俺はあいつの事が大嫌いだった。 明確な理由なんてない。見てるだけで無性に腹が立つのだ。 きっと他の奴の目には、明るくて元気があって、勉強ができてスポーツができて、 おまけに顔が良くて人懐っこくて、誰とでも仲良くなれる“良い奴”に見えるんだろうが、 そいつらは知らない。あの笑顔の正体を。 あの笑顔は、いつも権力者の下でへいへい命令を聞くだけの、 毎度の如く臆病者がするような媚びた笑顔とは違う。 ひとりでいる事の苦痛を知っていて、それをひどく恐れている者の目をしている。 あいつはかなり無理をして、苦しみながら、助けを求めながら、 それでもなんとか明るいキャラを作ってる。 心の底から笑って、何かを忘れようとしている。 「気に入らねえ」俺は噛んでいたガムをぺっと吐き出し、ついでに毒も吐き捨てる。 取り巻きの一人が、びくっと肩を揺らした。お前の事じゃねーよ。 ついでにからっぽになったジュースの缶を投げつけ、それを捨てに行かせる。 「どうしたんだよ、直輝。さっきから機嫌悪いじゃん」 正直返事するのも面倒だったから、無視してやっても良かったが、 ちょっとした悪戯心に刺激されてか、軽いイジメの一環として、 俺はフェンス越しの校庭を適当に指差してやった。 案の定そいつは、校庭の方に頭を傾けただけで、 俺が何を指差したのかは悟る事ができなかったようだ。 最初はその間抜けな姿に笑いを堪えたが、しばらく見ていると非常に痛々しく思えてきて、 ほら、あれだよあれと、いつもこの時間帯にサッカーやってる連中を指差した。
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