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おじゃまします。


弘がとても小さく見える。
もともと家の家系は両親からはじめ、私も弘もどちらかといえば小さいほう
だったりするんだけど。
いや、そんなどうでもよかった。弘よ、そう、弘。
あの日以来あまり寝ていないし、ご飯もほとんど食べていない。
日に日にやつれて行くのが、そばにいてもわかる。
「ーーー。」
声をかけようとして口を開くけど、息を吸い込むと一緒になにもかも消えてしまう。
声をかければ「大丈夫だよ」って返事が返ってくる。それを確認しても何もならいことは
私でも判りきっていた。
私は弘のことならなんだって判ると思っていたのに、ここぞというときに何もできず、
自分自身にイライラしていた。
イライラしているのは私だけじゃなく、父も母も誰も彼もが弘を心配しつつも、慰める
すべを思いつけない自分たちに失望し、苦い気持ちで時間にゆだねるという選択を
せざるを得なかった。

ねぇ、弘、私たち、貴方にどうしてあげたらいい?何がしてあげられるの?

その日のその電話が鳴ったのは一緒にマリオカートを遊んでいた時だった。
「弘、あんた出なさいよ」
「おねぇ出てよ」
「じゃ、負けたほうが出ることにしよ、あとちょっとだし、、、あぁっ!」
「負けたのはおねぇでしたー」
「きったなーい」
さすがにこれ以上待たせると電話も切れそうだったので、仕方なく電話にでた。
「もしもし、榊です。・・・・はい。・・・いますけど、かわりっ・・・えっ!智くんがですか?」
智くんという名前に、にこにことした様子で振り返った弘は私の様子をみて心細そうな
表情を浮かべた。
「・・・・はい。・・・・はい。・・・・はい」
自分の声が酷く遠く聞こえ、今このシーンをTVで見ているような、皮膚感が感じられなかった。
「・・・・ええ。・・・・・・・・はい。判りました。伝えます。ありがとうございました」
必死にないている蝉たちの声が酷くうるさい。ないても引き止められはしないのに。
「おねぇ、智がどうかしたって?」

たった今まで電話で話せていたのに、どういう訳か口が開けない。
水が飲みたい。この部屋は暑い。首筋にかかる髪が気持ち悪い。蝉が、ヒグラシ蝉がうるさい。
「おねぇってば、どうしたって?」
私はどう伝えたらいい?弘は絶対に傷つく。私もだけど弘はまだまだ子供なのに。
「どうしたの?ねぇ、なんか言ってよ。おねぇってば」
弘が立ち上がってこっちに近づいてくる。神様はずるいなんで私が伝えなくちゃいけないのよ!
自分の呼吸が浅くなっているのがわかる。パニックを起こしているはずなのに、
一方で酷く冷静に自分を認識できていた。
「智くんがね、交通事故でなくなったて。」
私は弘の目を見て話すことができなかった。
「だって・・・今日・・・智・・・お兄さんとディズニーシー行くって・・・・・・」
弘が下唇をかみながら言った。酷く緊張する時の癖だ。なんども何度も小さくした
唇を噛み続けてる。
「その帰り、お兄さんの家のすぐ近くでだって」
刺激され赤みを増した弘の唇は唾液に濡れ、不謹慎にも美しいと思ってしまった。
「っだ、なんで!」
「知らないわよっ」
二人とも大声で叫んでいた。