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 ちょうど細い足でボールをドリブルながら、
華麗に敵チームの防衛線を突破しているあいつが見えた。
 成長期でどんどん背が伸びてる他の生徒に比べると、やたら小さい。
もっとも、だからこそ、あんなすばしっこいプレイができるんだろうけど…。
「あー、あのチビか。確かに最近びみょーに調子ん乗ってるよな」
「そういう意味じゃねえっつーの」
なんてあからさまに毒づいてみたものの、俺もそんなに背が高い方ではない。
どちらかと言えばこいつの言う“チビ”に分類されるだろう。
 けど、あいつよりかは幾分か大きいし、女にもモテる。
髪も黄色に染めて逆立てている所為か、強く見られてるだろう。
こうして常に取り巻き達が控えているのがその証拠と言える。
 もちろん毛を逆立てて自分を大きく見せようとする猫に、
実際の喧嘩で勝ち目があるのかどうかはわからないが、
決してハッタリだけでこんな格好してるわけじゃないのは確かだ。
 これは自分が孤高であることの証、世間に対する反逆の証であり、
人なんて絶対に信用したりしない、お前ら全員敵に回しても自分の意思だけは曲げない、
という強い意志の下に存在している。
 だから理由はどうであれ、あいつみたいにやたら他人に関わろうする奴を見てると、
吐き気がするほどムカツク。
 もっとも、幸いにも俺は、男に屈辱を味わわせる最強の術を知っているのだが。

「ケホッケホッ」
「なんだよ、風邪ひいたのか優輝」
 今や定位置となった屋上から階段を下ると、廊下で軽い咳きをしてるあいつの背中が見えた。
傍には友人と思しき生徒が二人。
まだ校庭にいると思っていたが…こっちから行く手間が省けたな。
 俺はいつも金魚のふんみたいについてくる取り巻き達に短く相槌を打って、足早に近づいた。
「よぉ」そう言って声をかけると、三人は面白いほど驚いた表情を浮かべた。
 当たり前だ。この学校で俺の事を知らない奴はいない。なにしろ──
「俺達に何の用だ?」三人の中で一番ガタイの大きい生徒が挑発混じりに歩み出る。
当然俺よりは遥かに背が高い。まともに殴りあったら十中八九負けるだろうな。
もちろん、“まともに殴り合う事ができれば”の話だが。
「木偶はひっこんでな。俺に用があるのはそこのチビだけだ」
「くっ!てめぇ!自分だってチビのくせに調子に乗ってんじゃ…」
 ドスッ、と鈍い音がしたかと思うと、そいつは苦痛に顔を歪めつつ、腹を抱えてしゃがみこんだ。
 そしてすぐ手前では、先ほどまで取り巻きの一人として俺の背後に控えていた生徒が、
おそらく野球部から勝手に持ち出したのであろう、金属バットを握って立っていた。
「はい、ご苦労」俺は財布から万札を一枚取り出し、そいつに渡す。
護衛役の助っ人として雇われたその生徒は、金を手にした事に満足したのか
ニヤニヤと気味の悪い笑みを浮かべながら、後ろに下がった。
 一方、今回のターゲットのあいつは、倒れた生徒の名前を叫んですぐさま駆け寄り、
先ほどから俺の事を鋭い視線で睨みつけている。
 しかしその顔があまりにも童顔だった所為だろうか。
これでは誘っていると勘違いされても文句は言えない。
 そして同時に、この恐れを知らない無垢な表情が、
これからどんな苦痛に満ちたモノへと変わるのか、とても興味があった。
「つれてこい」取り巻き達は手早くあいつの肩を持ち上げ、強引に連れ出そうとする。
「いやだ!降ろして!誰か助けて!」
 叫ぶあいつは、残った友人の一人に向かって必死に手を伸ばそうとする。
 無駄だよ、優輝。そいつは恐怖に身を竦めてそこから動こうとしない。
 所詮、人間なんてそんなもんだ。