「きーちゃんの遭難ごっこ【1】」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

きーちゃんの遭難ごっこ【1】」(2006/01/27 (金) 20:09:52) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

「しまったなぁ」  寒風吹きすさぶ中、僕は一人つぶやいた。  家の鍵を忘れてきて、締め出されてしまったんだ。  お母さんが帰ってくるのは遅いし、それまでどうしようかととぼとぼ歩いていると、  道のど真ん中で突っ立っているきーちゃんに出会った。 「きーちゃん、何してるの?」  ぼんやり空を見上げていたきーちゃんに声をかける。 「ん、ゆーちゃんか。雲の形が変わってくのを見てたんだ」 「こんなところで…寒くないの?」 「小松フォークリフト型だった雲が、豊田自動織機のフォークリフトに変わっていくのが面白かったものでつい」 「そ、そう…」  幼稚園の頃からの付き合いだけど、いまだにきーちゃんが分からないときがある。 「確かに寒くなってきた。風もきついし」 「あ、雪だ」  頭の上は晴れているのに、ちらちらと雪が舞い始めた。遠くの空に広がってる雲から風で飛んできたのかな。 「まずい。吹雪いてきた」  きーちゃんが深刻そうな顔で言う。……吹雪いて? 「このままだと遭難してしまう」 「こんなとこで遭難なんてしないよー」 「雪山を舐めるなー!」 「ええー?」  どうやらきーちゃんは、雪山遭難ごっこを始めたみたいだった。唐突になりきりごっこを始めるのはきーちゃんの癖だ。 「縦走路から外れたのかもしれない。窪地の積雪は危険だ。早くビバークするところを見つけないと」  やけに設定が凝っている。 「ぐずぐずしてると死んじゃうよ」  そう言ってきーちゃんはとっとこ歩き出した。仕方なく後をついていく。  到着したのはきーちゃんの家だった。 「ちょうどいい穴倉だ。ここでビバークしよう」 「お邪魔しまーす」  きーちゃんの家も親が共働きで、昼間の間はいないことが多い。それでもなんとなく一声かけてから家に入る。 「なんだか眠たくなってきた。もうだめだ」  部屋に入ってもきーちゃんの遭難ごっこは続いていた。 「ねるなー、ねたらしぬぞー」  適当に合いの手を入れる。 「寒いよー、ゆーちゃん裸であっためてー」 「はいはい」  って、きーちゃん、本当に服を脱いでる!? 「ね、本当にあったまるのかやってみようよ」 「ふえっ?」  それって、きーちゃんとスッポンポンで抱き合うってことだよね……。 「ボク、ゆーちゃんがどれくらいあったかいか、知りたいな」  と、僕の耳元でささやくきーちゃん。 「……いいよ」  僕はちょっとどきどきしながら答えた。

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示:
目安箱バナー