Traffics(後編)

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Traffics(後編)


 二本のトンファーエッジとオーガストランザーが数合目となる接触の音を奏でる。
 慣れない得物ながら、スピードもパワーも驚異的なオーガの攻めに懸命にくらいついていく。
 薙ぎ払われるオーガストランザーを受けようとしてサイガのトンファーエッジが二本とも大きく弾かれ、体勢を崩される。
 何とか手放さなかったが、そのスキにストランザーが振り下ろされる。
 とっさに後ろへ飛び、胸を切っ先が切り裂くが装甲を破るには至らなかった。
 接近戦ではヤツの方が上手。
 そう判断し、トンファーエッジを背中のフライングアタッカーに取りつける。
 接近して更に斬撃を繰り出すオーガだったが、ストランザーが振り切られたのはサイガが上昇した後だった。
 事前に説明書に目は通していたため、サイガの運用については困る事はなかった。
 取りつけたトンファーエッジをブースターライフルモードにして、上空からオーガに光弾の雨を浴びせる。
 オーガは走りながら弾丸をかわし、オーガフォンのEnterキーを押した。

── Exceed Charge ──

 電子音声と共に、オーガストランザーの光る刀身が異常な勢いで伸び出した。

「なっ!?」

 オーガはその長い光の刃を振り回し、サイガを追い立てる。
 ジェットパックを細かく操作して必死にかわすが、それに手一杯で銃を撃つ余裕がない。

「これはいいや。まるでハエ叩きだ」

 新しい遊びを見つけかのようにはしゃぐオーガ。重厚な見た目からは想像がつかないような言動だ。
 このままではいつか捕まってしまう。
 一か八か懐に潜り込むか。
 そう考えていた時、サイガの耳にバイクの音が聞こえてきた。
 それはオーガにも聞こえていたようで、ちらりと道路の方を見る。
 北の方からバイクが一台、走って来る。乗っているのは黒髪の男だ。顔色が悪い気がする。
 男は両手をハンドルから離すと、妙なデザインの剣と紫のサソリのようなものを両手に持った。

「変身!」

 この場のほぼ全員が使ったフレーズを口にし、彼は剣にサソリを取りつけた。

── HENSHIN ──

 すると彼の体を六角形の装甲が覆い始め、やがてチューブが大量についた鎧の姿──サソード・マスクドフォームになった。

「あれは……!」

 その変身プロセスに木場は見覚えがあった。
 一度敵として戦い、そして一度共闘した影山が変身したザビーと同じ変身の仕方だ。
 ゼクトとかいう組織が作った変身機構──確かマスクドライダーシステム──に違いない。フォルムもザビーに雰囲気が似ている。
 だが、変身した男とライダーそのものには見覚えがない。
 彼は敵なのか、それとも味方か。
 と、

「手塚さん、黒い方が敵です! 木場さん、彼は味方です!」

 どこからか大声。聞き覚えがある気もするが……
 その思考は中断せざるを得なくなった。
 オーガストランザーがサソード目がけて振り上げられたからだ。

「危ない!」

 瞬時に下降し、横から地表すれすれに飛んでオーガに体当たりする。
 オーガは体勢を崩し、光の刃はバイクのわずかに横のアスファルトに叩きつけられた。

「はっ!」

 バイクからジャンプするサソード。乗り手を失ったバイクはガードレールにぶつかって倒れた。
 着地し、オーガに剣──サソードヤイバーで斬りかかる。
 オーガはサイガを蹴り飛ばし、元の大きさに戻った刃でサソードに応戦する。
 二合ほど打ち合うとサソードはよろけてしまった。
 そこへオーガが剣を浴びせようとした瞬間、サイガがオーガの背中目がけて引き金を引いた。
 地面に転がり、光弾を回避するオーガ。そのスキにサイガはサソードに駆け寄る。

「大丈夫ですか?」
「すまない、助かった。俺は手塚。そこにいるヒビキさんの仲間だ」
「俺は木場といいます。来てくれて助かります」

 簡単に自己紹介を済ませる。
 その間にオーガは立ち上がり、マントの裾をはたいて埃を落としている。

「まだ僕に刃向かう馬鹿がいたんだね。でも君、非力すぎるよ。どっかケガでもしてるの?」

 身じろぎするサソード。どうやら図星のようだ。

「まあ別にいいよ。遊びは多い方が楽しいからね」

 ストランザーを振りかざし、走り出すオーガ。

「ケガ人だからと侮るんじゃない!」

 叫び、向かっていくサソード。
 サイガは上昇し、オーガの真上から落下、トンファーエッジを取り外して強襲を仕掛ける。
 上空から銃で援護することもできるが、手塚がケガをしているのでは無理はさせられない。
 両方の攻撃をかわし、オーガはサイガに蹴りを入れ、サソードと切り結んだ。

◇ ◆ ◇

「今の声って……」

 侑斗は声の主を探していた。聞き覚えがある声だったからだ。
 そして、斜面をゆっくり降りてくる人影をついに見つけた。

「香川さん!」
「桜井君、あなたが無事でよかった」

 現れた香川に駆け寄る侑斗。

「よかった……無事で、本当に……」
「心配をおかけしましたね。ですが、大丈夫です」

 侑斗の肩を抱いて安心させる香川。と、視線を京介に移す。

「彼が……あなたが言っていた、あなたにそっくりな男性、ですか?」
「あ、俺、桐矢京介っていいます」

 軽く会釈する京介。次いでヒビキが口を開いた。

「香川さん、手塚はケガしてるんですよ?」

 香川はええ、と嘆息する。

「確かにそうですが、気づいた時にはもう変身した後でしたからね。とりあえず必要な情報は知らせないといけないと思いまして。それより、ケガは大丈夫ですか?」
「これくらい大丈夫です。鍛えてますから」

 腕を上げるヒビキだが、腹に巻かれた包帯には大きな赤いシミが出来ている。

「ところで……彼は木場勇治ですよね?」

 オーガに空中から牽制を行うサイガを見ながら侑斗に尋ねる香川。

「ここへ向かいながら戦況を見ていたら、彼もあなた方の味方としか思えなかったので手塚さんにもそう伝えましたが……正直、解せませんね」
「それは誤解なんです。それについてはちゃんと後で話します」
「わかりました。それから桜井君、もしかして君は今ゼロノスに変身できないのですか?」
「はい。あと10分くらいで制限時間が切れるはずなんですが……」

 携帯電話の時計を見ながら焦れったそうな表情の侑斗。

「10分ですか……カードはあと何枚ありますか?」
「4枚です。緑が3枚に赤が1枚」
「あと4枚……少々心許ないかも知れませんね……」

 それを見ていた葦原が包帯が巻かれた上体を起こし、

「そのゼロノスとやらは誰でも変身できるのか?」
「ええ、私も一度使いました。現在、ここにいる中でゼロノスでまともに戦えるのは私と桐矢君だけでしょう」
「お、俺!?」

 全く意外という風に声を上げる京介。
 ヒビキが口を出す。

「香川さん、京介はまだ実戦向きの修行つけていないんです。実戦はちょっと」
「……そうですか」
「一応、誰でも変身できる道具ならもう一つあるにはあるんだがな」

 葦原が自分のデイパックを手繰り寄せる。

「本当ですか?」
「まあな。あんまり使って欲しくないが……」

 一瞬、葦原の顔に悲しそうな表情が見えた気がした。

「香川さん、何考えてます?」

 と、ヒビキ。戦えるのは自分だけと言いながら、そうしないのを怪訝に思っているようだ。

「あの北崎という男もオルフェノクです。そしてそのオルフェノクの姿をまだ見せていない」
「つまり、あいつはあと一回変身できる……!」

 拳を握りしめる侑斗。この島で最初に出くわした敵がそれだった。

「ですから、その時に私がゼロノスに変身しようと考えています。木場勇治もオルフェノクになれるはず。もし、まだ変身を残していたとしても桜井君がゼロノスになればいいし、それを使う手もある」

 最後の言葉は葦原のデイパックを指して言ったのだ。

「そうなると木場のヤツ、3回も変身しないといけない計算になるぜ」
「仕方がないでしょう。オルフェノク用の装備が2つもあるのですから」

 人使い荒いぜ、と呆れた表情の葦原。
 だが、香川にしてみればたとえ全滅するとしても侑斗だけは守り切らなければならないと考えている。
 時の列車の持ち主である侑斗こそ、この無益な殺し合いを止めることができる最大の切り札だと確信しているからだ。
 だからこそ、あえて手塚を止めなかった。
 可能な限りゼロノスは温存した方がいい。

「ち、ちょっと! ヤバくないか!?」

 と、指を差して京介が大きな声を上げる。彼の指の方を見ると──
 サイガもサソードもボロボロでアスファルトにうずくまっていた。
 作戦会議をしている間に形勢は悪くなっていたらしい。

「桜井君、ゼロノスのベルトとカードを!」

 このままでは二人が危ない。そろそろオーガとサイガの変身も解ける時間のはずだ。

「は、はい!」

 慌てて香川にベルトと緑のカードを差し出す侑斗。赤だけは渡せなかった。
 だが手渡した瞬間、葦原と京介の声がした。

「うっ!?」
「わあああっ!」

 はっと気づくと、オーガが巨大な光の剣をこっちへ向けて振り上げていた。

◇ ◆ ◇

 何度もサソードヤイバーを振るうが、いずれも簡単にストランザーであしらわれてしまう。

「手塚さん、離れて!」

 上空でサイガが銃を構え、サソードに警告する。
 サソードが後ろへ下がると同時、オーガも横へ飛ぶ。二人が一瞬前までいた地点が光弾で爆ぜる。
 サイガは上空からオーガに距離を詰め、フライングアタッカーからトンファーエッジを切り離しつつサイガフォンに手を伸ばす。

── Exceed Charge ──

 サイガドライバーから両腕にフォトンブラッドの輝きが移動し、二本のトンファーエッジが青く輝く。
 それに合わせ、サソードもオーガに接近する。
 だがオーガは避けるどころかサイガに向かって一歩踏み込んだ。
 トンファーエッジは空を切り、オーガとサイガの頭が打ち合わされる。
 頭突きからオーガはストランザーを振り上げ、サイガのボディを切り裂きながら空へ打ち上げた。
 そして後ろ向きにサソードの胸に蹴りを打ち込んだ。
 厚い装甲ごしとはいえ、オーガの強烈な蹴りをケガしている胸で受けてしまい、激痛に見舞われる。
 動きが止まってしまった所に当然のように行われる斬撃。
 サソードの装甲は深く抉られ、それでも手塚の体までは刃は達しなかった。だがダメージがないではない。
 さらにもう一閃受けた衝撃で地面に転がり、止まっても痛みで動けない。

「くっ……」

 サソードヤイバーをアスファルトに突き立て、なんとか立ち上がるサソード。
 胸の辺りにべっとりとした感触がする。傷口が開いて血が流れているのだろう。
 少し離れた位置にサイガが倒れこんでいる。
 サソードがケガのせいで動きにキレがないためサイガがそれをフォローしようと接近戦を仕掛けていたのだが、結果的に二人ともオーガと正面からぶつかる事になってしまった。
 装甲の厚いマスクドフォームのままでいた事がケガで動きが鈍っている手塚にプラスに働いた面もあるが、それは単に彼がキャストオフの仕方を知らないからに過ぎない。

(こいつ……強い……!)

 もしかするとダグバとも互角にやり合えるかもしれない。
 目前の黒い魔人に戦慄を覚える手塚。

(このままでは、また俺は運命を変えられずにっ……)

 動物園で行った占いの結果をなんとか的中させまいと駆けつけたが、結果はこの通り。
 ヒビキを助けるどころか、今自分が助けを必要としている。
 情けなさで泣きそうな気分だ。

「もう限界?」

 オーガストランザーを肩に担ぎ、悠々と歩いているオーガ。

「しっかりしなよ。それじゃ仮面ライダーの名が泣くよ?」
「黙れ……っ」

 フラつきながらも立ち上がるサソードとサイガ。
 いくら絶望的な状況でも、自分はまだ生きている。

(ならば最後まで運命に逆らえ……!)

 自分に活を入れ、サソードヤイバーを両手で構える。

「そう来ないとね。でもなあ、そんなボロボロじゃあね。とはいえ時間はまだ少しだけあるんだよなあ……」

 ブツブツ言いながら空を見上げるオーガ。時間とは、変身時間10分の事だろう。
 と、ポンと手を叩いた。

「そうだ。面白い事を思いついた」

 そう言うとオーガフォンのEnterキーを押す。

── Exceed Charge ──

 またもオーガストランザーから長い光が出でる。

「っ!」

 まとめてトドメを刺す気か。
 光の大剣を振り上げるオーガ。しかしその正面にいるのはサソードでもサイガでもなく──

「うっ!?」
「わあああっ!」

 香川やヒビキらが固まっている場所だ。

「さあ、どうするのかな?」

 言った直後、まるで包丁で大根でも切るかのように気軽に大剣を振り下ろすオーガ。

「ヒビキさん! みんな!」

 みんなに迫る光。その軌道のすぐ近くにサソードがいたのは偶然か奇跡かオーガの計算づくか。
 躊躇せず、オーガと仲間たちの間にサソードが身を滑り込ませた。
 全ては一瞬の出来事──

◇ ◆ ◇

「うわああああああぁぁぁぁぁぁっ!!」
「手塚さん!?」
「手塚ぁぁぁっ!」

 サソードの絶叫に香川とヒビキの声はかき消される。
 オーガストラッシュは無常にもマスクドフォームの装甲さえ打ち砕き、サソードの体に深々と食い込んでいく。

「やめろぉぉぉぉぉっ!」

 サイガが走り、オーガの横っ面に拳を叩き込む。
 オーガストランザーがオーガの手を離れ、サソードはオーガストラッシュの洗礼から開放された。

「この──」

 オーガは殴った腕を両腕でつかんでサイガの体を振り上げ、全力で地面に叩きつけた。
 アスファルトを砕きながらバウンドするサイガを更に蹴り上げる。
 サイガの体は弧を描き、仲間達の近くへ落ちる。それに一瞬遅れてサソードが膝を突き、前へ倒れた。

「がは、っ……手、手塚さ……」

 倒れこんだサソードに手を伸ばすサイガ。その瞬間、オーガとサイガ、そしてサソードの変身が解けた。
 時間的に余裕があったはずのサソードの変身も解除された理由は一つ──

「手塚っ!?」
「手塚さん!」

 手塚に駆け寄る仲間達。
 その姿を見て全員が息を呑んだ。
 オーガストランザーの斬撃は手塚の体を右肩から腹の辺りまで切り裂いていた。
 凄まじい量の血液がアスファルトに赤い流れを作る。

「手塚っ! 手塚! しっかりしろ手塚!」
「おい!」
「手塚さん!」

 ヒビキの、葦原の、侑斗の声にも手塚は反応しない。
 口からも止めどなく血が溢れ、時折ゴボッと音がする。

「あはははは!」

 北崎は手塚に指を刺し、腹を抱えて笑っていた。

「やると思ったら本当にやったよ! さすが仮面ライダー、予想通りすぎて笑いが止まらないや! あははは!」
「貴様ッ……!」

 香川がギリギリと歯軋りしながら鬼の形相で北崎を睨みつける。
 北崎の暴挙は冷静な香川をさえ激怒させるのに十分すぎた。
 最初の戦いで一条にかばわれた時と全く同じ事を目の前にいながら許してしまった。
 ゼロノスを温存しようとした事を激しく後悔した。

「貴様だけは許さんッ!」

 持っていたゼロノスベルトを腰に巻き、カードを差し込む。

── ALTAIR FORM ──

 ゼロノスに変身すると素早くゼロガッシャーをサーベルモードに組み立て、北崎目がけて走った。

「うわあぁぁっ!」

 木場も満身創痍に関わらずホースオルフェノクへ変化し、ゼロノスと共に突進する。
 ほんのわずかな時間とはいえ一緒に戦った仲間が致命傷を負わされた怒りと悲しみで、オルフェノクの姿を仲間に見られるという事は頭から吹き飛んでいた。

「あははは! あっはははは!」

 北崎はまだ笑っている。両手を広げて天を仰ぎ、笑いながらドラゴンオルフェノクに変化する。

「あははは!」

 そして竜人態に姿を変えた刹那、ドラゴンオルフェノクが消えた。

ドガガガッ!
ズガッ!
ガガッ!

「ぐあっ!?」
「うああっ!」
「あはははははは!」

 笑い声を上げながら超高速でゼロノスとホースオルフェノクを攻撃するドラゴンオルフェノク。
 二人はさながら突風にもまれる木の葉のように宙を舞い、殴打の音と笑い声がその場に木霊した。
 やがて攻撃が終わり、ドラゴンオルフェノクが通常速度に戻るとゼロノスとホースオルフェノクは落下した。
 全身を激しく打たれ、うめくばかりで立ち上がれない。

「はははは、どうしたのさ? もうこれでおしまい?」

 ゼロノスもホースオルフェノクは息も絶え絶えで口も聞けない。

「結局さ、どんなにあがいたって君達が僕に勝つなんて絶対に有り得ないんだよ。仮面ライダーって言ったって僕にとってはただのオモチャに過ぎないのさ」
「ぐ、あっ……」
「わかった? ならもう殺していいね」

 悠然と二人に近づくドラゴンオルフェノク。

(こんな……手塚さんどころか、このままでは全員が……)
(また人を守れないのか、俺は……海堂っ……俺は……)

 二人は慟哭した。

◇ ◆ ◇

 もう自分は死ぬ。
 手塚は意外と冷静に状況を分析していた。
 だが、なんとかオーガの攻撃からみんなを助ける事はできた。
 あとはみんなに託すしかない。

(すまない、ヒビキさん……だが、なんとかあんたを守る事はできた……桜井や香川さんを頼む……それから本郷、すまない……)

 体はほとんど何も感じなくなっていた。ただ冷たく、寒い。
 だが、何かが顔をしきりにつついているのは辛うじてわかった。
 目を開くと、サソードゼクターがハサミで自分の頬を何度もつついていた。

(お前か……すまなかったな……せっかく選んでくれたのに、まともに使いこなせないで……)

 手を伸ばそうとするが、体が言う事を聞かない。

(俺に代わって、お前がみんなの力になってやってくれ……頼む……)

 薄れていく意識の中で、サソードゼクターに懇願する。きっと誰か、自分より上手く使える者がいる。
 願わくば、その者がこの島にいるすべての人の希望となる人間であって欲しい。

(誰だろうな……今から占ってみたくなったな……が、無理だな……占いか……)

 ふと、ある占いの結果を思い出した。

(城戸……)

 仮面ライダー龍騎──城戸真司が死ぬ。
 そういえば、その結果をまだ変えていない。

(だが……さっきの占いの結果は外れた……いや……)

 さっきからヒビキ達が自分に何度も呼びかけている。もう何と言っているのかさえわからないが、声は聞こえている。

(こいつらなら……きっと、運命を変える……)

 かつて城戸がそうしたように。きっと、城戸も彼らに任せれば大丈夫だ。
 そう考えると、なぜか妙に安心してきた。

(いい気分だ……)

 意識を自分の脳から手放すような感覚は眠りのようだった。

(雄一……)

 不意に親友の顔が浮かんだ。
 再びピアノを弾けるようになれると言われても他人を犠牲にする事を拒み、死んでしまった親友を。
 天国で──せめて死後の行き先は天国だとくらい期待してもいいだろう。雄一もそっちにいると──彼は自分を褒めてくれるだろうか。
 そろそろ終わりだろう、自分は。
 まだ意識がこの世界に残っているうちに、心に言葉を刻んでおきたい。

(当たらないでくれよ……俺の……うらない……なん……か……)

 それは嘘偽りない、純粋な願い。
 そして手塚の意識は永遠の闇の中に消えていった。
 奇しくも、彼と瓜二つの顔を持つ一文字隼人がアルビノジョーカーによって命を絶たれたのと、ほぼ同時刻であった。


【 手塚海之@仮面ライダー龍騎  死亡 】

【 残り29人 】

◇ ◆ ◇

「て……手塚ぁぁ~っ!」

 手塚の顔がカクンと沈んだその瞬間、ヒビキはありったけの声で叫んだ。
 彼のケガを治すためにここまでやって来たのに。
 逆に自分が手塚に助けられてしまった。
 人目もはばからず、動かなくなった手塚の体にすがりついて泣いた。

(何が鬼だ……何が鍛えてますだ……)

 人を守る。
 それが自分の使命だ。
 それをまっとうできなかった。
 目の前で、人が死ぬのを見ていただけだった。

(仲間一人守れないで、俺は何やってるんだよ!)

 手塚の命がけの行動を侮辱した北崎。
 倒して手塚の仇を取りたい。
 だが、戦う力がない。
 自分はこんなに弱い男だったのかと自分を責める。
 弱くなければ、手塚は死なずに済んだかもしれないのに。
 ガチャガチャと音が鳴り、不意に顔を上げる。
 葦原が自分のデイパックを逆さにして中の物が転がり出たのだ。
 その中に、見覚えのあるものがあった。
 スマートブレインのロゴが入ったトランク。

(これって、あすかさんが勝手に持って行った……)

 城戸が持っていた支給品で、誰でも変身できるとわかった途端にあすかが奪い取っていってしまったデルタギアだ。
 葦原が言っていた変身できる道具とはこれの事だったようだ。

(なんでこれがここに……?)

 あすかは何者かに殺された。
 そして葦原がデルタギアを持っている。
 そういえば五代達は、あすかが死んでいた場所で緑の戦士と戦ったと言っていた。
 そして葦原もさっき、緑の戦士に変身して戦っていた。
 もしや、と一瞬考えたが葦原も手塚の死に悲しみ、怒っている。悪い人物には見えない。

(……よし)

 その問題はひとまず保留だ。後で彼に直接確認しよう。
 やる事ができた分、気持ちが前向きになってきた。
 意を決し、デルタギアに手を伸ばす。

◇ ◆ ◇

「あ……ああ……」

 京介はブルブルと震えていた。
 いきなりオーガが自分の方へあの剣を振り下ろした瞬間、縮み上がって動けなかった。
 それからはろくに覚えていない。
 ただ、自分が震えている事に気づいた時、手塚が自分達をかばって死んだ事はなんとか理解できた。
 歯はガチガチと音を立て、口はまともに動かせない。
 足にも力が入らない。腰が抜けてしまったようだ。
 大量の冷や汗で服がぐっしょりと濡れている。
 彼の意識を支配していたのは、ただ、恐怖。

◇ ◆ ◇

 葦原はアスファルトを拳で殴った。
 みすみす人を死なせてしまった。
 しかも自分たちを守って。
 ちゃんと顔を見たのは、かばわれた直後だけ。面識もないのにこの男は身を挺して自分たちを守ってくれた。
 肌は生気を失い、顔は血にまみれて可哀相な顔にされていた。
 藤兵衛の死体を発見した時の後悔や怒りが再びこみ上げた。
 顔を上げると、変身した香川と木場が叩きのめされている。
 自分のデイパックをひっくり返し、中身をアスファルトにぶちまける。
 もはや甘い事を言っていられない。
 ヤツは絶対にぶっ倒す!
 転がり出たデルタギアに手を伸ばそうとして──
 何かが視界の隅で動いていたのに気づいた。

「……?」

 不意にそれを見ると、バッタが飛び跳ねていた。
 正確にはバッタの形の機械だ。顔をこっちへ向けて、ぴょんぴょんと何度も跳ねている。
 自分の荷物の中に紛れ込んでいたのか?
 頭に浮かんだ疑問符に一時、怒りや悲しみを忘れる。
 そのバッタは今度はぴょんぴょん跳ねて移動しだした。
 やがて、デルタギアではないもう一つベルトの周りを回りだした。

「それを使えって言ってるのか? お前……」

◇ ◆ ◇

 二回目だった。
 この島に連れて来られてから、誰かにかばわれたのは。
 その人の命を犠牲にして。
 もう誰も失わない。誰も死なせない。誰も悲しませない。
 そう決心したのに。
 自分は変身してすらいない。この肝心な時に何もできなかった。何もしなかった。
 侑斗は泣いた。
 自分と香川をかばってくれた一条。
 たまたま居合わせただけだったのに手を貸してくれた海堂。
 そしてデネブ。
 みんな死んでしまった。
 守りたい人達は、侑斗の希望に関わらず殺されてしまう。
 俺は強いんじゃなかったのか。
 みんなを最後まで守り通すんじゃなかったのか。
 みんなをこの理不尽な戦いから救い出すんじゃなかったのか。
 俺は結局、何も出来ないのか。

「ちくしょう……ちくしょう……」

 アスファルトについた手の甲に、涙が落ちる。
 耳に香川と木場の悲鳴が聞こえている。
 だが、まだゼロノスの制限時間は過ぎていないはずだ。

「う……ううっ……」

 侑斗は無力感に心を押しつぶされそうになっていた。
 そんな侑斗の手首に何か感触があった。
 見ると、紫のサソリがハサミでシャツの袖を引っ張っている。
 手塚が変身する時に剣につけていたやつだ。
 サソリは侑斗の気を引いた後、手塚の傍らにあった剣の近くへ動いていき、侑斗へ向き直った。
 これと自分を使って手塚の仇を取って欲しい──なぜかそう言っているような気がした。

「お前……」

 サソリに導かれるまま剣──サソードヤイバーを手に取る。
 ずっしりと重かった。
 実際の重量はそれほどではない。
 だがこの剣には手塚の、一条の、海堂の、そしてデネブの遺志が詰まっている。そんな気がした。
 強くなれ、守りたいものを全て守り抜けと、剣を通じて声が聞こえた。
 それは剣から聞こえた声か、それとも自分自身の奥底に眠る尽き得ぬ勇気と闘志の叫びか。

(みんな……)

「俺は……負けない。何度倒れても、最後の最後まで戦い続ける。死んでいったみんなのために……そして、まだ生きている……全ての人達のために……!」

 サソードヤイバーを左手に、サソリ──サソードゼクターを右手に持つ。
 葦原を見ると、彼も同じようにベルトとバッタ──ホッパーゼクターを手に取っていた。
 そしてヒビキもデルタギアのケースを取り、開く。

「葦原……これ、俺に使わせてくれないか」

 まっすぐに葦原を見るヒビキ。
 頷く葦原。説明書に目を通し、デルタドライバーを腰に巻く。
 侑斗と葦原も目が合い、三人とも同じ意思を持っている事を確認すると頷き合った。
 三人は立ち上がり、ゼロノスとホースオルフェノクをいたぶっているドラゴンオルフェノクへと向き直る。

「変身!」

 侑斗は手塚がやったようにサソードヤイバーにサソードゼクターを取りつけ、

「変身」

── Standing by ──

 ヒビキはデルタフォンを口元へ持っていき、トリガーを引きながら音声コードを入力してデルタムーバーに差し込み、

「変身!」

 葦原は腰に巻いたベルトにホッパーゼクターを装着した。

── HENSHIN ──
── Complete ──
── HENSHIN ──

 侑斗と葦原の体の表面に六角形のフィールドが多数現れ、ヒビキの体の回りには青の光の帯が巡り、三人の体を次第に覆いつくしていく。

── Change Punch Hopper ──

 侑斗は多数のチューブが装甲から覗くサソード・マスクドフォームに。
 ヒビキは赤い目に黒いボディ、三角の白いツノがついたデルタに。
 葦原はグレイの細いボディを持ち、右腕にジャッキがついたパンチホッパーに変身した。

「はああああっ!」

 猛ダッシュでドラゴンオルフェノクに迫る三人。。
 それに気づき、つかんでいたゼロノスをどさりと落とすドラゴンオルフェノク。
 サソードヤイバーの斬撃をかわし、デルタのキックとパンチホッパーの拳をいなす。

「今度は君達? いいよ、今機嫌いいから相手して──」
「うおおぉっ!」

 ドラゴンオルフェノクの言葉を無視して、突撃するサソード。接触する前に両腕で捕らえられる。
 体を揺さぶり、抵抗する。

「何? ヤケになった?」

 ヤケなどではない。
 手塚が変身した時から、このアイテムがさっき戦ったあの黒いヤツ──ダークカブトと同じ系統のものだと気づいていた。
 ならば、ヤツと同じ機能がついているはず。
 体を激しくゆすり、ドラゴンオルフェノクと自分の位置を調節する。
 ちょうど仲間達がドラゴンオルフェノクの体で見えなくなった所で、サソードゼクターをいじりだした。
 やがて、サソードゼクターの尻尾が動く事に気づき、カチャリと押し込む。

── Cast off ──

「うわっ!?」

 サソードの体から多数の装甲の破片が周囲に吹き飛ばされる。
 ドラゴンオルフェノクは至近距離で多数の破片の直撃を受け、もんどりうって倒れた。

── Change Scorpion ──

 そこに現れたのは毒々しくも鮮やかな紫色の痩身の剣士──仮面ライダーサソード・ライダーフォーム。
 計算通り上手くいった事に侑斗は内心、歓声を上げていた。
 ダークカブトは装甲を吹き飛ばす時、ベルトにつけたカブトムシ──ダークカブトゼクターを操作していた。
 もしサソードにも同じ機能がついているなら、こっちもゼクターをどうにかするのに違いないと予想していた。
 だが上手くいったとしても、仲間まで巻き込みかねない。
 そのためドラゴンオルフェノクに肉薄した上で、仲間達が自分から見てドラゴンオルフェノクの陰に入るようにしてからキャストオフしたのだ。
 仲間は無傷で相手にはダメージ。まさに一石二鳥の作戦だった。
 致命傷など与えられなかったが、自分の策が成功した事で侑斗は自信を取り戻しつつあった。

「桜井くん……」

 その事に気づいたのか、香川が感心したように侑斗の名を呼んだ。

「大丈夫ですか、香川さん?」

 ゼロノスを助け起こすサソード。いつも自分が変身する姿を起こすのは妙な気分だ。
 ホースオルフェノクを見ると、彼もデルタとパンチホッパーが肩を貸している。

「遅くなってすいません。でも俺が来たからには、もうアイツの好きにはさせません」
「桜井くん……」
「まだ戦えるか、木場?」
「……はい!」

 のろのろと起き上がるドラゴンオルフェノク。

「やってくれたね……ちょっと痛かったよ、今の」

 ドラゴンオルフェノクへ、サソードは一歩進み出て指を突きつける。

「先に言っておく」

 それを聞いてドラゴンオルフェノクはわかってるとばかりに腕を広げた。

「俺はかなり強い、でしょ?」
「今回は少し違う……」

 サソードヤイバーを空へ掲げ、高らかに宣言する。

「俺達はとーてーも強い!」

 最後に、ゼロノスでいつもやっているようにバシッと自分の腕を叩く。

「勝手に言ってなよ。どうせ何度やったって結果は同じなんだから」
「そいつはどうだろうな?」

 ドラゴンオルフェノクはハッタリとしか思っていないようだ。それならむしろ好都合。
 左腰に手を添えながら右手のサソードヤイバーを構える。

「少し機嫌悪くなっちゃった。痛い目を見てもらうよ」

 次の瞬間、ドラゴンオルフェノクの姿が消えた。

「桜井くん!」

 サソードは左腰の突起部分を掌でグリグリと力を入れる。
 やがて、突起が横にスライドする。

── Clock up ──

 予想通りの電子音声。
 その瞬間、全てがスローモーションになる──ドラゴンオルフェノクだけを除いて。
 半日ほど前に戦った時は残像すら見えなかったが、今は普通程度の速さに見える。
 ダークカブトに打ち負かされたのは決して無駄ではなかった。

(捕まえた──時の波を!)

 自分へ爪を振り下ろそうとするドラゴンオルフェノク。
 それをサソードヤイバーで弾き返す。

「!?」

 明らかに動揺するドラゴンオルフェノク。
 返す刃で腹を斬りつける。
 確かな手応え。
 すれ違いざま、身を翻して背中へ斬撃。
 振り返るが構わず、素早く三撃・四撃と攻撃を加える。
 ようやく防御姿勢を取ったドラゴンオルフェノクに足払いをかける。
 予想以上に見事にすっ転んでくれた。

── Clock over ──

 そして時の流れが戻る。
 周囲は何も変わっていない。ドラゴンオルフェノクが地に倒れている事以外は。

◇ ◆ ◇

「なんと……!?」

 ゼロノスは自分の目を疑った。
 ドラゴンオルフェノクが消えたと思った次の瞬間、サソードまで消えた。
 数秒経つとサソードが再び現れ、ドラゴンオルフェノクが倒れていた。
 これはサソードがドラゴンオルフェノクの速さについていったという事だ。

「今、何が……?」

 デルタも驚いている。

「一体どうやって……」
「クロックアップですよ! ゼクトのライダーシステムには、時間の流れを操作する能力があるんです」
「何ですって?」

 ホースオルフェノクの言葉はにわかには信じがたい。だが、実際そうとしか思えない状況だ。

「じゃ、俺にも出来るんだな? 今の桜井の動きが」

 パンチホッパーが口を開く。

「左腰にスイッチがあるはずです」

 言われて左腰を触るパンチホッパー。するとスイッチがスライドした。

── Clock up ──

 刹那、今度はパンチホッパーの姿が消えた。
 起き上がろうとするドラゴンオルフェノクは再び地に叩き伏せられた。
 と思えば体が跳ね上がり、前後左右へ揺れるように動かされる。

ドガガガガガガガガッ!

 腹にマシンガンが直撃しているような挙動。まるで目にも止まらぬ速さのパンチの連打を浴びせられているような……

── Clock over ──

 クロックアップが終了した後も、パンチホッパーは名前の通りのパンチの連発を続け、最後にカカト落としを後頭部に叩きつけた。
 再び地に倒れるドラゴンオルフェノク。
 ゼロノスとデルタはホースオルフェノクの言った事を真実と認めざるを得なかった。

「どうして知っているんですか?」
「同じシステムを使っていたヤツとしばらく組んでたんです。その時に色々聞かせてもらって……そうだ!」

 ホースオルフェノクがゼロノスの両肩に手を置く。

「まだ色々知らない事があると思うんです。だから、二人に説明する時間を作ってくれませんか?」
「……なぜ手塚さんには教えなかったんです?」
「その、まさか知らずに戦ってるなんて思わなくて……すいません。ちゃんと教えていれば助けられたかもしれないのに……」

 うつむいてしまうホースオルフェノク。確かにそうだろう。

「…………」

 相手は、一度自分を襲ったオルフェノク。
 だが侑斗によればそれは誤解らしい。今は侑斗や自分に全面的に協力している。
 手塚が殺された時のリアクションから見ても、彼はこっちの仲間だ。
 そして形勢は、こっちが逆転している。
 だが、サソードとパンチホッパーが再びクロックアップを発動させようと腰のスイッチを入れるが、発動しない。

「あ、制限のせいでクロックアップは連発できないんです。有効時間も無制限の時より短いらしくて」

 当然だろう。そんな能力に制限がなかったら完全なワンサイドゲームになってしまうに決まっている。

「二人とも、彼はその変身システムについて詳しいようです。私達が時間を稼ぐので、ちゃんと説明を受けてください」

 そんなテクノロジーを持ったシステムなら、しっかり使い方を理解していないと危険だ。
 手塚には失礼だが、使いこなせずに倒れた彼の二の舞は避けねばならない。
 幸い、ドラゴンオルフェノクは心理的にもダメージが大きいようだ。
 それに、ドラゴンオルフェノクの超スピードにも制限はかかっているはず。使用した直後は使えないはずだ。
 二人でなら、無理をしなければ時間くらいは稼げるだろう。

「頼みますよ、木場さん。ヒビキさん、行きましょう」
「よっしゃ!」

 うめきながら三度起き上がるドラゴンオルフェノクへ、ゼロガッシャーを振り下ろす。
 竜人態から魔人態へ変化し、巨大な爪でそれを受け止めるドラゴンオルフェノク。

「ここであなたを仕留めてみせます!」
「調子に乗らないで欲しいな?」

 頭はすっかり冷えている。侑斗のおかげだ。

「そのセリフ、そのままお返しします」

 蹴りを入れ、体勢を崩してゼロガッシャーを腹へ突きこむ。
 それは防がれるが構わず刃を跳ね上げ、更に蹴りを浴びせる。
 そこへ音撃棒を携えたデルタが飛び込む。



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