想いを鉄の意志に変えて
星の明かりを頼りに、土手の景色が照らされている。
さらさらと静かな音をたてて流れる川。大小さまざまな石が並ぶ川沿い。
キャンプに適したような場所にて、小さな炎が光を作っていた。
炎の上には鍋があり、壮年の男性がお玉で中身をかき混ぜている。
肉、たまねぎ、にんじんを炒めて、水を注ぎ込む。
ぐつぐつ軽快な音を立てるのを十分程度待ち、再びお玉でかき混ぜる。
そろそろ頃合かと、男はカレールーを投入し同時にジャガイモを投入する。あまり早く煮すぎると、形が崩れるためだ。
かき混ぜてルーが解けていくと、カレー特有の匂いが鼻を刺激する。
その味を小皿に移して確認。カレールーよりもたらせた香辛料の刺激が舌に広がる。
鍋に煮込んだ野菜や肉の味がしみ、香辛料の刺激をまろやかに緩和させていた。
野菜もそれぞれ、一個ずつ取り出し、噛み砕いていく。
まずはにんじん。
にんじんにしみたカレーソースが吹き出て、にんじんの甘味との調和を生み出し、男の口を駆け巡る。
柔らかさも指でつつけばフニッと弾力を示すほど、煮込みきった。
続けては、ジャガイモ。
噛み砕いてみると、口の中で粉を吹いてあっさりと崩れ落ちる。
ジャガイモの味が、カレーソースに刺激され、男の舌を楽しませた。
充分なできに満足して、カレーをさらにかき混ぜる。ぐつぐつと美味しそうな音は男のすいた腹を鳴らしていた。
しばらくして、男はよし、と呟く。
飯ごうに入れた輝く白いご飯を三つ出した皿に盛り、カレーをかける。
男は振り返り、彼と道を共にする仲間に声をかけた。
「涼、志郎、できたぞ」
さらさらと静かな音をたてて流れる川。大小さまざまな石が並ぶ川沿い。
キャンプに適したような場所にて、小さな炎が光を作っていた。
炎の上には鍋があり、壮年の男性がお玉で中身をかき混ぜている。
肉、たまねぎ、にんじんを炒めて、水を注ぎ込む。
ぐつぐつ軽快な音を立てるのを十分程度待ち、再びお玉でかき混ぜる。
そろそろ頃合かと、男はカレールーを投入し同時にジャガイモを投入する。あまり早く煮すぎると、形が崩れるためだ。
かき混ぜてルーが解けていくと、カレー特有の匂いが鼻を刺激する。
その味を小皿に移して確認。カレールーよりもたらせた香辛料の刺激が舌に広がる。
鍋に煮込んだ野菜や肉の味がしみ、香辛料の刺激をまろやかに緩和させていた。
野菜もそれぞれ、一個ずつ取り出し、噛み砕いていく。
まずはにんじん。
にんじんにしみたカレーソースが吹き出て、にんじんの甘味との調和を生み出し、男の口を駆け巡る。
柔らかさも指でつつけばフニッと弾力を示すほど、煮込みきった。
続けては、ジャガイモ。
噛み砕いてみると、口の中で粉を吹いてあっさりと崩れ落ちる。
ジャガイモの味が、カレーソースに刺激され、男の舌を楽しませた。
充分なできに満足して、カレーをさらにかき混ぜる。ぐつぐつと美味しそうな音は男のすいた腹を鳴らしていた。
しばらくして、男はよし、と呟く。
飯ごうに入れた輝く白いご飯を三つ出した皿に盛り、カレーをかける。
男は振り返り、彼と道を共にする仲間に声をかけた。
「涼、志郎、できたぞ」
標なき道を共にする男が三人。
一人は金髪にナイフでそぎ落としたような痩躯――それでいながら、筋肉は無駄なくついていたが――の男。
チェックのシャツに茶色の革ジャンを着こなし、カレーを礼を言って受け取った。
彼の名は葦原涼。
一人は茶髪に涼しげな視線を持つ、一見やさな印象を見受ける男。
ただ、今は影を背負っている印象を見受ける。差し出されるカレーを拒否して、二人と距離をとった。
彼の名は風見志郎。
最後の一人は、白髪が多少混ざった、壮年の男性。
オレンジのライダースーツを身にまとい、二人にカレーを振る舞っている。
彼の名は立花藤兵衛。
三人はたまたま出発地点が近かった。ただそれだけの関係だ。
しかし、立花藤兵衛にとっては、風見志郎はそれだけではない。
「ほら、遠慮せずにちゃんと食え!」
立花はホカホカの湯気を立ち昇らせるカレーを風見に差し出す。
彼の知る『風見志郎』なら喜んで受け取ったが、目の前の『風見志郎』はやんわりと断る。
「いえ、今は食欲がないので……」
「そんなことじゃ身体は出来あがらないぞ。だいたい、ちゃんと飯を食っているのか?
涼をみてみろ。ガツガツ食っているじゃないか。作ったかいもあるってもんだ」
話を振られた涼は一旦スプーンをおき、立花に対して頭を下げた。
別に構わないと立花は右手で制し、再び風見へと向き直る。
「なあ、志郎。何を悩んでいるか、俺に打ち明けれくれないか?
俺に力になることなら、なんでもするからさ」
「いえ、特に。それに、あなたではどうしようもありませんよ」
「おい、お前。少しは……」
「いや、いいんだ、涼。そういや食後にはコーヒーが必要だよな……。
こいつらはあのスマートブレインという連中からの配給だし……さっき見た喫茶店で鍋だけじゃなく、豆とかも取っておくんだった」
「いや、そこまで気を使ってもらわなくても……」
「気にするな! 今からスマートブレインを叩き潰さないといけない。
そうなると、俺に出来ることっていったら、これくらいだしな。
俺には志郎や涼みたいに、仮面ライダーになれない。だがな、俺は諦めないぞ」
立花はニイッと、輝くような笑顔を二人へと向ける。
風見も涼も目を伏せたが、立花は涼の頬が僅かに上がっていたのを見逃さなかった。
立花は名簿を確認し、仮面ライダーがいることに希望を持っている。何より、久しぶりの再会だ。
本郷と一文字に会う日が待ち遠しい。もっとも、それぞれ二組名前が並んでいたのが気になるが。
「喫茶店でコーヒーを作ってくるから、ちょっと待っていてくれ」
「一人じゃ危ない。俺も一緒に……」
「大丈夫だ。いろんな悪の組織と渡り合ったんだぞ。それにだ……」
立花は涼を引き寄せ、耳打ちする。志郎を頼む、と。
涼は無言で頷き、その様子に安堵して立花は立ち上がる。
「じゃあ、待っていろよ。こう見えても喫茶店のマスターをやっていたんだぜ。
美味しいコーヒーを入れて戻ってくるからな」
立花はそういい残し、土手を駆け上がる。
きっと風見は、彼の知る風見と同じく、仮面ライダーとして戦い抜いてくれると信じて。
一人は金髪にナイフでそぎ落としたような痩躯――それでいながら、筋肉は無駄なくついていたが――の男。
チェックのシャツに茶色の革ジャンを着こなし、カレーを礼を言って受け取った。
彼の名は葦原涼。
一人は茶髪に涼しげな視線を持つ、一見やさな印象を見受ける男。
ただ、今は影を背負っている印象を見受ける。差し出されるカレーを拒否して、二人と距離をとった。
彼の名は風見志郎。
最後の一人は、白髪が多少混ざった、壮年の男性。
オレンジのライダースーツを身にまとい、二人にカレーを振る舞っている。
彼の名は立花藤兵衛。
三人はたまたま出発地点が近かった。ただそれだけの関係だ。
しかし、立花藤兵衛にとっては、風見志郎はそれだけではない。
「ほら、遠慮せずにちゃんと食え!」
立花はホカホカの湯気を立ち昇らせるカレーを風見に差し出す。
彼の知る『風見志郎』なら喜んで受け取ったが、目の前の『風見志郎』はやんわりと断る。
「いえ、今は食欲がないので……」
「そんなことじゃ身体は出来あがらないぞ。だいたい、ちゃんと飯を食っているのか?
涼をみてみろ。ガツガツ食っているじゃないか。作ったかいもあるってもんだ」
話を振られた涼は一旦スプーンをおき、立花に対して頭を下げた。
別に構わないと立花は右手で制し、再び風見へと向き直る。
「なあ、志郎。何を悩んでいるか、俺に打ち明けれくれないか?
俺に力になることなら、なんでもするからさ」
「いえ、特に。それに、あなたではどうしようもありませんよ」
「おい、お前。少しは……」
「いや、いいんだ、涼。そういや食後にはコーヒーが必要だよな……。
こいつらはあのスマートブレインという連中からの配給だし……さっき見た喫茶店で鍋だけじゃなく、豆とかも取っておくんだった」
「いや、そこまで気を使ってもらわなくても……」
「気にするな! 今からスマートブレインを叩き潰さないといけない。
そうなると、俺に出来ることっていったら、これくらいだしな。
俺には志郎や涼みたいに、仮面ライダーになれない。だがな、俺は諦めないぞ」
立花はニイッと、輝くような笑顔を二人へと向ける。
風見も涼も目を伏せたが、立花は涼の頬が僅かに上がっていたのを見逃さなかった。
立花は名簿を確認し、仮面ライダーがいることに希望を持っている。何より、久しぶりの再会だ。
本郷と一文字に会う日が待ち遠しい。もっとも、それぞれ二組名前が並んでいたのが気になるが。
「喫茶店でコーヒーを作ってくるから、ちょっと待っていてくれ」
「一人じゃ危ない。俺も一緒に……」
「大丈夫だ。いろんな悪の組織と渡り合ったんだぞ。それにだ……」
立花は涼を引き寄せ、耳打ちする。志郎を頼む、と。
涼は無言で頷き、その様子に安堵して立花は立ち上がる。
「じゃあ、待っていろよ。こう見えても喫茶店のマスターをやっていたんだぜ。
美味しいコーヒーを入れて戻ってくるからな」
立花はそういい残し、土手を駆け上がる。
きっと風見は、彼の知る風見と同じく、仮面ライダーとして戦い抜いてくれると信じて。
□
登山客用にまばらに雑貨店が立ち並ぶ街を影が一つ訪れる。
黒き青年、人が神とあがめる者の使い、風のエルが駆け続けていたのだ。
疾走する風のエルは、アギト以外の力を示す先ほどの男に戸惑っている。
自分たち、使いに対抗できるものは、忌々しい白い青年の力を宿す『アギト』だけのはずだった。
主は人間を殺すことを決意した。その張り裂けんばかりの痛みを身近に感じ、風のエルは静かに憤る。
たしかに、人は主の意思を拒絶し、力を得ていた。
アギトだと気づかれないような、異能をだ。
風のエルは憤慨する。人間は生み親を忘れ、彼を悲しませるような真似ばかりする。
主が人間を見捨てたのは正解だ。人間など、度し難い生き物。
自分が人間を殺し、アギトを殺し、少しでも主の心の痛みを和らげてやらねばならない。
だからこそ、早く優勝して帰らねばならない。
本来なら、彼らが持ちえない感情を、風のエルは持ってしまった。
かつて、頭部にダメージを受けて、無差別に人を殺すアンノウンが出たことがある。
風のエルは、威吹鬼の蹴りを頭部にくらい、その精神に変調をきたしていたのだ。
ふと、かすかなアギトの気配を感知して、立ち止まる。
本来ならすぐにアギトを感知して、駆けつけることができる風のエルの感覚が鈍っていた。
忌々しいことだと吐き捨てたくなったが、堪える。
今の自分は人を殺さねばならない。なら、人に発見される確率を上げるのはまずい。
思考している風のエルの視界に、人が入った。
黒き青年、人が神とあがめる者の使い、風のエルが駆け続けていたのだ。
疾走する風のエルは、アギト以外の力を示す先ほどの男に戸惑っている。
自分たち、使いに対抗できるものは、忌々しい白い青年の力を宿す『アギト』だけのはずだった。
主は人間を殺すことを決意した。その張り裂けんばかりの痛みを身近に感じ、風のエルは静かに憤る。
たしかに、人は主の意思を拒絶し、力を得ていた。
アギトだと気づかれないような、異能をだ。
風のエルは憤慨する。人間は生み親を忘れ、彼を悲しませるような真似ばかりする。
主が人間を見捨てたのは正解だ。人間など、度し難い生き物。
自分が人間を殺し、アギトを殺し、少しでも主の心の痛みを和らげてやらねばならない。
だからこそ、早く優勝して帰らねばならない。
本来なら、彼らが持ちえない感情を、風のエルは持ってしまった。
かつて、頭部にダメージを受けて、無差別に人を殺すアンノウンが出たことがある。
風のエルは、威吹鬼の蹴りを頭部にくらい、その精神に変調をきたしていたのだ。
ふと、かすかなアギトの気配を感知して、立ち止まる。
本来ならすぐにアギトを感知して、駆けつけることができる風のエルの感覚が鈍っていた。
忌々しいことだと吐き捨てたくなったが、堪える。
今の自分は人を殺さねばならない。なら、人に発見される確率を上げるのはまずい。
思考している風のエルの視界に、人が入った。
「豆はどこだ? あいつらに美味しいコーヒーをやらんとな」
そう呟く壮年の男の背中を見つけ、風のエルはこっそりと近付く。
距離は二十メートル。間には机や椅子、カウンターが立ちふさがっていた。
人間を苦しめることは主は望まない。ゆえに、人を殺すことに風のエルは禁忌の感情を持っている。
手の甲にZ字に印を刻み、風のエルは右手を突き出し、立花へと向かって一直線に迫った。
瞬間、風のエルは立花のそばの鏡に自分が映っているのを知る。立花は身を捻って、避けようとする。
とっさに軌道修正をした風のエルの右突きは、立花の左腕を引き千切った。
「ぐぁぁぁ!!」
立花の悲鳴を聞きながら、風のエルは体勢を整える。身体に流れる立花の血が、温かかった。
「抵抗をするな。楽に殺してやる」
「グゥ……怪人のいうことなんか……聞けるか……」
風のエルは立花の声を無視して、一瞬で間を詰める。
振り下ろした手刀が、タックルを仕掛けた立花によって体勢が崩れ、立花の右脚を斬り裂く結果となる。
再度あがる悲鳴。先程よりも勢いよく血が風のエルの口元にかかる。
初めて味わう人の血は、鉄の味がした。
地面に転がって悲鳴をあげる立花を見下ろし、風のエルは初めて人を蔑むように見つめた。
醜い。主が愛する資格はない。
なら、主が愛するものが誰なのか、知らせる必要がある。
風のエルは、冷酷に立花の首に足を乗せる。
「アマ…………ゾ…………」
ゴキリ、と最後の言葉は、首の骨が折れる音に邪魔をされた。
そう呟く壮年の男の背中を見つけ、風のエルはこっそりと近付く。
距離は二十メートル。間には机や椅子、カウンターが立ちふさがっていた。
人間を苦しめることは主は望まない。ゆえに、人を殺すことに風のエルは禁忌の感情を持っている。
手の甲にZ字に印を刻み、風のエルは右手を突き出し、立花へと向かって一直線に迫った。
瞬間、風のエルは立花のそばの鏡に自分が映っているのを知る。立花は身を捻って、避けようとする。
とっさに軌道修正をした風のエルの右突きは、立花の左腕を引き千切った。
「ぐぁぁぁ!!」
立花の悲鳴を聞きながら、風のエルは体勢を整える。身体に流れる立花の血が、温かかった。
「抵抗をするな。楽に殺してやる」
「グゥ……怪人のいうことなんか……聞けるか……」
風のエルは立花の声を無視して、一瞬で間を詰める。
振り下ろした手刀が、タックルを仕掛けた立花によって体勢が崩れ、立花の右脚を斬り裂く結果となる。
再度あがる悲鳴。先程よりも勢いよく血が風のエルの口元にかかる。
初めて味わう人の血は、鉄の味がした。
地面に転がって悲鳴をあげる立花を見下ろし、風のエルは初めて人を蔑むように見つめた。
醜い。主が愛する資格はない。
なら、主が愛するものが誰なのか、知らせる必要がある。
風のエルは、冷酷に立花の首に足を乗せる。
「アマ…………ゾ…………」
ゴキリ、と最後の言葉は、首の骨が折れる音に邪魔をされた。
ぴくぴく痙攣して、やがて動かなくなった立花の死体を前に、風のエルは身体を震わせる。
以前の彼なら、罪悪感ゆえに身体が震えたことだろう。
人を殺すことは、主から強く禁止されていた。
しかし、今は違う。風のエルは、鉄の味を舌で転がし、感情の宿らない瞳で死体を見ている。
無抵抗な相手をただ嬲るその行為。
風のエルは、ニタァ……と笑う。立花の手が千切れたとき、立花が悲鳴をあげたとき、どうしようもない快楽の電流が背筋を走ったのだ。
どんどん血が抜けていき、白くなっていく立花が気に入らず、顔を斬り裂く。
肌がめくりあがり、剥き出しになる筋肉。またも飛び散った血が風のエルの顔にかかる。
再び、風のエルは顔を流れる血を舐めとる。愉悦が彼の顔に浮かぶ。
この快楽を再び味わいたい。風のエルは瞬時に反転、人を求めようとして街を駆ける。
もっとも、身体に上手く力が入らないことは気づいていた。だからこそ、誰かを見つけたら尾行。
力を取り戻し次第、襲う。できれば、無抵抗な相手がいい。
そのほうが、己の快楽を満たせることができる。
(いや、違う。これは主のためなのだ。主のため、生き残る価値のない人間に引導を渡している。それだけだ……)
知らず、風のエルは低く笑っていた。返り血を浴び、凄惨な表情が浮かぶ。
そこには、ただ人の血を覚えた、飢えた獣がいた。
以前の彼なら、罪悪感ゆえに身体が震えたことだろう。
人を殺すことは、主から強く禁止されていた。
しかし、今は違う。風のエルは、鉄の味を舌で転がし、感情の宿らない瞳で死体を見ている。
無抵抗な相手をただ嬲るその行為。
風のエルは、ニタァ……と笑う。立花の手が千切れたとき、立花が悲鳴をあげたとき、どうしようもない快楽の電流が背筋を走ったのだ。
どんどん血が抜けていき、白くなっていく立花が気に入らず、顔を斬り裂く。
肌がめくりあがり、剥き出しになる筋肉。またも飛び散った血が風のエルの顔にかかる。
再び、風のエルは顔を流れる血を舐めとる。愉悦が彼の顔に浮かぶ。
この快楽を再び味わいたい。風のエルは瞬時に反転、人を求めようとして街を駆ける。
もっとも、身体に上手く力が入らないことは気づいていた。だからこそ、誰かを見つけたら尾行。
力を取り戻し次第、襲う。できれば、無抵抗な相手がいい。
そのほうが、己の快楽を満たせることができる。
(いや、違う。これは主のためなのだ。主のため、生き残る価値のない人間に引導を渡している。それだけだ……)
知らず、風のエルは低く笑っていた。返り血を浴び、凄惨な表情が浮かぶ。
そこには、ただ人の血を覚えた、飢えた獣がいた。
□
涼は静かに流れる川を見つめながら、背後の風見を警戒していた。
初めに会ったときは立花を襲い、今また何かと気にかけてくる立花に頑なな態度。
自分も心を開くのが苦手な方だが、風見は最初の行動もあり、隙を見せることができない。
やがて、風見のほうから口を開いた。
「奴らの言っていた人を生き返らせる……あれは真実だと思うか?」
「さあな」
興味ないと言いたげに涼は会話を終えようとする。
ふと振り返って風見の表情を見ると、桃色の腕時計を見つめながら、泣きそうな表情をしていた。
意外な表情に涼は驚き、風見の意外な面を見つける。
立花に頼む、といわれたことを思い出し、ため息を吐きながら風見に声をかける。
「真実かどうかは知らないが……少なくとも俺を生き返らせてはいる」
「な……に?」
「俺はここに来る前、たしかに殺されたはずだった。だが、今はなんともない……つまり、そういうことなんだろう」
「そうか」
それっきり、二人には沈黙が訪れた。
もともと涼は人と触れ合うことが苦手な性質だ。これ以上風見のことを気にかける必要もないとも思える。
風見もそう思うのだろう。こちらに声をかけてこない。
傍から見ると風見は迷っているようにも見受けられたが、こちらを襲う様子はない。
涼は立花の帰りを待った。
初めに会ったときは立花を襲い、今また何かと気にかけてくる立花に頑なな態度。
自分も心を開くのが苦手な方だが、風見は最初の行動もあり、隙を見せることができない。
やがて、風見のほうから口を開いた。
「奴らの言っていた人を生き返らせる……あれは真実だと思うか?」
「さあな」
興味ないと言いたげに涼は会話を終えようとする。
ふと振り返って風見の表情を見ると、桃色の腕時計を見つめながら、泣きそうな表情をしていた。
意外な表情に涼は驚き、風見の意外な面を見つける。
立花に頼む、といわれたことを思い出し、ため息を吐きながら風見に声をかける。
「真実かどうかは知らないが……少なくとも俺を生き返らせてはいる」
「な……に?」
「俺はここに来る前、たしかに殺されたはずだった。だが、今はなんともない……つまり、そういうことなんだろう」
「そうか」
それっきり、二人には沈黙が訪れた。
もともと涼は人と触れ合うことが苦手な性質だ。これ以上風見のことを気にかける必要もないとも思える。
風見もそう思うのだろう。こちらに声をかけてこない。
傍から見ると風見は迷っているようにも見受けられたが、こちらを襲う様子はない。
涼は立花の帰りを待った。
「遅すぎる……」
涼は呟いて、腰を上げて喫茶店のある方向を見つめた。
焦燥感に包まれ、いても立ってもいられない。かれこれ、立花が立ち去って一時間は経っている。
傍に止めてあったジャングラーに乗り込み、キーを回す。背後に体重を感じ振り返ると、風見が乗っていた。
涼は無言で前方を向き、アクセルグリップを回す。
排気音が土手に響き、唸りと共にギアをチェンジする。
タイヤが土砂を巻き上げて、坂を駆け上り涼ははやる気持ちを抑えてジャングラーを進ませる。
後輪が道路を噛んで、甲高い音をたてて滑りながら、ギアの回転を上げて再びギアをチェンジ。
スピードを次々上げていきながら、涼はジャングラーの馬力に感心する。
しかし、もたもたしていられない。
(無事でいてくれ……立花さん)
その願いが叶うように。
背後に乗る風見の様子すらも、気にかける余裕すら失うほどに。
涼は呟いて、腰を上げて喫茶店のある方向を見つめた。
焦燥感に包まれ、いても立ってもいられない。かれこれ、立花が立ち去って一時間は経っている。
傍に止めてあったジャングラーに乗り込み、キーを回す。背後に体重を感じ振り返ると、風見が乗っていた。
涼は無言で前方を向き、アクセルグリップを回す。
排気音が土手に響き、唸りと共にギアをチェンジする。
タイヤが土砂を巻き上げて、坂を駆け上り涼ははやる気持ちを抑えてジャングラーを進ませる。
後輪が道路を噛んで、甲高い音をたてて滑りながら、ギアの回転を上げて再びギアをチェンジ。
スピードを次々上げていきながら、涼はジャングラーの馬力に感心する。
しかし、もたもたしていられない。
(無事でいてくれ……立花さん)
その願いが叶うように。
背後に乗る風見の様子すらも、気にかける余裕すら失うほどに。
□
「クッ!」
その光景をなんといえばいいのか。
涼が喫茶店へと駆けつけたときには、立花は凄惨な死体となっていた。
血が温かい、ということはまだ犯人はそう遠くに行っていないのだろう。
ぬちゃ……と糸を引く血を手の平に、涼は憤る。
左腕と右脚が引き千切られ、それぞれバラバラに落ちている。
顔は引き裂かれ、筋肉が剥き出しになっている。まるで死体の尊厳を奪うかのような行為だ。
ここまでやられているなら、明らかにこの殺し合いを楽しむ外道がいる。
じっとはしていられない。立花の無念を晴らすために、下手人をすぐに探しに行かねば。
涼は軽く立花に黙祷して、振り返る。だが、ジャングラーの前に風見が涼の前に立ちふさがっていた。
「そこを退け」
風見は涼の言葉に数秒の沈黙。やがて迷うように、搾り出すように口を開いた。
「……すまないな」
呟いて、拳を涼の腹に打ち放つ。涼は喫茶店の壁に叩きつけられた。
急き込み、正面を見つめると、風見が強化スーツをまとい、V3のヘルメットを左腕に抱えている。
「どういう……つもりだ……」
「あれから何度……ベルトを起動させようとしたが、一向に起動しなかった。
どうやら、一度起動させるともう一度起動させるまで、二時間必要らしい」
「俺が言いたいのは!」
「お前も見ただろう。その人の死体を」
「だったら……どうした?」
「私も、この殺し合いに乗る」
宣言する風見を涼は睨みつける。風見の顔は、今にも泣き出しそうだった。
その光景をなんといえばいいのか。
涼が喫茶店へと駆けつけたときには、立花は凄惨な死体となっていた。
血が温かい、ということはまだ犯人はそう遠くに行っていないのだろう。
ぬちゃ……と糸を引く血を手の平に、涼は憤る。
左腕と右脚が引き千切られ、それぞれバラバラに落ちている。
顔は引き裂かれ、筋肉が剥き出しになっている。まるで死体の尊厳を奪うかのような行為だ。
ここまでやられているなら、明らかにこの殺し合いを楽しむ外道がいる。
じっとはしていられない。立花の無念を晴らすために、下手人をすぐに探しに行かねば。
涼は軽く立花に黙祷して、振り返る。だが、ジャングラーの前に風見が涼の前に立ちふさがっていた。
「そこを退け」
風見は涼の言葉に数秒の沈黙。やがて迷うように、搾り出すように口を開いた。
「……すまないな」
呟いて、拳を涼の腹に打ち放つ。涼は喫茶店の壁に叩きつけられた。
急き込み、正面を見つめると、風見が強化スーツをまとい、V3のヘルメットを左腕に抱えている。
「どういう……つもりだ……」
「あれから何度……ベルトを起動させようとしたが、一向に起動しなかった。
どうやら、一度起動させるともう一度起動させるまで、二時間必要らしい」
「俺が言いたいのは!」
「お前も見ただろう。その人の死体を」
「だったら……どうした?」
「私も、この殺し合いに乗る」
宣言する風見を涼は睨みつける。風見の顔は、今にも泣き出しそうだった。
涼と対峙しながら、風見は妹のちはるのことを考える。
彼女は、風見の妹は国民的アイドルの地位を自分の力で得た。
そこのことを誇りにして、自分に嬉しそうに話しかけてきたことを覚えている。
売り上げの報告、アイドルとしての苦悩を打ち明け、相談に乗ったこともあった。
風見にとって、失いたくなかったたった一人の家族だった。
なのに、風見は彼女の苦悩を気づいてやれなかった。
ちはるはライバルのアイドル歌手の悪戯により、顔を醜く焼かれてこの世に絶望して命を絶った。
自分に知られるのを恐れたのだろう。親友だけに辛さを告白して、飛び降りたのだ。
自分がショッカーの一員として暗躍している間に。
これほど、自分を呪ったことはなかった。何が選ばれしショッカーの一員か。改造人間か。
妹一人を救えない人間が。
しかし、今は違う。主催者、村上は生き返らせることもできる、といった。
事実、涼は生き返ったといった。真実を確かめるすべはない。それでも、風見は縋る。
ちはるを救える。
ちはるの顔を元に戻してやれる。
ちはるに普通の女の子としての人生を歩ませてやれる。
すべては、自分しだいで。
この改造された身体を、妹のためだけに使う。風見はマスクを持ち上げ、ゆっくりと被る。
涙が流れていた。
(ちはる。ごめんな、駄目なお兄ちゃんで。俺が必ず救うから、待っていてくれ……)
カチャリと、クラッシャーを装着して、風見は修羅となる。
V3、ショッカーの改造人間でも、仮面ライダーでもない。
たった一人の兄として。涙を仮面に隠して。
彼女は、風見の妹は国民的アイドルの地位を自分の力で得た。
そこのことを誇りにして、自分に嬉しそうに話しかけてきたことを覚えている。
売り上げの報告、アイドルとしての苦悩を打ち明け、相談に乗ったこともあった。
風見にとって、失いたくなかったたった一人の家族だった。
なのに、風見は彼女の苦悩を気づいてやれなかった。
ちはるはライバルのアイドル歌手の悪戯により、顔を醜く焼かれてこの世に絶望して命を絶った。
自分に知られるのを恐れたのだろう。親友だけに辛さを告白して、飛び降りたのだ。
自分がショッカーの一員として暗躍している間に。
これほど、自分を呪ったことはなかった。何が選ばれしショッカーの一員か。改造人間か。
妹一人を救えない人間が。
しかし、今は違う。主催者、村上は生き返らせることもできる、といった。
事実、涼は生き返ったといった。真実を確かめるすべはない。それでも、風見は縋る。
ちはるを救える。
ちはるの顔を元に戻してやれる。
ちはるに普通の女の子としての人生を歩ませてやれる。
すべては、自分しだいで。
この改造された身体を、妹のためだけに使う。風見はマスクを持ち上げ、ゆっくりと被る。
涙が流れていた。
(ちはる。ごめんな、駄目なお兄ちゃんで。俺が必ず救うから、待っていてくれ……)
カチャリと、クラッシャーを装着して、風見は修羅となる。
V3、ショッカーの改造人間でも、仮面ライダーでもない。
たった一人の兄として。涙を仮面に隠して。
(風見……お前……)
泣いている理由は知らない。風見が何を背負っているか知らない。
それでも、涼は風見を見つめる視線に、殺気だけでない感情を込める。
「お前が……生き返ることに何の価値を持っているかは知らない。
だが、これだけは言える。死んだ人間が生き返ったとして、それは本当に幸せか?」
「黙れ! あなたに何が分かる!!」
涼は答えず、静かに目をつぶる。瞼に映るのは、亜紀の笑顔。
自分は彼女を生き返らせるために、この殺し合いに乗るのか?
答えはNoだ。どんな環境だろうと、失っていく辛さがあろうとも、折れてはいけない。
失い続けても、折れずに理不尽と戦い続けた涼だからこそ、導けた答え。
涼は左右の腕を交差させると同時に、右隣に緑の異形が並ぶ。
昆虫のような複眼に、額には植物のように生えるY字の角。
生物的な緑のアーマーを黒い皮膚の上に被せる獣。
異形と涼の姿が重なり、変化を果たす。
泣いている理由は知らない。風見が何を背負っているか知らない。
それでも、涼は風見を見つめる視線に、殺気だけでない感情を込める。
「お前が……生き返ることに何の価値を持っているかは知らない。
だが、これだけは言える。死んだ人間が生き返ったとして、それは本当に幸せか?」
「黙れ! あなたに何が分かる!!」
涼は答えず、静かに目をつぶる。瞼に映るのは、亜紀の笑顔。
自分は彼女を生き返らせるために、この殺し合いに乗るのか?
答えはNoだ。どんな環境だろうと、失っていく辛さがあろうとも、折れてはいけない。
失い続けても、折れずに理不尽と戦い続けた涼だからこそ、導けた答え。
涼は左右の腕を交差させると同時に、右隣に緑の異形が並ぶ。
昆虫のような複眼に、額には植物のように生えるY字の角。
生物的な緑のアーマーを黒い皮膚の上に被せる獣。
異形と涼の姿が重なり、変化を果たす。
「ウァァァァァァァァァァァッァァァァアァァァァ!!!」
アギトと同じく、白き青年の力を宿す未完成の獣。
ギルスの咆哮が、立花藤兵衛へのレクイエムとして轟いた。
ギルスの咆哮が、立花藤兵衛へのレクイエムとして轟いた。
□
V3は咆哮を上げるギルスの鋭い右ストレートを辛うじて捌く。
鋭い連撃を受け止めるので精一杯のため、V3は一旦距離をとる。
そのまま後方に跳躍、追撃してくるギルスを視線に入れながら、空中で体勢を整え、壁を蹴って飛び蹴りでギルスの胸を貫く。
「ガァッ!」
勢いよく吹き飛び、椅子や机を巻き込んで地面に叩きつけられたギルスに、V3は距離を詰める。
たたみ掛けるチャンスだ。V3は逃してたまるかと、踏み潰すように右脚を振り下ろす。
ギルスは両手で受け止めるが、衝撃に呻く。
V3は構わず、二撃、三撃と攻撃の手を緩めない。床が砕け、ギルスの身体が埋め込まれた。
V3は脚を引き上げようとするが、戸惑う。床の穴から出てきたギルスが、息も荒くこちらを睨みつけていた。
鋭い連撃を受け止めるので精一杯のため、V3は一旦距離をとる。
そのまま後方に跳躍、追撃してくるギルスを視線に入れながら、空中で体勢を整え、壁を蹴って飛び蹴りでギルスの胸を貫く。
「ガァッ!」
勢いよく吹き飛び、椅子や机を巻き込んで地面に叩きつけられたギルスに、V3は距離を詰める。
たたみ掛けるチャンスだ。V3は逃してたまるかと、踏み潰すように右脚を振り下ろす。
ギルスは両手で受け止めるが、衝撃に呻く。
V3は構わず、二撃、三撃と攻撃の手を緩めない。床が砕け、ギルスの身体が埋め込まれた。
V3は脚を引き上げようとするが、戸惑う。床の穴から出てきたギルスが、息も荒くこちらを睨みつけていた。
「ウォォォォオォォォォォォォォォォォ!!」
ギルスのクラッシャーが開き、耳をつんざくような咆哮が響く。
同時にV3の身体が浮き上がり、ギルスの手から抜け出す暇もなく壁へと叩きつけられた。
さらに咆哮。二度目の衝突をV3は身体を亀にして耐えた。
三度、四度とギルスの叩きつけは止まらない。五度目の叩きつけのとき、V3の瞳が光る。
V3は右手で叩きつけられる衝撃を吸収。続けて、反動で飛びあがり、脚を上に向けたまま、ギルスの顎を打ち貫く。
脳が揺さぶられて後退するギルスにそのまま手刀を咽に放つ。
体勢と勢いが崩れたギルスに、V3は容赦なく拳の連撃を身体に打ち続ける。
三発、四発、五発、六発。
一回一回拳の速さを上げながら、V3の連打は止まらない。止められない。
負けられないのだ。妹のため、ちはるのため、彼女の人生のため。
止まらない想いを拳にこめて、V3は正拳をギルスの腹に思いっきりぶち込む。
外へと吹き飛んでいくギルスは壁を破壊していく。逃がさないと、V3は後を追った。
同時にV3の身体が浮き上がり、ギルスの手から抜け出す暇もなく壁へと叩きつけられた。
さらに咆哮。二度目の衝突をV3は身体を亀にして耐えた。
三度、四度とギルスの叩きつけは止まらない。五度目の叩きつけのとき、V3の瞳が光る。
V3は右手で叩きつけられる衝撃を吸収。続けて、反動で飛びあがり、脚を上に向けたまま、ギルスの顎を打ち貫く。
脳が揺さぶられて後退するギルスにそのまま手刀を咽に放つ。
体勢と勢いが崩れたギルスに、V3は容赦なく拳の連撃を身体に打ち続ける。
三発、四発、五発、六発。
一回一回拳の速さを上げながら、V3の連打は止まらない。止められない。
負けられないのだ。妹のため、ちはるのため、彼女の人生のため。
止まらない想いを拳にこめて、V3は正拳をギルスの腹に思いっきりぶち込む。
外へと吹き飛んでいくギルスは壁を破壊していく。逃がさないと、V3は後を追った。
移動しながらお互いに攻撃し、やがては再び、土手へ舞い戻る。
ギルスは咆哮と同時に地面を蹴り、爪を形成して切り裂きにかかる。
袈裟切りの刃を潜られ、懐に潜ったV3のアッパーがギルスの脳を揺らし、川原に背中から着地する。
激痛を感じながらも、ギルスは背筋を全力駆動させ、バネのように跳ね起きる。
すぐさま体勢を整えて、V3の疾風のような拳を捌き、右頬に拳を叩き込んだ。
V3は後ろに吹き飛びかけるが、耐え抜いてギルスに拳を叩き返す。
後方にたたらを踏む直前、ギルスは爪を逆袈裟に振り、V3の装甲に斜めの傷を作る。
しかし、一向にV3は怯まない。
死を恐れない進行に、鬼気迫る修羅の気迫に、ギルスは唾を飲み込む。
V3は、風見は本気でこの殺し合いを優勝するつもりなのだ。
「ちはるは……もっと痛がっていた」
悠然と近付くV3に、ギルスは拳を打ち放つ。
V3の歩みを止めるには、力不足だった。
「ちはるは……もっと絶望していた!」
ギルスは鞭のようにしなる蹴りを放ち、V3の脇腹を叩く。
V3は僅かに身じろぎをしながらも、さらに距離を詰める。
「ちはるは……もう、死んでいたんだ!!」
ギルスの右ストレートに合わせるように、V3も右ストレートを放つ。
拳と拳がぶつかり、力が拮抗するが、天秤はV3へと傾いた。
ギルスの右拳が弾かれ、額にV3の拳をまともにくらい、再び地面に叩きつけられる。
背中の痛みに悶えていると、V3の搾り出すような独白が聞こえてきた。
「私は……ちはるに何もしてやれなかった。ちはるの異常に気づいてやれなかった……教えてくれ、葦原。
私は……ちはるのためにここを優勝して生き返らせる以外……何をしてやれる?」
「スマートブレインと戦い、お前がお前として生きてやれ。たとえ生きるのが辛くても……俺たちは生きていかなくちゃいけないんだ」
「そんなのは……奇麗事だ!!」
V3は……風見は言い捨て、ベルトの風車を回す。
二つの風車に夜風が吸い込まれ、V3の身体を強化していく様が見て取れた。
ギルスは咆哮と同時に地面を蹴り、爪を形成して切り裂きにかかる。
袈裟切りの刃を潜られ、懐に潜ったV3のアッパーがギルスの脳を揺らし、川原に背中から着地する。
激痛を感じながらも、ギルスは背筋を全力駆動させ、バネのように跳ね起きる。
すぐさま体勢を整えて、V3の疾風のような拳を捌き、右頬に拳を叩き込んだ。
V3は後ろに吹き飛びかけるが、耐え抜いてギルスに拳を叩き返す。
後方にたたらを踏む直前、ギルスは爪を逆袈裟に振り、V3の装甲に斜めの傷を作る。
しかし、一向にV3は怯まない。
死を恐れない進行に、鬼気迫る修羅の気迫に、ギルスは唾を飲み込む。
V3は、風見は本気でこの殺し合いを優勝するつもりなのだ。
「ちはるは……もっと痛がっていた」
悠然と近付くV3に、ギルスは拳を打ち放つ。
V3の歩みを止めるには、力不足だった。
「ちはるは……もっと絶望していた!」
ギルスは鞭のようにしなる蹴りを放ち、V3の脇腹を叩く。
V3は僅かに身じろぎをしながらも、さらに距離を詰める。
「ちはるは……もう、死んでいたんだ!!」
ギルスの右ストレートに合わせるように、V3も右ストレートを放つ。
拳と拳がぶつかり、力が拮抗するが、天秤はV3へと傾いた。
ギルスの右拳が弾かれ、額にV3の拳をまともにくらい、再び地面に叩きつけられる。
背中の痛みに悶えていると、V3の搾り出すような独白が聞こえてきた。
「私は……ちはるに何もしてやれなかった。ちはるの異常に気づいてやれなかった……教えてくれ、葦原。
私は……ちはるのためにここを優勝して生き返らせる以外……何をしてやれる?」
「スマートブレインと戦い、お前がお前として生きてやれ。たとえ生きるのが辛くても……俺たちは生きていかなくちゃいけないんだ」
「そんなのは……奇麗事だ!!」
V3は……風見は言い捨て、ベルトの風車を回す。
二つの風車に夜風が吸い込まれ、V3の身体を強化していく様が見て取れた。
「う……おぉぉぉぉぉおぉぉぉぉぉぉぉおぉぉ!!」
V3の咆哮が土手に響き、稲妻が轟いたような音が周囲に響く。
跳躍をしたV3の飛び蹴りが、ギルスの右胸を貫いたのだ。
全身をバラバラにするような衝撃に、ギルスは辛うじて耐える。
そのギルスを二度目の蹴りが襲う。V3が空中で、回転して再び蹴撃を放ったのだ。
再び右胸を貫く衝撃。
のけぞるギルスの身体。
足は耐え切れず、地面を離れ、身体は宙へと浮く。
視界が回転しながら、ギルスは川へと着水した。
懐かしい水の感覚を全身で感じながら。
跳躍をしたV3の飛び蹴りが、ギルスの右胸を貫いたのだ。
全身をバラバラにするような衝撃に、ギルスは辛うじて耐える。
そのギルスを二度目の蹴りが襲う。V3が空中で、回転して再び蹴撃を放ったのだ。
再び右胸を貫く衝撃。
のけぞるギルスの身体。
足は耐え切れず、地面を離れ、身体は宙へと浮く。
視界が回転しながら、ギルスは川へと着水した。
懐かしい水の感覚を全身で感じながら。
予想以上に流れの早い川を見つめながら、風見はマスクを取る。
瞳に映る感情はなかった。いや、ちはるのことだけを、その瞳に映していた。
あれほど心酔していたショッカーに対する尊敬の念も、そのショッカーに対抗する本郷への関心も、今はない。
ちはるがショッカーの計画を阻止したがっていると知ったときに、ショッカーへの疑念は生まれていた。
本来の流れなら、ちはるのためにできることはショッカーの計画を阻止することだと悟るはずだった。
今の風見は、本来の流れの彼と違い、死者を蘇らせる手段を知った。
もっとも、主催者の甘言かもしれない。涼の勘違いかもしれない。
それでも妹の、ちはるの苦しみを、万分の一でも理解できるなら……そこまで考えて頭を振るい、必ずちはるを蘇らせると決意する。
「そして、今度こそ幸せに生きてくれ……ちはる。汚れ役は、血を被るのは私が……俺がすべて引き受けるから……」
瞳に映る感情はなかった。いや、ちはるのことだけを、その瞳に映していた。
あれほど心酔していたショッカーに対する尊敬の念も、そのショッカーに対抗する本郷への関心も、今はない。
ちはるがショッカーの計画を阻止したがっていると知ったときに、ショッカーへの疑念は生まれていた。
本来の流れなら、ちはるのためにできることはショッカーの計画を阻止することだと悟るはずだった。
今の風見は、本来の流れの彼と違い、死者を蘇らせる手段を知った。
もっとも、主催者の甘言かもしれない。涼の勘違いかもしれない。
それでも妹の、ちはるの苦しみを、万分の一でも理解できるなら……そこまで考えて頭を振るい、必ずちはるを蘇らせると決意する。
「そして、今度こそ幸せに生きてくれ……ちはる。汚れ役は、血を被るのは私が……俺がすべて引き受けるから……」
夜空に吸い込まれそうなほど、か細い風見の呟き。
星は瞬き、赤いマスクを脇に抱える男を照らす。
踵を返し、ジャングラーを回収へと風見は向かう。
彼は……風見は修羅となる。妹を、ちはるを救うために。
星は瞬き、赤いマスクを脇に抱える男を照らす。
踵を返し、ジャングラーを回収へと風見は向かう。
彼は……風見は修羅となる。妹を、ちはるを救うために。
□
「ぶはっ!」
涼は辛うじて岩に手をかけて、身体を起こし、水を吐き出す。
ガタガタ震える身体に活を入れて、辛うじて土手へ向かって歩き出す。
足がバシャバシャ水音を立て、水の抵抗で足取りが重い。低い水温が身体から体温を奪う。
涼の視界はぶれて覚束ない。身体はフラフラと頼りなく左右に揺れている。
ようやく辿り着いた土手の芝生に、涼は身体を押し付ける。
この力を手にして以来、慣れ親しんだ感覚に身を委ねる。
このまま死ぬのかもしれない。死ぬわけにはいかないのだが、身体がいうことをきかない。
とたん、変身の反動だろう。涼の全身に激痛が走り、腕の皮が老人のようにしわくちゃになる。
もはや、涼は限界だ。
『志郎を頼む……』
立花の言葉を思い出し、少しだけ涼は力を込める。
一歩だけ、前に進めた。そこで涼の意識は閉じる。
今度風見と再会したのなら、殴ってやろうと考えて、闇へと涼は落ちた。
涼は辛うじて岩に手をかけて、身体を起こし、水を吐き出す。
ガタガタ震える身体に活を入れて、辛うじて土手へ向かって歩き出す。
足がバシャバシャ水音を立て、水の抵抗で足取りが重い。低い水温が身体から体温を奪う。
涼の視界はぶれて覚束ない。身体はフラフラと頼りなく左右に揺れている。
ようやく辿り着いた土手の芝生に、涼は身体を押し付ける。
この力を手にして以来、慣れ親しんだ感覚に身を委ねる。
このまま死ぬのかもしれない。死ぬわけにはいかないのだが、身体がいうことをきかない。
とたん、変身の反動だろう。涼の全身に激痛が走り、腕の皮が老人のようにしわくちゃになる。
もはや、涼は限界だ。
『志郎を頼む……』
立花の言葉を思い出し、少しだけ涼は力を込める。
一歩だけ、前に進めた。そこで涼の意識は閉じる。
今度風見と再会したのなら、殴ってやろうと考えて、闇へと涼は落ちた。
【立花藤兵衛@仮面ライダーアマゾン 死亡】
【残り48人】
【残り48人】
状態票
【風見志郎@仮面ライダーTHE-NEXT】
【1日目 黎明】
【現在地:D-6 土手】
【時間軸:】THE-NEXT中盤・CHIHARU失踪の真実を知った直後
【状態】: 疲労、全身打撲、共に中程度。二時間変身不可
【装備】:ジャングラー
【道具】:不明支給品(未確認)2~5。基本支給品×2セット、ピンクの腕時計
【思考・状況】
1:殺し合いに勝ち残り、優勝してちはるに普通の生を送らせる。
2:ショッカーに対する忠誠心への揺らぎ。
【備考】
※葦原を殺したと思っています。
【1日目 黎明】
【現在地:D-6 土手】
【時間軸:】THE-NEXT中盤・CHIHARU失踪の真実を知った直後
【状態】: 疲労、全身打撲、共に中程度。二時間変身不可
【装備】:ジャングラー
【道具】:不明支給品(未確認)2~5。基本支給品×2セット、ピンクの腕時計
【思考・状況】
1:殺し合いに勝ち残り、優勝してちはるに普通の生を送らせる。
2:ショッカーに対する忠誠心への揺らぎ。
【備考】
※葦原を殺したと思っています。
【葦原涼@仮面ライダーアギト】
【1日目 黎明】
【現在地:D-7 北西川辺】
【時間軸:】第27話 死亡後
【状態】: 全身打撲(大)、疲労(大)、気絶中、二時間変身不可
全身ずぶ濡れ。変身の反動
【装備】:なし
【道具】:支給品一式、ホッパーゼクターのベルト
【思考・状況】
1:殺し合いには加担しない。脱出方法を探る。
2:立花藤兵衛の最後の言葉どおり、風見の面倒を見る?
3:自分に再び与えられた命で、救える者を救う。戦おうとする参加者には容赦しない。
4:立花を殺した犯人を放っては置けない。
【1日目 黎明】
【現在地:D-7 北西川辺】
【時間軸:】第27話 死亡後
【状態】: 全身打撲(大)、疲労(大)、気絶中、二時間変身不可
全身ずぶ濡れ。変身の反動
【装備】:なし
【道具】:支給品一式、ホッパーゼクターのベルト
【思考・状況】
1:殺し合いには加担しない。脱出方法を探る。
2:立花藤兵衛の最後の言葉どおり、風見の面倒を見る?
3:自分に再び与えられた命で、救える者を救う。戦おうとする参加者には容赦しない。
4:立花を殺した犯人を放っては置けない。
【風のエル@仮面ライダーアギト】
【1日目 黎明】
【現在地:D-5 東】
[時間軸]:48話
[状態]:頭部にダメージ。行動原理に異常発生。二時間能力発揮不可。血の味を覚えた。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式 不明支給品(未確認)1~3個。
[思考・状況]
1:優勝して還る。
2:帰還した時には、主に未知の力を報告。
3:人を殺すことに、快楽を覚えた。
4:誰でもいいから殺したい。
[備考]
※デネブの放送は距離と精神的動揺から聞こえていません。
【1日目 黎明】
【現在地:D-5 東】
[時間軸]:48話
[状態]:頭部にダメージ。行動原理に異常発生。二時間能力発揮不可。血の味を覚えた。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式 不明支給品(未確認)1~3個。
[思考・状況]
1:優勝して還る。
2:帰還した時には、主に未知の力を報告。
3:人を殺すことに、快楽を覚えた。
4:誰でもいいから殺したい。
[備考]
※デネブの放送は距離と精神的動揺から聞こえていません。
018:吼える | 投下順 | 020:ダブルライダーVSカブトムシ男!! |
017:白い悪意 | 時系列順 | 024:桃の木坂分岐点 |
013:仮面ライダーの称号 | 風見志郎 | 032:クライマックスは終わらない(前編) |
013:仮面ライダーの称号 | 葦原涼 | 034:不屈 |
013:仮面ライダーの称号 | 立花藤兵衛 | |
009:それが仕事な人たち | 風のエル | 034:不屈 |