クライマックスは終わらない(前編)

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クライマックスは終わらない(前編)


「あーーー! イライラする!!」

うっそうと緑の草木が生え茂った大地。
太陽は完全に昇りきってはおらず、周囲には薄暗さが残っている。
そんな場所に――エリアD-8に一人、大声を上げる者が居た。
身体の色は鮮やかな真紅と焦げ茶色、そして黒色で彩られ、顔は鬼そのものであり、
どうみても人間ではない。
右腕に一振りの剣――ディスカリバーを握り締め、不機嫌に地団駄を踏む者。
その者はモモタロスという名を持つ者だった。

「くっそー……なんでこの俺がこんな目に…」

モモタロス――歴史の改変を行い、自分達にとって思い通りの世界を創る事を目的とした、イマジンの一人。
だが、モモタロスはそんなコトよりもやりたいコトがあり、歴史改変などには興味はない。
モモタロスが望むもの。
それは簡単に言ってしまえば只、単に『カッコよく闘う事』。
闘う相手はなんでもいい。
自分がカッコよく立ち振る舞い、そしてカッコよく勝てばいい。
なんだか少し馬鹿馬鹿しい理由だが、それでもモモタロスはその理由に満足していた。
そのため、闘う事を好むモモタロスには相手を殺すような事に対し、特に興味はない。
加えて、モモタロスは誰かに命令される事も嫌いであり、この殺し合いには参加する気はなかった。
さっさと知り合い達と合流して、どうにかここから抜け出そう――そう考え行動していた筈だった。

「確かにあいつらを追っかけたハズだったんだけどなー。
いや、待てよ、俺の脚が速すぎてあいつらを通り越したとか……。
へへへ、参っちゃうなぁ、わはははは……はは…………」

次第にモモタロスがあげる笑い声が小さくなり、物寂しさを醸し出す。
モモタロスは先程、二人の参加者――モモタロスが知る由もないが山本大介と歌舞鬼と接触し、彼らに助けられた。
腐葉土に上半身を突っ込み、身体が抜けなくなった自分を助け、水までもくれた二人。
今すぐにでも仲間になろうという気持ちはないが、なんだがこのままではいい気分がしない。
一応、お礼の言葉ぐらいは言っておこうかと思い、モモタロスは走っていた。
勿論、目的は自分よりも先にどこかへいってしまった二人だ。

「はぁー……違うよなぁ……、これって迷子ってヤツなんだろうなぁ……。
情けねぇ……」

モモタロスはその場に座り込み、がっくりと肩を落とし、項垂れる。
そう。現在、モモタロスは自分でいったように二人を見失い、迷子になっていた。
この殺し合いに参加した当初から、突然の状況の変化により混乱していたモモタロス。
そのため、未だ地図を見ていなかった事と迷いやすい森林地帯という要因が重なり、このような結果に陥っていた。
きっとこんな姿を青と黄色と紫の仲間達に見られたら馬鹿にされる事、間違いないだろう。
右腕に持っていたディスカリバーを唐突に投げ捨てるモモタロス。

「あーーー! ほんとーにッ情けねぇぜ!!」

そして憂さ晴らしといわんばかりに、モモタロスはその辺に生えている草を両手で鷲掴みにする。
草木が可哀想?
そんな事を思う間もなく、モモタロスは力に任せ、草木を引き千切り、後ろへポイっと投げまくる。
それも一回だけではなく、何度も、何度も草木を引っこ抜き、緑の吹雪がモモタロスの周囲に咲き乱れる結果となった。

「ふぅ……まぁ、このくらいで許してやるか! なんせ、俺は温厚だからな!」

多分、自分でも何を言っているのかよくわかっていないのだろう。
兎に角、モモタロスは自分の失態に対する憤りをどうにか発散したく、その哀れな犠牲者が草木となったわけだ。
散々、草木を引き千切ったお陰で少しずつ気が落ち着いてきたモモタロス。
動かしまくっていた腕の動きを止め、普段特に使わない頭を使い、モモタロスは珍しく思考を走らせる。

「それよりも、俺は何処に居るんだ?
たしかあのおっさんはなんて言ってたっけなぁ。
すまーと……すまーとなんとかって……あーーー! もう面倒くせぇ!!」

勿論、自分が先程の二人からどれだけ離れているのかも気になる。
だが、それよりも大体自分が何故こんなところに居るのかがわからない。
確かデンライナーで特性のコーヒーを飲んでいた筈。
だが、事実は違い、自分はどうやらスマートなんとかやらのせいでこんな辺鄙な場所につれて来られている。
ならば、モモタロスはどうするのか?
その答えは至極単純明快。
あまり頭に付加が掛からない、モモタロスにとってとてもわかりやすい事を行うまでだ。

「面倒だから俺がお前らをぶっ倒してやるぜ! 全世界で一番カッコいい、このモモタロス様がなッ!!」

そう。それはモモタロスがいうすまーとなんとか――スマートブレインに対し闘う事。
理由もこれまた単純でスマートブレインが気に入らないから。
取り敢えず今後の行動を決め、モモタロスは腰を上げて立ち上がろうとする。
先ずは兎に角、先程の二人を見つけよう。
そう考え、モモタロスは腰を上げたのだが――

「ん?」

そんな時だ。
モモタロスは自分の方を見つめる一人の男と視線が合った。
まるで死人のような、生気を感じさせない眼つきで此方を眺める男と。


◇  ◆  ◇


モモタロスを見つめる男――風見志郎は今まで、適当な場所で休憩し、身体を休ませていた。
理由は先程、葦原涼と闘い、疲労と負傷を負ったため。
先程この殺し合いで勝ち残る決心をした風見。
ならば、今後葦原のような強敵と出会う時には、身体の調子は万全に整えていなくてはならない。
そのため、風見は休憩を取り終え、他の参加者を見つけるためにジャングラーで出発。
幸い時間制限もないため、休憩は取れる内に取っておく事に越した事はないからだ。
そして、風見は見つけた。
赤い、真紅の鬼のような奇妙な者。
いうなればショッカーの怪人のような者――モモタロスを見つけ、じっと眺めていた。

「あぁ? なんだ、お前? ジロジロ見るんじゃねぇ! 見世物じゃねぇぞ!!」

モモタロスが風見の不可解な視線を不快に思い、怒声を上げながら彼を睨む。
だが、依然風見は何も言う様子は見せない。
そう。もう、風見には言葉なんて必要ないから。

(ちはる……待っていてくれ。お兄ちゃんが今すぐ……!)

愛する妹、ちはるを胸の中で思い出ながら、ベルトの風車を回し、風見の身体に強化スーツが装着される。
そして驚いた様子を浮かべるモモタロスを尻目に、風見はあるものを取り出す。
それは自分に力を与えてくれるもの、自分の証というべき強化マスク。
その強化マスクを被り、風見は再びモモタロスに顔を向け――一瞬の内に跳躍した。

ショッカーに造られし改造人間、ホッパーVersion3。
通称、V3となった風見がモモタロスに迫る。
殺し合いに勝ち残り、優勝する。
強固な意志を力に代え、大きく振り上げた拳にその力を込めながら。


◇  ◆  ◇


「て! てめぇ!このモモタロス様を襲うとは上等じゃねぇか! そっちがその気なら相手になってやるぜ!!」

モモタロスがV3に向かって怒声を浴びせる。
対するV3は地面に拳を打ちつけたまま、ゆっくりモモタロスの方へ顔を向ける。
V3が不意打ちの要領で仕掛けた強烈なパンチを、横へ飛びのく事で避わしたモモタロス。
出会い頭の一撃を外したV3は後方の森林地帯の方へ飛び込み、距離を取る。
終始無言を貫抜いていたV3に対し、モモタロスは僅かながらにも警戒していたため、素早い反応が行えた。
更に、モモタロスが飛びのいた先には先程、彼が投げ捨てたディスカリバーが転がっていた。
起き上がる途中でモモタロスは急いでディスカリバーを手に取り、今はもう彼の右腕にはそれがしっかりと握られている。
戦闘の準備が整ったモモタロス、そしてV3は、今度は身体ごと向きを変え、彼の突き刺さるような睨みを悠然と受け止める。

「てめぇ、なんで俺を狙うか理由ぐらい言いやがれ!!」
「……お前が知っても意味がない。そう、これから私に殺されるお前には……!」

モモタロスがV3にぶつける感情は純粋な“怒り”。
だが、V3がモモタロスにぶつける感情はない。
そこにあるものは只一つ、この殺し合いに勝ち残る事への“執着”。
V3にとってモモタロスは優勝への通過点としての認識しかない。
だから、V3は腰を落とし、油断なく拳を構える。
モモタロスという踏み台を踏み越え、優勝し、ちはるに幸せな人生を歩んでもらうためにも。
V3は躊躇なくモモタロスを殺す事が出来る。

「これは俺の気に食わねぇヤツの台詞だけどよ。
最初に言っておくぜ! 俺はかーなーり強い!
只でやられると思ってんじゃねぇぞ! この馬鹿野郎がッ!!」
「ならば、私がお前の強さを越えればいい……それだけだ」

だが、モモタロスにはV3に黙ってやられるつもりなど全くない。
V3がどうにも不気味で、気に食わない奴だからという事も当然ある。
しかし、それよりもモモタロスは自分が負ける事などどうしても我慢できない。
右腕に適度な力を込め、ディスカリバーの刀身を上に向ける。
野上良太朗に憑き、電王として他のイマジン達と闘っていた時と同じように。
ディスカリバーを使い慣れたデンガッシャーに見立て、腰を落とし、V3の動きに備える。
モモタロスと、V3の視線が宙で衝突し、二人はジリジリと周囲を回りながら、距離を詰める。
そして、ほんの少しの時間、数秒が経った時。
一つの赤い影、そしてもう片方の一つの黒い影が互いに引き寄せあうように――

「へっ! そこまで言うなら、やれるもんならやってみやがれッ!! 」
「……いくぞ」

一気に距離を詰め始めた。
それは二人の闘いが始まった証とも言えるもの。
瞬間、大気に少し揺れが生じた事に気づく者はいない。


◇  ◆  ◇


「おら!おら!おらあああッ!!」

大声を上げ、V3に突進するモモタロス。
勿論、只、考えもなしに突撃をかましているわけではない。
右腕に握られた仮初の武器、ディスカリバーの刀身を空に向け、振り上げる。
モモタロスの視界に映るのは彼に向けて左の拳を叩き込もうと、彼と同じように突っ込んでくるV3の姿。
だが、所詮剣と左腕による打撃ではリーチが違う。
V3の左腕が伸びきる前に、モモタロスが振り上げたディスカリバーを思いっきり振り下ろす。
モモタロスには相手の出方を見るという、面倒な事はしない。
只、いつだって全力で相手を叩き潰すのみ。
大気を引き裂く音を唸らせながら、ディスカリバーがV3の胸部へ振り下ろされる。

「……ふん」

だが、V3の身体には届かない。
ディスカリバーが振り下ろされるのを目視したV3は瞬時に、強引に走りを止める。
V3とてモモタロスの方が剣を持っているため、向うの方の間合いが、自分のそれよりも長い事は承知している。
よって、V3はモモタロスの隙を誘うために、わざと全力でモモタロスに向かう真似をしていた。
ぎりぎりのタイミングでV3は両脚に更なる負荷を掛け、自分に向かって振り下ろされたディスカリバーの斬撃を避わす。
あと少しのところで獲物に届かなかったディスカリバーの刀身が地に吸い込まれるように落ちる。
更に、モモタロスには武器はたった今、振り切ったディスカリバーしかなく、今の状況では直ぐに攻撃に移る事は難しい。

(この隙は……逃さん!)

そして、V3がそんな隙を見逃すわけもなく、減速された勢いを再び加速させる。
そのままの勢いで軽く前方へ飛び、がら空きのモモタロスに拳を叩き込もうとV3が両脚、左腕に力を込め始めるが――

「馬鹿野郎! そんな簡単に避けられてたまるかッ!!」
「チッ……」

V3の身体はモモタロスの方へ飛び込むことなく、再びブレーキが掛かる。
何故なら、V3の目の前で再び彼を切り裂かんと一振りの斬撃が起こったから。
但し、今度は上方からではなく下方からV3の身体を引き裂くように。
モモタロスはどんな時でも一本の剣を武器にして幾度の敵と闘ってきた。
別に誰か、剣の師匠にそれの教えを貰った事は一度もないが、度重なる実戦により、扱いには手馴れている。
V3に初撃を避けられた事により、瞬時にモモタロスはディスカリバーの切っ先を返し、上へ振り上げていた。
V3はモモタロスの予想しなかった第二撃をなんとか避ける。
だが、先程よりも更に急激な負荷を掛けたため、直ぐに次の行動に移れず、V3は一瞬の硬直を起こす。
その瞬間、前方へ視線を投げ掛けたV3とモモタロスのそれが一本の線を描く。

「行くぜ! 行くぜ! 行くぜぇぇぇぇぇッ!」

振り上げたディスカリバーの刀身をモモタロスは再び返し、今度は横から抉るようにそれを振り回す。
一瞬の内に半月の軌跡を滑るように描き、ディスカリバーの刃がV3に迫る。
未だ、完全に体勢を整えきっていないV3 は後へ脚を引き、軽く距離を取った。
しかし、モモタロスの攻撃は、苛立った気分は未だ収まらない。
後へ逃げるV3を追うようにモモタロスは前進し、今度はディスカリバーを突きつける。
一度だけではなく、何度も何度もV3の身体を貫くためにディスカリバーの切っ先が唸りを上げ、迫る。
だが、V3も負けてはいない。
後ずさりをしながら、身体を器用に捻り、V3は何度も繰り出されるモモタロスの突きを捌く。
一向に双方に碌なダメージがいかない均衡状態。
しかし、それがいつまでも続くとは限らない。

「へっ! チョロチョロ動きやがって! けどなぁ! 俺の力はこんなもんじゃねぇぞ!!」
「それはこっちの台詞だ」

モモタロスはほんの僅かな疲労を浮かべるが、それも一瞬の事。
今まで突きを行っていた動作を唐突に止め、再び横方向へディスカリバーを振り回す。
その斬撃に対し、V3は少し膝を落とし――一気にモモタロスの方へ踏み込む。
滑るように走る斬撃がV3の左肩を掠り、彼に痛みを感じさせ、彼の顔が苦痛に歪む。
瞬く間に、火花を散らしながらV3の左肩で生まれた一閃の傷跡。
だが、V3の勢いは止まらない、勢いは緩まない。
踏み込んだ脚で大地を蹴り上げ、反対の脚でモモタロスの腹部へ蹴りを叩き込もうとする。
そのV3の動作になんとか反応し、モモタロスは咄嗟に後へ身体を引くが、結局間に合わない。

「ぐっ! てめぇッ!」

V3の蹴りがモモタロスの腹部に刺さり、衝撃によりモモタロスは前かがみになりながら後ろへよろめく。
だが、所詮、当たりは浅く、モモタロスが地面に倒れる事はない。
悔しさと怒りを滲ませた言葉を呟き、モモタロスは少し下げ気味になった顔を上げようとする。
その瞬間、モモタロスの左頬に『あるもの』が弾丸のように殴りつけるように飛び込む。

「ガッ!!」

鈍い金の一閃が走ったというべきだろうか。
モモタロスの顔面にV3の右拳が叩き込まれる。
やがて、秒も経たず迫り来る衝撃、そして何かが砕けるような耳障りな音をV3は聞き、確信する。
やっと突破口を開けた、と冷静に状況を分析するV3。
更にV3は素早く右腕を引き抜き、今度は左腕でモモタロスの鳩尾に拳を突き上げる様に叩き込ませる。
再び起きるモモタロスの嗚咽、そして何かが――肉が千切れるような音が周囲に響く。
立て続けに貰った打撃に堪らず、モモタロスは数歩後へよろめく。
同時にV3も一気に踏み出す。

「これでお終いだ……!」

無駄のない動作でV3が振り上げたものは強化グローブを纏った右腕。
今度の狙いはモモタロスの下顎の一点。
ボクシング選手が行うアッパーの要領で、V3はよろめくモモタロスを狙うが――

「何!?」
「……調子に乗るんじゃねぇ! おらあッ!!」

だが、V3の右拳がモモタロスを捉えるよりも先にモモタロスが顔を上げ、ありったけの声で叫ぶ。
予想以上のモモタロスのタフネスに僅かながら驚き、V3の右拳の勢いがほんの少し緩む。
その緩みにより起きる隙は所詮、一瞬。
だが、モモタロスに必要なものも同じように一瞬の時間。
そう。再び右腕に力を込め、ディスカリバーを横殴りに振るうために必要なものはそれだけでいい。
V3の頭上からディスカリバーが鋭い輝きを放ちながら迫る。
直ぐさま、攻撃を中断し、モモタロスの上を飛び越える事でディスカリバーから避けようとするV3。
一瞬で腰を落とし、大地を蹴り、V3は跳躍する――だが、只で終わる事はなかった。

「ざんねんでした~! バレバレだぜ!」

モモタロスは決して頭は良くない。
だが、戦闘時に関しては持ち前のセンスも相まって頭脳の回転も速くなる。
振り下ろしたと思わせて、モモタロスは自分を飛び越えようとするV3の身体にディスカリバーを思いっきり斬りつけた。
初めてV3の身体に斬り込まれたディスカリバーが派手な火花を散らす。
空中で衝撃を伴い、体勢が崩される事を余儀なくされたV3だが、なんとかモモタロスを飛び越える事には成功する。
だが、ディスカリバーによって与えられた傷が災いし、V3は倒れこむように草木が生え茂った地面に膝を落とす。
モモタロス、そしてV3が共に受けたダメージは決して致命傷ではないが、かといって無視できるものではない。
しかし、そのダメージを気にする様子は二人にはなく、V3が振り向く事で再びモモタロスと彼が視線をぶつけ、見えない火花を散らす。

「てめぇ……未だやるか? あ! 勘違いすんじゃねぇぞ! 別に俺はお前なんかに負けるつもりはねぇ!」

そんな時、ふとモモタロスが視線はV3にぶつけながら口を開く。
V3も何故か、動こうとはせずにモモタロスの言葉に耳を傾けているように見える。
但し、依然構えは取ったままだが。
だが、そんなV3を尻目にモモタロスは言葉を続ける。

「それよりも、てめぇはムカつかねぇのか!? 俺達に闘えって言ってた、あのおっさんがよ。
そりゃあ、俺だって闘うコトは大好きだ!
けどなぁ! あの怪しいおっさんに指図されるのは気にいらねぇ!!」

モモタロスは己が持つ闘いへの価値観を語気を強めながら、言ってのける。
しかし、V3はまたしても何も答えない。
V3にとってモモタロスの話は何も興味がないのだろうか。
それすらもわからない。
強化マスクに隠された風見の表情が語るものは誰にも理解する事が出来ないから。

「だからよぉ! てめぇ、俺に負けたら俺の子分になれ!
俺はさっさと此処から抜け出すために、あのおっさん共をブッ倒す!
てめぇはその時、俺の命令を聞いてもらうぜ! あんま言いたくねぇがてめぇは、まぁ俺程じゃねぇが結構強ぇし、役に立ちそうだしな!
いいか!? もうぜってぇーに言わねぇからな! わかったな!?」

左の人差し指をV3に突きつけ、モモタロスは言い終える。
モモタロスの目的はこの孤島からの脱出。
その内待っていればもしかすればデンライナーが迎えに来るかもしれないが、モモタロスの性格上、待っているだけはどうにも気に食わない。
また、村上峡児を力ずくで屈服させ、自分をここからデンライナーに送り返してもらう事をモモタロスは決めていた。
よってそれを行うには自分以外にも人手が要る。
そのため、何度か拳と剣を交え、自分と同じくらいの実力があるとわかったV3はうってつけの人材。
モモタロスは『提案』とは言い難い、『要求』のようなものをV3に叩きつける。

「下らないな」

だが、V3は短くそう言い捨て、じりじりと歩を進め――跳躍する。
バッタの能力を付加された事で手に入れた強靭な跳躍力。
その跳躍力を使い、V3はある方向へ飛び込む。

「て! てめぇ! 折角の俺の好意を無駄にする気か!?」

言うまでもなく、V3はモモタロスとの距離を一瞬で詰めた。
対して、モモタロスは怒りながらも彼の侵攻を食い止めようとディスカリバーを振るう。
横方向から斬りつけるディスカリバーがV3の下腹部へ迫る――

「此処には一度死んだ者。蘇った参加者が居る」

だが、V3は大地に伸ばした両脚に力を込め、軽く地を蹴り飛ばす。
数十cm程、ふわりと宙に浮いたV3の身体。
ディスカリバーの斬撃をV3は身体を捻りながら紙一重で――僅かに腹部を掠りながらも避わす。
そして、V3は更に身体を捻り続ける。

「あの男達には死者をも復活出来る力がある。ならば……」

遂にこまのように一回転しきったV3。
だが、V3は只、ディスカリバーの斬撃を避けるためだけに回転させたわけではない。
自分の方を驚きの表情で食い入るように見つめるモモタロスにぶち込むために。
そう。先程回した身体と同時に回転させていたもの――強靭な左脚を。

「私がやるコトは決まっている」

充分な回転が掛かかった左脚をV3は揮う。
モモタロスから向かって左方向から、V3の左足による回し蹴りが叩き込まれる。
V3の左脚が抉るように直撃した箇所。
それはモモタロスの左脇腹。
そのダメージは今までV3との闘いで貰った中では一番深刻なもの。
衝撃に耐える事は出来ず、モモタロスの身体は彼の意図する事なく、横へ吹っ飛ぶ。

「優勝し、願いを聞き入れて貰う……それしかない」

モモタロスの身体がごろごろと転がり、一本の木にぶつかりやがて止まる。
地に着地したV3はそれを只、眺めていた。
己の決意を、モモタロスとの完全な交渉決別の意を再び示しながら。


「くっ……上等だ、こうなったら俺も本気を出してやるぜ……!」

ディスカリバーを支えにし、モモタロスは立ち上がる。
浮かべる表情は苦痛、そして吐き出す言葉はやせ我慢に塗れたもの。
少し足腰がおぼつかないものの、それでもモモタロスは決して再び倒れようとはしない。
何故なら、モモタロスに負ける事は許されないから。
そう。そんな事認めたくもないからだ。
いつだってカッコよく闘い、勝利を収める者は自分只一人。
その強き意志を胸に燃やし続け、モモタロスは顔を上げ、V3を睨みつけようとする。

「……ん?」

だが、前方にV3の影も形もない。
一体何処に行ったのか?
もしや、未だやられない自分を見て、逃亡を試みたのだろうか?
甘い考えを抱いてみるが、モモタロスは直ぐにその考えを否定する。
理由はわからないが、あれほどまでにもこの殺し合いの優勝に執着していた男だ。
そのような男がこんなところで逃げるわけがない。

――オ

そんな時だ。
モモタロスは何かが唸るよう音を――いや、声のようなものを聞く。
聞こえてくる方は少し上の方から。
モモタロスは立ち上がったばかりで少し下へ落ちていた視線を上に向けた
其処には――

「オオオオオッ!!」

雄叫びを上げながら、自分へ右足を向け、飛び込んでくるV3の姿があった。
回避する間もなく、咄嗟に両腕で防ぐ事も叶わずに、ほんの少し身体を引く事しか出来ない。
瞬く間にモモタロスの胸部に向けて蹴りこまれるV3の右脚。
恐らく、この場に今は亡き立花籐兵衛が居れば、V3の蹴りをこう称しただろう、
『V3キック』と。
モモタロスが起き上がる前に既に、充分な助走は終わっており、繰り出されたV3キック。
そんなV3キックを受け、ディスカリバーを手放し、モモタロスの身体がいとも簡単に、まるで弾丸の如く吹っ飛ぶ。
元々、森林地帯の出口付近であったため、モモタロスの身体はその地帯から弾き飛ばされ、乾いた大地に身体を打ちつける。
悠然と弱った獲物を追うように、モモタロスの方へ脚を踏み入れ始めるV3。
一方、モモタロスは気を失ったらしくうつ伏せに倒れ、未だ立ち上がろうとはしない。
モモタロスとV3による闘いの決着の時は近い。


◇  ◆  ◇

031:激闘の幕開け 投下順 032:クライマックスは終わらない(後編)
031:激闘の幕開け 時系列順 032:クライマックスは終わらない(後編)
019:想いを鉄の意志に変えて 風見志郎 032:クライマックスは終わらない(後編)
024:桃の木坂分岐点 モモタロス 032:クライマックスは終わらない(後編)

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