Traffics(中編)

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Traffics(中編)


 休憩所のテーブルの上に紙を広げ、手塚は何事か書きつけていた。
 ヒビキと香川がここを後にして、だいぶ時間が経つ。
 すぐに戻ると言っていたのに、少々遅い気がする。
 かと言って自分のケガではヘタに出歩くわけにも行かない。
 そこで、自分はどうするべきか占ってみる事にしたのだ。

「…………」

 紙に火をつけ、しばらくその様子を見守る。
 しばらくたち、紙が燃え尽きると手塚の目が見開かれた。

「これは……」

 そして手塚は自分のデイパックとヒビキが残していった竜巻のキーをひっつかみ、駆け出した。

「ヒビキさん達が危険だ!」

 ケガの痛む体を押して、手塚は竜巻を南へ向かって走らせた。

◇ ◆ ◇

「くっ!?」

 袈裟懸けに振り下ろされた音叉剣を、身をかがめながら横に避ける。
 何度も振るわれる斬撃をすんでの所でかわしていくが、横薙ぎに払われた剣先が襟元を切り裂いた。

「どうなってるんだ、一体!?」

 ヒビキは混乱していた。
 彼──どうやら歌舞鬼という鬼らしい──は自分の事を知っているようだが、自分は全然知らない。
 しかも見た事のない姿の鬼に変身し、襲いかかってきた。
 リベンジと言っている事から、自分に恨みがあるのだろうか。

「うりゃぁ!」

 鋭い突きが腕をかすめ、体勢が崩れる。

「どうしたぁ、ヒビキよぉ!」

 歌舞鬼は距離を詰め、ヒビキの腰から変身音叉をもぎ取ると腹に蹴りを入れた。

「ぐあっ!」

 腹を押さえ道路に転がるヒビキに対し、歌舞鬼はただ音叉剣を肩に担ぐ。

「何考えてやがんのか知らねえがよ、ゴタクはいらねえんだ!」

 奪い取られた変身音叉が投げられ、ヒビキの目前に転がる。
 それに視線を落としたヒビキに音叉剣を突きつける歌舞鬼。

「俺と戦え、ヒビキ!」
「…………」

 変身音叉を手に取り、立ち上がる。
 彼が何者かわからない。なぜ自分を狙うのかも。
 だが、彼の殺気は本物だ。このままでは自分が殺される。
 意を決し、伸ばした音叉を指で弾く。

 キィィィィン──

 美しい音色を発する音叉を額の前にかざす。
 青い炎がヒビキの体を包み込み、その中から紫の鬼が現れた。

「ハァッ!」

 対峙する歌舞鬼と響鬼。
 歌舞鬼は満足そうに頷き、

「へっ……ようやくその気になったようだなぁ?」

 その言葉に、響鬼は無言で音撃棒を構える。
 一瞬の静寂──
 そして、それを打ち消す鬼の咆哮。

「でやぁぁっ!」

 歌舞鬼が音叉剣を振り下ろし、響鬼が音撃棒で横に弾く。

「トォ!」

 ガラ空きとなった腹へ、小さい動きで蹴りを打ち込む。
 腹を押さえ、たたらを踏む歌舞鬼。

「へへ……面白くなってきたじゃねえか」

 両手で音叉剣を構えなおす。

「ここからが本番だぜぇ!」

 跳躍し、打ち下ろされる剣を転がってかわす。
 両者が即座に体勢を立て直した直後、音叉剣と音撃棒が音を立てて交差する。

◇ ◆ ◇

 ようやく道路が見える所に来た澤田が目にしたのは、二体の“鬼”が戦っている光景だった。
 片方は赤と緑の体色、剣を持っている。
 もう一人の方は紫、こちらは二本の短い棒で応戦していた。
 どちらも見た事のないタイプの戦士だった。
 オルフェノクではなさそうだし、スマートブレインのライダーズギアでもない。ダークカブトの系統とも違う。
 興味が湧かないではないが、そんな事は瑣末な問題だ。
 片方が倒されてから、もしくは時間切れを起こした所で襲撃して始末してしまうか。そう考えたが……
 澤田は後ろを見た。
 真魚がついて来てはいないかと思ったが、丘の上の方には人影はない。
 だが、そのうち来ないとも限らない。実際にそういう事があった。
 しかし戦っている最中を見られたならまだ、こっちが襲われたからとでも言い訳できるが、自分が誰かに攻撃を仕掛ける所を見られるのはできるだけ回避したい。
 かといって奇襲が出来るこの状況を見逃すわけにもいかない。
 そうなれば真魚が来ないうちに仕掛けるしかない。
 カイザフォンを取り出し、コードを打ち込む。

── Standing by ──

「変身」

── Complete ──

◇ ◆ ◇

 感じたのは、違和感。
 自分が戦っている鬼が、かつて戦った響鬼とは戦法が違うのを歌舞鬼は感じ取っていた。
 大まかに言えば、響鬼のスタイル自体は同じだ。洗練された我流。
 だがわずかに違う。実際に戦ってみてはじめてわかる程度の差ではあったが。

(どーいうこったろうなぁ?)

 歌舞鬼は内心で首を傾げた。
 違和感といえば、響鬼はさっき自分を知らないかのような素振りだった。
 変身した時も、変身した事そのものに驚いているようだったが、鬼だとはわかっていた。
 つまり、見た事のない鬼だったから、という事だ。

(……試してみっか)

 響鬼の打ち込みを剣で受け、体勢を崩したように見せた。
 そのスキに再び音撃棒を打ち込まんとする響鬼。

「おりゃ!」

 それを歌舞鬼は唐傘を開いて受け止める。

「!?」

 そして傘越しに音叉剣を突き通す。

「ぐあ!?」

 手応えあり。
 剣を傘から抜き、傘ごとはね上げる。こうすれば傘で剣閃は見えない。
 またも手応え。傘で見えなかった視界が開けると、響鬼はアスファルトを転がっていた。
 起き上がった響鬼だったが、すぐに膝をついた。
 腹と胸から赤い血が流れている。胸の傷は斬り上げた時のだ。突きは腹に入ったのだろう。

(ビンゴ……だな)

 この戦法はかつて歌舞鬼が他ならぬ響鬼に対して使ったものだ。
 ヤツが同じ手を二度も喰らうはずがない。
 つまり、この響鬼は自分を倒した響鬼とは別人なのだ。
 アマゾンのような野生児や、侑斗と桐矢のようなそっくりな人間が参加しているこの場ならば、そういうのも有り得るだろう。
 傘を投げ捨て、響鬼に迫る。たとえ別人でも響鬼は響鬼、それこそ同じ手は通じないだろう。
 自分でもヘンな理屈だと思うが、間違いではあるまい。
 響鬼は立ち上がり、右手の音撃棒を構える。左手で腹を押さえているが、足元はしっかりしている。

(鍛えてます……ってか。やっぱりヒビキだぜ、こいつぁよ)

 手傷は負わせたがまだ油断は出来ない。あの時はここから響鬼は自分を倒してのけたのだ。
 むしろ、ここが正念場。
 歩み寄る歌舞鬼。動かない響鬼。
 やがて剣が届く範囲に入り──
 歌舞技が剣を振り上げ。
 響鬼が両手の音撃棒を握りしめ。
 二人が武器を相手目がけて叩き込む瞬間──
 二人を殺気が襲った。

「──!」

 数個の光弾が二人がいた空間を切り裂く。
 二人は勢いに逆らわずすれ違うように転がり、光弾を辛うじてかわしていた。

「誰だ!?」

 光弾が飛んできた方向を見ると、少し離れた木の陰で金のラインが入った黒のボディの人影が妙な形の物──見た事はないが十字型だ──を構えていた。
 なんとなく海堂が変身したファイズと印象が似ている、と歌舞鬼は思った。
 邪魔した事への文句でも言ってやろうかと思っていると、その人物は跳躍し彼らの近くへ降り立った。
 顔を近くで見ると“×”と書かれている。変な顔だ、とつぶやく。

「おい、てめえ──」

 口を開いたのも構わず、その戦士──カイザがこちらへ駆け出すと同時、カイザの持っていた物から今度は金色の光の棒のようなものが出てきた。
 カイザは歌舞鬼には目もくれず響鬼へ走っていく。
 そして、その光の棒を振り回した。

「う!?」

 驚きながらもかわす響鬼。そのまま攻撃を続けるカイザ。
 あれは棒ではなく剣だったようだが、それよりも不可解なのはその行動だ。

(なんで響鬼を狙ってやがる?)

 一瞬考え、即座に理解した。
 さっき、二人が武器を交えようとした瞬間に感じた殺気。自分も狙われていたが今襲っているのは響鬼だ。
 つまり、標的は自分と響鬼の両方。それで響鬼を狙う理由は一つ。
 響鬼の方が手傷を負っているからだ。
 早い話が、弱い方を優先して狙っただけなのだ。

「こンの野郎っ……!」

 そこまで考えた瞬間、歌舞鬼の頭に血が上った。なんて卑怯なヤツだ、と。
 気づけば、歌舞鬼は走っていた。
 響鬼は音撃棒を巧みに操ってカイザの斬撃をさばいていたが、スキを突かれ腹に蹴りを喰らった。
 歌舞鬼からの突きを受けた部分を攻撃され、動きが止まってしまう。

「おらぁぁぁっ!」

 雄叫びをあげ、響鬼に斬りかかろうとしていたカイザに音叉剣を振り下ろす。
 かわされるが、二撃、三撃と剣を振るう。
 カイザは素早く間合いを取る。歌舞鬼はそこでいったん手を止めた。

「てめえ、人の獲物横取りしようったって、そうはいかねえぞ!」

 剣を構えたまま、後ろの響鬼に声をかける。

「おいヒビキ、勝負はお預けにしといてやる。とっとと逃げろ」

 後ろから返事は来ず、代わりに正面から聞こえた。

「どういうつもりだ?」

 男の声だ。

「どういうつもり……ね。確かに何やってんだろうね、俺はよ。たった今まで殺そうとしていた奴を助けるなんてよ」

 理由はわかっている。

「だがよ……こいつはな、てめえみてえな卑怯モンにやらせるにゃもったいねえぜ。こいつを倒すのは俺だ」

 それも本音ではあるが。
 結局の所、自分は甘いのだ。
 弱者を虐げる者がどうしても許せない。
 相手が響鬼なのが、かえってそうさせているのかもしれない。こだわりを持つ相手ゆえに自分の地が強く出てしまうのだ。

(こんな調子で優勝できんのかね、俺)

 自分に対して呆れる。

(なら、響鬼の前にまずこいつを倒すとすっか)

 そして素早く切り替える。

「うりゃああ!」

 叫びながら走り出す。相手もそれに合わせるように駆け出した。
 斬りかかるがさばかれ、反撃の刃を身を翻してかわす。
 次いで剣が交差し、鍔迫り合いになる。
 しばらく力比べをしつつスキを伺っていたが、無駄のない素早い動きでひざ蹴りを叩き込まれた。
 そこへ光の剣。後ろへのけぞってかわそうとするが、左肩に喰らってしまった。
 そのスキを見逃すはずがなく──

(マズい!?)

「ハァッ!」

 迫る刃を止めたのは、音撃棒だった。
 二人の間に割り込んだ響鬼が剣を抑え込み、口から青い炎を吹いた。
 今度はカイザが後ろへのけぞった。そのまま後ろへ転がり込む。

「大丈夫?」

 振り向いた響鬼と目が合う。

「お前……」
「これで、さっきの借りは返したよ」

 前へ向き直る響鬼。

「人を助けるのが俺達鬼の役目でしょ?」
「……へっ、へへへへ」

 思わず吹き出してしまった。
 やっぱりこいつはヒビキだ、間違いなく。
 なんだか妙に愉快な気分になってきた。
 左肩の傷は浅くないが右腕が使えるなら十分だ。
 自分も響鬼も手傷を負ってしまったこの状況では、最善の選択は一つしかない。
 左手に剣を持ち替え、右手でポンと響鬼の肩を叩く。
 そして響鬼の横に並び、再び右手に剣を構える。

「おい、バッテン野郎」

 顔に“×”と書いてあるのでそう名づけた。
 表情は読めない。意に介していないのかどうかもわからないがそこは無視する。

「出血大サービスだ。俺とヒビキが一緒に相手してやるぜ。文字通り死ぬほど血が出るかもなぁ?」

 宣戦布告と同時に、ヒビキに対する共闘の呼びかけ。
 それに対しヒビキは、

「ダメだよ、殺しちゃ」
「……お前なぁ」
「死なせちゃダメだよ。俺達は鬼なんだから」

 この男はどこまで甘いのだろう。

(人の事ぁ言えねえか)

 ともかく、共闘を拒みはしなかった。それだけで十分だ。

「おっしゃ!」

 気合の声を入れ、歌舞鬼と響鬼は同時に駆け出した。

◇ ◆ ◇

 道路を北上する四人の若い男達。
 侑斗が、香川がこっちにいるはずだと言うのでこの方向へ進んでいた。
 この道で参加者二名に出会い、戦闘になったと話しているのでみんな警戒してはいる。
 バイクは一台しかなく全員で乗る事が出来ないので、歩きながら色々と互いの情報を交換していた。

「じゃこれ、どのみち俺は使えないわけ?」
「うん。適性のない人間が使おうとすると吹っ飛んでしまうんだ」

 ファイズギアを持った京介に説明する木場。そこに侑斗が尋ねる。

「木場さんは使えるんだよな?」
「うん」
「なら、これはあんたが持っていた方がいいな」

 そう言って京介が手渡してきたファイズギアを受け取る木場に、カブトエクステンダーを押している葦原が小さい声で聞く。

「適性のあるヤツって、お前のような?」
「……ええ」

 小さい声で短く答え、デイパックにファイズギアを入れようとして、葦原が声を上げる。

「なあ、同じようなベルトが入ってるが?」
「ああ、これでしょう?」

 第2回放送の時、携帯を取り出そうとして気づいてはいたが海堂が死んだと聞かされたショックでそれどころではなかったのだ。
 それから葦原とずっとバイクで行動しており、説明書を見る余裕はなかった。
 ちょうどいい機会だと説明書を読み始めた木場を見て、そういえば自分もベルトを二つ持っていた事を思い出す。
 一つはデルタギア、あすかの遺品だ。
 もう一つは恐らく最初からデイパックに入っていた支給品だろう。
 ひょっとするとファイズギアやデルタギアのような変身の道具かもしれないが説明書はなかった。

「お前に間違われたおかげでこっちはえらく苦労したんだからな」
「そ、そんな事を言われても」

 侑斗と京介は他愛のない話をしている。顔も声も似ているのでどっちがどっちかわからなくなる。これでは間違われても無理はあるまい。
 ずいぶん平和な時間が訪れた事に葦原は顔が緩んだ。
 と、不意に木場が顔を上げた。

「木場?」

 葦原が声をかけると、木場は緊張した面持ちで、

「前方で、多分誰か戦っています」

 その言葉に、侑斗と京介も木場を見る。表情まで一緒で本当に区別がつかない。

「何もないけど……」

 目を凝らして前方を見る京介。オルフェノクである木場とは違い、普通の人間である彼には何も見えず、聞こえない。
 それは侑斗も一緒のはずだが、こちらは走り出した。木場も駆け出す。

「あ、おい!」

 声を上げる京介。
 葦原はカブトエクステンダーにまたがり、エンジンを噴かす。

「乗れ!」

 京介を後ろに乗せてカブトエクステンダーを走らせる。
 簡単に侑斗と木場を抜き去り、やがて人影が三つ見えてきた。

「あれは……」

 一人は赤と緑、剣を使っている。
 もう一人は紫、赤い棒を二本持っており、この二人は協力しているようだ。
 そして最後の一人に、葦原は見覚えがあった。
 黒と金。自分があすかを助けるために四号と戦っている時に加勢してくれた者だ。

「歌舞鬼さん! それにヒビキさん!」
「何?」

 カブトエクステンダーを停めた葦原の後ろで京介が口走った所で、木場と侑斗が追いついてきた。

「歌舞鬼って、さっきのヤツか?」
「はい。あの赤と緑のが歌舞鬼さんです。そして紫のがヒビキさん、俺の師匠です」
「それなら、その二人を助けないと!」

 戦況は響鬼と歌舞鬼の方が優勢ではあるが圧倒しているというほどではない。
 ファイズギアを取り出そうとする木場を葦原が押しとどめる。

「待ってくれ。あっちの黒いのは以前、俺を助けてくれたヤツだ。悪いヤツではないと思う」
「でも、歌舞鬼さんもヒビキさんも人助けが仕事の鬼です! 無闇に人を襲ったりしません!」
「そうですよ! 歌舞鬼さん、桐矢君を助けたじゃないですか!」

 京介に同調する木場。彼としては、森下にそっくりな歌舞鬼を放っておけないのだ。
 見知った黒の戦士──カイザに変身しているのが誰なのかは気になるが。
 彼の知るカイザギアの所有者・草加雅人の名前は名簿に載っていなかった。
 葦原を助けたというのが気になるが、そんな場合ではなさそうだ。

「だが……」

 二人の言葉に反論できない葦原。
 そして、どうすべきか判断しかねる侑斗。

「なんだかモメているね」

 と、その場にそぐわない涼しい声が聞こえた。
 全員が振り返ると──

「うわあああ!?」
「お前は!?」

 尻餅をつく京介と、怒りの表情をむき出しにする侑斗。
 そこにいたのは、服をだらしなく着崩した少年。この場にいる誰よりも若いだろう。
 なんとなく楽しそうな表情に違和感を感じざるを得ない。

「きっ、き、北崎……!」
「北崎?」

 京介の震える声で葦原は少年の正体を知った。

「お前が海堂を……!」

 木場がファイズギアを取り出す。
 それを見た少年──北崎は歩き出した。

「君は、彼より僕を楽しませてくれるかい?」
「貴様……!」

 ファイズギアを強く握りしめる木場から目を離し、対照的な反応を示す侑斗と京介に目を向ける。

「すごいそっくりだね、君達。どっちが桜井君でどっちが桐矢君かな?」

 侑斗も京介も後ずさる。

「まあ、態度で大体わかるかな。桐矢君はともかく、桜井君は僕を少しは楽しませてくれそうだね」
「く……」

 タイミングの悪い事に、侑斗は今ゼロノスに変身できない。

「それに……」

 北崎の視線の先は彼ら四人より後方。戦っている最中の三名だ。

「これは、思っていた以上に面白そうじゃない……」

 心底楽しそうな笑顔を見せる。だが、かえって恐怖をあおる表情だ。

(こいつは……)

 葦原は、目の前の少年が危険極まりない存在だと直感した。
 藤兵衛を殺したアンノウンと同じような目。人間を殺す事を心底楽しむタイプだ。

「さて……そろそろいい頃だと思うけど……」

 北崎はつぶやき、ポケットから何かを取り出した。
 黒く、蟹の絵が入った四角い物だ。
 それをカブトエクステンダーのミラーにかざすと、北崎の腰にベルトが出現した。

「思った通りだ。変身」

 そのベルトに黒い物を差し込む。
 次の瞬間、北崎は蟹を模した黄金の戦士──シザースへと変身していた。

「何だと!?」

 まだ自分の知らない変身アイテムがあった事に葦原は驚いた。一体どれほどのアイテムがばらまかれているのか。

 木場はファイズドライバーを腰に装着してファイズフォンを開く。葦原も身構え──

「それじゃ、頑張って僕を楽しませてよ。“仮面ライダー”達」

 そう言って、シザースがジャンプした。四人の頭を飛び越え、歌舞鬼達へ向かって行く。

「待て!」

 木場は変身コードを入力しながら、葦原は両腕を交差させながら走り出す。

── Standing by ──

「変身!」

 木場はファイズフォンをファイズドライバーに装着し、

「変身!」

 葦原は腕を下ろし、異口同音に叫んだ。

── Complete ──

 それぞれファイズとギルスに姿を変じ、シザースを追いすがる。

 かくして、六名もの仮面ライダーが入り乱れての乱戦が幕を開けた。

◇ ◆ ◇

 失策だった。
 最初の不意打ちに失敗した事もそうだが、その後が予想外の事態だった。
 カイザに変身した直後、都合よく歌舞鬼が響鬼を傘を用いた幻惑戦法で追い詰め、カイザブレイガンで二人をまとめて始末しようとした。
 それがかわされてしまい、自分の場所が知れてしまった。奇襲でなければ射撃が当たらないような距離だったので、やむなく接近戦に持ち込むことになった。
 負傷した響鬼を先に狙ったのだが、そこで歌舞鬼が響鬼を助けたのが誤算であった。
 さらにその後、今度は響鬼が歌舞鬼を助け、二人でかかってこられてしまう事に。
 おまけに、更に四人も増えた。
 中には見知った顔が三つ。
 スマートブレインに楯突いていたオルフェノクだ。名前は木場といったか。
 つい先刻見た顔もあった。なぜか同じ顔が二つ。双子ではないかと思うほどにそっくりだ。
 どうすべきか決めかねているようだが、自分に向かってくる可能性はあるだろう。
 まだオルフェノクへの変身は残しているとはいえ、響鬼と歌舞鬼も変身を残しているかもしれない。
 駆けつけた四人にしても、少なくとも木場は戦える。どうにか撤退しなければならないが……
 そう考えていた所に更なる乱入者が現れた。それもよく知っている人物。
 ラッキークローバーの北崎。
 ある意味、最も危険な人物と出くわしてしまった。
 案の定、見知らぬ姿──シザースに変身し、こちらへ向かってきた。
 それを見て木場ともう一人も変身して走ってくる。
 両方の変身した姿に見覚えがあった。
 木場の方はファイズ。自分が今使っているカイザギアと共に『三本のベルト』と呼ばれるスマートブレインのライダーズギアだ。
 もう片方の緑の戦士──ギルスは、デルタに変身しようとした女の仲間らしいヤツだ。
 多分、まだ自分を友好的と思っているだろう。まだツキは残っている。
 乱入者には歌舞鬼と響鬼も気づいていたようだ。三人とも一時手を止めてシザースの動向に注意を払う。
 そしてシザースバイザーが突きこまれたのは──歌舞鬼だった。
 音叉剣で受け流し、数回打ち合ったがやがてバイザーのハサミに剣を挟みこまれた。

「やあ、会えて嬉しいよ」

 シザースバイザーで音叉剣を抑えつつ、ベルトのカードデッキからカードを抜くシザース。

「ケッ、最悪のゲストのご登場ってか……」

 どうやら、歌舞鬼と北崎は面識があるらしい。
 雰囲気で敵と察したらしい響鬼もシザースに迫る。シザースは剣を抑えたままのバイザーにカードを読み込む。

── STRIKE VENT ──

 響鬼が音撃棒を叩き込もうとした瞬間、シザースの右腕に出現したシザースピンチが彼を弾き飛ばした。
 どうやらカードを読み込むことで武器が出現するシステムらしい。
 続いてシザースピンチを歌舞鬼へ打ち据える。うめきながら剣を手放して倒れこむ。
 シザースは剣を適当に放り投げながらこちらへ顔を向け、

「君は誰かな? まあ誰でもいいけどね」

 正体を詮索しないのは助かるが、無視する気もないらしい。
 言いながら再びカードを取り出している。
 そこへファイズとギルスがシザースの後ろから殺到してくる。

「北崎!」

 当のシザースはそちらへは顔も向けず、カードをバイザーへ差し込む。

「君達はこいつと遊んでてよ」

── ADVENT ──

 電子音声が鳴った直後、倒れた歌舞鬼のバイクのミラーからシザースそっくりな怪物──ボルキャンサーが飛び出し、ファイズとギルスを叩き伏せた。
 二人ともすぐに体勢を立て直し、応戦するが装甲の頑丈さに手を焼いているようだ。
 さらにカードを抜きながらカイザへ近づくシザース。

── Burst Mode ──
── GUARD VENT ──

 カイザブレイガンから光弾を発射するが、シェルディフェンスで防がれてしまう。
 光弾をことごとく防ぎながら距離を詰められ、やむなく剣で応戦する。
 響鬼と歌舞鬼を見ると、変身が解けた歌舞鬼を響鬼が助け起こしていて、そこにファイズとギルスが駆け寄っている。ボルキャンサーはいつの間にか消えていた。
 やがて響鬼も変身が解けてしまう――全裸のような気がした――が、それ以上は余所見できる余裕はなかった。
 ファイズとギルスもシザースに攻撃をしかけるが、それらさえもいなしていく。
 北崎は攻撃も防御も上手く、動きは割と鈍重なのにスキがなく、パワーに優れた性質を活かしている。
 囲まれないように常に動き、左右のハサミを器用に使いこなして牽制し、殴り、弾き、切り裂く。
 何発かシザースに当たった攻撃はあるものの、装甲の厚さゆえ有効打にならない。
 ブレイガンをシザースバイザーで大きく弾かれ、蹴りをもろに受けてダウンしてしまう。
 起き上がろうとして、シザースから距離を取れた事に気づく。
 シザースはファイズとギルスを相手に立ち回っており、すぐにこっちへ迫るという事はなさそうだ。
 余力はまだあるが、そろそろ潮時──

── SPIN VENT ──

 不意に横から聞こえた電子音声。直後にその方向から槍のような物が迫る。
 とっさにブレイガンを跳ね上げ、それを弾く。
 転がって距離を取り、立ち上がる。
 そこには、鹿のような二本の角を持った戦士──インペラーが立っていた。
 手には二本組のドリル。それを振りかざし、跳躍してくる。
 再度転がり、ドリル──ガゼルスタッブから逃れ、着地直後のインペラーに距離を詰める。ガゼルスタッブの形状からして、肉薄した方が有利だと判断した。
 ブレイガンをガゼルスタッブで受けられ、押し合いになる。

「惜しかったなぁ、さっきのお礼だったんだがよ」

 声からして、変身しているのは歌舞鬼。
 不意打ちを仕掛けられた事を根に持っているようだ。

「また邪魔されちゃたまらねえからよぉ、とりあえず響鬼より先にてめえだ」

 どうも、勝負に水を差された事の方が恨みが大きいらしい。
 そろそろ自分も時間切れのはずだ。すぐに勝負を決めた方がいいだろう。

◇ ◆ ◇

 突然現れたシザース。
 殴り倒され、起き上がろうとすると歌舞鬼も同じように倒され、人間の姿に戻っていた。

「大丈夫か?」

 響鬼は歌舞鬼に駆け寄り、声をかけた。

「いてて……くそ、あんにゃろう……」

 シザースに殴られた顔を押さえながら響鬼に助け起こされる歌舞鬼。

「歌舞鬼さん!」
「大丈夫か!?」

 そこにファイズとギルスもやって来た。さっきまで魔化魍のような怪物と戦っていたと思ったが、その怪物はどこにもいない。

「君達は……?」
「ああ、こいつらは大丈夫だ」

 訝しむ響鬼に答える歌舞鬼。と、そこで響鬼も変身が解けた。

「…………」

 いきなり全裸の男が現れたのでギルスとファイズは一瞬固まってしまった。

「……あんた、まだ変身できるか?」

 とりあえずギルスがヒビキに尋ねる。

「いや、俺は他に変身できない」

 かぶりを振ると、ギルスとファイズは顔を見合わせる。

「詳しい事は、あっちの二人にでも聞いてくれ。行くぞ、木場」
「はい」

 シザースへ向かっていく二人。
 歌舞鬼は懐から何かを取り出した。

「俺はもう一仕事してくっか」

 さっきシザースが変身する時に使っていたものと同じようなカードデッキ。歌舞鬼はそれを倒れたバイクのミラーにかざす。

「変身!」

 やはり同じように出現したベルトにデッキを装着すると、歌舞鬼の姿が角が生えた黒と茶色の戦士に変わった。

「お前は適当に逃げてろ。次に会う時まで命は取っとけよ」

 そう言って歌舞鬼も乱戦の中に向かって行った。
 思えば不思議な人だ。
 わざわざ自分を鬼に変身させ、本気で殺しに来たかと思えば乱入してきたカイザから自分を助けてくれた。
 今もわざわざ自分に逃げろと声をかけていった。
 悪ぶっているが、いい人なのだろう。

「ヒビキさん!」

 そんな事を考えていると、同じ顔の男が二人、ヒビキに駆け寄ってきた。
 駆けつけてきていたのに気づいてはいたのだが、同じ顔が二つも並んでいると妙な感じだ。

「お前、双子だったっけ?」
「こんな時に何言ってるんですか!」

 ツっこむ京介(多分)。すると京介その二(?)も声をかけてくる。

「ケガ、大丈夫ですか? けっこうひどいんじゃ……」
「大丈夫、けっこう鍛えてるから」

 笑顔で手を上げる。本当はかなり痛いのだが。

「俺、桜井侑斗っていいます。桐矢とは顔が似てますけど赤の他人です」
「君が桜井侑斗?」

 さすがのヒビキもこれには驚いた。
 香川から聞いたのはついさっきなのにもう巡り合う事ができ、しかもそれが京介ととてもそっくりだとは。

「香川さんて人から話は聞いてるよ」
「香川さんに会ったんですか!?」
「ああ、この近くに来てるよ」

 侑斗は驚き、そして顔を輝かせた。

「香川さん……無事だったんだ……」
「よかったな、桜井」

 侑斗の肩に手を乗せるヒビキ。

「とりあえず、少し離れよう。応急処置もしたいし、服も着ないと」
「だ、大丈夫でしょうか」

 乱戦を展開している五人を見ながら、不安そうな京介。

「俺も悔しいけど、今は俺達にできる事をしよう。近くにいるとあいつらの邪魔になりかねないしな」

 そう言って、戦場から距離を取る事にした。

「ところで今、木場って言ったね?」
「はい、彼が木場さんです」

 と侑斗が黒い方の戦士を指差した。

「香川さん、木場って人に襲われたって言ってたけど」
「それは誤解なんです。色々とあって……でも、木場さんは今は俺達の仲間です。信じてください、お願いします」

 必死に訴える侑斗。その目にヒビキは微笑む。

「わかった、お前を信じるよ」

◇ ◆ ◇

「あれは、木場勇治!?」

 香川は、林の木陰からヒビキが戦っていたのを見ていた。
 変身できず武器も持たない自分では助けに行く事もできなかったのだ。
 そこに黒いライダーや北崎、そして侑斗ら四人も現れた。
 侑斗が無事だった事は嬉しいが、侑斗にそっくりな人物、そして木場が一緒にいたのには驚いた。
 なぜ木場が侑斗と一緒にいるのか。
 しかも木場は変身して北崎に戦いを挑んでいる。これは侑斗に味方しているとしか思えない。
 香川は困惑してしまっていた。彼は殺し合いに乗っていたとばかり思っていたのに。
 ヒビキの方は、最初に戦っていた相手がなぜか味方してくれたため難を逃れたようだ。今は侑斗らがケガの手当てなどをしている。変身が解けるとなぜか全裸だったが。
 ヒビキが最初に戦っていた者と北崎は、神崎士郎が作ったカードデッキを使っていた。
 うち前者については見覚えがある。佐野という男が変身していたインペラーだ。彼は今、黒いライダーを相手にしている。
 北崎とは木場とその仲間らしい緑のライダーが二人で戦っているが、優勢とはいえない。
 侑斗が変身していないのを見るに、彼は今制限時間中なのだろう。
 もう一人の侑斗にそっくりな男も戦っていない。変身手段を持たないのだろうか。彼にゼロノスベルトを使わせる事も出来るはずだが。
 いずれにせよ、侑斗らと合流しないといけない。
 香川は戦況を見守りながら、移動を始めた。

◇ ◆ ◇

── Exceed Charge ──

「おおおっ!」
「ウォォォーッ!」

 わずかに時間差をおいてシザースに迫るグランインパクトとヒールクロウ。
 左右の腕で順に受け止めるが、グランインパクトでシェルディフェンスが外れ、ヒールクロウでシザースピンチが砕けた。
 シザースはそれにも慌てず、ファイズをタックルで吹き飛ばすとギルスにシザースバイザーを見舞う。
 胸を切り裂かれ、身じろぎするギルスにキックとパンチを立て続けに叩き込んだ。
 ダウンするギルスを横目にファイズを見ると、足にファイズポインターを装着し終わるところだった。
 二人同時にベルトに手を伸ばす。

── Exceed Charge ──

 ファイズはファイズフォンのキーをプッシュし、シザースは最後のカードを引き抜く。

── FINAL VENT ──

 ファイズドライバーから右足に赤い光が動き、シザースの背後に再びボルキャンサーが現れる。

「はっ!」

 跳躍するファイズ。ボルキャンサーにトスされて丸まったシザースに、赤い円錐型の光が接触する。

「だぁぁーっ!」

 クリムゾンスマッシュとシザースアタックがぶつかり合い、轟音が鳴り響く。
 そして、シザースはアスファルトに倒れ、ファイズが遅れて降り立った。

「いてて……やるね」

 起き上がるシザース。左肩を押さえている。

「さっきまで僕が押してたんだけどなあ……」

 ファイズとギルスの二体を相手に上手い立ち回りで優勢を保っていたが、純粋なぶつかり合いでは意外とシザースはパワー勝ちできないようだ。武装の性能も良くない。
 北崎は知らないが、シザースと契約しているボルキャンサーのAPは同じ人物が製作したデッキの中でも一番数値が低い。
 戦闘巧者の北崎でなければこれほどの成果は出なかったかもしれない。
 だが、装甲の厚さだけは本物だったようだ。シザースアタックでだいぶ勢いを削いだとはいえ、クリムゾンスマッシュを喰らっても大したダメージは受けていない。
 と、シザースの変身が解けた。直後、ファイズとギルスの変身も解ける。
 ふ、と笑う。

「今度はこれ」

 デイパックからベルトを取り出す北崎。それを見て木場もベルトを取り出す。

「葦原さん、下がっててください!」

 葦原はよろけながらその場を後にする。他の変身手段を持たないようだ。
 北崎は黒、木場は白のベルトを腰に巻きつけ、それらと同色の携帯電話を取る。

「へえ、それも面白そうなオモチャだね」

 北崎は0・0・0、木場は3・1・5とコードを打ち込む。

── Standing by ──
── Standing by ──

「変身」
「変身!」

── Complete ──
── Complete ──

 そこには、白と黒のライダーが対峙する光景があった。
 相手は違う世界において自分が変身する姿である事を、木場は知る由もない。

「さあ、第2ラウンドといこうか」

 オーガとサイガ。
 『地のベルト』『天のベルト』と並び称された二つのギアは、ありえないはずの対決を捻じ曲げられた運命に強いられた。

◇ ◆ ◇

 ガゼルスタッブがアスファルトを穿ち、カイザの足がインペラーのアゴ目がけて振り上げられる。
 上体を反らして蹴りをかわし、やはり蹴りで反撃した。
 肘で防ぎ、ブレイガンを払うが飛び退いてかわされる。
 距離を取られたならと射撃するが、ぴょんぴょん飛び跳ねるので当てられない。
 そして射撃の間隙を縫って短いジャンプで少しずつ間合いを詰め、低く飛びかかりながらガゼルスタッブを繰り出す。
 転がって避け、起き上がる頃にはすでにインペラーは離れている。
 さっきからインペラーはずっとこの調子でジャンプによるヒットアンドアウェイを繰り返している。
 カイザは近づいたら剣、離れたら射撃で対応しようとするが小さいジャンプしかしない上にタイミングを巧みにズラすので当たらない。
 こうちょこまか動かれては大技を出そうにも当てられまい。もはや鹿というよりバッタだ。
 だが決定打が打てないのはインペラーも同じはず。
 とにかく、どうにかしないと時間がない。

(時間?)

 気づいた時はもう遅かった。
 カイザの変身が解け、澤田の姿が露わにされる。
 そして、待ってましたとばかりにインペラーがカードを抜き、膝のバイザーに装填した。

── FINAL VENT ──

 倒れたバイクのミラーから大量のシカ型モンスターが現れ、澤田に向かって殺到してくる。

(しまった……最初から時間切れを狙っていたのか!)

 変身したのはインペラーの方が後だった。
 自分のペースに引き込んで時間稼ぎをすれば変身が先に解けるのはこっちの方だ。
 ブレイガンが遠近どちらにも対応できる武器だった事もかえってマイナスに働いたかもしれない。
 相手のペースに飲み込まれてしまった自分の迂闊さを呪いながら、殺到するゼールの群れを睨みつける。
 この状況を打破する方法は一つしかない──
 真魚が見ていない事を祈りつつ、澤田はゼール達に向かって走り出した。

「うおおおっ!」

 インペラーには、ヤケクソの特攻にでも見えたろうか。腕を組んで余裕を見せている。
 先頭を跳ねるメガゼールの腕が澤田に触れようとした瞬間──
 メガゼールはスパイダーオルフェノクへ変化した澤田によって叩き伏せられた。
 セールが立て続けに迫りくるが、スパイダーオルフェノクは凄まじい速度で拳を打ち出し、足を振り上げ、殴り伏せ、蹴りつぶし、投げ飛ばした。
 完全に包囲したゼール軍団が一斉に飛びかかる。
 スパイダーオルフェノクは八方手裏剣を生成させ、振り回した。

「でぇぇぇぃっ!」

 神経を研ぎ澄まし、オルフェノクとしての知覚能力をフルに引き出す。周囲のゼール一体一体の動きが手に取るようにわかる。
 ゼール達を切り刻み、一頭たりと一定範囲から近づかせない。その様はさながら回転ノコギリのようだ。
 やがて最後のゼールを消滅させ、インペラーを睨みつけた。
 もう余裕は感じられない。スパイダーオルフェノクの鬼神のごとき戦いぶりに圧倒されていたのだ。
 しかもインペラーは切り札であるファイナルベントを使ってしまった。
 だがスパイダーオルフェノクの方も疲労は著しい。首輪の制限下でオルフェノクの能力を酷使したのだから。
 しかし、今度は先に時間切れを起こすのはインペラーの方だ。
 伸縮自在の腕を使えば、敏捷性に優れるインペラーでさえ動きを捉えられるだろう。
 次はこっちがゆっくりと料理する番だ──
 ゆっくり近づくスパイダーオルフェノク。
 それに対し、インペラーはデッキからカードを取り出す。
 それを見て、まだ何かあるのかと警戒して足を止めてしまう。
 するとインペラーは大きく後ろへ飛び上がりながらカードをバイザーに入れた。

── ADVENT ──

「!!?」

 再びわらわらとミラーから出てくるゼール軍団。ビデオを巻き戻したかの如く、さっきと同じように迫る。
 さすがにこの数を二度も相手するのは辟易する。
 当のインペラーは倒れたバイクを抱え上げ、飛び跳ねながら逃げていく。
 それを追いかける余裕はない。
 スパイダーオルフェノクもきびすを返し、迫りくるゼール軍団から逃げ出した。
 真魚がいるのと逆方向へ丘を登りながら、くらいついてくるゼールどもを振りほどく。
 先回りした数体は八方手裏剣で斬り倒し、タックルをしかけるギガゼールには肘を見舞う。
 もしこれが映画の撮影で、自分が監督だったらタイトルは『鹿』と名づけただろうなどと笑えない事を考えてしまう。

 それから1分後、ゼールは全て消滅し、澤田はどうにか逃げ切ることができた。

◇ ◆ ◇

「あれは……」

 葦原は、カイザから変身を解除した男の姿を見た。
 以前助けられた人物。顔は覚えておきたい。

「あいつ……さっきの!」

 と、葦原の上半身に包帯を巻いていた侑斗。
 シザースにやられた胸のキズ自体は深くはないが体力の消耗も大きく、ギルスへ変身した反動は腕などに顕著に現れている。
 それを堂々と見せるのにはさすがに抵抗がないではなかったが、もう木場には見せたしと開き直ってしまった。

「知ってるのか?」
「ああ、さっきこの道で戦ったのはあいつだ!」

 やはりヒビキの体に――今はズボンだけ履いている――包帯を巻いている京介の問いに侑斗は指を差して答えた。
 そして彼が灰色の怪人へ変身する所を目の当たりにして全員が色めき立った。

「あいつも……オルフェノクだったのか」

 その姿で、大量の鹿の怪物を一人で蹴散らしている。

「すげえ……」

 思わず京介がつぶやく。その姿は鮮烈に彼らの印象に残った。
 ところが再び鹿の怪物が大量に現れ、そのオルフェノクはさすがに逃走した。
 歌舞鬼もそのスキにバイクごと逃げていった。
 やがて、戦っているのはオーガとサイガのみになる。

「くそ……あと少しなのに……」

 憎々しげに携帯を見る侑斗。
 ゼロノスへ変身できる時間まで、まだ10分以上ある。
 葦原とヒビキは負傷、京介は戦った経験がないという。
 言えばあるいは葦原かヒビキは無理を押しても戦いに行くかもしれないが……
 侑斗が色々と考えていると、不意に葦原の声がした。

「おい、バイクが来るぞ」

 見ると、北の方からバイクが一台、走ってきていた。
 バイクを見てヒビキがつぶやく。

「まさか……手塚?」



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歌舞鬼
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