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水氏
なぜあんな古色蒼然としたものを有り難がるのか、理解しかねる。 苔蒸した黴臭い、陰気な場所は、何百年も前からこの辺鄙な町を見守ってきたという。 だからどうした。 俺は宗教、儀式、典礼その他の因習が嫌いでならなかった。 特に葬式仏教とあだ名されるように、人の死に際を禿鷹の如く狙っている仏教には反吐が出るほどだ。 元々仏教というものはインドから伝来したもので、ブッダを敬うはずの宗教が戸籍管理の必要から国教になり、屍を喰い荒らす政治行為に発展したというわけだ。 しかも宗教法人には税金がかからない。 小さいながらも事業を経営している俺としては怒りの元でもある。 本来ならこうしたものに関わらずに済むはずだったのが、祖父の急死による相続でとある片田舎に住まわなければならなくなってしまったのだ。 ここでは旧態依然とした地方自治システムがのさばっており、さらに悪いことに、月に一度開かれる水払いの儀に参席しなければここに住むことを許されない。 砂利の敷き詰められた神社の境内を鳥居から石でできた御神水場まで行き、その水を本殿の前の石にかけるのだが、今の季節はなかなかの骨折りだ。 しかし、そんななかで一つだけこの町に来てよかったと思うことがある。 水払いの儀で出会った信太少年だ。
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