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「も~サラダも食べなきゃダメよ、お兄ちゃん!」

  赤いリボンに束ねられたふわふわのポニーテールを揺らしつつ、エプロン姿のタテハが
  3杯目のカレーを兄の下に届けるため台所から現れた。

「しょうがないだろ……タテハのカレー、美味いんだから」

  きまり悪そうにフォークの先でサラダ――それもレタスの下に隠れていた、
  苦手なトマトの輪切りを突付きつつアゲハがボソっとつぶやく。

「……もぅっ!!」

  思わず頬を染めにやけてしまう、もう19歳だと言うのにまだまだお兄ちゃんっ子なタテハ。

「ダメよアゲハ、好き嫌いしては」

  クスクス笑いながらアリスが息子に注意を促す――自分の皿からタテハの皿に
  ニンジンを移動させる作業を中断して。

「はいはい……」

  プスッ。意を決し、トマトを口元へと運ぶ。

――あぁまだ口に入れてないのにあの酸味と青臭さが……

  女性陣2人が赤い円盤の行方にワクワクしながら注目する――約1名は別の作業を再開していたが。
  いよいよ口の中にあの忌々しいトマトが入ってくる……アゲハが決意を固めたその瞬間。


  ざわっ……胸の中にざらっとした感触。

「この感じ……」

  テーブルの上にトマト付きフォークを投げ出し、椅子が倒れるのも構わず階段目がけて走り出した。

「あ、お兄ちゃん! 逃げるなんてひきょ……え、何、これって……そんな、まさか……」

  タテハもカレー皿を投げ出すように置き、兄の後を追い階段を駆け登る。

「2人とも、一体どうしたの!?」

  すでに聖霊力を失っているアリスには分からなかったが
聖霊との融合体、ガルーダである2人にはしっかりと感知出来た。
  シンラが滅びた今、この世界に自分達以外には存在するはずのない……
  ガルーダがこちらに向かって来ていると言う事を。

                            ■

  ヒビの入ったメガネ越しに白亜の邸宅が見えた。
  あの日聖霊が見せてくれた……
  度重なる実験により息絶えようとしていたアサギに聖霊が舞い降りた、
  あの日に見せてくれた、あのビジョンと同じ景色。

――この町に私と同じような人がいる。

  ただそれだけを信じ、王を殺め、昼夜も構わずここまで飛び続けてきた。
  追撃により黒いワンピースはところどころ破れ、頬には血が滲み、
  聖霊力もあとわずかで尽き果てようとしている。

「間違いない、あそこに私達と同じ……」
(うん……ガルーダが……い……る……)
「バカ聖霊!しっかりしなさいよぉっ!!」

  半ば消えかけている虹色の羽根から碧色の閃光を放出しつつ、
  弱りゆく自分の中のもう一人の存在を励ます。

(がん……ば……って……ア……サ……)

  声が消えるのと同時に、背中の羽根も光の粒を撒き散らし消滅。
  そして慣性により無防備の、生身の体のまま邸宅のテラス目がけて撃ち込まれるアサギ。
  全身が砕け散るような激痛に、思わず気を失った。


  暖かい何かが、アサギの中に流れ込んでくる。

――これは……
(聖霊力だよぉ、頑張ったね、アサギ)
――せいれ……と言う事は……

  恐る恐る目を開くと、自分の頬に涙の雨を降り注がせる女の顔があった。

「ひどいよぉ、こんなボロボロになっちゃって……聖霊さんも……」

  その女の胸元には、アサギの額に埋め込まれている物と同じ物が……聖霊石が輝いていた。
  そして横たわるアサギの横にひざまずき、その顔を覗き込む男。

「大丈夫か、もう心配はいらない。俺達も君と同じ……ガルーダだ」

――やっぱり、ここにいたんだ!私達と同じ力を持った人達が!!

  自分と同じガルーダ……実験体と言う男の告白に安心したのか、
  今までこらえていた物が一気に噴き出した。

「おねがい、あの子達を、助けて、あげて…… このままだと、みんな、殺される……」

                            ■

「大丈夫だよ、もう大丈夫だから」

  タテハが息も絶え絶えになりながら涙を流す少女の頭を膝に置き、
  額の輝石へと直接聖霊力を注ぎ込む。

――あの子達?殺される?

  少女の手を握りつつアゲハが考えを巡らせる。

――どちらにしても今詳しい事情を聞きだすのは無理だな。それに……

  すっと立ち上がり、空の向こうをにらむ。キラキラといくつかの輝き。

――向かって来ている、この子をこんな目にあわせた奴らが!!


  だんだんとその輝きが近づいてくる……
  緑色の甲冑、小脇に抱え込まれた銃、そして背中に光り輝く羽根。
  4人の兵士がテラスを囲むようにして空中で静止した。無論銃口をこちらに向けて。

「さあ、それを渡してもらおうか」

  それを渡してもらおうか。
  奇しくも、3年前奴らが発した言葉と同じだった。
  養父ヒオドシを目の前で射殺した、あのシンラ兵達と。

「どっせぇぇぇぇぇぇいっっ!!」

  激情に任せるまま、虹色に輝く羽根を広げ宙に舞い上がりつつ
  膨大な量の聖霊力を一気に解放させる。

「ぐ、目くらましなど……な、何?輝羽が、制御できな……」

  ボンッ、ボンボンッ!
  怒りを帯びた聖霊力の影響により肉体を破壊されるよりも早く、
  想定許容量を越える力を流し込まれた背中の装置が大爆発を起こした。
  そして彼らのいた空間に血しぶきと肉片が舞う。
  初めてガルーダとして覚聖し、シンラ兵達に聖霊力を浴びせた3年前と同じ結果。

――やはり……聖霊機関!!

「お兄ちゃん……」

  弱弱しい声をタテハがあげる――無論彼女にも分かっていた、今の現象が何を意味するのかを。

「なぜ聖霊機関が……タテハ、その子を頼む」
「分かった、お兄ちゃん……気をつけてね!!」

  碧色の光を振りまきながらアゲハは兵士と戦車に占領された町へと飛んだ。


――シンラの残党か、あるいは……

  目をこらし、戦車に取り付けられた紋章を見る。

「ソーマ……?」

  ソーマ、観光目的で何度か足を踏み入れた事のある国だった。シンラの技術には及ばないまでも、
  かなりの技術力を持った国ではあるが……
  しかし確かに戦車から、兵士から、迫り来る戦闘機から感じられるのだ。
  聖霊機関からこぼれ出る聖霊力を。

「何故ソーマが……それに……輝羽……?」

  だが考えを巡らせる暇も与えぬかのように光り輝く羽根を纏った、
  鳥を模した戦闘機から矢継ぎばやに光弾が撃ちだされる。

「くっ」

  体を捻り、弾幕をかいくぐりながら戦闘機目がけ聖霊力を放出。
  機械仕掛けの鳥達が次々とオーバーフロウを起こし爆発していく。
  と、その中の一つから碧色の光を放つ結晶が現れた。

「聖霊結晶か……ありがたい」

  通常の聖霊石の数倍の聖霊力を持つ結晶体……
  どうやら撃墜した機体の中に輸送機が混じっていたらしい。
  アゲハが結晶を手に取る。力が流れ込んでくる……

(あぁ、いいわぁ……おいしぃ♪)

  頭の中で声が響いた。

「なんだお前、起きてたのか」
(ん、寝てたけど美味しいの来たから目が覚めちゃった)

  3年ぶりに聞く声の主、それはアゲハの胸に埋め込まれた輝石に宿る聖霊だった。

(ねぇ、美味しいのもっと頂戴♪)
「あのなぁ……」
(ゴメンゴメン、冗談言ってる場合じゃ無いみたいね。
向こうに親玉っぽいのがいるけど、どうする?)

  聖霊がアゲハ以上に鋭い感応力で他とは異なる力を放つ方角を察知し、それを伝える。

「言うまでも無い……」

  そしてアゲハもそれを受け、聖霊が指し示した方角へと体を向け……

「直接会って確かめる!どういう事なのかを!」

  怒りの混ざった――単純な聖霊機関のそれとは異なる力の源目指し大きく羽ばたいた。