戦士(前編)

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戦士(前編)

舗装された道路を進む男が一人。
先刻、いきなりスマートブレインにより宣告されたこの殺し合い。
前方へ一歩一歩と踏み出すその足取りはしっかりとしている。
何故なら、その男には目的があるから。
そう。当の人物、一条薫には。

「兎に角、情報を集めないとな……この状況は異常すぎる」

油断なく周囲を警戒しながら、一条は前へ進み続ける。
現在、一条が歩を進ませている場所はエリアE-3の北東部に位置する道路。
一条が眼を覚ました時は、不憫にも彼は道路の上に放置されていた。
人間をなんらかの法則に基づき、殺戮を続けた未確認生命体。
以前、警察署内に設立された未確認生命体合同捜査本部で、突如日本に現れた未確認生命体と闘った一条。
その未確認生命体は全て撲滅し、一条は長野県警に戻り、また日常の業務に就くはずだった。
だが、ふと気づいてみれば見知らぬ部屋に拉致され、殺し合いという常軌を逸脱した行為に参加させられている現実。
道路で眼を覚まし、二人の男女がまるで未確認生命体四号のような姿に変身し、殺された映像を見た時、流石の一条にも動揺は走った。
しかし、いつまでも驚いているわけにもいかない。
スマートブレインという組織には覚えはないが、彼らが法に触れているのは明白な事。
一警察官として、この殺し合いを止めるべく、一条は行動を開始していた。

「しかし、五代の名があるとは……」

取り敢えず支給された携帯を操作し、現在位置を確認、同時に参加者の名簿画面をチェックした一条。
名簿画面に一条が見知って名前はたった一つだけ。
そう。一条にはとても馴染みがあり、共に同じ敵と闘った男。
警察からは未確認生命体四号と呼称され、古代の戦士、『クウガ』の名を持つ戦士へ変身し、闘い抜いた男。
一条の友人ともいえる五代雄介の事だ。
人間を守るために、優しい笑顔を守るために未確認生命体と闘った五代ならきっとこの状況でも、無力な人を救うために闘うだろう。
たとえ、自分の命が危険に晒される事態になったとしても。
一条には五代がこれから行う行動について疑う余地は全くない。
そのため、先ずは五代と合流し、スマートブレインへの反撃を練ろうと考え、一条は歩を進める。

「ん……あの少年……いや、青年といった感じか……?」

そんな時、一条は前方に一人の人間が此方に向かってくるのを確認した。
見慣れないバイクに乗り、真っ直ぐ此方を目指してくる。
だが、一条が対応を決めかねている間に、その人物は数十メートル先にバイクを停車し、地へ降り立った。
バイクから降りた人物――青年の髪はぼさぼさでお世辞にもあまり手入れがよいとはいえず、背はかなり高い。
かといって屈強な体格でもなく、華奢な身体つきで縦に長いような感じだ。
見たところ10代後半に見えるが、どうにも違和感を感じる。
兎に角、考えても埒があかない。
そう考え、一条がその青年に声を掛けようと口を開きかけるが――

「ねぇ、おじさん。おじさんも『仮面ライダー』ってヤツ?
村上さんが言ってた、アレだよ」

目の前の青年が発する緊張感がない声に一条は出鼻を挫かれる。
この異常な状況を全く危惧していないような調子で一条に向けられた言葉。
またしても奇妙な違和感を覚えた一条だが、彼は青年の言葉から気になる事を見つける。
仮面ライダーという単語が何を指すかはわからないが、問題は其処ではない。
この殺し合いを自分達に宣告した村上峡児の話にも出ており、目の前の青年が口に出しても可笑しくはない。
だが青年は『村上さん』と確かに言った。
そう。あの村上に対し、わざわざ敬称を付ける必要はあるのだろうか?
こんな状況ではとてもあるとは考えられない。
元々、村上と目の前の男に面識がある場合を除けば。
村上と目の前の青年の関連性に疑問を抱き、一条は再度口を開こうとする。

「いや、俺はそんな者じゃないさ。それよりも、君――」
「ふぅん、おじさん、違うんだ……。あーあ、つまんないなぁ……」

だが、またしても一条の質問は無常にも遮られた。
一条の言葉に明らかな不満を見せ、目の前の青年は碌に彼のほうすらも見ず、そっぽを向いている。
青年の様子はまるでもうお前には興味などないね、といった事を暗に意味しているかのようだ。
こんな異常事態といえども、目の前の青年は初対面の人間に対しあまりにも失礼ではないか。
そんな事を一条は思うが、胸の内にその感情を留め、再度目の前の青年と会話を試みようとする。

だが、一条は何か、とてつもなく異質なものを感じた。

「でも、もしかしたらおじさんのスペシャルアイテムってヤツが……面白いおもちゃかもしれないよね~?」

恐怖を感じているのだろうか?
目の前の、20にも満たないような青年が少し浮ついた声で話しかけられただけで。
まるで、初めて未確認生命体と遭遇した時に一条が少なからず思った感情を。

「だったら僕が奪っちゃってもいいかな?」

目の前の青年の全身に奇妙な黒の紋章が浮き上がる。
一条にはその、紋章が何を意味するものかはわかるはずもない。
目の前の青年――北崎という名を持つ青年の身体がその紋章によりどうなるのか。
その答えはようやく一条は知る事になる。
その紋章の意味を、北崎の真意を、自分にこれから降りかかるであろう厄災を。
北崎の身体を――異形の者へと姿を変えた北崎の身体を見て、一条は理解した。
龍の皮膚のような漆黒に染まった全身、両腕から生え、鋭い輝きを放つ龍の爪、そして、頭部から天に向けて生えた二本の角。

「まぁ……おじさんの答えは聞いてないけどね♪」

ドラゴンオルフェノク。
スマートブレインが保有するオルフェノクの中でも上の上と評される集団、ラッキークローバーの一人。
そして、生命の命をなんとも思わないその残虐性、実力によるラッキークローバー最強と評される男。
北崎がドラゴンオルフェノクに姿を変え、一条にどこか嬉しそうな声で話しかける。
体長も軽く二メートルは越え、見る者に威圧と恐怖をいやでも与えるドラゴンオルフェノクの姿。
常人なら、直ぐにでも逃げ出してしまいたいと思うのは無理もないだろう。

「ッ!……そうか、君は……」
「あれ? おじさん、逃げないんだ? 意外だなぁ……」

だが、一条は逃げずに、真っ直ぐドラゴンオルフェノクと対峙する。
腰を低く下ろし、ドラゴンオルフェノクの行動に警戒を怠らずに口を開く。
一条も今まで数多くの未確認生命体と遭遇し、一体だけではあるが撃退に成功している。
ここで恐怖に押し潰され、逃げる様な真似は一条には出来ない。
何故なら、一条にはどうしても見逃せない事があるから。

「当たり前さ……君をこのまま放っておけば、君は誰かを襲うかもしれない」
「大当たり♪ まぁ、最初はおじさんに決めたけどね……もしかして、僕を止めるつもり?」

そう。いうまでもなくドラゴンオルフェノクを止める事。
先程からの言動からしてドラゴンオルフェノクが自分の話をまともに聞くとは思えない。
恐らく、自分を殺し、支給品を奪い、他の参加者を襲うのだろう。
事実、ドラゴンオルフェノクは全く嘘を付く様子もなく、一条の言葉に同意した。
だが、一条にはドラゴンオルフェノクが言う様に彼を止める程の力は持っていない。

「ああ……その通りだ」

否、この殺し合いに呼び出されるまでには一条にそんな力はなかった。
しかし、この殺し合いで一条が手に入れたもの。
それが一条に力を与えてくれる。
懐に忍ばせた一枚の手鏡を取り出し、いきなり地に叩きつける一条。
一条の意味不明な行動にドラゴンオルフェノクは多少反応を見せるが、一条は気にも留めない
続けて同じように懐に忍ばせていた四角形の物体――カードデッキを取り出し、一条はそれをかざす。
北崎に遭遇する前にマニュアルを熟読していたため、その動作は手際が良い。
カードデッキが向く方向は地面に飛び散ったガラスの破片、そしてガラスの中から一条の腰に向けてベルトが装着。
先程よりも大きい驚きを見せるドラゴンオルフェノクを尻目に、一条がカードデッキを握った腕を滑るように動かす。

(まさか、俺がこの言葉を言う羽目になるとはな……)

一条の脳裏に浮かぶ言葉。
何度も何度も聞いたが、実際に自分は言った事はないあの言葉。
一呼吸を置き、喉に力を込め、一条はあの言葉を叫ぶ。


「変身!」


そう。今まで何度も耳にした変身という二文字。
変身の叫び声と共に、一条は腰に巻かれたベルト――Vバックルのくぼみの部分にカードデッキを差し込む。
瞬間、一条の全身にヘルメットを被った緑色の人間のような物体が重なり始める。
合計、三枚の物体が一条の身体に重なり合い、やがて一条の外見はそれと全く同じものとなる。

「俺が止めてみせる……絶対に!」

仮面ライダーゾルダ。
神崎士郎の造りしミラーワールドを戦場とし、様々な目的で闘い合った13人の仮面ライダー。
重厚な装甲で覆われ、銃撃戦を得意とする緑の色を帯びた仮面ライダー。
ゾルダへ変身を行った一条が右腰に下げられた銃、マグナバイザーを両手で持ち、ドラゴンオルフェノクに向け――発砲を行う。
周囲に鳴り響く、一発の銃声音。
それがゾルダとドラゴンオルフェノクの闘いの合図となった。

マグナバイザーから撃ち出された銃弾がドラゴンオルフェノクに向かう。
空を裂き、真っ直ぐ直進するその銃弾は只の鉛球ではなく、エネルギーを伴った弾丸。
更には毎分120発の銃弾を連射する程が出来る程の速射性を誇るマグナバイザー。
しかし、この場では参加者間のパワーバランスが著しくかけ離れる事を防止するために、その性能にはある程度制限が掛かっている。
だが、連射性に優れている事実は変わらない。
マグナバイザーの引き金を引き、更に数発の銃弾が撃ち出され、ドラゴンオルフェノクに襲い掛かった。

「へぇ~面白いね。そのおもちゃはさぁ!」

碌に回避行動も取らなかったため、数発の銃弾はドラゴンオルフェノクの全身に程無く直撃する。
だが、ドラゴンオルフェノクはその銃弾に特に反応は見せない。
全身を覆うドラゴンオルフェノクの禍々しい装甲により、ゾルダの銃弾は弾かれ、大した効果はなかった。
オルフェノクでもなく、何も力を持っていないように見えた一条を一瞬の内にゾルダへ姿を変えさせた奇妙なカードデッキ。
ドラゴンオルフェノクはそのカードデッキに興味を持ち、この状況を楽しんでいた。

「ッ! まだだ!」
「じゃあ、僕からも攻撃させてもらおうかな」

銃弾が全く効きもしない事実に驚くゾルダを尻目に、ドラゴンオルフェノクが見せるものは余裕。
諦めずに更に射撃を行うために、マグナバイザーを構えるゾルダ。
対して、射撃攻撃の手段を持たないドラゴンオルフェノクは数歩の助走を経て、疾走を開始する。
再度マグナバイザーから撃ち出される銃弾が何度も、何度も大気を揺らす。

「……銃の扱いは上手いね。でも、おじさん……弱すぎるよ」
「くっ!」

撃ち出された銃弾は全てドラゴンオルフェノクの頭部に直撃する。
幾ら人間でないといえども、頭部へのダメージは他の部位へのそれより効果的な筈。
射撃のスペシャリストでもあるゾルダ――一条はそう推測し、一瞬で狙いをつけ、発砲した。
しかし、現実は非情であり、頭部に当たったにも関わらず金属が弾ける音を響かせるだけで、ドラゴンオルフェノクを止めるには至らない。
マグナバイザーの銃弾では圧倒的に威力が足りない事実を、ゾルダは仮面の下で苦渋の表情を浮かべながら噛み締める。
だが、いつまでもその事に気を取られるわけにはいかない。
目の前まで迫り、強靭な腕に生えた金属の爪を振りかざすドラゴンオルフェノクの左斜めからの攻撃がゾルダを襲う。
堪らず、左のほうへ身を屈め、前転を行い凶爪による襲撃を回避するゾルダ。
すぐさま体勢を整え、屈みがちの姿勢でゾルダは咄嗟に右腕を――マグナバイザーを握り締めた右腕を突き出す。
狙いはゾルダの直ぐ目の前にある、ドラゴンオルフェノクの胴体部分。

「うおおおおおおッ!」

ダメージがなければ、もっと近い距離で発砲を行えばいい。
一メートルもない至近距離でゾルダはマグナバイザーの引き金を引き絞る。
発砲、そしてドラゴンオルフェノクの胴体に直撃するのにタイムラグなどは殆どない。
耳をつんざくような、銃弾と胴体が接触する音が周囲に響き、ドラゴンオルフェノクに銃弾が叩き込まれる。
流石に至近距離の銃撃は無視できなかったのだろう。
今もなお、銃弾を撃ち続けるマグナバイザーにより、ドラゴンオルフェノクは数歩後へたじろぐ。
これならいける。
仮面に隠された表情に密かな希望を灯し、ゾルダは更に銃弾が尽きるまで引き金を引こうとするが――

「おじさん、調子に乗らないでくれるかなぁ?」

甘かった。
再び前進し、まるで降り注ぐ銃弾をものともせずに、ドラゴンオルフェノクが下から掬い上げるようにゾルダに向かって腕を揮う。
瞬く間にゾルダの胸板にドラゴンオルフェノクの腕が叩き込まれた。
今まで数多くの人間の命を奪い、三本のベルトによる変身者を苦しめた暴力的な力。
強固な装甲で覆われたゾルダでさえも、ドラゴンオルフェノクの凶爪を受け、無傷ではいられない。
青白い火花を散らしながら、ゾルダの身体が後方へ吹っ飛び、やがて重力に引かれ、地面に叩きつけられる。
吹き飛ぶゾルダに対し満足げに視線を送るドラゴンオルフェノク。
一方、胸部に損傷を負い、未だ立ち上がる事は出来ないゾルダは――

――SHOOT VENT――

マグナバイザーのマガジン部――アドベントカードをセットする部分にカードを差し込む。
ミラーワールドを戦場とする仮面ライダーに様々な力を与える、アドベントカード。
マグナバイザーから鳴り響く電子音がアドベントカードの名を読み上げた。
ゾルダは射撃攻撃を特化させるシュートベントのカードをマグナバイザーにセットする。
やっと立ち上がったゾルダの元に何処からともなく緑の大砲のようなものが降って来た。

「これで決める!」

両腕でしっかりと大砲を――ギガランチャーを掴み、狙いをつける。
マニュアルを読んでいた時の想像よりも一回り大きいギガランチャーに驚くが、いつまでも驚いている暇はない。
吹っ飛ばされた事により、更に距離が開いた事により間合いは充分。
既に人間でなく、どう考えても危険人物にしか思えないドラゴンオルフェノクに向けて、引き金を引こうとする。
対してドラゴンオルフェノクは構わずに再びゾルダに向かって疾走を開始。

「ふん!」
「いけ!」

ギガランチャーから発射される光弾とドラゴンオルフェノクがぶつかる。
瞬間、大きな爆風が周囲を襲う。

◇  ◆  ◇

「やった……のか……?」

ギガランチャーから両手を離し、ゾルダが呟く。
これで終わった。
変身を行う事による初めての戦闘に対しての疲労がゾルダにどっとよし寄せる。
だが、未だ完全に倒したという確証はない。
ドラゴンオルフェノクの完全な沈黙を確認するためにゾルダはシュートベントの着弾地点に近寄るが――

「なっ――――」
「残念だったね」

爆風から飛び出してきた影から薙ぎ払われた腕により、ゾルダは横へ吹っ飛び、仰向けに転倒する。
いうまでもなく、それはドラゴンオルフェノクによるもの。
あまりにも強靭な両腕でジュートベントを防いでいたドラゴンオルフェノクが更に歩を進める。
歩みが向かう方向は不意を突かれた一撃により、未だ地面に背を向け、苦しそうにもがいているゾルダ。
そのゾルダに充分接近し、ドラゴンオルフェノクは右の足を振り上げ――

「ガハァッ!」
「ははははは、僕の勝ちだ」

力一杯、ゾルダの胸板に向かって振り下ろした。
苦痛に塗れた声を上げるゾルダの身体から、まるで血液のように飛び散る青白い火花が周囲に拡散する。
それはゾルダの装甲に確かなダメージが届いている事を示すサイン。
自分の圧倒的な力、ゾルダの反応を見て、確かな手ごたえを実感するドラゴンオルフェノク。
更に右足で捉えたゾルダの身体にドラゴンオルフェノクは右腕を何度も何度も叩きつける。
ゾルダの漏らす声が小さくなり、そして飛び散る火花の数が増える。
気分を良くしたのか、そのまま右足をゾルダの胸部に押し付け、まるでそれを砕くかのような勢いで右足に力を込め続けた。
更に加速していく青白い火花の頻度、そしてゾルダの抵抗の弱さ。

「ふん!」

やがて、右足をゾルダからどけ、ドラゴンオルフェノクは左足を振り上げ、蹴り上げる。
勿論、ドラゴンオルフェノクの左足によって蹴り上げられたものは仰向けに倒れたゾルダ
の身体。
常人の何倍もある大きさにより繰り出された強力な力が叩き込まれ、ゾルダの身体が宙へ向かい、吹き飛ぶ。
宙を漂う事を余儀なくされたゾルダは苦しそうな嗚咽を漏らし、やがて度重なるダメージにより彼の変身は解除される。
数秒の間を置き、ゾルダから一条薫へ姿を変えた彼が地面にうつ伏せの形に倒れる事になった。
依然、一条は気を失ったらしくピクリとも動かないままだが。

「あれ? もうお終い? じゃあ……とどめを刺そうかな。少しは楽しめたしね」

少し残念そうな様子を浮かべ、一条に向かってドラゴンオルフェノクは歩く。
一条の命を刈り取るために、そしてゾルダのカードデッキを手に入れるために歩を進めるが――

「待て!」

ドラゴンオルフェノクの脚が、乱入者の言葉により立ち止まった。
不思議そうに両目を凝らすドラゴンオルフェノクの視界に二人の男が一条と自分の元へ向かい、走り寄ってくる。
一人は10代後半といった感じで茶髪がかかった髪をした青年。
そして後方から少し遅れてやってきたもう一人の男は眼鏡をかけ、歳は20台後半、いや30前半といった印象を受ける。
二人の男は倒れた一条を庇うように、前に回りこみ、ドラゴンオルフェノクを真っ直ぐ見据える。

「桜井君、行きますよ」
「ええ! わかってます、香川さん!」

二人は首輪探知機により、一条と北崎の存在を知り、状況からして一条を助けるために行動を開始した。
眼鏡を掛けた男――香川英行が懐からゾルダのカードデッキのようなものを取り出す。
対して、青年――桜井侑斗の方はどこからともなくベルト――ゼロノスベルトを取り出し、己の腰に巻きつける。
一条と同じように、割れたガラスの破片に向かい、カードデッキを翳し、少し丸みを帯びたベルト――Vバックルを装着する香川。
ベルトの右腰に当たる部分に収納されたカード――ゼロノスカードを取り出し、バックルを開き、電子音を響かせる侑斗。
カードデッキを宙に放り投げ、それを香川は反対側の腕でしっかりと掴み、備える。
取り出したカード持つ腕の手首を返し、侑斗は真っ直ぐ正面を見つめ、香川と同じように備える。

「「変身!」」

――ALTAIR FORM――

変身の掛け声と共にVバックルに、ゼロノスベルトに、それぞれカードデッキとゼロノスカードを差し込む。
香川の身体に重なる残像、そして侑斗の全身に光が宿る。
やがて、その場に黒色の戦士、そして緑色の戦士が姿を現す。
香川が変身した黒き戦士――オルタナティブ・ゼロ。
侑斗が変身した緑の戦士――仮面ライダーゼロノス・アルタイルフォーム。
二人の戦士が、仮面ライダーとも言うべき存在がドラゴンオルフェノクの眼前に立つ。

「さて、彼を一刻も早く助けるために、出来れば早めに終わらせましょう」

――SWORD VENT――

鳴り響く、女性の声をした電子音声。
右腕に装備されたスラッシュバイザーにソードベントのカードをセットし、オルタナティブ・ゼロの腕に黒色の一本の剣が握られる。
まるでムカデの身体のような外見をしたスラッシュダガーをかざすオルタナティブ・ゼロ

一方ゼロノスは腰に収納された部品を使い、大剣――ゼロガッシャーを組み立て、それを握り締める。
そしてゼロガッシャーを頭上で一回振り回し、地に突き刺す。

「最初に言っておく。俺はかーなーり強い!」

人差し指を突き出し、ドラゴンオルフェノクに威風堂々と宣言するゼロノス。
ドラゴンオルフェノクは自分を指すゼロノスの指を興味深そうに見つめ――

「へぇ……奇遇だね。僕もかなり強いよ……君なんかよりねぇ!」

両腕をかざしながら、オルタナティブとゼロノスに向かって突撃を開始した。
それぞれスラッシュバイザーとゼロガッシャーを構え、二人も走り出す。
間違いなくこの殺し合いに乗ったと思われるドラゴンオルフェノクを倒すために。


「うおりゃああああ!」

ゼロガッシャーを振りかぶり、ドラゴンオルフェノクの上半身に向かい、斬りつけるゼロノス。
力は篭っており、振りかぶる時の遠心力により威力も勢いも充分な斬撃。
ドラゴンオルフェノクの身体を斬り裂かんと向かうゼロガッシャー。
そのゼロガッシャーにぶつかる物体が一つ。

「甘いね」

そう。それはドラゴンオルフェノクの右腕。
ゼロガッシャーが己の身体に到達するまでの間に、ドラゴンオルフェノクは強引に己の腕をねじ込ませる。
派手な火花を散らしながら、ぶつかりあうゼロガッシャーと強靭な右腕。
その衝突によりゼロガッシャーの刃が右腕と接触するが――

「くっ!」

刃が通る事はなかった。
ドラゴンオルフェノクの固い装甲に阻まれ、ゼロノスは反動で後方へよろける。
幾ら制限されているとはいえ、ドラゴンオルフェノクは上の上のオルフェノク。
体勢が崩れ行くゼロノスを真っ直ぐ見つめ、今度は左腕を薙ぎ払おうとする。
自分に向かって暴力的に繰り出されるドラゴンオルフェノクの左腕が奇妙にもスローモーションに迫ってくるようにゼロノスは感じた。

「やらせませんよ……!」

しかし、ゼロノスにドラゴンオルフェノクの左腕は届かない。
ゼロノスとドラゴンオルフェノクの間にオルタナティブが割り込み、スラッシュダガーで左腕の侵攻を止める。
スラッシュダガーと左腕が互いに押し合い、火花を散らしながら行き場のない力が拮抗し合う。
ドラゴンオルフェノクとオルタナティブが互いの鋭い視線を交錯させる。
共に一歩も引かない拮抗による緊張が、見る者にまるで時の流れを遅く感じさせるかのように場を演出し始める。

「これ以上闘うというのなら……手加減は出来ませんよ?」
「何いってるの? こんな面白い事やめるわけないでしょ?」
「そうです……か……!」

ドラゴンオルフェノクの言葉に静かなる怒りを燃やし、オルタナティブはスラッシュダガーを握る腕に更に力を込める。
込める力を上の方向に向け、ドラゴンオルフェノクの左腕を斬り上げる。
堪らず、左腕が宙へ向き、ドラゴンオルフェノクの胴体ががら空きとなった。

(やはり、この参加者は危険ですね……これを見逃すわけにはいきません!)

ここが好機。
そう思い、オルタナティブは更に踏み込み、ドラゴンオルフェノクの懐に飛び込む。
スラッシュダガーを持ち直し、ドラゴンオルフェノクに向かって腕を突き出す。
狙いはドラゴンオルフェノクの空いた胴一点のみ。
スラッシュダガーを槍で標的を突く要領で、あくまでも冷静に前方へ押し出す。

「はは、引っかかったね」

だが、ドラゴンオルフェノクは不適に笑う。
オルタナティブの力によって斬り上げられた左腕。
しかし、事実は違った。
ドラゴンオルフェノクはわざとオルタナティブの力に押し負けたと見せかけていた。
目的はオルタナティブの油断を誘うこと。
その事実にオルタナティブは気づく事が出来たが既にもう遅い。
空いた右腕がオルタナティブの胸を抉るように振り上げられる。

「ガッ!」

オルタナティブは神崎士郎が作ったカードデッキを模して作られた擬似ライダーだが、スペックはそれらに劣らない。
だが、流石に重装甲を長所とするゾルダよりはダメージに弱い。
巨体にそぐわない速さで繰り出されるドラゴンオルフェノクの腕により、オルタナティブの装甲が悲鳴を上げながら、彼は横方向へ吹っ飛ぶ。
そんな時、一息も付かせぬ間にドラゴンオルフェノクに一つの影が殺到する。

「てめぇぇぇ! はぁッ!!」

いうまでもない、ゼロノスだ。
ゼロガッシャーを頭上で回し、確実な敵であるドラゴンオルフェノクに斬りかかるゼロノス。
予想以上に早い、ゼロガッシャーによる袈裟斬りが空を切り裂いて、ドラゴンオルフェノクを襲う。
上半身を屈めながら、ゼロノスの方へ潜り込み、袈裟斬りを辛うじてドラゴンオルフェノクは避わす。
ゼロガッシャーから逃れた自分の反応に確かな満足感を覚え、低くなった体勢を戻すと共にゼロノスに腕を叩きつけるべく、前進する。

「はっ! 引っかかったのはお前だな!!」

だが、ゼロノスにも当然ドラゴンオルフェノクの行動が予想できないわけもない。
袈裟に振り下ろした腕に握られたゼロガッシャーの刃をすぐさま返す。
丁度逆手にゼロガッシャーを握る形となったゼロノスはそのまま逆袈裟に振り上げた。
振り上げられ、天に向かって昇っていくゼロガッシャーは途中でドラゴンオルフェノクの身体を斜め下から斬り上げる。
斬撃を受けた箇所から派手な火花が周囲に撒き起こり、深夜に潜むゼロノスとドラゴンオルフェノクの姿を映し出す。
確かな手ごたえを感じ、更に畳み掛けるためにゼロノスは再びゼロガッシャーを構え直そうとするが――

「なっ!?」
「これくらいじゃあ、僕には勝てないよ」

ゼロノスは驚きの声を上げ、一瞬の内に彼の身体は衝撃により後方へ吹っ飛ぶ。
ゼロノスの胸部に突き刺すように叩き込まれたドラゴンオルフェノクの爪がいやに明るい火花を起こしながら、派手な衝撃音を生み出す。
ゼロガッシャーによる斬激は確かに決まり、ドラゴンオルフェノクの身体にもダメージとして響いた。
だが、それは固い外殻に阻まれ、決して致命傷にもならず、直ぐに反撃を行う事が容易な程であった。
幸いにも最低限の受身を取る事は出来たが、地面に叩きつけられた衝撃はゼロではない。
急いで、ゼロガッシャーを支えとし、起き上がろうとするゼロノス。
そんなゼロノスの元へオルタナティブが走り寄り、手を差し伸べ、彼を助ける。

「大丈夫ですか、桜井君?」
「すいません、香川さん……悔しいですけど、あいつ結構強いです」
「あはははは! 違う違う、『結構』じゃなくて『最強』だよ? 僕はね」

ゼロノスの身体を支えながら、オルタナティブが口を開き、彼がそれに応える。
そして、二人から数メートルの距離にいるドラゴンオルフェノクは頭上に北崎の上半身をまるで幽霊のように浮かべ、満足そうに喋る。
三人に蓄積するダメージは人数の有利さを越え、ドラゴンオルフェノクの方が少ない
一刻も早く、今もなお自分達の後ろで気絶していると思われる一条を助けたいオルタナティブとゼロノス。
しかし、片方が一条をどこか安全な所へ連れて行っても、情けない考えだが残った一人がドラゴンオルフェノクにやられる可能性もある。
だから、オルタナティブとゼロノスの二人はある決定を下す。

「桜井君、わかっていますね?」
「了解です、一気に決めてみせます!」

横目で合図を送るオルタナティブにゼロノスは頷き、応える。
出会って数時間しか経っていない二人だが、強大な敵を前に、自然と同じ考えに至った。
二人はそれぞれスラッシュバイザー、ゼロノスベルトからあるカードを取り出す。
オルタナティブは己の最後の技――ファイナルベントを繰り出す、ファイナルベントのカードを。
ゼロノスもまた同じく己の必殺技を繰り出すために、変身の際にセットしたゼロノスカードを手に取る。
二人が考えた現状の打開策。
それは互いに今現在、持ちうる最高の手で敵を倒す事。
依然、ドラゴンオルフェノクは二人に向けて歩き続けているが、この距離ならカードをセットするのに充分間に合う。
二人はそう確信していたが――

「そろそろ終わらせてもらうよ」

一瞬、二人には何が起こったのか直ぐには理解できなかった。
二人に向かってくるドラゴンオルフェノクの装甲が――瞬く間に拡散した。
何も合図もない、突拍子もない出来事を経て、以前と見違える程細身の身体をしたドラゴンオルフェノクが現れる。
そう。それこそがドラゴンオルフェノクのもう一つの姿。
今までの『魔人態』に比べ、圧倒的に俊敏性が上昇する『竜人態』に姿を変えたドラゴンオルフェノク。
二人がドラゴンオルフェノクの変貌に驚いている間に、彼は二人の元へ殺到し――

「うわぁ!」
「ぐっ!」

一瞬の内に圧倒的な速度により、二人に連激を与える。
ジャブ、フック、ローキック、ハイキックなど多種多様な打撃を受ける結果となった二人
やがて、最後の駄目押しと言わんばかりにゼロノス、オルタナティブの順に拳を叩き込む。
その強烈な衝撃を受け、二人はまたも後方へ吹っ飛び、したたかに身体を大地に打ち付ける。
全身に響く痛みに、嗚咽を漏らしながら共に変身は解け、二人はそれぞれ桜井侑斗、香川英行の姿と変わり始めた。
残るのは竜人態になったドラゴンオルフェノク只一人。

◇  ◆  ◇

「ちっくしょう……」
「やっぱり僕の方が強いね。まぁ判りきってけどさ」

痛みにより未だ起き上がることは出来ない、侑斗が忌々しく言葉を吐き出す。
対して、ドラゴンオルフェノクは余裕気に応える。
やがて、ドラゴンオルフェノクは侑斗から興味を外し、香川の後方に転がるカードデッキ、
そして侑斗の腰に撒かれたゼロノスベルトに移す。
自分に対し、強いと粋がった侑斗に一瞬気は向いたが、やはりドラゴンオルフェノクは人を変身させる道具に目がいった。
侑斗の手から落とされたゼロノスカードが砂となって消え行く事に少し疑問を生じたが、気にしない。
さっさとそれらを回収し、彼らに止めを刺そうと歩を進めるが、そんな時彼にある言葉が降りかかる。

「貴方は自分の力を証明したいのですか? 一体何のために……?」

侑斗と同じように地に伏せている香川の言葉がドラゴンオルフェノクに向けられる。
香川の質問にドラゴンオルフェノクは面倒そうな表情を浮かべる。
だが、何かを思ったらしく、ドラゴンオルフェノクは香川の質問に答える事にした。

「そうだよ。だって楽しいじゃん。
最強の僕が君達みたいな弱いヤツを殺す……本当に最高さ。
誰かが僕の力で苦しんで、悶えて、死んでいく……僕はそんな光景を何度も見て、そしてこれからも見たいんだ。
ずっとね」

ドラゴンオルフェノクの脳裏に思い浮かぶ光景。
それはいつの事か忘れたが、流星塾の同窓会で自分が行った楽しい祭り。
自分が属するスマートブレインの反乱分子となりうる流星塾卒業生を皆殺しにしろという頼みを受け、彼は意気揚々とその仕事を行った。
自分をまるでこの世の悪魔といわんばかりに逃げ行く人間を次々と己の腕で、爪で、脚で、殺していく快感。
あの時感じた喜びは自分が確かにこの世に生きているという実感を与えてくれた。
あの至高ともいえる喜びはたとえ何をやろうともずっと自分が独占したい。
ドラゴンオルフェノクは、そんなあまりにも身勝手な言い分を含んだ答えを香川に返す。

「なら、やはり私が貴方を……くっ!」
「無理しない方がいいと思うけどなぁ?」

ドラゴンオルフェノクの言葉に香川は怒りを隠せない。
香川とて目的――ミラーワールドの閉鎖のために他人の命を犠牲にする覚悟は持っている。
だが、無駄な殺生を行うつもりなどない。
あくまでも、多くの人々を救うために、やむなく一つの命――神崎優衣の命を犠牲にする覚悟があるだけだ。
そのために香川はドラゴンオルフェノクの言葉にどうしても許す事は出来なかった。
身体に力を込め、立ち上がり、再び闘いに飛び込もうとするが蓄積されたダメージにより身体の自由が利かない。
そんな香川を見下ろしながら、先ずは取り易そうなカードデッキを取りに行こうとドラゴンオルフェノクが歩を進めるが。
やがて、その脚は立ち止った。

「へぇ……結構しぶといんだね」

少し、意外そうにドラゴンオルフェノクが口を開く。
ドラゴンオルフェノクの視界に移りし人影が彼に僅かな驚きを与える。
その人影はドラゴンオルフェノクに見覚えがある人物。

「もう、用はないからそのまま寝ててもよかったんだけどなぁ……おじさん?」

そう。先程、ゾルダに変身し、ドラゴンオルフェノクと闘った男。
一条薫がよろめきながら、ドラゴンオルフェノクを真っ直ぐ見据えていた。

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