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<h2>貴之と貴司(4)</h2> <p align="right">著者不詳</p> <p>「貴之」<br> 貴司が出て行ったドアを呆然と見ていた俺にお袋の声がかかった。<br> 振り向くとお袋と目が合う。全部ばれていそうな、そんな目で見つめてくる。<br> 「なに?」<br> そのままお袋はアゴを軽くドアのほうに動かして見せた。<br> なるほど、やっぱりお袋にはバレバレなんだな。全く頭が上がらない。<br> 「あなた、これ、おいしいわよ。冷めないうちにいただきましょう」<br> お袋に感謝しつつ俺は席をたつ。<br> 「俺もちょこっと飲みすぎたみたい。トイレいってくる」<br> 「行儀悪いぞ」<br> 「悪い」<br> 親父の注意もそぞろに、俺はトイレに向かった。<br> トイレに着くと、貴司はぼんやりと鏡を見ているようだった。<br> 声をかけようと近づき、俺は貴司の目の端に光るものを見つけてしまった。<br> 「……貴司」<br> 「なんでもない」<br> 驚いたように振り返ると、ぐしぐしと袖で顔を力任せに拭いている。<br> 「なんでもないってことないだろう。どうしたんだ?」<br> 俺はそっと貴司の頭に手を置き、あやすようにポンポンとかるく叩いてみる。<br> いつもなら、そうしていると笑顔になる貴司も今日ばかりはちがっていた。<br> 急に折れの手を払ったかと思うと、両手でギュッと胸元に握りこまれ、<br> 強い視線が俺の目を射すくめる。これ、ちょっとヤバいかもしれない。</p>

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