メニュー
人気記事
著者不詳
貴司の声が弱々しく響く。俺ってば、励ましに来たはずなのに泣かせてどうすんだか。 貴司は自虐的に泣く。自分の不満のためではなく、不満をもてあます自分を 悲しんでなく。見ていると、俺はつらくなってくる。 なのに、そんな貴司をみてると、なんていうか、こう、ギュってしたくなる。 俺ってば、鬼畜かもしんない。ごめんな。 しかし、これは由々しき問題だ。家を出るという理由が「俺の理性が決壊し そうだから」なんて、その対象を目の前にしてどう説明したものか。 神の味噌汁・・・あー、しょうもな。俺も相当てんぱってる。 「本当にまだ何にも考えてないんだ。」 言いながら俺は自分の狡さに呆れる。 貴司だってこんなの信じはしないだろうに。 俺はいつだってお前のことを考えてるつもりなのに、気が付くと傷つけてる。 「そう、なの?」 貴司が顔を上げる。ここぞとばかり俺は言い募る。 「ああ、第一、就職したばっかりだし、敷金とか払えるわけないだろう」 ナイスな言い訳に、やれやれと思う。 「兄さん、ずっと一緒に家にいて?ね。」 貴司の上目遣いに抗する力なんて、俺にはない。顔がしまりなく緩みそうに なるのを必死の思いで引き締める。 人間に尻尾がなくてよかったと思う瞬間だ。もしあったら俺の尻尾はバッサバッサ振りまくりだ。
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。