「貴之と貴司【4】」(2006/01/23 (月) 00:35:08) の最新版変更点
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<h2>貴之と貴司(4)</h2>
<p align="right">著者不詳</p>
<p>「貴之」<br>
貴司が出て行ったドアを呆然と見ていた俺にお袋の声がかかった。<br>
振り向くとお袋と目が合う。全部ばれていそうな、そんな目で見つめてくる。<br>
「なに?」<br>
そのままお袋はアゴを軽くドアのほうに動かして見せた。<br>
なるほど、やっぱりお袋にはバレバレなんだな。全く頭が上がらない。<br>
「あなた、これ、おいしいわよ。冷めないうちにいただきましょう」<br>
お袋に感謝しつつ俺は席をたつ。<br>
「俺もちょこっと飲みすぎたみたい。トイレいってくる」<br>
「行儀悪いぞ」<br>
「悪い」<br>
親父の注意もそぞろに、俺はトイレに向かった。<br>
トイレに着くと、貴司はぼんやりと鏡を見ているようだった。<br>
声をかけようと近づき、俺は貴司の目の端に光るものを見つけてしまった。<br>
「……貴司」<br>
「なんでもない」<br>
驚いたように振り返ると、ぐしぐしと袖で顔を力任せに拭いている。<br>
「なんでもないってことないだろう。どうしたんだ?」<br>
俺はそっと貴司の頭に手を置き、あやすようにポンポンとかるく叩いてみる。<br>
いつもなら、そうしていると笑顔になる貴司も今日ばかりはちがっていた。<br>
急に折れの手を払ったかと思うと、両手でギュッと胸元に握りこまれ、<br>
強い視線が俺の目を射すくめる。これ、ちょっとヤバいかもしれない。</p>
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