セカンドディール

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セカンドディール(第三回放送)


 携帯の着信音が、暮れなずむ空に朗らかに響き渡る。
「ハァーイみなさん、6時間のご無沙汰でした。スマートブレインがお送りする極上のリゾートライフ、ちゃんと満喫してくれてますかぁ?」
 携帯の小さな画面でにこやかに笑う女性。嘲笑うように細めた目は、見るものには小憎らしく映るだろう。
「それでは、12時からこれまでに生き残るのに失敗しちゃった負け犬さんのお名前を発表したいと思います。
 十面鬼ゴルゴスさん、山本大介さん、和泉伊織さん、一文字隼人さん、手塚海之さん、牙王さん、城戸真司さん、澤田亜希さん。今回ゲームから脱落しちゃったのは以上8人の皆さんです」
 女の声に合わせてテロップが流れる。死者の名前を視聴者の目に強引に刻み込もうと言わんばかりの執拗さだ。

「みなさん元気に殺し合ってくれているみたいで、お姉さんとってもうれしいです。その調子で、どんどん死んじゃってくださいね。うふふっ」
 笑顔とともにカメラ目線を決める女性。数秒の沈黙が聞くものには痛い。大抵のものは、その空虚に悪意を感じる程度には疑心暗鬼になっているだろう。
 たっぷりと間を取ってから、彼女は口を開いた。
「今夜は19時にB-3、21時にD-8、23時にB-8のエリアが進入禁止になりますよ。
 それからがんばっている皆さんに素敵なプレゼントです。午後9時から、社長さんからの差し入れを載せた電車が運行を開始します。駅の近くにいる人はぜひ貨物車を覗いてみてくださいね。それじゃ、バイバーイ!」
 にぎやかなBGMが不意に途切れ、放送は終わった。


「まったく、北崎さんも困ったものですね」
 村上は苦笑を浮かべてリモコンを手に取った。テレビの電源が落とされる小さな音がはぜる。
 無造作にデスクの上に戻されたリモコンのそばには、青いバラの花をたたえた一輪挿しが置かれていた。
 彼は目が醒めるほどに鮮やかな青い輪郭を指の背でなぞった。
「首輪の効果はせいぜい持って一週間。その後になればどうせ全員灰になるのだから、慌てて殺す必要などないというのに」
 この世に存在し得ないと言われた寒色の花びらは、持ち主の冷酷な思惑を映してひややかに佇んでいる。
「そもそも、彼らが死ぬだけでは我々の目的は片方しか果たせない。彼らにはまずひとつになってもらわねば困るのです。未来と言う可能性の、すべての芽を摘むために」
 確かめるようにつぶやいた声は、エアコンの立てる乾いた音に混ざって消えた。

          *     *     *

 琢磨は冷笑を浮かべてリモコンを手に取った。テレビの電源が落とされる小さな音がはぜる。
 無造作にカウンターの上に戻されたリモコンのそばには、青いバラの花をたたえた一輪挿しが置かれていた。彼はちらりと花に眼をやり、顔をしかめた。
「危機的状況に陥れば互いに協力するかと思いましたが、結局『彼ら』とやっていることは同じとはね。見ているこちらが情けなくなってきますよ」
 置いてある古い皮装丁の洋書を引き寄せると、その角が花瓶に当たって倒れた。
 シンプルな作りの一輪挿しは、無抵抗なままカウンターを転がってシンクに落ちるほかない。悲鳴のようにか細い音の後、青い薔薇の花にぬるい水とガラスの破片が降り注ぐ。
「と、失礼」
「気にしないで」
 冴子が指先で花をつまみ上げた。所々傷ついた花を、さっと水道で洗い流してカウンターに戻す。一連の仕草を眺めながら、琢磨が呟く。
「ただ……北崎さんも聞かされていたはずですがね」
「飽きたのでしょう?」
 冴子がいともたやすくまとめる。
「そうかもしれませんね」
 琢磨は応えてカクテルのグラスに手を伸ばした。
 仮にもラッキークローバーの一員であった澤田の名を二人が挙げないのは忘れ去られているせいではない。彼や海堂、木場といったメンツに期待されていたのは、もともと殺戮ではなかったからだ。
 彼らに求められていたのは、異次元のヒーローたちと手を取り合ってゲームに抗うこと。
 むしろ、スマートブレインの存在を証言し、敵意と団結を煽ることだった。放送の中身が無用に挑発的なのも同じ理由だ。
「北崎君は、ドローを演出できるほど器用なタイプじゃないもの」
 澤田君を殺したのも、待つのに飽いたからでしょう。彼はゲームのルールを尊重する心など、みじんも持たないはずだから。冴子はいいながら磨き上げたグラスをハンガーに戻した。 
「それにしても」
 ふっと漏らした吐息には、どこか不穏な空気が籠る。
「村上君の態度は眼に余るわね。二言目には王のため王のためと」
 冷たい呟きに、琢磨が苦笑した。
「王がいてこその我々、というのは事実ですがね……王ひとりの世界であっては困る。世界は我々のものです」
「北崎さんも、さすがにそれはわかっているでしょう?」
 冴子は口元だけで笑うと、拭き終わったグラスを棚においた。
「むしろ、あの人は自分が王様のつもりかもしれないけれど」
 琢磨が黙って肩をすくめる。不穏な空気はバーの厚い壁に足止めされ、行き場なく薄暗い店内に漂っている。


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