SS美人版 其の四


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 驚愕……しなかったといえば嘘になるだろう。
 本人が真面目に話しているだけに俺の混乱は大きくなるばかりだ。
 背後霊? いやいや、人ですらないのか?
 どちらかというと俺はそういうオカルト的なものは嫌いではない。だが果たして、大手を振って幽霊を探しましょう、と行くかと思うとそうはいかない。
 もちろんヘナの方もその辺りは分かっていたはずだ。だからこそああいう曖昧な言い方をしたのだろう。
 何か言ってやる……そう思ったが目の前のみっちょん先輩が制止するような目をしていたのでそのまま硬直することにする。

「……手伝ってくれる?」
「背後霊……でスか。そういうモノは専門外ですから力になれルかどうかわかりませんが……」
「…………」
「とりあえず身体的特徴とカ、簡単でいいので教えていたダケマすか」
「身体的……特徴…………?」
「ンンー簡単な印象などでいいんデす。例えば眉毛が太いトか細いトか……」

 俺の心中の葛藤やその他もろもろとても口に出しては言えないような恥ずかしいモノローグを完全に無視して二人の会話は進行していく。
 思った以上に柔軟な対応をしてくれているジャックはさすがとしか言いようが無い。
 他の大人なら……出来の悪い冗談だ、と軽くあしらって終わるだろうか。

「ンー……そういう人物はあマり村内では見ませんねェ」
「……いとうは、私にしか見えないの」
「それは困りまシタねェ……さて、どうやって探しましょうか」

 無言で俺も考えてみることにする。
 ……こういうのはやはり「最後に会った場所」に行くことが定番だったりするのだろうか。

「一番最後に連絡を取ったのはいつですか?」
「……昨日の夜」
「昨夜から姿が見えないんですね? ……背後霊、ということは常に一緒だったトいうことですか?」
「うん」
「それが急にいなくなった、と……最後に会ったのはどこですか?」
「…………」
「ああ、言いたくないなら結構デス」
「……ごめん」

 人捜しをする場合の、テンプレートのようなものは存在するのだろうがこういう場面になるとそうはいかない。
 物分りがいいというかなんと言うか。とりあえずジャックはヘナから出来る限りの情報を集めようとしてくれているようだ。
 …………どうして俺まで少し嬉しくなっているんだろう。
 珍しく静かな先輩は本当に真剣にジャックの方をみつめている。
 なんだか失礼だが、まさかこの人がここまで空気にあわせて自分切り替えられる人だとは思わなかった。
 俺が見ていない時のみっちょん先輩は、どんな人なんだろう。

「もうすぐパトロールの時間デスので、その時ついでに尋ねて周りますよ」
「……」

 ヘナ、そこは礼を言っておくところだぞ。

「あの……あ、あ……」
「?」

 気恥ずかしさや焦りからか、彼女の額に脂汗が浮かんでいる。
 そういえば、ヘナがまともに感謝の意を表したところを見たことがあっただろうか。
 ……。

「あり……」

 そうだ、頑張れヘナ。
 お前は今、成長しようとしているんだ。……同い年の俺が言うのもなんだがな。
 しかし何故礼を言うのにこうも抵抗があるのだろうか。
 ありがとう、というだけだろうに。

「あり…………あり……」
「アリアリアリアリ、アリーデヴェルチ!」
「言うと思ったぞエセ外国人が! しねぇぇえええ」
「そこ、空気を読め! 必殺みっちょんトンファービーーーーム!!!」

 どこからかとりだしたトンファーを手に持ちながら目からレーザービームを出すみっちょん先輩と一緒に急に元気を取り戻したアブドゥルさんに飛び蹴りを仕掛ける。
 右足が標的の胸にもぐりくんだとき、視界の隅で顔を赤らめているヘナとその頭をわしわしと撫でるジャックが見えた気がするが、それも約1名のやられ役の断末魔によって台無しだった。
 もしかしたらこれはヘナからアブドゥルさんへのネタフリだったのかもしれないし、本当に今割りと本気で苦しそうに胸を押さえてる奴が空気を読まなかっただけかもしれない。
 トンファーを振り回しながら「みっちょんトンファーキーック!」と叫びながらストンピングしている先輩もどこか嬉しそうだ。
 とりあえず、俺はそろそろ次に何をするか考えるか。

 あれ?

「先輩、今目からビーム出しましたよね」
「おりゃっ! おりゃ! お……へ?」
「というかそのトンファーどこから取り出したんですか」
「これは、あれだよ、うん」

 なぜ歯切れが悪くなるんですか先輩。

「山下」
「ん?」
「決めた」
「何を」
「行こう」
「……どこへ」
「…………最後に、私といとうが会った場所」

 彼女と目を合わせたままだから直接は見ていないが、おそらく先輩もアブドゥルさんも真剣なまなざしをヘナに向けていることだろう。
 自分自身を外から眺めることは出来ないのでわからないが、恐らく俺も同じような表情をしていると思う。
 こいつがどんな隠し事をしているのかは知らないし、それを知られることが本人にとってどれほど辛いのか分からない。
 もしかしたらどうでもいいことかもしれないし、予想以上に大変な問題なのかもしれない。
 何故か急に気恥ずかしくなりヘナから目を逸らす。 
 ジャックが煙草を吸おうとしていた。この会話に表情を大きく崩すことなく。しかしどこか寂しそうに。
 100円ライターが灯した小さな火は彼が咥える煙草の先端を加熱し、燃焼させた。
 微かに煙の臭いがした。