「貴之と貴司【3】」(2006/01/23 (月) 00:34:13) の最新版変更点
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<h2>貴之と貴司(3)</h2>
<p align="right">著者不詳</p>
<p>
「あなた、楽しいのはわかりますが、飲みすぎじゃない?」<br>
「貴之がご馳走してくれる酒はうまい。なっ、貴司」<br>
お父さんがそういうと、みんなが僕をみた。<br>
ちょっといたたまれない気持ちになる。<br>
「うん。ちょっと僕、お手洗い行って来る。食事中にごめんなさい。」<br>
僕はその部屋を出ると、来るときに見つけていたトイレのほうに足を向けた。<br>
「はぁ」<br>
ついため息がでちゃう。<br>
せっかく兄さんがご馳走してくれてるって言うのに、ダメだなぁ、僕。<br>
あの女の人、里美さんって言ったかな、の話を兄さんの口から聞くと<br>
どうしようもなくイライラした気持ちになる。なんでだろう。<br>
ううん、判ってる。これは多分嫉妬ってやつ。<br>
僕の兄さん。僕だけの兄さん。<br>
僕だけの大切な兄さんが取られてしまうような、そんな感じがして、<br>
どうしようもなく不安になっちゃう。<br>
たとえば、里美さんと結婚しても兄さんが僕の兄さんであることには<br>
違わないけど、兄さんの中に僕が入っていけない時間が増えるのなんてヤだ。<br>
わがままだけど、ヤだ。<br>
トイレにつても別にすることもなく、洗面台の前に立って時間を潰す。<br>
鏡に映る僕の顔はちょっと不快そうで、とても醜い。<br>
こんな僕じゃ、兄さんも嫌だろうな。<br>
「ごめんなさい」<br>
ちいさく声に出してみると、なんだか悲しくなって、ちょっぴり涙がでた。<br>
「あっ」<br>
ぼやけたか視界の中、鏡の向こうに兄さんが映ってる。</p>
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