蠢く甲蟲

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(ハアッ、ハアッ、何で、何でこんな目に!)
 少年桐矢京介は必死に逃げ回っていた。この世で最も恐ろしいとすら言える存在から
逃げ延びるために。
 事の起こりは数分前、あきらに少々際どいやり方でかねてから気になった事を問いただそうとした帰り道、彼もまた突然に殺し合いの場に投げ込まれてしまった。恐怖から冷静な判断力を失った彼は、ひたすら響鬼の姿を求めて彷徨っていた。暗闇に包まれた市街地は果てしなく不気味に思えた。
 そして美しい白服を着た一種神々しい青年に遭遇したのだ。桐矢は、彼に何かを話しかけようとして…。
次の瞬間、青年は心底幸せそうに笑い、言い放った。
「究極の闇を、始めようか」
青年は魔化魍を思わせる白色の異形に姿を変え、桐矢に掌を向けた。
「!!!???」
生存本能からか、反射的に桐矢は逃げ出そうと走り出し、そして気の動転、もしくは天性の運動音痴ぶりゆえか、十歩踏み出したところで無様に転倒した。異形、すなわちン・ダグバ・ゼバの掌から放たれた「それ」は倒れた桐矢の上を通り過ぎ、彼の前方にあった街路樹を炎上させた。桐矢は目の前の光景に戦慄し蒼白になりながらも、飛び起き走り出した。一分一秒でも生き永らえるために。

 桐矢は懸命に逃げる。ダグバとの距離は三十メートル程にはなっただろうか。だが彼の生存への努力を裏切るが如く、すぐ後ろに火柱が上がった。
 究極の闇をもたらす存在であるダグバにとっては、殺戮を行うこと、それ自体が彼の存在意義と言って過言ではない。数万人規模の大量虐殺を行う彼は、五十人程しか人のいないこの空間に一抹の物足りなさを感じていた。だがダグバに他にどのような選択肢があるというのか?究極の闇を齎す物は、
究極の闇を齎すしかないではないか。

 だが目の前の少年を追い詰めるダグバには、一つ気がかりなことがあった。自分の能力に関する違和感である。本来彼は無闇に獲物を追い詰め嬲るような殺害方法はとらない。極めて高い精度の発火能力に物を言わせ一瞬で命を奪うのだ。だが今はどうだろう。一思いに焼き殺そうとした少年は、
情けない形ではあるが、最初の一撃を回避し、三十メートル以上離れられると既に能力の射程は不足を露呈したのだ。
「僕一人だけが笑顔になれる力は駄目なのかな?」
ダグバは村上に向けてか、それとも独り言か、小さく呟いた。
☆  ☆  ☆  
 ダグバから懸命に逃げようと試みた桐矢はまたも転倒してしまった。振り返れば後方には数箇所火柱が上がり、悠々とダグバが接近してくるのが分かった。燃え上がる炎は彼の父親の最期を連想させる。
ダグバは歩きながら無情にも再び掌を桐矢に向けた。
(そんな!ここで死ぬのか!?誰か……!安達君!父さん!)
桐矢の心の中であげる悲鳴は半ば支離滅裂なものとなっていた。
☆  ☆  ☆  
  パンッ  パンッ

 乾いた銃声が響き、ダグバは僅かに、本当に僅かにだがよろめいた。
「逃げろ!早く!」
 銃声の主はライフルを構えた自衛官、水城史朗であった。
 重大機密計画プロジェクトG4、そのG4システムの正装着員である彼の正義感は聊か歪んでいたのかも知れない。装着員の命をやがては奪うG4。またその性能を最大限発揮するためには超能力者が非人道的待遇を受けている事実。だがそれらの事実を前にしつつも彼はアンノウン排除のためプロジェクトG4の人柱となることに躊躇いはなかった。

 そんな彼も今回の殺し合いに参加者として「招待」されてしまった。水城に支給されたのは対未確認生命体装備である神経断裂弾とそれを撃ちだすライフルだった。水城は比較的小規模の商業ビルに身を隠して、ライフルに弾丸を装填する。地図を確認し、今後の方針を考えながら。
 その時だった。逃げ惑う少年の悲鳴を聞き、付近に炎が上がる気配感をじたのは。
 ビルから飛び出し、ライフルを構えて事が起こっている現場に水城は急行した。そして今にも殺されそうな少年を救うべく、炎の主である怪物に向け発砲した。プロジェクトG4に関わってからとは違う、真に人間としての正義感から、彼はこの行動を採った。
 ダグバの動きが緩んだほんの僅かな一瞬に、桐矢は最後の力を振り絞るかのように立ち上がり、そしてまた駆け出した。水城とは目を合わせる余裕すらなかった。
 水城は再び怪物に向けて発砲を続けた。怪物は水城へ向き直る。
「第0号……!」
 その姿は水城には見覚えがあった。かつて日本中を恐怖のどん底へ叩き込んだ最強最悪の未確認生命体。
 だが水城は臆することなくライフルの狙いを弱点とされるベルトのバックルに定めた。


 水城の神経断裂弾はダグバのバックルを捕らえることはなかった。水城が引き金を絞るよりコンマ数秒早く、ダグバの炎が彼を捉えたのだ。
 ダグバの炎は一般に認知されている火あぶりと違い数瞬で人を死に至らしめる即死性の高いものだ。
 水城は自分の呆気ない脱落を悟り、最後の意識の中で思った。
(さっきの少年は、逃げ切ってくれたのか……?)
かつて大量殺戮を実行し、この場においてもそれを繰り返そうとするダグバに対して思った。
(なあ、もう…いいだろうッ…!)
と。






☆  ☆  ☆
 ダグバは変身をとき水城の死体に少しだけ目をやった。先ほどの少年は見失ってしまったらしい。
だが彼がそのことに頓着する必要もない。ダグバは次なる獲物を求め歩き出した。この時点では、彼は気がつかなかったようだ。自分たちを監視していたもう一つの存在に。

 ダグバが現場を立ち去って十数分後、水城の死体の元へある人物が姿を現した。
(フン、人間はその弱さも省みず、つまらない情に流される。そしてその結果がこれだ)
 内心そう呟き、水城の支給品を調べる、鋭い眼光を眼鏡の奥に秘める男。金居、その正体を始祖の不死生物、ギラファアンデッドという。
 殺し合いに強制参加させられた彼がまず飛ばされたのは放送局だった。施設の中を軽く調べてみたが、彼の興味を引くものは特になかった。金居は次に建物の屋上に向かい、テレビ塔へ登った。高所から一度このフィールドを見たいと思ったからである。アンデッドたる彼は視力にも相応の自信があった。
さほど期待できないが何らかの情報が発見できるかもしれない。塔の階段を中ほどまで登ったところで、彼は見てしまった。
 眼下の市街地で逃げ惑う少年と炎を放ちながら迫る怪物。一人の男が少年を庇い殺されるまでの一連の顛末を。
 怪物が完全に立ち去ったことをしっかりと確認し、彼はタワーから降り現在に至る。
(そして人間は相変わらず小器用だな。弱さを補うためにこんな物を作る)
大きな破損がないことを確認したライフルを含む水城の支給品を回収し、炭となった水城から黒く煤けた首輪を失敬した。
(いずれはこの首輪についても考える時期も来るだろう。回収して損などない。さて、今後の方針は…)
 殺し合いに乗り、人間を皆殺しにすること自体、金居には倫理的躊躇いはなかった。だが彼は、スマートブレインから与えられる地位などなんら興味を引かなかったし、そもそも主催者の甘言を鵜呑みに
するのは危険極まりないだろう。先ほどの怪物やBOARDのライダーなど一筋縄ではいかない存在もある。
派手に動くのは身の破滅を意味するだろう。



(―ならばとるべき行動は以前と大差はない。まずはこのバトルファイトの内幕を出来る範囲で探り、自己の安全を優先する。その過程で利用出来る者は利用し、邪魔なものは始末するだけだ)
そう結論付けると金居は水城の死体を後にした。



☆   ☆   ☆



 あれからどれだけの時間が流れただろうか。
 路地裏からはゼエゼエと荒い呼吸が聞こえた。後ろに誰の気配も無いことを確認して足を止めた桐矢である。
 心臓は悲鳴を上げ、膝には転倒しときに出来た擦り傷をつくり、デイパックからも支給品がころげ落ち、普段の無駄に自信に満ちた態度も彼方へ吹き飛ばされたがそれでも彼の命だけ間違いなくあった。
 自分を助けた男がどうなったかを想像するのはどうしようもなく怖い。魔化魍に匹敵する化け物にライフル一丁で対抗などできるのか。やや取り戻した彼は、その結果がどんなものか、予想は出来た。
 幸いにもデイパックから落ちなかったペットボトルの水を含みつつ携帯で現在地を確認しつつ桐矢は思案する。
(とにかく半端にウロウロすると、響鬼さんに会う前にまたあんな化け物に殺されるだけだ。
早く誰にも見付からないような場所を探して一先ず隠れるしかないな…)
 一連の出来事は桐矢に多大なトラウマを残した。だが彼もまたこのバトルロワイアルで新な方針を打ち出したのだった。 


【水城史朗@仮面ライダーアギト 死亡】
【残り 49名】


【ン・ダグバ・ゼバ@仮面ライダークウガ】
【1日目 深夜】
【現在地:G-3の何処か】
[時間軸]:47話、クウガアメイジングマイティに勝利後。
[状態]:被弾した箇所に僅かな痛み 二時間変身不可
[装備]:なし
[道具]:基本支給品 特殊支給品(不明)
[思考・状況]
1、究極の闇を齎す。
備考
1、自身の戦闘能力に制限がかかっていることを何となく把握

【金居@仮面ライダー剣】
【1日目 深夜】
【現在地:G-3 放送局付近】
[時間軸]:45話終了後。
[状態]:健康
[装備]:神経断裂弾が発射可能なライフル 
[道具]:基本支給品×2、煤けた首輪 特殊支給品(不明)
[思考・状況]
1、可能な範囲で殺し合いの内幕をさぐる。
2、なるべくリスクの高い行動は避けたい。
3、利用できる参加者は利用し、障害となる参加者は状況によっては殺害する。
備考
1、神経断裂弾の残りの弾数、首輪の損傷具合は不明です。

【桐矢京介@仮面ライダー響鬼】
【1日目 深夜】
【現在地:F-4の寂しい路地裏】
[時間軸]:36話、あきらに声をかけた帰り
[状態]:軽い擦り傷 中度以上の疲労
[装備]:なし
[道具]:基本支給品(ただし携帯と水以外で何かを紛失した可能性あり) 
[思考・状況]
1、安全な場所を早急に探し隠れる。
2、激しい恐怖。
3、響鬼が助けてくれる事への僅かな期待。
備考
1、自分を助けてくれた男性(水城)の生存の可能性は低いと予想。 

014:我想フ――――、 投下順 016:囚われの虎と蛇
014:我想フ――――、 時系列順 018:吼える
桐矢京介 030:決断の刻は目の前に
金居 028:それぞれの場合/NEXT STAGE
ン・ダグバ・ゼバ 027:笑顔と君と(前編)
水城史朗

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