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著者不明
「ほら、悠!洗ってやるから早く上がってこっち来いって」 「い、いいよ…僕、ひとりで洗うから…」 「駄目だっての。ちゃんと悠洗ってやるように母さんに頼まれたんだから…お前が早くしないと俺が風呂上がれないっ」
ガオレンジャー見れなかったらお前の所為だからな。 そう僕を責め立てる一樹お兄ちゃんの声が、バスルームの白い天井に木霊する。 お風呂は嫌いだ、面倒だから。泡の感触が何だか気持ち悪いから好きじゃない。 それでも、お兄ちゃんと一緒なら。少しでもお兄ちゃんに構って貰えるなら……そう、思っていたのに。 お兄ちゃんにとって、僕って邪魔な存在なのかなあ。 悠の白い頬に一雫の涙が伝う。薔薇の香りが漂う浴槽に、小さな波紋が生まれた。
「悠……?」 「……っく、…ぅ」 「どうした?何いきなり泣いてんだよ…?」 「な、ないて…な、んか」 溢れる滴が、悠の反論を制止した。 ぴちゃ。ぴちょん、ほんの小さな筈のその音はこの狭い空間に伝わるには十分で、悠は追って来る一樹の視線に脅えうつ向いた。 桃色の湯船に自身の顔が映る。 視界が揺れていて良く見えないが、それが堪らなく情けないものであるという事は嫌でも分かる。 への字に曲がった唇は震え、大きな双眸は涙の泉で溢れそうだ。 お兄ちゃんの、一番嫌いな僕の顔。 きらわれる。
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