「勇人と翔」(2006/01/23 (月) 22:17:23) の最新版変更点
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<h2>勇人と翔</h2>
<p align="right">王子たま氏</p>
<p>ある冬の夜<br>
塾帰りの二人は、雪に埋もれた狭い道を、<br>
1mと互いの距離を離す事無く、横に並んで歩いていた。<br>
二人は小学校の頃からの友人で、同じ塾に通っている。<br>
「腹減った…コンビニ寄ってくべ?」<br>
二人の内の一人、勇人(ハヤト)が、一言めを発した。<br>
勇人は、野球部所属の半幽霊部員で、眼鏡の似合う可愛い奴。<br>
こいつが部活に参加しない理由はただ一つ、<br>
こいつの友達なら誰でも口を揃えて言うだろう、【めんどうくさいからだ】と。<br>
「良いけど、帰ったら夕飯じゃないの?」<br>
微笑を讃えながらに、もう一人の少年、翔(カケル)が訪ねた。<br>
「今日、母さん居ないから」<br>
翔の顔を見る事もなく、無表情にそう返した。<br>
昔からそうだ、二人は仲良しだし、互いの悩み事も相談する。<br>
けれども、こいつが笑うのは、自分の冗談に対して自分で勝手にウケたとき、<br>
それから自分が失敗をしたとき。何故だろう。翔は最近、勇人の底知れない深い面に、<br>
興味を持つ様になった。</p>
<p>
「あ、そうなんだ…でもほら、コンビニ弁当は身体に悪いよ?」<br>
なおも小さな笑みを浮かべながら、相手を気遣う様にして、翔は勇人の肩を<br>
叩いて、その顔を覗き込んだ。やっぱり無表情。<br>
「んぁ…?別に作れるけど、めんどくせーし」<br>
自分は、この【んぁ?】が好き。<br>
そんなことはどうでも良いけれど。<br>
勇人も勇人で、尚もつまらなさそうな顔をしながら、<br>
けれども翔の隣に寄り添ったまま、肩に乗せられた手を避けることもなく<br>
歩き続けた。<br>
「面倒くさいってなー…アレ、勇人って、料理出来る子なんだ」<br>
こいつは面倒くさがりや。そのくせして人一倍他人のことを気遣うくせに。<br>
けれどもこいつは偽善主義者。けれどもこいつの偽善は、他人を傷つけたくない<br>
という思い故の偽善。自分は、勇人のそういう所に魅力を感じる。<br>
そんなことはどうでも良いけれど。<br>
と、そんなことを考えている間中も、勇人の肩に乗せた手が、避けられる事は<br>
なかった。流石に恥ずかしくなって、翔はその手を避け、何を思ったか、自分の胸部に置いた。<br>
「ん…基本的に何でも出来るけど」<br>
勇人は無表情に。けれども自慢気にそう言うと、小さく鼻で笑った。<br>
「凄いな、卵料理しか出来ない奴とは大違い…」<br>
翔は尊敬の目を送る事で、勇人の様子を伺った。<br>
自分の為にシャープペンの芯の一本を差し出すという動作すら<br>
面倒くさいという様な奴が、料理なんて出来るのだろうか。<br>
そう些か疑問に思ったからだ。<br>
けれども、自分の心中には、まだ何かあるような気がする。<br>
そんなことはどうでも良いけれど。</p>
<p>「…どうかした?」<br>
翔は、知らず知らずのうちに俯いていた。<br>
何を考えているのかは解らないまでも、勇人は翔の様子を悟り、<br>
翔の顔をヒョコッと覗き込んで、そう言った。<br>
「ん、いや、歩の料理、食べてみたいなー…と。よく何か考えているの解ったな」<br>
翔も翔で、決して取り乱す事は無く、平然とした笑みを浮かべて問い返した。<br>
けれども、返答が返ってくる事は無く、不思議に思って、翔が首を傾げながらに<br>
勇人に再び視線を向けると、相手の視線も同様に、自分の瞳を見据えていた。<br>
「…御前が喰いたいのは俺だろ」<br>
語尾をあげる事も無く、そう確信しているかの様に、<br>
勇人は突然に問いかけて来た。<br>
悪いけれど、その通りだ。勇人がこのようなことを言って来るのは訳もない。<br>
いつもこいつに対するセクハラ発言は絶えなかったし、<br>
好きだ。と隠語を使って何度も告げようとしたくらいだ。<br>
けれども、今の問は、自分の想いに気付いている、と。<br>
そう言っている様な物だ。どうでも良いと避けていた感情が一気に<br>
結合した。目の前に居る友人が、桃色のオーラを纏っている様に見える。<br>
嗚呼、末期だ。<br>
「食べて良いの?………って、御前何言ってんだよ!」<br>
「るせーな…違うの?」<br>
【るせーな】と微かに頬を染めて視線を下げる勇人が、100倍可愛く見える。<br>
【違うの?】と今度は語尾をあげて問う勇人が、100倍光って見える。<br>
「…そっか、そういうことか。素直に愛を伝えられないから、<br>
そうやって誘っているんだな!」<br>
嗚呼、末期だ。自分の発言すらも自主規制出来なくなった。<br>
こんなことを言ってしまったなら、もう決して親友では居られなくなるだろう。<br>
それが良い意味でも、悪い意味でも。<br>
「んぁ?……もう良い、帰ろ」<br>
勇人は、先程の翔を真似て、翔の肩に手を乗せた。</p>
<h2>勇人と翔</h2>
<p align="right">王子たま氏</p>
<p>ある冬の夜<br>
塾帰りの二人は、雪に埋もれた狭い道を、<br>
1mと互いの距離を離す事無く、横に並んで歩いていた。<br>
二人は小学校の頃からの友人で、同じ塾に通っている。<br>
「腹減った…コンビニ寄ってくべ?」<br>
二人の内の一人、勇人(ハヤト)が、一言めを発した。<br>
勇人は、野球部所属の半幽霊部員で、眼鏡の似合う可愛い奴。<br>
こいつが部活に参加しない理由はただ一つ、<br>
こいつの友達なら誰でも口を揃えて言うだろう、【めんどうくさいからだ】と。<br>
「良いけど、帰ったら夕飯じゃないの?」<br>
微笑を讃えながらに、もう一人の少年、翔(カケル)が訪ねた。<br>
「今日、母さん居ないから」<br>
翔の顔を見る事もなく、無表情にそう返した。<br>
昔からそうだ、二人は仲良しだし、互いの悩み事も相談する。<br>
けれども、こいつが笑うのは、自分の冗談に対して自分で勝手にウケたとき、<br>
それから自分が失敗をしたとき。何故だろう。翔は最近、勇人の底知れない深い面に、<br>
興味を持つ様になった。</p>
<br>
<p>
「あ、そうなんだ…でもほら、コンビニ弁当は身体に悪いよ?」<br>
なおも小さな笑みを浮かべながら、相手を気遣う様にして、翔は勇人の肩を<br>
叩いて、その顔を覗き込んだ。やっぱり無表情。<br>
「んぁ…?別に作れるけど、めんどくせーし」<br>
自分は、この【んぁ?】が好き。<br>
そんなことはどうでも良いけれど。<br>
勇人も勇人で、尚もつまらなさそうな顔をしながら、<br>
けれども翔の隣に寄り添ったまま、肩に乗せられた手を避けることもなく<br>
歩き続けた。<br>
「面倒くさいってなー…アレ、勇人って、料理出来る子なんだ」<br>
こいつは面倒くさがりや。そのくせして人一倍他人のことを気遣うくせに。<br>
けれどもこいつは偽善主義者。けれどもこいつの偽善は、他人を傷つけたくない<br>
という思い故の偽善。自分は、勇人のそういう所に魅力を感じる。<br>
そんなことはどうでも良いけれど。<br>
と、そんなことを考えている間中も、勇人の肩に乗せた手が、避けられる事は<br>
なかった。流石に恥ずかしくなって、翔はその手を避け、何を思ったか、自分の胸部に置いた。<br>
「ん…基本的に何でも出来るけど」<br>
勇人は無表情に。けれども自慢気にそう言うと、小さく鼻で笑った。<br>
「凄いな、卵料理しか出来ない奴とは大違い…」<br>
翔は尊敬の目を送る事で、勇人の様子を伺った。<br>
自分の為にシャープペンの芯の一本を差し出すという動作すら<br>
面倒くさいという様な奴が、料理なんて出来るのだろうか。<br>
そう些か疑問に思ったからだ。<br>
けれども、自分の心中には、まだ何かあるような気がする。<br>
そんなことはどうでも良いけれど。</p>
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<p>「…どうかした?」<br>
翔は、知らず知らずのうちに俯いていた。<br>
何を考えているのかは解らないまでも、勇人は翔の様子を悟り、<br>
翔の顔をヒョコッと覗き込んで、そう言った。<br>
「ん、いや、歩の料理、食べてみたいなー…と。よく何か考えているの解ったな」<br>
翔も翔で、決して取り乱す事は無く、平然とした笑みを浮かべて問い返した。<br>
けれども、返答が返ってくる事は無く、不思議に思って、翔が首を傾げながらに<br>
勇人に再び視線を向けると、相手の視線も同様に、自分の瞳を見据えていた。<br>
「…御前が喰いたいのは俺だろ」<br>
語尾をあげる事も無く、そう確信しているかの様に、<br>
勇人は突然に問いかけて来た。<br>
悪いけれど、その通りだ。勇人がこのようなことを言って来るのは訳もない。<br>
いつもこいつに対するセクハラ発言は絶えなかったし、<br>
好きだ。と隠語を使って何度も告げようとしたくらいだ。<br>
けれども、今の問は、自分の想いに気付いている、と。<br>
そう言っている様な物だ。どうでも良いと避けていた感情が一気に<br>
結合した。目の前に居る友人が、桃色のオーラを纏っている様に見える。<br>
嗚呼、末期だ。<br>
「食べて良いの?………って、御前何言ってんだよ!」<br>
「るせーな…違うの?」<br>
【るせーな】と微かに頬を染めて視線を下げる勇人が、100倍可愛く見える。<br>
【違うの?】と今度は語尾をあげて問う勇人が、100倍光って見える。<br>
「…そっか、そういうことか。素直に愛を伝えられないから、<br>
そうやって誘っているんだな!」<br>
嗚呼、末期だ。自分の発言すらも自主規制出来なくなった。<br>
こんなことを言ってしまったなら、もう決して親友では居られなくなるだろう。<br>
それが良い意味でも、悪い意味でも。<br>
「んぁ?……もう良い、帰ろ」<br>
勇人は、先程の翔を真似て、翔の肩に手を乗せた。</p>
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