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「ねえヴェス」 「なんでしょうマスター」 「これからもぼくの傍にいてくれる?」 「もちろんですとも」 「じゃあ、ぼくをお嫁さんにして……」  アルフレドが寝巻きのまま居間へやってくると、ヴェスが天井に逆さでぶら下がってぷらぷら揺れていた。 「ああっ、アルフレド様ッ!うへへうひひうひは」  気色の悪い笑い声を出して、よだれをたらしている。変な夢でも見ているらしい。  ヴェスを放置して、キッチンへ向かう。  急にケーキが食べたくなったのだ。吸血鬼だってケーキを食べる。 「ありゃ?」  冷蔵庫の中を開けたが、残っていると思っていたケーキが無かった。 「無いとなると、食べたくなるなぁ」  アルフレドはそっとブラインドの隙間から窓の外をうかがう。 「今日は雨か、外に出ても大丈夫そう」  おこづかいをポケットに突っ込み、お気に入りのレインコートを着込む。 『ヴェスへ。ケーキ買いに行ってきます』  と、メモを残し、アルフレドは屋敷の玄関を開けた。 「ありがとうございましたー」  アルフレドは、ケーキ屋でチョコレートケーキを3つ購入し、街の大通りに出た。  人間は下等生物とはいえ、こんな美味しい物を作り出したことだけは尊敬に値するな。  などと考えながら、傘を差して家路を急ぐ。  そんなアルフレドの後ろを、そっと尾行する者があった。  しかし、頭の中がケーキでいっぱいのアルフレドは、まったく気づかない。  人通りの少ない町外れまで来たところで、尾行者は行動を起こした。 「なあ坊や、ちょっとこれを見てくれないか?」 「ん?なぁに?」  声をかけられ、アルフレドが不用意に振り返る。 「!?」  それを見た瞬間、アルフレドの体がずしりと重くなった。 「ふ、やはりヴァンパイアだったか!」  男がアルフレドの前にかざしていたのは、銀色の十字架。 「ははは!高い金出して聖別した十字架を買ったかいがあったぜ!」  普通の十字架程度では、吸血鬼の動きを封じるまでには至らない。  しかし、力のある聖職者が聖化したものであれば、闇の眷属にとって脅威となる。 「お、お前、ヴァンパイアハンターか……」 「そうさ。いやあ、こんなところで見つけるとは思わなかったぜ。しかもまだ子供だ」  ハンターの男が、一歩一歩アルフレドに近づいてくる。 「く、ぼくだって、やるときは、やるんだぁっ!」  アルフレドは必死で傘を振り回そうとした。  だがハンターはあっさり傘を受け止め、拳でアルフレドを殴りつける。 「ぐぁっ!」  水溜りにアルフレドが倒れこむ。手からケーキの箱が落ち、男がそれを踏みつけた。 「へっ、あっけねぇな。ふむ、よく見たらなかなかきれいな顔してるじゃねえか」  ハンターがぐいとアルフレドのあごを掴んで引き寄せる。 「ぶち殺す前に、ちょっと遊んでやるかぁ。くっくっく」  アルフレドを担いで、無人の廃屋へと男は入っていった。  服をすべて脱がされて、アルフレドが床に転がされる。  身体の自由が利かないので、怒りの目でハンターを睨むことしかできない。 「まずはこれを舐めてもらおうか」  でろん、とアルフレドの顔の前に男の一物が差し出される。 「イヤ…だ…ッ!」  アルフレドが顔を背けると、男はがっと頭をわしづかみにしてきた。 「ふざけたこと言ってると、今すぐ心臓ぶち抜いてやるぞ、ああん?」 「うう……」  目の端に涙を浮かべながら、アルフレドは舌でぎこちなく男のものを舐め始めた。 「ちっ、十字架が効いてるから対してよくねぇな。もういい」  男はアルフレドの股を開き、肛門を指で押し広げる。 「おうおう、吸血鬼もガキのアナルはいい色してるな」  男のペニスが肛門に押しあてられる。 「ひ…やめ……」 「へっへっへ、銀の杭の前にまずはこっちの杭を刺してやるぜ」  恐怖に震えるアルフレドを嗜虐的な目で見て、ハンターは一気に貫こうとした。 「待てぇぇぇぇい!」  廃屋にどこからかの声が響き渡る。 「いたいけな子供の吸血鬼を殺そうとするばかりでなく、あまつさえ強姦とは!  地獄のサタン様もあきれるくらいの悪党だな!」 「だ、だれだっ」  ハンターが一物を放り出したまま辺りを見回す。  ぼわんと煙が上がり、突如としてサーベルを構えた少年が出現した。 「ヴェス!」 「すみませんマスター、遅れてしまって。でももうご安心ください」  言って、ヴェスは剣の切っ先をハンターに向ける。 「貴様の鮮血をもって、この罪、贖ってもらうぞ」 「く、これでも喰らえッ!」  ハンターは銀の十字架をヴェスに向ける。しかし、ヴェスは顔色一つ変えない。 「またちゃっちい聖具だな。こんなものを持ってハンター気取りか。そのようなもの、俺には効かない」 「ち、ちくしょう!」  十字架を投げ捨て、ハンターが銀のナイフを抜く。 「来いッ!このアルフレド様一のしもべ、ヴェスペルティリオ。  貴様なぞに遅れを取ることなど万に一つも無いッ!」 「うおおおおおお!」  ナイフを大振りに構え、ハンターがヴェスに切りかかる。  次の瞬間、閃光が走ったかと思うと、ナイフの刃が中心で断ち切られていた。 「ひいいいい」  男が床にへたり込む。 「お、思い出した。『禍津翼(まがつつばさ)』ヴェスペルティリオ!深淵王の最強の使い魔!」 「その二つ名を知っているなら、俺がハンターどもをどう思っているかも知ってるだろう?」  ヴェスの剣の刃が男の首筋に当てられた。  その剣よりも鋭い視線が、男に突き刺さる。 「去れ。貴様などを斬ったら名が穢れる。それと、俺たちに会ったことは口外無用だ」  冷たく言い放ち、剣を引いた。ハンターの男が泡を食って逃げ出す。 「最後に言っておく。マスターの尻は俺のもんだ」  さらっと爆弾発言をするあたりが、いまいちしまらないヴェスであった。 「いやあ、無事でよかった。心配したよ」 「ヴェス……ごめん、勝手に家を出たから……」  マントを着せられたアルフレドが、うつむいて謝る。 「もういい。いいんですよ」  ヴェスがアルフレドの頭に手を置いた。 「さ、潰れちゃったケーキ、買い直しに行きましょう」  そう言って、にっこり笑う。 「ひっく、ぐすっ、う…うわぁぁぁぁぁぁぁん」  緊張の糸が解けたのか、アルフレドがヴェスの胸に顔をうずめて泣き出す。  ヴェスはアルフレドが泣き止むまで、その髪を優しくなでて続けていた。 おまけ 「チョコケーキ残ってて良かったですね」 「うん……ところで、さっき、ぼくの尻がどうとか言ってたけど、どういう意味?」 「え?あ、あはははははははは」  本当に危険なのは、こいつなのかもしれない。
「ねえヴェス」 「なんでしょうマスター」 「これからもぼくの傍にいてくれる?」 「もちろんですとも」 「じゃあ、ぼくをお嫁さんにして……」  アルフレドが寝巻きのまま居間へやってくると、ヴェスが天井に逆さでぶら下がってぷらぷら揺れていた。 「ああっ、アルフレド様ッ!うへへうひひうひは」  気色の悪い笑い声を出して、よだれをたらしている。変な夢でも見ているらしい。  ヴェスを放置して、キッチンへ向かう。  急にケーキが食べたくなったのだ。吸血鬼だってケーキを食べる。 「ありゃ?」  冷蔵庫の中を開けたが、残っていると思っていたケーキが無かった。 「無いとなると、食べたくなるなぁ」  アルフレドはそっとブラインドの隙間から窓の外をうかがう。 「今日は雨か、外に出ても大丈夫そう」  おこづかいをポケットに突っ込み、お気に入りのレインコートを着込む。 『ヴェスへ。ケーキ買いに行ってきます』  と、メモを残し、アルフレドは屋敷の玄関を開けた。 「ありがとうございましたー」  アルフレドは、ケーキ屋でチョコレートケーキを3つ購入し、街の大通りに出た。  人間は下等生物とはいえ、こんな美味しい物を作り出したことだけは尊敬に値するな。  などと考えながら、傘を差して家路を急ぐ。  そんなアルフレドの後ろを、そっと尾行する者があった。  しかし、頭の中がケーキでいっぱいのアルフレドは、まったく気づかない。  人通りの少ない町外れまで来たところで、尾行者は行動を起こした。 「なあ坊や、ちょっとこれを見てくれないか?」 「ん?なぁに?」  声をかけられ、アルフレドが不用意に振り返る。 「!?」  それを見た瞬間、アルフレドの体がずしりと重くなった。 「ふ、やはりヴァンパイアだったか!」  男がアルフレドの前にかざしていたのは、銀色の十字架。 「ははは!高い金出して聖別した十字架を買ったかいがあったぜ!」  普通の十字架程度では、吸血鬼の動きを封じるまでには至らない。  しかし、力のある聖職者が聖化したものであれば、闇の眷属にとって脅威となる。 「お、お前、ヴァンパイアハンターか……」 「そうさ。いやあ、こんなところで見つけるとは思わなかったぜ。しかもまだ子供だ」  ハンターの男が、一歩一歩アルフレドに近づいてくる。 「く、ぼくだって、やるときは、やるんだぁっ!」  アルフレドは必死で傘を振り回そうとした。  だがハンターはあっさり傘を受け止め、拳でアルフレドを殴りつける。 「ぐぁっ!」  水溜りにアルフレドが倒れこむ。手からケーキの箱が落ち、男がそれを踏みつけた。 「へっ、あっけねぇな。ふむ、よく見たらなかなかきれいな顔してるじゃねえか」  ハンターがぐいとアルフレドのあごを掴んで引き寄せる。 「ぶち殺す前に、ちょっと遊んでやるかぁ。くっくっく」  アルフレドを担いで、無人の廃屋へと男は入っていった。

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