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<h2>貴之と貴司(10)</h2>
<p align="right">著者不詳</p>
<p>
貴司の不意打ちに、もう俺も顔を引き締めているのはムリだった。<br>
抱き寄せていた手を離し、そっと口元を押さえる。顔が熱いのが判る。<br>
「そっか。……俺もだ」<br>
それが、そのときできた精一杯の言葉だった。<br>
「くす」「ははは」<br>
二人とも恥ずかしさでおかしくなってて、笑いがこみ上げた。<br>
そんな貴司の笑顔をおれはかけがえのないものだって思えた。<br>
これを手放すなんてムリだ。<br>
「いこっか」<br>
「うん」<br>
はたから見てどうみえるだろう?トイレから手をつないで出てくる兄弟。<br>
ま、まわりからどう思われても全然気にしないし。顔は赤いけど。<br>
いつか理性を超えてしまうだろう。そしてまた貴司を傷つけてしまうかもしれない。<br>
それでも、俺はこの手を離せないだろう。決して離せないだろう。</p>
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