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<h2>貴之と貴司(9)</h2> <p align="right">著者不詳</p> <p> 貴司の声が弱々しく響く。俺ってば、励ましに来たはずなのに泣かせてどうすんだか。<br> 貴司は自虐的に泣く。自分の不満のためではなく、不満をもてあます自分を<br> 悲しんでなく。見ていると、俺はつらくなってくる。<br> なのに、そんな貴司をみてると、なんていうか、こう、ギュってしたくなる。<br> 俺ってば、鬼畜かもしんない。ごめんな。<br> しかし、これは由々しき問題だ。家を出るという理由が「俺の理性が決壊し<br> そうだから」なんて、その対象を目の前にしてどう説明したものか。<br> 神の味噌汁・・・あー、しょうもな。俺も相当てんぱってる。<br> 「本当にまだ何にも考えてないんだ。」<br> 言いながら俺は自分の狡さに呆れる。<br> 貴司だってこんなの信じはしないだろうに。<br> 俺はいつだってお前のことを考えてるつもりなのに、気が付くと傷つけてる。<br> 「そう、なの?」<br> 貴司が顔を上げる。ここぞとばかり俺は言い募る。<br> 「ああ、第一、就職したばっかりだし、敷金とか払えるわけないだろう」<br> ナイスな言い訳に、やれやれと思う。<br> 「兄さん、ずっと一緒に家にいて?ね。」<br> 貴司の上目遣いに抗する力なんて、俺にはない。顔がしまりなく緩みそうに<br> なるのを必死の思いで引き締める。<br> 人間に尻尾がなくてよかったと思う瞬間だ。もしあったら俺の尻尾はバッサバッサ振りまくりだ。</p>
<h2>貴之と貴司(8)</h2> <p align="right">著者不詳</p> <p> 貴司の声が弱々しく響く。俺ってば、励ましに来たはずなのに泣かせてどうすんだか。<br> 貴司は自虐的に泣く。自分の不満のためではなく、不満をもてあます自分を<br> 悲しんでなく。見ていると、俺はつらくなってくる。<br> なのに、そんな貴司をみてると、なんていうか、こう、ギュってしたくなる。<br> 俺ってば、鬼畜かもしんない。ごめんな。<br> しかし、これは由々しき問題だ。家を出るという理由が「俺の理性が決壊し<br> そうだから」なんて、その対象を目の前にしてどう説明したものか。<br> 神の味噌汁・・・あー、しょうもな。俺も相当てんぱってる。<br> 「本当にまだ何にも考えてないんだ。」<br> 言いながら俺は自分の狡さに呆れる。<br> 貴司だってこんなの信じはしないだろうに。<br> 俺はいつだってお前のことを考えてるつもりなのに、気が付くと傷つけてる。<br> 「そう、なの?」<br> 貴司が顔を上げる。ここぞとばかり俺は言い募る。<br> 「ああ、第一、就職したばっかりだし、敷金とか払えるわけないだろう」<br> ナイスな言い訳に、やれやれと思う。<br> 「兄さん、ずっと一緒に家にいて?ね。」<br> 貴司の上目遣いに抗する力なんて、俺にはない。顔がしまりなく緩みそうに<br> なるのを必死の思いで引き締める。<br> 人間に尻尾がなくてよかったと思う瞬間だ。もしあったら俺の尻尾はバッサバッサ振りまくりだ。</p>

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