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著者不詳
人生オワタ! オレは天井に荒縄を括りつけていた。 「青年。逃げるでない。そんなことをされては、我の『研修』が終わらぬ」 「じゃあ冥途の土産に聞いておこうかな。『研修』って何?」 「ふむ。要は、一人前になるために必要な訓練である。我の場合、延べ50年誰かを幸福から遠ざけておかねばならぬ」 「ふうん? そうするとどうなるの?」 「悪魔にもコミュニティがあってな。そこから一人前として認めてもらえるのだ。すると、他の寄生先を斡旋してもらえたりするわけだ。別にそうしなくとも死にはしないが、我はそうすることにした」 「で、オレに白羽の矢が立った、と」 「然様である。ここで青年、御主に死に逃げられるようなことがあれば、我はまた次の宿主探しをせねばならん。はっきり言って、面倒である」 自分勝手なヤツめ。いや、悪魔だしそれでいいのか? 「まあ、生かさず殺さずの心構えで行くから、覚悟せよ」 「……イヤだ」 さて、準備万端。吊るか。ごめん、オカン。 ぎしっ…… 縄が軋む。だんだん脳への血流量が減ってきてる。意識が朦朧としてくるから、わかる。あ、だんだん苦しくなってきた。息してないからね。そりゃね。 でも、これも意識が途絶えるまで。そうしたら何もかもわからなくなるのさ。ほら、今聞こえたブチって音も聞こえなくなる…… ブチっ? 「青年。未だ未熟であるとはいえ、我は悪魔ぞ? 嘗めてもらっては困る」 縄、切られたらしい。オレは死ぬこともできないのか? 「そーだよ、おにーさん。ぼくと一緒にずっと暮らそうねぇ♪」 断る。
死ぬことも諦め、仕方がないので茶を淹れる。実家から送られてきた静岡茶は、なかなかいい香りで心を癒す。 人はソレを、焼け石に水、という。あはははは。 「ところで、悪魔? オレとそこの妖精との関係は、ほっとくのか?」 「然様。対象が人間である以上、妖精に手出しはできぬ。なにより、我が恩人であるところの彼に手出しをするつもりは毛頭ない」 悪魔にも義理くらいあるわ、と胸を張ってみせる。あ、コレはコレで可愛いかも。つれない顔をしてるからか、時々見せる表情がなかなか萌え…… いや、なんでもないぜ? 「おにーさん、おにーさん。お茶請けがきましたよー」 手を振る妖精。なんか通常の3倍幸せそうだ。あ、ソレを見る悪魔も得意気だ。 「はいはい。ほら、こっち来い」 膝の上に呼んでやる。重みと、暖かさと、甘い香りがオレを誘う。……あ、なんかもうコレでもいいかも。 3人で茶を啜る。チョコ妖精に口付けしつつティータイム。なんかおかしい気がするが、しかしこの部屋ではコレがデフォルトになっていくのか。 まぁ、コレはコレで幸せな気もするし…… …… おい。オレは今何を思った?
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