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吸血鬼~OLを狙え~」(2006/02/07 (火) 17:41:43) の最新版変更点

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「くくく…いい月だな。狩りにふさわしい夜だ」  満月に照らされたビルの屋上に、マントを翻して何者かが降り立つ。 「さて、今宵の獲物はどいつにするかな……」  夜の闇より黒い髪、肌の色はスズランのような怪しい白さ。  何より印象的なのは、頭上の月よりも輝く金色の瞳。  にやりと笑う口からは、鋭い犬歯が伸びていた。  そこに一匹のコウモリが飛んでくる。 「マスター、ちょうどいい標的を見つけました」 「分かった。案内しろ」  マスターと呼ばれたその人物は、大空へ舞い上がろうとして……マントを何かに引っ掛けた。 「うひゃああああああああっ!?」 「ま、マスター!?」  コウモリが落ちていくマスターを大慌てで追いかける。  マスターを追い越す速さで下降し、その姿を15歳くらいの少年に変化させた。 「よっ……と!」  マスターの小さな身体を空中で受け止める。そのまま、背中の翼をはためかせてゆっくり地面に降りた。 「間に合ってよかった、マスター・アルフレド」 「うううう、びっくりしたよう。ヴェスありがと」  アルフレドがヴェスを涙目で見上げた。その顔はヴェスより2,3歳年下に見える。 「びっくりしたのは俺ですよ。いくら吸血鬼でもグチャグチャのバラバラになったら蘇れない。  マスターはいつも注意力散漫だ。これじゃいつまで経っても親方様に顔向けできませんよ」  アルフレドをお姫様抱っこしたまま、ヴェスはくどくどと説教を始めた。 「わ、わかったから、そろそろ降ろして欲しいんだけど」  恥ずかしそうに身をよじらせてアルフレドが言う。 「立派な吸血鬼たるもの、気高く、すべてにそつのない振舞いを……」  しかしヴェスは抗議を無視して話し続ける。  ──ショートパンツからはみ出した、ヴェスの太ももをなでさすりながら。 「常に夜の貴族にふさわしい行動を心がけて……」  なでなでなでなで。 「い、いい加減にしろっエロコウモリ!」 「んごっ!ああ、これはすまん。触り心地が良かったもので」  ヴェスはあごにアッパーをくらわされて、ようやくアルフレドを地面に降ろした。 「で、獲物は?」 「向こうの公園のほうに」  アルフレドがついていくと、人気のない公園を一人のOLが歩いていた。 「無用心だなぁ。でもま、おかげで助かるんだけど」  アルフレドはそう言ってOLの前へと飛び出した。 「だ、誰!?」 「ふふふ、汝の血を頂きに参上した。我の牙にかかることを光栄に思うがいい」  と、ポーズを決めて高らかに宣言する。 「……なあに、ボク?学芸会の練習?」  OLはまったく動じずに首をかしげた。 「は?が、学芸会?」  後ろのほうでプーッと音がする。ヴェスが吹き出したのだ。 「じゃあね、ボク。早くおうちに帰りなさいよ」  そう言ってOLは、固まったアルフレドを残して、すたすたと立ち去ってしまった。 「もーっ!学芸会じゃないーっ!」  OLの姿が見えなくなってから、アルフレドが地団太を踏んだ。 「ぷっ、くくっ……マスター、気を落とさないでください」  ヴェスが笑いをこらえながら慰める。 「そりゃこれだけ可愛かったら、コスプレにしか見えませんね。くくくっ」 「わ、笑うな、抱きつくなー!」 「あー、かわいいかわいいかわいい」  結局、この夜、アルフレッドは一滴も血を吸えなかったのであった。

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