Crisis(後編)

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   ◇  ◇  ◇


無我夢中で振り回したことが、功を成したらしい。風のエルはその幸運を自らの仕える黒き神に感謝した。
ビルに深々と突き刺さるパーフェクトゼクターからは、点々と黄色いエネルギーが溢れている。大方、知らぬ間にハイパースティングでも打ち込んだのだろう。
ふと腹部に鋭い痛みを感じてない手を当てると、嫌な感触とともに赤い雫が滴り落ちた。さしもの風のエルといえど、二度も必殺技を食らった体は限界寸前だった。
このまま飛び降りてどうしようかと考えていた矢先、猛禽のような青い目がとある影を捉えた。

「……あれは……」

草の緑に紛れ見えづらいが、紛れもなく人の体だった。濃緑色のスーツに覆われたそれには、どの生物も等しく持っているものが欠けている。

それすなわち、首。

ニィ、と口を歪め短く吼えた。壁から足を使って剣を引き抜いて数m下の地面へと着地し、倒れている骸の首のあった場所に噛み付いた。

「……んむ……ぅ……はぁ……」

数時間ぶりの血の味に、口から漏れる吐息を抑えられない。新鮮なものでないのは少々残念だが、そんなことよりも今はこの蜜を味わうほうが大切である。
時折ペッ、とペレットのように金属部品を吐き出す。純粋な人間だろうがそうでいまいが、もう血の味さえあれば関係のないことだろう。
次は爪で腹部を切り裂き、辛うじて残っている臓器を頬張った。噛み締めるたび濃厚な血を吐き出すこれは、風のエルにとって最高の珍味だ。
堪能し切った抜け殻を最後に細かく口内で刻み、喉を鳴らして咀嚼する。帰ったら同じエルロードであるあの獅子にも進めてみようかと思うが、やめる。

「これは……我の物だ。」

耐え難いほどの独占欲。ここに来る前までなら、絶対に考え付かなかった感情だ。
一つ一つ腹から摘んで口に運んでいたが、もう面倒になってきた。思い切って、その顔を直接近づけ、貪り始めた。
まるで獣のように死肉を食らう姿に、かつての誉れ高き神の遣いの影はどこにも見えない。しかし、その本人はその事に気付こうともせず、乾いた笑みがこびり付いたままだ。
飛び散った血飛沫の一つが目に触れる。つぅと流れ、頬を通り口へと運ばれるそれはまるで涙のようにも見えた。

けふ、と口をついて出てきたのは満足の証。失った体力はまだ回復できていないものの、それに足る充実感は得ることが出来た。
戯れに頭部を捜してみると、存外簡単に見つかった。目は濁り表情は苦悶の物だが、口端が笑っていた事がなぜだか気に入らない。

「……!」

ちょうどいい、どうせなら万全の体調でゆっくり飲んでしまおう。そう思い、風のエルは失った左腕の代わりに男の長髪をくくり付けた。
辺りを見回して、少し遠くのほうに病院があるのを思い出す。数時間前襲撃した場所ということもあり余り気は進まないが、あそこなら自分の傷も癒せるだろう。

今すべき事は傷を癒し、主を見つけること。自分を墜とした青い戦士の姿を脳裏に焼き付けながら、風のエルはとぼとぼと病院までの道を歩き始めた。

【G-3 病院への道】
【1日目 夕方】

【風のエル@仮面ライダーアギト】
[時間軸]:48話
[状態]:血塗れ。頭部にダメージ。全身、とりわけ腹部に重度の負傷・行動原理に異常発生。左手首欠損。二時間能力発揮不能。
[装備]:パーフェクトゼクター(+ザビーゼクター)
[道具]:一文字の首。
[思考・状況]
基本行動方針:優勝して帰る。 帰ったら…?
1:病院へ行き傷を癒して、主(風間)を探す。
2:「仲間」を持つ「強き者」を殺す。容赦する気はない。
3:人を殺すことに、快楽を覚えた。
4:青い射手は要注意。次会えば仕留める。
5:人間の血から、主の人間へ抱く感情の一端を知りたい。
6:パーフェクトゼクター(名前は知らない)の使用法を理解。有効活用したい。
[備考]
※デネブの放送、および第一回放送を聞いていません。
※首輪の制限時間に大体の目星を付け始めました。
※パーフェクトゼクターへの各ゼクターの装着よりも、基本的には各ライダーへの変身が優先されます。現在は資格者不在のザビーゼクターのみ装着されています。
※風間をオーヴァロードと勘違いしています、また風間=ドレイクだと気付いていません。
※一文字(R)の死体の血を飲みました。胴体の損傷は激しいですが、頭部は手付かずのまま風のエルの左腕にくくりつけてあります。


   ◇  ◇  ◇


周囲に誰もいないことを確認しながら、慎重に建物のドアの前に立つ。開いた自動ドアの向こうに見える薄暗いロビーと、その先にある分かれ道に今のところ人影はない。

(とりあえず大丈夫かな……)

構えていた警棒をしまい、振り返った五代は後ろの二人へと頷いた。それを合図に結花と城が足を踏み入れ、すぐさま音を立てず扉が閉まる。
ふと城が視線を横にずらすと、薄汚れたソファが目に入った。光源の少ない暗がりの中、埃の中に微かに人の座った跡が見受けられた。

「誰かがいた事は、間違いないようだな。」

城の言葉を聞き、心配そうに上を見上げた結花は天井の中に光る物を見つける。こちらを見下ろす監視カメラに、突然すべてを見抜かれてしまいそうな恐怖を覚えてしまう。
自分が人間ではないこと。そのことを隠していたこと。さほど後ろめたいわけではないが、どうしても後ろ向きに考えてしまうのが結花の性分だ。

「光さん、階段見つけました。そこの右奥の階段が屋上につながっているはずです。」

備えかけの案内図の上を五代の指が走り、城に見えるよう階段の位置まで進む。大体の位置を理解した城は、短くそうかとだけいいその階段へと足を向ける。
曲がり角の直前で立ち止まって、右の通路に誰もいない事を確認し、念のため左側の通路も見て、結花たちに安全だということを眼で伝えた。
その後姿が角の向こうへ消え、五代もそれに続こうと足を踏み出した。思考の渦から帰って来た結花もそれに気づき早足で行こうとするが、足元に落ちている物に気付くのが遅れた。

「っ……きゃっ!?」

大したことはない、誰かが落としたパンの袋か何かだろう。靴の下にあったやわらかいそれを踏んでしまい、結花の体は見事に地面とぶつかってしまった。
頭部に鋭い痛みが走り、結花の目に一筋の涙が宿る。しかしそれは痛みによるものでなく、どちらかといえば簡単に転んでしまう自分への不甲斐なさから来るものだ

「どうして……」

どうして自分はこんなにも足を引っ張ってしまうのだろう。
ぽたりと涙の雫が零れ落ちる。床に映った自分の姿に、一瞬だけ、オルフェノクの姿が被ったような気がした。

「……っ!?」
「結花さん、大丈夫? 立てる?」

ハッとして眼を開けると、そこには手を差し出し、心配そうな表情でこちらを見る五代がいた。夕日に照らされたその顔が、その表情にどこか寂しげな色を加えている。
手を伸ばしたら届くはずのその手を、結花は半ば無意識に――――握らず、振り払った。


「えっ……」
「……! あっ、あの、大丈夫です。一人で立てますから……」

驚愕に染まる五代の顔を見ていたくなくて、結花は顔を伏せたまま立ち上がり、スタスタと歩いていく。後ろから五代もついてくるが、振り返りたくはなかった。
どうして手を掴まなかったのか。確かに五代に対して……ほんの少し、本当にほんの少しだけ思うところはあった。
だが、手を振り払うほど、自分は五代のことが嫌いだったのか? そうまでして、自分から遠ざけたかったのか?
わからない、わからない、わからない。考えれば考えるほど、心に巣食う疑心という名の闇は、深く深く根を張っていく。
このままでは……いつか、自分が仲間に手を出してしまうのではないか。そう考えると、結花は体の震えを抑えることが出来なかった。

(木場さん、海堂さん……私、私が怖いです。)

少女の心には、いまだ影が差したままだった。


……そして、それから数十秒後。無人となったロビーに新たな人影が現れる。

「……よし、誰もいないようだ。」

左の角からひょっこりと顔を出したのは、サングラスをかけた橘だった。後ろからはハナと、変身の解けたらしい風間が続く。

「これから、どこへ向かうんです?」
「それなんだが……ハナ、だったな。本当なのか? 君の仲間に、志村とカテゴリーQがいるというのは?」

話を振られ、ハナの肩がピクリと震える。橘自身はそうプレッシャーをかけたわけではないが、黒スーツにサングラスの男性に凄まれると、流石に動じてしまう。

「ええ……あと、剣崎って人の知り合いもいました。」
「何……!?」

あわてて口を押さえるが、その動揺は隠し切れぬものでなかった。まさか、今になって剣崎の名が出てくるとは思いもよらなかった。
落ち着きを取り戻すためにも咳払いを一つ払って、話を元の方向へと戻す。

「実は、さっきその志村がここに立ち寄ったんだ。」
「えっ……?」
「仲間と来ている様で、表で戦闘を行っているらしかった。しかし、一足遅かったようだな……」

志村の仲間と聞いて、ヒビキや一文字の顔が頭を過ぎった。戦闘自体は、風間も風のエルを通じて聞いてはいる。しかし……

(人の子ではない……引っかかりますね。)

人間ではない、という意味だろうか。もしそうだとすれば、志村の仲間かあるいは戦っていた相手は人間ではないワームか、あるいはそれに順ずる何かということになる。
どうやって人かどうかを見抜いているかはさておき、もしワームなら誰かに擬態している可能性が高い。それも、まだ死んでいない参加者に擬態したほうがいろいろと有利なはず。

(ハナさんの言う危険人物には志村とやらにそっくりな男もいる……何にしても、少し様子を見るべきですね。)

「俺としては志村を追いたい……だが、カテゴリーQもいずれここに来るのだろう?」
「うん……放送を行う手筈になってるわ。」
「では、放送が行われたらここへ戻ってくるのはどうです? 私としても……」

風間の右手がハナの顎へと伸び、頬を撫でる。その表情は、紛れもなく一流メイクアップアーティストのそれだ。

「そろそろ可憐な花を色ど……ぐふぅっ!?」

風間のセリフは最後まで告げられず、その腹にはハナの鉄拳がめり込んでいた。咳き込み、崩れ落ちる姿を見て、思わず橘の顔に笑みが浮かぶ。
それに釣られるようにしてハナも噴出してしまい、仕舞いには殴られた風間も苦笑いを禁じえない雰囲気になってしまった。

「……仲いいんだな、あんた達。」
「何か言った?」
「いや、何も?」

笑いながら歩みを進め、二人に続き立ち上がった風間も自動ドアをくぐる。夕焼け色の空に、ドレイクゼクターが嬉しそうに飛び回った。
とりあえず向かう場所は、話し合った結果市街地エリアとなった。人を探すついでに、風間がメイク道具を調達したいとのことらしい。

(城さん、五代さん、結花ちゃん……すぐに、戻るから。)

少女の胸には、絶えず希望の光が差していた。


僅かなきっかけからすれ違った、二つの集団。互いが互いを探しながらも、進んでいく方向はまるで別物。
この先また出会えるか、そのときには何人になっているか――――誰にも、わからない。


【G-3 放送局前】
【1日目 夕方】

【共通備考】
1:それぞれが別の世界、時間から連れてこられた事を把握しました。
2:仲間や要注意人物など、交友関係についてある程度の情報交換を行いました。
3:城たちと入れ違いになった事に気付いていません。


【橘朔也@仮面ライダー剣】
【時間軸】:Missing Ace世界(スパイダーUD封印直後)
【状態】:悲しみ。顔・背中・腹部に打撲。生きる決意
【装備】:ギャレンバックル
【道具】:基本支給品一式、ラウズカード(スペードJ、ダイヤ1~6、9)、レトルトカレー、ファイズブラスター
【思考・状況】
基本行動方針:ゾル大佐への責任をとり、主催者を打倒する為、生き残る。
1:風間たちの仲間を探し、城たちの放送があれば放送局に戻って合流。
2:カテゴリーQである城は今のところ保留。牙を剥くようであれば封印する。
3:信頼できる参加者と大学でトランク(ファイズブラスター)を解析する手筈を整える。
4:死神博士にゾル大佐の遺言を伝える。
5:アンデッドを死亡させたメカニズムの解明。
【備考】
※放送室には個人で参加者の携帯、もしくは全島各所にあるスピーカーへの放送が可能な準備が整っています。
※午後二時に各参加者の携帯へ向けて放送が行われました。
※橘は自身の姿を映して放送を行ったつもりですが、主催者側の介入でスノーノイズが発生しています。ただし、音声はクリーンです。

【風間大介@仮面ライダーカブト】
[時間軸]:ゴンと別れた後
[状態]:鼻痛(鼻血は止まっています)。 全身に大ダメージ。ドレイクに二時間変身不能。
[装備]:ドレイクグリップ、ドレイクゼクター
[道具]:なし
【思考・状況】早期に殺し合いを止めた上でのスマートブレイン打倒
基本行動方針:打倒スマートブレイン
1:市街地へ向かい、仲間らの捜索とメイクアップ道具の調達。
2:協力者を集める(女性優先)
3:謎のゼクターについて調べる。
4:あすかの死に怒りと悲しみ。
5:移動車両を探す。
6:影山瞬に気をつける。
【備考】
※変身制限について把握しました。

【ハナ@仮面ライダー電王】
[時間軸]:劇場版・千姫と入れ替わっている時
[状態]:小規模の打撲、疲労大分回復、悲しみと強い決意。
[装備]:なし
[道具]:支給品一式、洗濯ばさみ、ミニカー7台
【思考・状況】
基本行動方針:脱出する
1:仲間と行動。後ほどヒビキたちや城達とと合流。
2:仲間を探して一緒に脱出する。
3:イマジンに対する自分の感情が理解出来ない。
4:危険人物に気をつける。
5:モモタロス、デネブ、あすか、イブキら仲間達の分まで戦う
7:結花が人じゃない?どういう意味?
6:志村が妙に胡散臭い。


【G-3 放送局内】
【1日目 夕方】

【共通備考】
ハナたちと入れ違いになった事に気付いていません。


【五代雄介@仮面ライダークウガ】
[時間軸]:33話「連携」終了後
[状態]:全身打撲、負傷度大(応急手当済み)、強い自己嫌悪(やや持ち直す)。ナイトに変身不可(1時間半)。
[装備]:カードデッキ(ファム)、警棒@現実、コルトパイソン(残弾数5/6:マグナム用通常弾)
[道具]:警察手帳(一条薫)
[思考・状況]
基本行動方針:絶対に殺し合いを止め、みんなの笑顔を守る
1:鳥の怪人からハナを救出し、結花の笑顔を守る、だが……?
2:北條を救出するために、乃木の命令を可能な限りで遂行する。
3:白い未確認生命体(アルビノジョーカー)、ダグバ、ガドル、牙王を倒す。
4:金のクウガになれなかったことに疑問。
5:剣崎の分まで頑張って戦い、みんなの笑顔を守りたい。
6:鳥の怪人はなぜ結花に何もしなかった?
7:屋上の人影が気になる。
【備考】
※第四回放送まで、ライジングフォームには変身不能
※ペガサスフォームの超感覚の効果エリアは1マス以内のみです。また、射撃範囲は数百メートル以内に限られます。
※ドラゴン、ペガサス、タイタンフォームには変身可能。ただし物質変換できるものは鉄の棒、拳銃など「現実に即したもの」のみで、サソードヤイバーやドレイクグリップなどは変換不能。
※葦原涼の「未確認生命体事件」の終結を聞き、時間軸のずれに疑問を持ちました。
※葦原涼のギルスへの変身能力について知りません。

【城光@仮面ライダー剣】
[時間軸]:40話、トライアルについて知った後
[状態]:膝などに軽い擦り傷。腹部に裂傷(中程度:応急手当済み)。各部に中程度の打撲。ファムに変身不可(1時間半)。
[装備]:カードデッキ(ナイト)、冥府の斧@仮面ライダーアギト
[道具]:基本支給品・トランシーバーA・ラウズカード(スペードQ/K)
[思考・状況]
基本行動方針:このゲームから脱出する。主催にはバトルファイトを汚した罰を与える。
1:鳥の怪人からハナを救出し、『放送』の指令を遂行。
2:北條奪還のため、まずは『青いバラ』『首輪』の入手。
3:他の参加者とは必要以上に関わる気はない。邪魔ならば排除するが基本的に放置。
4:剣崎の死、北條の言葉、乃木との戦闘から首輪制限下における単独行動の危険性を認識。
5:五代の態度に苛立ちつつ、僅かに興味。 志村に違和感。
6:イブキの代わりに、結花の面倒を見る
7:首輪探知手段の支給という行為に疑問
8:鳥の怪人はなぜ結花に何もしなかった?
【備考】
※トランシーバーの有効範囲は周囲一マスまでです。
※以下の様に考えています
青い薔薇は首輪と関係がある
ライダーの強化フォームはなんらかの制限が掛かっている。

【長田結花@仮面ライダー555】
[時間軸]本編第41話終了直後(武装警官を一掃する直前)
[状態]小程度の負傷、人間への不信感(中度) 、海堂・イブキの死に対する強い悲しみ。
[装備]変身鬼笛・音笛、音撃管・烈風、ディスクアニマル(アサギワシ)
[道具]ライダーブレス(ケタロス:資格者不明)、青い花びら、トランシーバーB
[思考・状況]
基本行動方針:木場と合流する
1:ハナを見つける。
2:「人間ではない」城光に若干の好意。「人間」の「警官」北條には強い警戒心。
3:仲間達に嫌われたくない。オルフェノクであることは極力隠す。でも、いつか何かをする時が……?
4:指令なんて、どうしたら……?
5:自分の無力さを嫌悪。
6:五代に対してわずかな悪感情。
※イブキの亡骸がドラグブラッカーに捕食されたのを目の当たりにしています。
※トランシーバーの有効範囲は周囲一マスまでです。


   ◇  ◇  ◇


「やぁ~ん、脱出されちゃったぁ~!」

ビルの一室で、一人反吐が出るほど甘い声で叫んでいるのは、衛星を通じて島をモニタリングしていたスマートレディだった。
彼女の目の前にあるデスクトップは、橘を閉じ込めていたドアが破壊される瞬間を繰り返し流し続けていた。開いたドアから、青い装甲の戦士が侵入するところで、最初の映像に戻っていく。

「せっかく時間を教えてあげたのにぃー。」
「勝手な真似をしてくれましたね。」

不意に凄みのある声を聞き、急いで振り返るとこちらを見下ろす村上がいた。その視線は繰り返される映像に向けられており、明らかに不機嫌なのが見て取れた。

「あ、あら社長、勝手なことって……」
「とぼけないでください。私に無断で、参加者に干渉しましたね。何故です?」

ドキリ、とスマートレディの体内から音がする。もしかしたら村上に聞かれたのではないかと思うほどの大きな音だった。

「だ、だってぇ勝手に放送を行っちゃう悪い子には……」
「そうではありません。何故、あんなことを言ったのですか?」

あんなこと、と言われると心当たりは一つしかない。橘に二度目の干渉を行った際、個人的に伝えたメッセージのことだ。

『あんまり人を信用すると、また騙されちゃいますよぉ?』

自分のセリフがフラッシュバックし、スマートレディの顔が青ざめる。何故と言われても、理由などこれっぽっちもない、ただの皮肉なのだから答えようがない。
というか、橘はまた騙されているという皮肉に気づかなかったのだから、何も問題ないはずだ。村上の溜息が、ほのかに呆れた感情を匂わせる。

「……気づかなかったからよかったものの、以後慎むようにしてください。それとそろそろ……」
「あ、はぁい放送ですね? 三回目、がんばっちゃいまーす☆」

逃げる口実が見つかったとばかりにそそくさと部屋を出て行くスマートレディを尻目に、村上の足は空席となった椅子へ伸びる。
しばらく退屈そうに映像を眺めていたが、やがて飽きたのかデスクトップの電源を落とし、ゆっくり背もたれに体重を預け目を閉じた。

「王よ……もうすぐ、すべての準備が整う。」

うわ言の様に告げられた村上の言葉は、誰にも聞かれることはなかった。

113:Crisis(前編) 投下順 114:龍は更なる力を手に入れる
時系列順 114:龍は更なる力を手に入れる
五代雄介 000:後の作品
城光 000:後の作品
長田結花 000:後の作品
風間大介 000:後の作品
風のエル 000:後の作品
橘朔也 000:後の作品
ハナ 000:後の作品
スマートレディ 117:セカンドディール(第三回放送)
村上峡児 117:セカンドディール(第三回放送)

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