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防空壕ってどんくらい深いんだろう氏
俺は役に立たないあんどんを叫びを交えながら力一杯投げ捨て(この時も彼は面白そうに笑っていた)、壕の入り口に戻った。 どのくらいの時間が経ったのかはわからないが、外の空襲は止んでいた。 空には、消えかかった飛行機雲が3つ。 彼らの戦闘機が何人乗りかは知らないが、こんな田舎に飛行機を3機も寄越す米軍がおかしく、俺は空に向かって苦笑いをした。 彼はそんな俺を不思議そうに見つめる。 俺は彼を抱き上げ、一緒に空を見ようと目で伝えた。 彼は素直に飛行機雲を目で辿る。 俺は目前にある色素の薄い(茶色がかった)髪を見て、彼の生い立ちに疑問を持った。 彼はふもとの教会から来たと言った。 ふもとの教会…そんなもの、俺の記憶にはなかったのだ。 「なあ、お前」 「なぁに?」 目の大きな、可愛い顔立ちがこちらを向く。 「教会って、どこにあったんだ?俺、知らないんだけど」 彼は急に目をきょろきょろさせた。 戸惑っているようだ。 「大丈夫、何聞いても怒ったりしないからさ」 俺が笑いかけると、彼は少し微笑んで、斜め下を見ながら話だした。 「僕の教会は、ふもとの村の外れにあるの。だから、村に住んでる人も知らないかもしれない。神父様は、人に会わないひとだったから…」 「どうして?神父様は何か悪いことでもしてたのか?」 「ううん」 彼は首を振って、更に頭を下げた。 ほとんどうなだれていると言っていいような姿勢だ。 「神父様は…僕をかばってたの。僕がいじめられるといけないからって…」 「お前がいじめられる?何故?」 「僕の…僕の目が、いけないんだって…おとうさまもおかあさまも、みんな連れていかれて…」 そう言う彼の声は淡々としている。 「目、見せてみな?」 俺は下を向いている彼を促した。 「なあ、俺はいじめないから」 今俺の両手は彼の体を抱いて支えている。 彼の顎を持ち上げるには説得しかなかった。 「見せてくれたら、俺、お前とずっと一緒にいてやるからさ」 果たしてこんなセリフが説得につながるのか。 俺は自身を笑った。 しかし。 「…本当?」 彼はなびいたのだ。 「うん、本当、俺嘘吐かない」 すかさず言い足す。 良いぞ、彼の顔がこちらを向く。 ……………。 「…普通の目じゃねえか」
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