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とりあえず、さわりだけ出来たので投下してみる 「邪魔だからどけよ。通れないだろ」  ――良い加減、この馬鹿と付き合うのも疲れてきたな。  自分より一回りは大きい男たちに、真っ向から啖呵を切るその阿呆を横目にしつつ、俺は吐き出した煙草の煙に憂鬱を乗せずにはいられなかった。  俺の隣で、不敵な笑みを浮かべているその黒ずくめの名は、リロイ=シュヴァルツァー。最近、傭兵ギルドで何かと話題に上がるC級傭兵で、俺の相棒だ。  どちらかと言えば、腐れ縁と言った方が正しい気もするが、今はそんなことはどうでも良い。問題なのは、俺達に絡んでいる男たちだ。 「たかだかC級の分際で、あんまり調子に乗るなよ!」  品の無さを隠そうともせずに、目の前の巨漢は、その汚らしい歯を剥いた。自分よりもはるかに目線の低いリロイを見下ろし、馬鹿にしたように言葉を続ける。 「ガキがまぐれで昇級を続けているからって、実力だと勘違いしてるんじゃないのか?」  言って、一斉に笑い出す男たちは、完全にリロイを子供だと侮っているようだ。  そして、その横にいるこの俺様も。  要するに、この男たちは俺達が子供ながらに、昇級を繰り返しているのが気に食わないのだ。下らない。こういう類の馬鹿は、この男たち以外にも結構いる。その度にリロイは、無視して行けば良いものの、わざわざ反応してはもめ事を起こす。  戦闘マニアってのは、こういう奴のことをいうのだ。 「まぐれかどうか、試してみるか?」  その戦闘マニアは、不敵な表情を変えることなく、巨漢に向かって手招きする。解りやすい挑発。そして、その挑発に巨漢が乗った。  馬鹿な奴だ。 「ガキが!」  個性のない罵声と共に、リロイの顔面大程の拳を繰り出す。空気が唸る、とまではいかないものの、それなりの速さと威力を持った拳打。だが、それでリロイを打倒せるかどうかというのは、全く別の問題だ。  瞬間、男の顔が驚愕に歪んだ。男の拳は、リロイの顔面の寸前で、その動きを止められていた。それをなしたのは、男よりも一回りも二回りも小さい、リロイの腕一本だ。 「何だ、やっぱり大したことないな」  そう口にしてにやりと笑うと、リロイは男の胸板を蹴り飛ばした。軽く押した程度の蹴りにしか見えなかったが、男の巨体は、盛大に後方へと弾き飛ばされる。  相変わらず、人間離れした馬鹿力だ。たまに、本当にこいつは人間じゃないんじゃないかと疑ってしまうくらいだ。 「お、俺達はB級だぞ! お前らみたいなガキが、本当に敵うと思ってるのか!」 「とりあえず、尻もち付きながら言う台詞じゃないな」  石造りの路地に尻もちを付きながら、まるで説得力の無いことをほざく男に、リロイの嘲弄が飛ぶ。 「大体、お前ら本当にB級なのか? ギルドの査定も当てにならないな」  続いて発せられた言葉には、露骨な悪意が含まれていた。男たちの顔に、一斉に朱が差さした。  ――またしないでも良い挑発をしやがって。ほら見ろ、奴ら武器に手をかけ始めやがったじゃねぇか。 「おいリロイ、殺すなよ」 「わかってるよ」  俺の言葉がちゃんと分ってるのかどうか、リロイは武器を手にした男たちへと襲いかかっていった。  男たちの間を駆け抜けながら、次々と打撃を打ち込んでいくリロイを横目に、俺は半身を開いた。目の前をすり抜けるのは、俺の煙草を切り飛ばす長剣。  俺は煙草を吐きだすと、崩れた体勢を整えられる前に、男の懐へと飛び込み、鳩尾に膝を打ち込んだ。その傍らをすり抜け様、前屈みになって無防備になった首へ、肘を打ち下ろす。  血反吐を吐いて、顔面から倒れ込んだ男は無視して、少し離れた位置で、短剣を投擲しようとしている長髪の男へ突進する。だが、少し間合いが離れすぎている。  狭い路地ではあるが、これでは長髪が短剣を投擲する方が若干早い。  仕方ない。  俺は、懐から愛用の武器――モーニングスターを取り出すと、予備動作もなく投げ付けた。いつもの殺傷力は得られないが、今はこれで十分。  伸びた鎖の先に付いた鉄球は、狙い通りに長髪の男の手に命中し、短剣を弾き飛ばす。  恐らく手の骨が何本か折れているだろうが、同情してやる義理はない。  残りの手で、別の短剣を取り出そうとした根性は褒めてやってもいいが、俺の接近の方が速い。  俺は、苦痛に歪む男の顔面を鷲掴みにすると、手近な壁に叩き付けた。 「殺すなって言ったのは、お前じゃなかったか?」  振り返った俺を迎えたのは、嫌味ったらしく笑うリロイだ。確かに、俺の後ろでは頭から血を流した男が、壁をずり落ちているが、死んではいないはずだ……多分。 「お前こそ、似たような状況だと思うがな」  俺はお返しとばかりに、リロイの足下に目を向ける。  ――別に、話をはぐらかそうとした訳じゃないぞ。  リロイの足元には、自らが作った血だまりに、三人の男が顔面を突っ込んでいた。  その血の量は、どう見ても……。 「死んじゃいないさ……多分」  応えるリロイは、歯切れが悪い。  狭い路地に、気まずい沈黙が流れた。 「とりあえず、行くか。ドーラが待ってる」  その沈黙を破ったのは、リロイだ。軽い調子で言って、既に歩き出している。自分が打倒した男たちのことなど、既に頭にないかのように、どんどん進んでいく。 「おいジェイス、さっさと来いよ」  ……本当に、ないのかもしれない。  リロイの後を追いつつ、俺は新しい煙草を口に咥えた。  そう、俺の名はジェイス。  低ランクの中で実力を持て余す、若く優秀な傭兵――それがこの俺様だ。  さて、面倒が起きなきゃ良いがな。

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