を取り直して侑斗の前に立つ。

「その、あの時は俺――」
「すいません木場さん、さっきはひどい事を言ってしまって」

 話そうとしていると、いきなり頭を下げられた。

「謝っても許してもらえないかもしれないけど、本当にごめんなさい」
「君……」

 頭を下げたまま謝る侑斗。
 木場は驚くと同時にとても嬉しかった。

「いや……大丈夫だよ、俺は。あの時は君も無事だったし」
「いえ、俺が悪いんです。俺が赤カードの代償の事を忘れていたから……」
「代償?」

 木場が聞き返すと、侑斗はデイパックからベルトを取り出した。

「香川さんはあの時、このゼロノスベルトに赤のカードを使って変身したんです。
 これ、今まで俺しか使った事がなかったからうっかり忘れていたんだけど、赤を使った人間は自分を知る人から記憶が消えてしまうんです」
「え?」
「そのせいで木場さんは香川さんの記憶を失ってしまったんですよ。そこにあんな写真とか見てしまったから……」

 急に突拍子のない事を言い出す侑斗。
 頭の中で言われた事を噛み砕く。

「じゃあ俺は、あの香川って人に会った事が?」
「はい。あのショッピングセンターでの戦いの時、香川さんと話をしたはずです」
「でもそんなはずは……あの場には海堂や北崎、あと怪物とかはいたけど……」

 あの場は三度に渡り――最初は北崎、次いで鳥の怪物、そして巨大な赤い怪物――数名が入り乱れて戦いが行われたが、彼の事は全く記憶にない。

「あの赤いヤツが現れた時の事は?」
「それは覚えてる。僕も君も変身できないから海堂と……」

 もう一人が戦った、と言いかけて、それが誰なのか思い出せず口ごもった。
 確かにあの時、海堂の他にもう一人戦っていたのだ。
 だが、それは誰だ? 全く思い出せない。
 もし侑斗の言う通りならば、それが香川だ。
 だが自分の記憶から香川の記憶がなくなってしまい、誰かがいたという記憶だけが残った。
 そう考えれば説明はつく。

「じゃあ俺は本当に……」

 そうなると香川に攻撃したあの時、彼らからすれば味方と思っていた人物がいきなり襲いかかってきた事になる。
 裏切られたと思って当然だ。いや、裏切り以外の何物でもあるまい。

「そんな……」

 頭を殴られたような衝撃を感じてひざが崩れた。
 裏切ったのは彼ではなく自分の方だったのだ。
 そんな木場の肩を侑斗がつかんだ。

「木場さんは悪くないんです。俺の、俺のせいで……」

 侑斗が慰めの言葉をかけてくれるが、木場は自分を責めていた。

「俺はどうしたらいいんだ……」
「さっきの放送じゃ香川って名前はなかったな。って事はまだ生きてるんだろう」

 そこで葦原が口を開いた。

「じゃあ木場、その香川って人を探すのに手を貸してやれ。俺も協力する」
「葦原さん……」

 葦原を見上げる木場に、侑斗も、

「俺からもお願いします、木場さん。香川さんが見つかったら、俺からちゃんと説明しますから」
「二人とも……」

 二人の言葉に思わず涙が溢れてきてしまった。
 この二人は、とても優しい人達だ。オルフェノクである自分をさえ受け入れてくれた。
 やはり人間にもいい人はいる。それはとても嬉しい事だと感じた。

「ありがとう……ありがとう……」

 木場は侑斗と葦原に何度も頭を下げた。

◇ ◆ ◇

 泣いている木場を見ながら、

「えーと……」

 と、歌舞鬼は頬をかきながらつぶやいた。
 すっかり話に置いていかれてしまってどうしたものかと思っていたのだ。
 やがて木場は顔を上げ、京介に謝った。

「桐矢さん、でしたっけ。すいませんでした、桜井君と間違えてしまって」
「あ……ああ。まあ、こんなに似ていちゃあしょうがないよな」

 少々複雑な表情の京介。と、そこで木場が再び口を開いた。

「あ、そうだ。ちょっと聞きたいんですけど」
「何?」
「さっき君が持ってたベルトの事なんですけど……」
「え……」

 表情が引きつる京介。

「あれは俺が仲間の海堂ってヤツに預けたものなんです。海堂に会ったんじゃないんですか?」

 京介は困った顔でこちらを見た。しょうがないので助け舟を出す。

「ああ、会った」

 歌舞鬼は、道中で北崎に会った事。
 彼が同道を申し入れてきたので受け入れた直後、海堂が北崎に戦いを挑んだ事。
 自分は一度海堂とやりあった事があったため様子見をした事。
 仲間の三田村が脅迫同然に北崎に加勢させられた事。
 さらに北崎が海堂の持っていたファイズギアを京介に使わせようとしたが、彼はそれを持って逃げた事。
 そして自分は追い詰められた海堂を助けて逃げた事などを話した。

「それで海堂は……?」
「…………」

 罪悪感が胸にちくりと刺さる。

「一応逃げたんだがな、北崎にやられた傷が深かったらしい。そのまま死んじまったよ」

 さすがに自分がとどめを刺したとは言えなかった。
 優勝を狙う覚悟の印のつもりで殺したはずだったが、人数的に言って今戦うのは不利だろうし、何よりこの場の全員を倒す気にはなれなかった。
 特に木場と侑斗は何やら誤解を解いた直後で感動的な場面を迎えたばかりだ。

(ダメだなあ、俺ぁよ)

「そうだったんですか……海堂を助けてくれてありがとうございました」

 悲しそうな表情を浮かべながら歌舞鬼に頭を下げる木場。胸の痛みが強まってきた。

「……なあ、仮面ライダーって知ってるか?」
「え? そういえば海堂や赤いヤツがそんな事言ってたような……」

 首を傾げる木場に、空を見上げながら続ける。

「海堂は言ってたぜ……仮面ライダーは困ってる奴を助けて、どんな時でも助けを求めてる奴の所へ行くんだって……そしてあいつは自分も仮面ライダーになるって、そう言って北崎に挑んでいった」
「海堂が……」
「あいつの事で俺が伝えるべきなのはこれだけだ」

 そう言って締めくくった。
 それをどう受け止めるかは彼ら次第だ。
 だが恐らく、彼と同じ道を歩もうとするだろう。
 目を見ていれば、この三人はそういうタイプだとわかる。
 彼らがその道を進み――そしてぶつかるべき壁を越えられなかった時、自分が彼らに引導を渡そう。
 困難な道である事は自分が一番良く知っている。
 だが、だからこそ彼らに期待してしまう。
 自分が進めなかった道を、彼らは進めるだろうか。
 できれば最後まで貫き通して欲しいとさえ思う。

(やっぱ甘いなぁ、俺は)

「なあ、頼んでもいいか?」

 木場の肩に手を置き、京介を親指で差しながら、

「こいつ、お前たちと一緒に連れてってやってくれ」
「え!?」

 京介が驚いた声を上げる。

「歌舞鬼さん、一緒に来てくれないんですか!?」
「悪いな、京介。俺、ちょっと一人でやりたい事があってな」

 その方がいい。
 このままでは京介は自分が殺してあげなければより苦しむ事になる。
 それに自分はやはり優勝を狙う。そのためには戦わねばならないが京介も一緒だとはっきり言って足手まといだ。
 それよりは多数の仲間と一緒にいた方が安全だろう。
 荷物を押しつける形になるが、恐らく彼らは受け入れるだろう。

「心配すんな。縁があったらまた会えるだろうからよ」

 言いながらさっさとバイクを起こし、京介の分の荷物を彼に投げ渡す。

「それじゃ、すまねえが京介の事、頼むぜ。じゃあな」

 大声で呼び止める京介を後に、歌舞鬼は北へ走って行った。
 やがて声は聞こえなくなり、バイクの音しか聞こえなくなる。
 また一人になった。
 だがアマゾンと海堂は死に、京介は木場達に預けた。
 三田村は心配といえば心配だが、北崎の性格からしてすぐには殺さないかもしれない。三田村には酷な環境だろうが。
 それでも、気になるものはあらかたカタはつけた。そろそろ自分の事を考えていいだろう。

(俺はどこへ行くか……)

 とにかく、会った者を倒す。それしかないだろう。

(よっしゃ……やったるか)

 改めて方針を決め、歌舞鬼はスピードを上げた。

◇ ◆ ◇

「歌舞鬼さん……」

 歌舞鬼が走り去っていったのを呆然と見送る京介。
 木場はそれになんと声をかけていいのかわからなかったが、やがて葦原が話しかける。

「お前はどうする?」
「え……ど、どうって……」

 京介は浮き足立っている。と、侑斗がおずおずと口を開いた。

「あのさ……よければ、これからはこの四人で行動しないか? やっぱり仲間は多いほうが頼もしいし……」

 その言葉に、他の三人は顔を見合わせた。そして口々に答える。

「俺はいいぜ」
「俺もそうしたい」

 笑いかけながら言う葦原と木場。京介も上目遣いになりながら、

「い、いいのか……?」

 その言葉に、侑斗は顔を輝かせた。

「よし……それじゃ、これから俺達は仲間だ!」

 そう言って、侑斗は京介に手を差し伸べた。

「改めて、俺は桜井侑斗」
「き、桐矢京介」

 やや固い笑顔を浮かべながら握手を交わす侑斗と京介。
 そして木場や葦原とも順に握手を交わしていった。
 木場は仲間が増える事を大変幸福な事だと実感していた。
 結花や海堂の事を思い出す。
 海堂はもういないが、結花はきっとまだ生きている。なんとか巡り会って一緒に脱出したい。
 そして海堂が死ぬ時まで貫いた意志――仮面ライダー。
 自分にその資格があるかどうかはわからない。
 だが自分の知る人物に、最もそれに近いだろう者がいる。
 巧は確かに、人を助けるためだけにファイズとして戦っていた。
 きっと彼こそ仮面ライダーと呼べる人物だろう。
 そして、ここにいる侑斗や葦原。彼らも人を助ける強さを持つ人たちだ。
 自分も彼らのようになりたいと思う。
 こんな殺し合いの最中に放り込まれたからこそ、仮面ライダーの真価が問われているのだろう。
 ならば自分は海堂の遺志を継ぎ、助けを求める人々を見捨てず戦う。
 自分は、海堂が信じた仮面ライダーの正義を信じる。

(海堂……俺はきっと仮面ライダーになる。見ていてくれ)

 木場はまるで生まれ変わったような気分で、晴れやかな笑顔で仲間達と握手を交わしていた。

◇ ◆ ◇

 丘を北へ移動していると、急に澤田がしゃがみこんだ。

「どうしたの?」

 真魚もしゃがまされた。
 澤田は辺りを見回すと、崩れた家の跡を指差し、

「こっちへ」

 と、その家の中に一緒に入った。
 家の中、という言い方は適当ではあるまい。
 壁は一面しか残っておらず、その壁の陰に隠れているだけだ。
 壁から様子を伺う澤田の肩越しに外を見ると、男が二人歩いていた。
 どちらも知らない顔だ。彼らは林の中へ入っていった。
 彼らの姿が消えて家の中だった所を見ると、埃まみれの本が落ちていた。題名がかろうじて読めた。

「これ……学術書?」

 彼女の扶養者である叔父は大学教授を務めている。
 そのため家で学術書の類はだいぶ見慣れている。さすがに読んだ事はなかったが。
 題名からすると植物学関連のもののようだった。
 なんでこんな廃墟にこんな本があるのだろう。
 そう思い、本の表紙に指を触れた瞬間、頭の中にビジョンが見えた。

「あっ――」

 自分の視界は何か透明なプラスチックか何か越しになっていた。
 視界が動き、自分は――正確には自分が追体験している記憶の持ち主は、小さいビニールハウスの中で防護服に身を包んだ状態なのだと気づいた。
 ビニールハウスの中には、防護服を着た人間がさらに二人いた。手に何か器具を持っている。
 その中で栽培されている植物に自分の顔が近づいた。
 それは青いバラだった。
 そこで場面が変わり、今度は防護服を着てはいたが顔の部分は晒していた。
 防護服の手袋をした手で青いバラを一輪持って、女性にそれを見せた。歳は30歳前後くらいか。
 女性はうれしそうに花を受け取り、青い花弁に指を触れた。
 すると女性に異変が起こった。
 指がボロボロと崩れていったのだ。
 それは手首、腕、胸、顔、ついには全身に達し――
 女性は灰になって崩れ落ちた。
 そこでビジョンは終わった。

「真魚ちゃん?」

 澤田の声で我に返る。いつの間にかかなり汗をかいていた。服がべっとりして気持ち悪い。

「あ、うん、なんでもないよ。それより澤田くん、これから――」

 ごまかそうと話をそらそうとした時。

ガッシャーン!

 何か音が聞こえた。
 澤田と一緒に壁から少し顔をのぞかせるが何もない。
 方向は道路の方だろう。

「ちょっと様子を見てくる。真魚ちゃんは絶対ここから動いちゃいけないよ。いいね?」
「う、うん。気をつけてね」

 澤田は自分のデイパックを取り、先ほど二人組が入っていった林から遠ざかるように走っていった。
 林の中から姿を見られないように迂回して道路へ出るつもりだろう。

「…………」

 澤田の姿が見えなくなり、真魚は再び恐る恐る学術書に触れた。
 今度は何も見えなかった。

(何だったんだろう……今の)

◇ ◆ ◇

 動物園を出て丘を登る香川とヒビキ。

「ここ、ピクニックとかしたら楽しいだろうな」

 道々、ヒビキは自分が所属する猛士という組織の事を話してくれた。
 表向きはオリエンテーリングのNPOだが魔化魍なる怪物と戦うために鬼という戦士を集めた組織で、ヒビキもそこで鬼としての経験を活かしアウトドア活動のインストラクターのような仕事をしているらしい。
 それなら仕事柄そういう感想を持つのはまあ当然だろう。状況が状況でなければ。
 だが見様によっては豪胆とも言えるし、体の動きを見ても確かに素人ではない。
 引いたのは多分当たりだ、と香川は思った。
 やがて見えてきた林の中へ、ヒビキを伴って入っていった。

「あそこです」

 指差す先に咲いている青いバラを見て、ヒビキはおお、と声を漏らした。

「へ~、本当に青だ。キレイだな~」

 ヒビキはしばらくバラを見ながら周囲を回っていた。

「よし、この事をみんなに知らせないとな」

 嬉しそうに手を打ち合わせるヒビキ。

「でも、知らせるだけでいいのかな? 持って行った方がいいのかも」
「しかし、迂闊に取ってしまうとしおれてしまいますからね。これ一本しかないですし、まず知らせてから考えた方がいいでしょう」

 話し合っていると。

ガッシャーン!

「うん?」

 はっきり聞こえた大きな音に二人とも顔を上げる。道路の方だ。

「なんだろ? ちょっと見てきますね」
「待って下さい。誰かいるかもしれません。殺し合いに乗っている者だったら……」

 行こうとするヒビキを引き止める香川。

「大丈夫ですよ。いざとなったら逃げますから」

 だがヒビキは林を出て道路へ向かっていった。

◇ ◆ ◇

「あいてて……」

 道路に五体投地してうめく歌舞鬼。

「くそ~、もう金輪際スピードアップして曲がらねえからな……」

 カーブをにらみつけながらうなだれる。
 ケガは大したことないが、三回も連続で同じ事をやっていればいい加減悲しくもなる。
 カラカラと虚しく回るタイヤを見たら、ため息がもれた。

「大丈夫ですか~?」

 と、声がした。
 声に聞き覚えがあるような、と思いながら上体を起こすと。

「……!」

 歌舞鬼の心臓が一瞬、痛みを感じるほど収縮した。
 男が一人、丘を駆け降りてきていた。その顔も声もよく知っている男が。

「ヒビキ……!」

 自分を倒した鬼――ヒビキに間違いなかった。
 出会ったら意趣返しをしようと考えていたが、こんな唐突に遭遇するとは。
 本当に世の中は何が起こるかわからない。

「バイクで転んだんですか? 頭とか打っていません?」

 駆け寄ってきたヒビキは歌舞鬼にケガの心配をしている。

「あ……ああ。心配にゃ及ばねえよ」

 自分を落ち着かせようと、平常を装って答える。
 言いながら、汗が頬を伝うのがわかった。
 緊張と興奮によるものだろう。
 息も荒く、胸も高鳴っていた。

「そうですか。よかった」

 と言って、こちらを助け起こそうとする。
 こいつらしいぜ、と内心思いながら起き上がる。

「まさかこんなトコでお前に会えるとは思わなかったぜ、ヒビキ」

 にらみつけ、しかし口元は笑みを浮かべながら言うと、ヒビキは目を丸くした。

「え? 前に会った事あります?」
「おい、まさか俺を忘れたとは言わせねえぞ」

 ヒビキは首を傾げ、しばらく考えてから、

「いえ、俺は覚えが……あ、もしかして猛士の方ですか?」
「タケシ? 俺の名前はタケシじゃなくてよ……」

 答えながら取り出した変身音叉を見せると、ヒビキは驚いたようだった。

「それは……?」

 足を上げ、靴の裏で音叉を鳴らし、額の前にかざす。

「歌舞鬼……」

 歌舞鬼の周囲を花びらが舞い、ヒビキは思わず後ずさる。
 そして花びらが消えると、歌舞鬼が赤と緑の鬼へと姿を変えていた。

「ハァ!」

 それこそ歌舞伎のように首を回し、手を広げる。

「鬼!?」

 驚くヒビキを尻目に、変身音叉を音叉剣へ変化させる。

「さぁて、俺のリベンジを受けてもらうぜぇ!」



108:男二人、虫二匹――――はぐれ虫 投下順 109:Traffics(中編)
105:病い風、昏い道(前編) 時系列順
093:時の波 桜井侑斗
096: 葦原涼
096: 木場勇治
093:時の波 澤田亜希
093:時の波 風谷真魚
096: 歌舞鬼
096: 桐矢京介
102:この言葉を知っている(前編) 日高仁志
102:この言葉を知っている(前編) 手塚海之
107:香川教授の事件簿 香川英行
098:金色の戦士(前編) 北崎
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