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21歳新米OL、課長に恋しちゃったの(9) http://ex14.2ch.net/test/read.cgi/news4vip/1140092719/
37 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 22:17:17.24 ID:uQBT4wlq0
「大泉君……なんで」
「話は後!しっかりつかまってて!!」
「は、はいっ!」
私をお姫様だっこしたまますごい速さで走っていく大泉君。
すごいな、こんな運動神経良かったなんて……
そしてネオン街を抜け、ライトが灯る公園に到着した。
「はぁ、はぁ、ここまで来れば大丈夫だろ……」
うわ、汗びっしょりになっちゃってる。
39 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 22:22:04.01 ID:uQBT4wlq0
「とりあえず、ここに座って」
大泉君が私を下ろし、ベンチへと腰掛けさせる。
そして、まだ恐怖で震えている私に自分のコートをかける。
「ちょっと待っててね」
そう言って、自販機の方へと走っていく。
「はい、どうぞ」
目の前に缶コーヒーが差し出された。
あったかい……
プシッ
あ、甘口の……砂糖ミルク多め……
40 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 22:25:42.52 ID:uQBT4wlq0
「大丈夫?怪我は無い?」
大泉君も私の隣に腰掛け、優しげな視線を投げかける。
「うん、大丈夫……」
「そっか、よかった」
そして、心底ほっとしたような笑顔。
「でも……なんであそこに?」
「うん……まぁ……」
言葉を濁し、顔をそらす。
「何て言うか、その……」
赤くなってた頬が、ますます赤くなる……
41 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 22:29:45.08 ID:uQBT4wlq0
「ストーカーみたいでアレなんだけど……」
「なぁに?」
「心配で……後つけて来てたんだ」
「え、もしかして会社からずっと?」
小さくコクンとうなずく。
「ありがとう、大泉君……」
「木戸さん、課長亡くなってから……すっかり落ち込んじゃってたし……」
「……うん」
「そういう状態で合コン連れ出されて、大丈夫なのかなって」
「……優しいんだね」
42 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 22:33:55.57 ID:uQBT4wlq0
「ねぇ、大泉君」
「ん?」
「知ってたんだね、課長の事……好きなんだって」
急に熱いものがこみ上げてきた。
「課長に会いたい、あいたいよぉっ」
涙が溢れてくる。
……え?
大泉君も……泣いてる?
「木戸さん、好きなだけ泣いていいから」
43 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 22:38:12.42 ID:uQBT4wlq0
思わず大泉君の胸にしがみつく。
「課長、かちょうっ!好きだったのにぃっ!なんで、なんでっ!」
大泉君も私を抱きしめ、頭を撫でてくれる。
「うん、うん」
「気持ち伝えたかったよぉっ!好きって、ちゃんと言いたかったよぉっ!」
「大丈夫だよ、課長も、ぐすっ、聞いてくれてるよ」
「ホント?大泉君、聞いてく、れてるかな?」
「うん、空の上から、きっと聞いてくれてる」
あったかい、すごくあったかい……
ありがとう大泉君、ありがとう……
44 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 22:42:17.36 ID:uQBT4wlq0
日曜日の早朝、鏡の前に立ち入念にチェック。
「眉毛よし、目元も……うん、控えめにっと」
鏡の中に映る、黒いスーツ姿の私。
ちゃんと踏ん切り付けないと。
課長のためにも。
……大泉君のためにも。
決心した。
課長に、気持ちを伝えに行く。
47 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 22:58:43.05 ID:uQBT4wlq0
このマンションの6階に課長の自宅がある。
オートロック前のインターホンのボタンを1つ1つ押していく。
……大丈夫、腹はくくってる。
ピンポーン、ピンポー……
「はい、どちらさまでしょうか」
落ち着いた、透き通るような声。
運動会の時に聞いたそれに比べると、少しばかり元気が無い。
「木戸と申します。室尾課長に生前お世話になった」
「あ、木戸さんね。今開けるからちょっと待っててね」
そしてガラス戸が開いた。
48 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 23:02:05.32 ID:uQBT4wlq0
「さぁどうぞ、上がって」
あの時と比べ少し伸びた髪を、後ろでざっくりと束ねている。
奥さんも……少しやつれたなぁ。
案内された和室に置かれた白木の祭壇。
写真の中でいつもと変わらない笑顔を見せている課長。
そして白い布に包まれた箱。
本当に、亡くなられたんですね。課長。
「失礼します」
祭壇の前に正座し、お焼香をあげる。
49 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 23:06:11.22 ID:uQBT4wlq0
――ダメですよ課長、ドジ治すって言ってたのに。
目を閉じ、手を合わせる。
――こんなキレイな奥さん悲しませて、まったく。
鼻にツンとくるお焼香の煙。
――課長……ずっとずっと好きでした。口に出しては言えませんでしたが。
胸の奥が熱くなる。
――今まで、本当に、ありがとうございました。天国では、もう、ドジ、しないでくださいね。
息が、まともに出来ない。
50 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 23:08:37.72 ID:uQBT4wlq0
「はい、これで涙を拭いて」
「ありがとうございます」
奥さんがタオルを手渡してくれた。
「……ありがとう」
「え?」
涙を拭く私に、不意に奥さんが礼を言った。
「あの人が生きていたらきっとこう言っただろうから……だから、ありがとう」
奥さんも、泣いていた。
51 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 23:14:57.20 ID:uQBT4wlq0
「早すぎますよね、まだ36だってのに」
「うん、一緒に旅行行こうねって約束してたのに」
お互いに涙を流しながら、あの人の事を語る。
「今年はドジ治すって、言ってたのに」
「ホント、お餅をノドに詰まらせちゃうなんて、あの人ったら」
「もっともっと、いっぱい話とかしたかったのにっ」
「私も、もっともっと、一緒にいたかったっ」
泣きじゃくる2人を、いつもと変わらない笑顔の課長が見守っていた。
52 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 23:19:14.18 ID:uQBT4wlq0
居間に移動し、テーブルを挟みお茶をすする。
「ねぇ、奥さん」
「ん?」
「やっぱり家でもドジだったんですか?課長」
「ええ、しょっちゅうご飯粒とか落としたり」
「もぅ……社食でもザル蕎麦スルスル逃がしてばっかだったし」
「ふふっ、あの人らしい」
「ねぇ、木戸さん」
「はい」
「あの人ね、いつも木戸さんの事話してくれてたのよ」
「え、そうなんですか?」
53 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 23:23:51.10 ID:uQBT4wlq0
「ドジってもいつもフォローしてくれる、助かるって」
「だって、放っておけませんからあの人」
「……ごめんなさいね、鈍感な人で」
「こちらこそ、奥さんがいらっしゃるのに……」
「……誠さんの事、好きになってくれてありがとうね」
微笑みながら、奥さんが言った。
「……え?」
「あの人がこんなに好かれてたなんて、嬉しいな」
「いや、そ、そんなっ」
「……ちょっぴり、妬けるけどね」
そして今度はいたずらっぽい笑み。
54 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 23:28:58.33 ID:uQBT4wlq0
「またいつでも遊びにいらしてね」
「はい、奥さんもお元気で」
いくらか明るい表情になった奥さんに見送られ、部屋を後にした。
マンションから出て、もう一度課長の部屋を見上げる。
同時に視界に入るどこまでも青い空。
背筋を伸ばし、深々と礼をする。
――課長、今までお疲れ様でした。
『ありがとう、木戸君もお疲れ様』
――それでは……さようなら。
課長の声が聞こえたような気がした。
55 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 23:33:21.27 ID:uQBT4wlq0
「それでね、今度はマザコン男ひっかけちゃってさぁ」
相も変わらずの職場の風景。
「あいかわらず男運ないわねぇ香苗」
1つ違うのは課長はもういないという事。
「でも近場手打つとか考えられないしぃ~」
でも課長は生きている、私や奥さんの心の中で。
「私はそうは思わないけどな」
そして、私を成長させてくれた。
56 名前: マユミ ◆mWaYx4UM2o 投稿日: 2006/02/19(日) 23:35:44.12 ID:uQBT4wlq0
今日はバレンタインデー。
「ねね、大泉君」
ちょっぴり太めの同僚。
「ん、なに?」
「はい、これ」
「え、いいの?こんな高そうなの」
私はもう……
「いいの――」
踏み出す事を、ためらわない。
「――本命だから」
~完~
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