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ぴくん、と撥ねる背中。 俺は只、獣のように、柔肌に自らを打ち付けた。出しては入れ、入れては出すこの単調な繰り返しが、 俺達を煮立たせる。 「ぐ…ッ、もう、限界、いく、ぞ……!」 噛み締めた歯の間から、何とか声を絞りだす。 「うん、にい、ちゃ、いっしょ、いっひょ、に…!」 壁に当てていた弟の両手が、俺を求めて後ろに廻される。 その手を握り締めた。離さない。離すものか。この手を離そうと画策するものは、誰であろうと許さない。 喩えそれが、今も弟の体を蝕み続ける致死の病魔であったとしても―― 「「――――!!」」 重なり合う声。重なり合う感情。重なり合う掌。 俺達は盛大に欲望を撒き散らし、その場に崩折れた。 熱い塊が薄れ、消えてゆく。 リノリウムの床が、爆ぜそうに熱かった体を冷やしてくれた。 全ての後始末を終えミネラルウォーターを口にしている時、弟が唐突に呟いた。 「ねえ、兄ちゃん。一つだけ、お願いしていいかな…?」 返事の代わりに、目で答える。ミネラルウォーターのボトルを足元に置き、俺は弟を見つめた。 「こんなお願いは変だって、自分でもわかってるけど…あのね。遅刻癖を、直さないでほしいんだ」 一瞬どういう意味かわからずに、考え込む。それはつまり、今までどおりでいいってことなのか? …いや、今までどおりでいいなら、別にお願いする必要なんか―― 「僕は、死んじゃったら、たぶん一人ぼっちで寂しくて、兄ちゃんのことを考えてしまうと思う。 兄ちゃんは何してるかなー、とか、兄ちゃんは元気かなー、とか……それでね?きっと…きっと、 兄ちゃんに会いたくなっちゃうと思うんだ…」  言葉が、出ない。 「でも、兄ちゃんは遅刻していいからね?いっぱいいっぱい、遅刻してね? 兄ちゃんがもし僕に会いたくても、遅刻じゃなかったら、絶対に会わないからね? だから……僕が居なくなっても…ひぐっ…兄ちゃんは、今のままでいてね――」 俺には、弟が居た。 華奢で肌が白くて、怖がりで、意地っ張りで、優しくて、可愛い、たった一人の弟。 俺が愛し、俺を愛してくれた、この世でたった一人の弟。 今はもう居ない、たいせつなたいせつな、弟。

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