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水氏
車に乗せられて一時間半。ここはどこだろうか。川崎あたりのような気もするし、東京のような気もする。 薄汚れたマンションの階段を見知らぬ男と一緒に上る。 男はどれも同じ顔をした扉の一つの鍵をあけると、目で合図をして僕を中に入れる。 別に五万円のこずかいが欲しかったわけじゃない。 ただ、見知らぬものへの不安とわくわくがレッドカーペットになって僕を車に乗せたのだった。 薄暗い室内は油のすえたにおいがこもり、僕の鼻と頭を麻痺させていくようだ。 玄関からは右手に浴室、奥にやや大きなビデオカメラが一機おかれた部屋。投げやりに据え付けられたベッドには何年も使い古されたシーツがかけられてある。 先に入った男はカメラを僕にむける。 透明なレンズが玄関灯の鈍いだいだい色の光を反射している。 「お名前は?」 まるで正月に会う親戚のように優しい声。 黒ぶちのメガネの奥で、カメラの液晶を見る目が光る。 「タケシです」 どこにでもいそうな小学生の僕にはおあつらえむきの特徴のない名前だ。 「かわいい名前だね」 そんなわけはない。 「タケシくんはオナニーとかするの?」
あまりにストレートな質問は、むしろ僕の気を楽にさせた。 「はい。」 「今何才?」 「11才、小5。」 問診のような事務的なトーンの会話。 「普段どうやってやるの?手でやってみてよ。」 恥ずかしさなんてものは拾われた御徒町駅前に置いてきた。 股間の前で手を前後にふる。 機会音がして、カメラがズームする。手をアップに撮す。 ひとんちの玄関先でこんなこと、別に悪くはない。 そんなやりとりをしている時、奥の部屋から声が投げられてきた。 「はやくしてよー。」 声変わりが終わりかけの中学生ぐらいだろうか。 退屈したというような言い方だ。 「ゆうくん、もうちょっと待っててよ。」 男がそう言ったにもかかわらず、奥からそのゆうくんが歩いてきた。 「へぇー」 切れ長の目が僕の体を上から下までなめ回す。 少し色素の薄い髪に、筋の通った鼻、形のいい唇。 何もつけていないスリムな上半身に、ジーンズはベルトなし。 ズームする音。 カメラじゃなく、僕の目。 お兄さん、かっこいいです。
「山内さん、俺の好みわかってんじゃん。」 ゆうくんはカメラを越えて歩いてくる。 「はじめまして、名前はゆうき、よろしくね」 にっこりと笑う顔は、そのままテレビに出てもおかしくない。 「じゃ、後でね。」 僕はまた一人でカメラの前。 「じゃ、脱いでみようか。」 パーカー、シャツ、僕の白い肌が現れる。 ベルトを外し、下も一気に下ろす。 「タケシくん、結構大きいね」 「ほんとだ」 人にそんなことを言われるのは初めてだ。 「じゃ、ちょっとこすってみて」 男はカメラを三脚からはずして、それごと近寄ってくる。 それをそういう風に撮られて、手の中で大きさを増してゆく。
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