「龍神池の主【2】」(2006/02/08 (水) 17:47:25) の最新版変更点
追加された行は緑色になります。
削除された行は赤色になります。
*龍神池の主【2】
written by 妖怪布団かぶり
----
洞にたどりついた時には、雨は本降りになっていた。二人で身を寄せ合って一息つく。
「そんなに濡れなくてよかった」
と、正宗が言うと、
「濡れても構わないのだがな。むしろ中途半端なほうが気持ちが悪い」
少年は不服そうに言って、顔にかかった髪を払った。
その仕草が妙になまめかしく、正宗は思わず見つめてしまう。
よくよく見ると、すっきりとした切れ長の目、形の良い鼻、百合のような白い肌、
と垢抜けてはいないがなかなか美少年だ。
「どうかしたか?」
正宗は慌てて池の方に目を逸らした。水面に無数の波紋が広がっている。
「あー、君さっき、変わったこと言ってたなって。木が喜ぶとかどうとか」
「ああ、比喩でなく事実だ。天の恵みに気付いて騒いでおった」
「まさか」
正宗は、少年が冗談を言ってるのだろうと愛想笑いをした。
「人間には理解できんか」
少年はむっとした顔をする。
「だがお前ならば……。これでどうだ」
いきなり少年は正宗の右耳に息を吹きかけた。
「ひゃぁっ!?」
くすぐったい感触。
すると、急に辺りから騒々しい声が正宗の耳に飛び込んで来る。
「うめぇー、こいつはマジうめぇー!」「久しぶりだなぁ!梅雨のはしりか?」
「くぁー、たまらんね」「イヤッホゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!!」
あまりの喧騒に正宗は目が回りそうになった。
「うへえ、なにこの声っ!?」
しばらくすると、やかましい声はすぅーっと消えていった。
「木々の発する喜びの気配を、お前の頭の中で訳したものだ。我の力で一時的に聞こえるようにした」
「我の力って、君は一体?」
「この池のヌシだ。今は人の姿をしているがな」
「ここのヌシって言ったら龍神……ま、まさか」
このときになって、正宗は少年がまとう独特な空気の正体を悟った。
神が放つ霊気。ただの人間ですら感じられる、格の違いだ。
「か、か、神様、本当にいたんだ!え、ええと、失礼なことしたり言ったり、ごめんなさいっ!
謝りますから祟らないでくださいっ!」
「別に怒っておらぬ。祟らぬよ」
龍神がクスリと笑う。それがまた魅力的で、正宗はポーッとなってしまった。
「正宗、お前のことは赤子の頃から知っておるよ」
「僕のことを?」
「祖父に連れられて神事に出ておったであろう?一度話してみたかった」
それから、正宗と龍神は雨が止むまで語り合った。
「僕そろそろ帰るね。また来てもいい?」
「ああ、どうせ暇だ。ただし我のことを誰にも言うなよ。お主の祖父にもな」
「わかった。じゃあね、リュウくん」
こうして、正宗の秘密の夏は幕を開けたのである。
表示オプション
横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: