喫茶店の話1

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喫茶店


322 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 17:35:55.55 0/Bmsl110
夜、閉店時間を過ぎた喫茶店の中。


「おーい太郎ー、そっち終わったかー?」
「はーい、あ、この段ボールはこのままでいいんすかー?」
「あー、それも裏に片しといてくれー」


………


「かー、疲れたぁー」
店内の片付けを終えた俺は腕を伸ばして誰もいないカウンターに座った。
「うーす、お疲れさーん。何か飲むかい?」
そういって奥から出てきたのはこの店の店長の山さんだ。
この人はそう、俺の命の恩人だ。
「あったけぇーココア下さいココアー」
「コ・コ・ア、お子様だねぇー相変わらず。いい歳してココアだってよ」
ひひひ、と笑いながらカウンターの向こうでココアをいれる準備をしてくれる。
「…ほっといて下さい。疲れたときには甘いものですよ。あ、どうもっす」
ほらよ、と山さんがココアをいれたカップを渡してくれる。
気付くと山さんの手にももう一つ。
「あれ?山さん…」
「ん?…たまにはココアもいいもんだな」
「…」

323 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 17:37:37.49 0/Bmsl110
俺はこの喫茶店で働いている。
カウンター以外には二つの小さなテーブルしかない小さな喫茶店。
もともとは山さんと山さんの奥さんで始めたらしいのだが離婚して出てっちゃったらしい。
そんなところに会社をクビになり途方に暮れていた俺が拾われたわけだ。

実際、両親がいない俺にとってクビは一大事だったのでその時は助かった。

父は俺が産まれた時には既にいなかったし、俺を女手一つで育ててくれた母さんは
今までの無理がたたって俺が会社に入社した年に死んでしまった。あん時は泣きまくったさ。
まぁまさか俺もその一年後にあっさりクビにされるとは思わなかった。
入社して一年ちょっと。別に何のことはない。
近所の公園で知り合った女が会社の上司の愛人だった、ってだけの話だ。
その時一回こっきりの出会いを目撃されたらしい。
俺の上司はそういう男だった。それだけの話。

324 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 17:39:47.09 0/Bmsl110
「今日の魚住さん、全然飲んでませんでしたね?」
「あぁ、なんかもう少しで金が蓄まるらしいぞ?
 何買うのかは教えてくんなかったけどな」
二人同時にあくびをする。
「…今日は久しぶりにハードでしたねぇ」
俺はココアを一口飲んでカウンターに突っ伏した。
「…久しぶりにってなんだよ久しぶりにって。俺の店はいつでも大繁盛だよ」
「…そうすか?」
「…おいおい、毎日俺の特製オムライスを楽しみにしてるお客さんが何人いると…
 …んなにいねーな!…っひひひ」
「………自分で言って笑わないで下さいよ…っあ」
俺は体を起こして山さんの方を向いた。
「頼んどいたもの、買ってきてくれました?」
「ん?あぁ買ってきたぞ。ほらレシート。一番安いやつでよかったんだろ?」
そう言って山さんがカウンターの下からレジ袋を取り出す。
「いやー、どうもっす。餌きらしてたのすっかり忘れてまして。はい、おつりはあげますよ?」
「ひひひ、ついでだよついで。気にすんな。…それにしてもお前この餌、えーと…
 ブラインシュリンプ…エッグ?…だっけ?クラゲなんて飼ってたの?」
「つい最近なんすけどね、可愛いもんすよ?これがなかなか」
「…へーぇ、そうかそうか。ついに人間には見切りをつけたか。んじゃ今度見してくれよクラゲの彼女」
「ははは、人間の女はもうこりごりっすよ。…したらいつ来ます?俺はいつでもいいすけど」
「そうだなぁ…今日は、土曜か。うん、どうせ明日は開けんの午後からだし昼前に寄ってくかな」
「即決っすね…わかりました、あ!んじゃぁ明日の昼は山さんの奢りっすか?」

「ん、オムライスでもつくってやるよ」

「…うぇー、またかぁ…」

326 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 17:42:00.84 0/Bmsl110


「したら俺、お先に失礼しますね」
「おー、気を付けて帰れよ」

タロウを見送り一人になったのでテレビをつけた。
「…人間の女はこりごりか…そりゃそーだわな……俺よりはつえーやつだよあいつは…」
ぼやきながらチャンネルをまわす。

『……の保護法………、前回の収集作業の結果……』

(俺も…30過ぎちまったなぁ……保護法…ね…バツイチでもいいのかなこれ…
 って、何考えてんだ俺。クラゲでいいよ俺も。クラゲと再婚しよう………)

ぐぐぐっと疲れた体を伸ばす。
「っくぅー!さーて、風呂にでもはいるかなっと、その前に便所だな便所

……………

「…あ、コート忘れた」
山さんとこからの帰り道、
もうすぐアパートに着くというところでコートがないことに気が付いた。
(…何であんなおっきいもん忘れっかなぁー俺…)
取りに戻ろうとして振り返るが、思い止まる。
(ま…明日でもいいか。気付いてたら明日来るとき持ってきてくれるだろうし)

…………

327 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 17:48:17.65 0/Bmsl110
「…やっちまった…」
アパートに着いた、のはいいがさっき思い止まったのは重大な失敗だったかもしれない。
そう、鍵がないのだ。どこかに落としてきたらしい。少し戻って探してみるがこの暗さじゃどこに落としたかわかりそうもなかった。
(……あーぁ、どうしよ…スペアは…うちん中だ。スペアの意味ねぇ…。
 そうだ、山さんとこ戻って泊めてもらおうかな。
 山さんなら大丈夫だと思うけど…一応電話してみよう)
俺はケータイをもっていない。前は持ってたが会社をクビになってから必要ないものは全部売っぱらってしまった。
今の生活はケータイが無くても支障がないのだ(まぁ実際は基本料金が払えないだけなのだが)。
しかし今は中に入れない。なので電話は近くの公衆電話を使おう。しかし、
「……げ」
(撤去されてるよ…。くそ、他にどっかあったかな…
 めんどくせ…やっぱり電話しないで…、あ、そういや公園の近くに…でも、あの公園は…)
仕方ないと腹を括り公園に向かう。

…………
「お、あったあった」
遠目に電話ボックスを発見した。辺りを見渡す。電話ボックスの近くには黒い車が停まっている。
その奥の街灯の下で寝てるのはホームレスだろうか。
(ここ等辺、あの女の家の、近くなんだよな…)
なんせこの公園はあの女と出会った場所だ。否応にも思い出してしまう。ちゃっちゃと終わらせよう。そう思い、電話ボックスに向かう。
(あ、先客が…ってことはあの車……はぁ、すぐ終わるかな…)
電話ボックスの中にはすでに人がいた。多分この車の持ち主だろう。黒のクラウン。
しかし、こちらに気付いて会話を切り上げたようだった。
(あ、顔に出ちまったかな…)
ガチャ、とその人が出てくる。
「あ、なんかすんません。急がせたみたいで……あ」
俺は固まってしまった。なんせ公衆電話から出てきたのは

「……なんだ。またお前か…」
かつての上司だったからだ。

343 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 21:24:14.68 oWM3geMo0

「…こんなところでまた会うとはな」
「…なんのことすか?人違いじゃないすかね?」

俺は出来るだけ軽い感じで言った。
とりあえずこいつとはもう関わりたくなかった。


「つれないな、久しぶりに会ったというのに。もう俺とは上司と部下の関係でもないだろう、
なら普通は世間話くらいしようと思わないか?」

ははは、と笑う。悪怯れた様子はなかった。
早く帰りたい…、俺には家で待ってるくらげがいるんだ。

その時、車から一人、女が降りてきた。


「あー、やっぱりそうだ。久しぶりね!」

次から次へと…やっぱり電話なしで…さっさと山さんとこ行きゃぁよかったなぁ……
でも、……やっぱり似てるな……

「…はぁ。…なんか用すか…?」
「私、君のこと探したんだよ?ふふふ、君は今、何して食ってるのかなーっと思ってね」


………なんだって…?

344 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 21:25:25.12 oWM3geMo0

「…あんたに関係ないでしょう…俺、電話使いたいんでもういいすかね?」

俺は強引に元上司の横を通り抜けようとした。

「私もほら、悪いなーと思ってさ。私のせいでクビになっちゃったって聞いてちょっとショックでさぁ」

ちっ、と元上司が舌打ちをする。

「で、探してみたらあんなショボい喫茶店で働いてるじゃない。
 ふふふ、アレには笑ったなぁ」

女は目線を元上司にずらす。

「ほら、この前あなたと行ったところ。覚えてない?」


…この前行った?いつ来たんだこいつら…


「…ん?…あぁ、あの小さい喫茶店か?なんだ、お前、あんなとこで働いてたのか」
「あの時君いたら大変だっただろうなー、どこ行ってたの?」

片付けなどもあるので時間帯によっては店内にいないこともよくある。だけど…
俺は元上司を睨み付けた。この感じ…

346 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 21:26:52.75 oWM3geMo0

「……あぁ、思い出した思い出した。ははは、はらわたが煮え繰り返るな。
 …他に客が誰もいなくてな。あそこ…特製オムライスだかなんだかしらんが、俺の口には合わなくてね」
「この人ったら一口食べて『まずい』って全部床に捨てちゃったのよ、ね?」
「他に誰もいなかったからな、一度やってみたかったんだ。ははは…それにあの店長…」


『ゴッ』


俺は気が付くと、
元上司を殴っていた。

「……いっ…つ…貴様…」

俺は女の方を向く。

「……ひ、あ、あは…うそうそ…!うん、うそだからね!…ね!?」
「…あんたも…その顔で…俺に話し掛けるな…」

俺は女の言葉を聴きおわる前に電話ボックスに入りガラス戸を閉めた。

(……そんな…山さんは……山さんはそんなこと一度も……そんなことが……俺は…)


『…うぇー、またかぁ…』


ふ、と先程の山さんとのとりとめのない会話を思い出す。

347 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 21:27:30.87 oWM3geMo0


…やべ、泣きそ…


外を見る。あいつらはいなくなっていた。
代わりに車から大きな男が出てくる。



(………まじかよ…)


ガラス戸が男の手によって開かれた。


(…あー、なるほどね…ほんとにこーゆうスーツ着た奴らっているんだな…
 …くそ…ついてねぇなぁ…ほんと……あの女…やっぱりそっくりだなぁ……母さんに……)



…………………

348 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 21:28:01.32 oWM3geMo0



喫茶店の2階。一階が喫茶店で2階は自宅だ。


「…さーて、寝るかな…」

立ち上がり冷蔵庫から麦茶を取り出す。
ふ、と見ると太郎のコートがカウンターの椅子にたれかかっていた。


「あれ、あいつコート忘れてやがんの……時間は……
 もう家に着いてるだろうし……ま、明日でいいだろ…」


電気を消して体を伸ばした。



…………………

349 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 21:28:24.23 oWM3geMo0


…あ、なんか…冷たくてきもちいい…

「お、目ぇ覚めたかい」

おでこの上に濡れたタオルがのっていた。

「…う、…いて…て…」
「はははは、ずいぶんひどく殴られてたからね。大丈夫かい?」
「…あなたは…あ、」

額のタオルがずれ落ちる。
げ、これタオルじゃねぇ、雑巾だ…

「はは、ホームレスなんかに介抱なんてされたくないかな?」
「あ…、いえ、そんなことは……ありがとう、ございます…」

喋りづらい。口の中も切ってるようだ。

「…礼なんていらないよ。君が殴られてるのを遠くでただ見てたんだから…ははは」

俺は体を起こした。体の節々が痛む。

「…いて、て…、……厄日、…ついてねぇ…」

350 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 21:28:51.52 oWM3geMo0


再び横になる。

ふ、と見るとクラゲの餌もあるし背中にちゃんと新聞が敷かれていた。


「ちょっと待っててな、またタオル濡らしてくるから」
「…あ、どうも…おねがいします…」

そういってホームレスの人はタオル(雑巾)を持って水道の方へと走っていった。


(……いい人…なのかな…ホームレスにもあーゆう人…いるんだな…いてて…)



しかし、そのホームレスはそれっきり戻ってこなかった。
そして俺は、異変に気付くのが遅すぎた。


(…遅いな……そういや、今何時だ…ろ…何時…?…!)

鈍っている頭をフル回転させ、思考をめぐらせる。
近くで人の話し声がする。



……この声、おい、おい、まさか、まさか!まさか!まさか!

351 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/22(水) 21:29:23.44 oWM3geMo0


体を固まらせた俺に清掃業者のような出で立ちの男が顔を覗かせる。


「おーい、こっちにもいたぞー。…ん、なんだお前、随分若ぇなぁ」

…あぁ…なんて日だ今日は…くそっくそっくそぉ!

「……俺は…ホームレスじゃない…んです…違うんです…!」

殴られた部分が痛み、うまく喋れない。

「捕まったホームレスは皆そう言うんだよ。大変だったなその年で。
 うぉ、怪我してんのかよ、かわいそうに。今楽にしてやるからな…」


そう言って男は何かを取り出し、俺に注射した。



「…だから…違う…ん…ぅ…ぁ…」

(瞼が重い…ダメだ…ここで寝たら……うぅ……くそぉ………山…さん…)



俺の意識は、そこで途絶えた。


……………………

24 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/23(木) 02:05:22.47 rqBczdnE0

朝、といってもあと2、3時間で昼だ。それなのにあいつが起きてないはずはない。

「おーい、タローウ?寝てんのかー?コートも持ってきたぞー?おーい!」


ベルを鳴らし、何度もドアをノックする。それでも太郎の返事はなかった。

「…っかしーなぁ…。ほんとにいねーのかな…もしかしてフラれた?
俺。ひひひ、いやいや、あいつに限ってそんな…」


しかしその後一時間ドアの前で座って待ってても太郎が出てくることも、
帰ってくることも来なかった。

「……帰るか…あいつ今日仕事…。…まさか昨日から帰ってないなんてことねぇよな…」


その後、喫茶店にも太郎は来なかった。
変に思った俺は次の日警察に行き事情を説明して捜索願いを出した。
しかし、太郎は見つからなかった。

25 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/23(木) 02:05:51.42 rqBczdnE0
次の日も次の日も出来るかぎりは自分で捜した。
店はいつも通り開けたが、時間を早めに切り上げたりして捜し回った。
今のところ警察の調べでわかったのはあの日の夜、
公園で太郎の元上司が太郎と接触したらしいということだけだった。
しかしその元上司もその後のことは知らないということだ。


「…今日で一週間か…太郎君、まだ見つからないのか?」
「…あぁ。ほんと…どこいったんだろうね、あいつ……」

太郎の事を心配してくれているこの人はただ一人の常連客の魚住さん。
太郎とも仲が良かった(というよりは太郎をからかって遊んでいただけだ)。


「俺…なんかやっちまったかなぁ…給料ケチりすぎたかなぁ…」
「…多分、そのせいだよ。ははは!って…今にすぐ…ひょっこり帰ってくるだろ…」

むかつく慰みの言葉だったが、そんな言葉でも今は気休めにはなった。


「…あいつがいねぇとよぉ、俺が二倍疲れるんだよぉったくー」
「…バイト雇えば?」
「…うるせぇ…」
「ははは、んじゃぁー太郎君が戻ってくるまで…、そうだな、
 俺が毎日オムライス食べにきてやるから。…いやがらせとしてな」

「……カッコイイこと言っちゃって、ひひひ」

何だか久しぶりに笑ったような気がした。
今思うと太郎がいた頃はいつも笑っていたような気がする。

26 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/23(木) 02:06:58.61 rqBczdnE0
『キィ』
ドアの開く音。


その時、一人の女性が店に入ってきた。
しかし今日はもう、店は閉めて太郎の家に行くところだった。


「あ、すいません。今日はもう終わりなんで…」
「いや、いいんだ山さん。俺を迎えに来てくれたんだよ」
「…え?」
「へへへ、俺の嫁さん。…元ホームレスのな」


その女性は俺に深々と礼をし、魚住さんに寄り添った。
この人が元ホームレス?そんな馬鹿な…

「元ホームレスって…あ、保護法か?」
「そうそう。今日は帰りに山さんとこ寄ってくつもりだったからさ。
 ほんとは一緒に…太郎にも紹介したかったんだけど…あ、俺の奥さんのキョウコです」
「はじめまして、キョウコです…」
「あ、あぁ…はじめまして…山田です…」
「ははは、びっくりしてるだろ」

何から何まで突然でびっくりしないわけがない。

27 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/23(木) 02:07:49.82 rqBczdnE0

「…あぁ、でもどうしてまた急に」
「…俺みたいに一日中排気ガス塗れになって働いてるやつにはありがたい話さ。
 金は蓄まるけど…女の子と知り合う機会がないんだよな。
 このまま年とっちゃう前に、余裕が出来たらすぐにでも買うつもりだったよ…」

魚住さんの話はもっともだった。そのための法律だからな。それにしても…

「…お綺麗ですね、奥さん」

そういうとキョウコさんは顔を赤くしてうつむいてしまった。
これが元ホームレスか…全然わかんねーじゃんよ…

29 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/23(木) 02:08:19.95 rqBczdnE0
「…おいおい、キョウコは俺のだぞ!
 …山さんも前の奥さんをいつまでも引きずってないで気持ちを切り替えなって」
「あぁ…わかっちゃいるんだけどな…この前あいつ、太郎にも言われたよ」
「なら尚更…はやいとこ新しい奥さん捕まえて太郎におめでとうって言ってもらいなよ。
 山さん、ちゃんとしてたら顔は良いんだから。あ、俺今お前のこと誉めたぞ?」

「…なぁ俺、キョウコさんがいいな」

そういって俺はキョウコさんをちらりと見る。やっぱ綺麗だ。

「…わわ、私はダメですよ!私は魚住さんのものですから!」

顔を真っ赤にして言われた。これは少しうらやましいかもしれねぇ…

「くくく、フラれてやんの」
「…まいったな、ひひひ!」

ハハハと笑いあう。
そうだな、太郎がいつ帰ってきてもいいように俺がしっかりしないとな…




……………………

30 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/23(木) 02:09:01.21 rqBczdnE0
「…はい、大丈夫ですよ!この法律は主に少子化対策が目的ですからね。
 どうです?中も覗いていかれますか?」
「…はぁ、中、ですか。ん、じゃぁちょっとだけ…」
「わかりました。今、係の者をお呼びしますので少々お待ちください!」


…俺は今、太郎の家に行くついでに引き取りセンターに来ている。
昨日の魚住さんを見て少し思うところがあったからだ。
でも…ほんとは説明だけ聴いて帰ろうと思ったんだけどなぁ、
受け付けの女の子が…あんな可愛い笑顔で聴かれたら断れないっつーの…
ちなみに何が大丈夫かというのは既婚者でもいいのかっつーことだ。

31 名前:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします 投稿日:2006/02/23(木) 02:09:17.69 rqBczdnE0

「…山田さんですか?」
「え?あ、はい。そうです」


突然話し掛けられびっくりした。あ、係の人か…?

「どうもどうも。案内、説明の池田です。今日はご購入で?」
「あ、いえ。そうじゃないんですけど…」
「ははは、今日はさっき送られてきたばっかりの子もいますからね。さぁどうぞこちらに…」


そう言われ、俺は池田さんの説明を受けながら奥に進んでいった。

174 名前:21 投稿日:2006/02/24(金) 10:43:07.52 GBRYql8n0
「はぁ、一週間の訓練を…」
「そうです。まぁ最初に電波なんかで記憶とかは書き替えちゃったりするんですがね、
そのあとに施設なんかに送るんですわ」


……訓練、か……昨日のキョウコさんのあの振る舞いにも納得が出来た。


ガラス越しに女の子が見える部屋に着いた。


「…ここが先程説明した甲種の部屋です。ほら、みんな綺麗でしょう?」
「…(…うはー、なるほど確かに…)ほんとにこの子たち、ホームレスだったんすか?」
「ははは、みんなそう言いますけどね。確かにホームレスなんですわ。
 えーとですね、ほら、あの子。彼女なんかは今日送られてきたばっかの子ですね。
 はは、手ふってますね。お行儀がいいでしょう?」

そういって係の池田さんは手を振り返している。

175 名前:21 投稿日:2006/02/24(金) 10:44:46.66 GBRYql8n0
「それにほら、さっきのあの受け付けの子。
 実は彼女も甲種の子なんですよ。働き者でいい子です」

「…まじですか」


俺の心が大きく揺れる。はっきり言ってすべてが想像以上だ。

「…でも甲種は…その、高いんですよねぇ…?」
「うーん、確かに値は張りますね。しかし、その分の価値は十二分にあると思いますけど…」

実は昨日の夜はあわよくば甲種をば、なんて思っていたが
やはりいざ値段を見ると手が出なかった。
まぁもとより買うつもりで来たわけじゃないのだが。


一通り説明を受け、次の部屋に進む。



「…で、ここにいる子たちが乙種です」
「…はぁ…」

ぱっと見、甲種と変わらんでもない。
しかし、全体の雰囲気としてはやはり先程より劣っているように思えた。

176 名前:21 投稿日:2006/02/24(金) 10:46:07.31 GBRYql8n0
「乙種はですね、説明した通り色々と難があるんですけど…
 まぁ、失礼ですけど…安いですからね。実際甲種より売れるんですよ」


説明を受けながら歩を進める。


「…ですから乙種の中で気に入った子を見つけたなら早めにご決断しないと
 他の人に取られてしまうんですね。そのせいかみなさん決断が早く回転も早いんですわ…
 ………おや、どうしました?」

「…あ、いえ。あそこに泣いてる子がいたもんですから…」


一人、ぽつんと泣いている子がいた。
その子に俺は目を引かれたのだ。


「あぁ、乙種だとそう珍しいもんじゃないんですけどね。ほら、乙種というのは
 不安定であったり体に欠陥があったりするのが乙種ですから。ここだけの話…

 …ホームレスの時の記憶が残ってる子、というのもたまにいるって話ですよ。
 そんな子、いやでしょう?ですからお金に余裕があるのなら甲種をお薦めするんですがね…」

178 名前:21 投稿日:2006/02/24(金) 10:47:26.37 GBRYql8n0

説明を受けながらも目はあの子から離せなかった。
いや、離せないというよりは、何か…何か気になってしょうがなかった。

「はは、あの子が気に入りましたか?どれ、…おや、
 この子も今日送られてきたばっかりみたいですね…お話ししてみましょうか?」

「…え?できるんですか?」

池田さんはにっこりと笑い、ちょっと待っててくれと駆けていった。



…なんで俺、出来るんですかなんて…。


その間も俺はあの子を見つめていた。


…なんでこんなに、ひっかかるんだ…?




…………

179 名前:21 投稿日:2006/02/24(金) 10:48:15.48 GBRYql8n0

「おーい、あの子、ちょっと出してくれないかー?そう、103番の子!」


池田さんがそういうと若い男がガラスの中に入りあの子を連れだした。

「…よしよし、よかったなぁあんた。
 もう買い手が見つかるなんて…」


男は慰めるように女の子にそういった。
そして池田さんに引き渡す。

「おぅどうも。どら、…よしよし、君を買ってくれるかもしれない人が来たからね。
 ほら、もう、泣くんじゃないよ…」

女の子はとても小柄で幼く見えた。
年齢も多く見積もって16、7といったところだろうか。
まだぽろぽろと大粒の涙を流している。


「…ぁ…ぅ、うぇ…ぐす、違うの…ぅぅ…違うんです…」

「…?…何が違うんだい?何かあったのかい?」


容姿が幼いので自然と子供と話すような口調になる。
女の子が答えるまで、少し間が空いた。
そして泣きながら、何かを思い出そうとするかのように言った。

180 名前:21 投稿日:2006/02/24(金) 10:48:43.36 GBRYql8n0

「…ぇう…ひっ、…んく、…でも、わかんないの…。
 何が、んぅ…何が違うかわからない、ひっく、の…」

池田さんは目を若い男にやる。
それに応じて若い男は手を挙げ首をかしげた。

「…(よくわからんな……)…よしよし、それはね、きっと何も違くはないよ。
 施設から移されたばっかで気が動転してるんだね。
 ほら、向こうでカッコイイおじ…お兄さんが待ってるから、早く会いにいこうか?
 君も早くこんなところ出たいだろう?」

「…ぅぅー、ぐすっ。…はい…。…ぐすっ…」


泣き止んだ女の子は、池田さんの後をてとてとついていく。

(しかしずいぶん若い、というよりは幼いな…若いホームレスだったんだろうか…?)




…………

181 名前:21 投稿日:2006/02/24(金) 10:49:06.79 GBRYql8n0

「お待たせしました、ずいぶん泣くもんでね、困っちゃいましたよ」


女の子を連れて池田さんが帰ってきた。
女の子はうつむいていて顔はよく見えない。
…近くで見るとずいぶん幼いように見えた。


「あ…それなら、買うわけじゃないので無理に連れてこなくてもよかったんですけど…」


女の子がびくっと震えた。

…あ、しまった、今のは禁句だったか…!?

池田さんを見ると…困った顔をしている。


「…ぅぁ…ご、ごめんなさい、ぃ…っ」
「あ、ごめん、ごめんよ。ほら、泣かないで…」

そういって女の子の顔を覗き込む。

182 名前:21 投稿日:2006/02/24(金) 10:49:39.03 GBRYql8n0
あ、…すごく、可愛い。

だけどやっぱり幼すぎるなぁ。
ってか、これじゃ少子化対策にならんよーな…
あぁ、だから乙種…安いのか……


頭を撫でてやると女の子は初めてこちらを向き、目が合った。



その時だった。女の子の様子が変わったんだ。


「……ぁ、ぅ、うあ、」


口をぱくぱくさせて俺を見る。
な、なんだ?

「…私、あなたのこと知ってる…!知ってるよぉ!でも、でも…
 ぃやぁ…なんでぇ…?ぁぅ…思い出せないの、思い出せないよぉ…ぅ、ぅわぁぁああん!」


女の子はとうとう床に崩れて泣いてしまった。

183 名前:21 投稿日:2006/02/24(金) 10:50:04.71 GBRYql8n0
「…心当たりはありますか?」
「…ホームレスの知り合いなんていませんよ…」
「…ならきっと人を間違えてるんでしょう。
 乙種といっても本来は消されてるはずの記憶ですからね…」

池田さんは渋い、苦しい顔で答えた。

「…いやどうもすみませんね、なんだか私が無理強いしたせいで
 嫌な思いをさせてしまって。103番もごめんな。ほら、立てるかい?」

池田さんにそう言われ、103番と呼ばれた女の子は立ち上がった。
そして俺の方を向き、頭を下げて言った。


「……ごめんなさい…」


しかしそれは、あまりに不自然で、テキストに沿って教え込まされたような、
とても悲しそうな動きだった。

184 名前:21 投稿日:2006/02/24(金) 10:50:52.38 GBRYql8n0

(…………)


「おーい、ちょっと君!103番を中に連れていってくれ!」

さっきの若い男が女の子を連れていく。

「…いやー、すみませんね山田さん。やはり今日は」

「…待ってください、買います」


俺の発言に池田さんは驚いたようだった。

「…え、あの子ですか?見ての通り幼いですし、非常に不安定ですよ」


「いいんです。あの子を、買います…」



……………
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