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「あ、ごめん」
盗み見るようにして見た弘は今まで見たことも無いような、がらんとした
『からっぽな』顔をしていた。
これ誰だろう?弘ってこんな顔だっけ?私はとんでもなく馬鹿な感覚に襲われていた。
「・・・私こそごめんね。大丈夫?」
言った瞬間に私は後悔した。「大丈夫?」ってなに?そんなわけないじゃん。私って馬鹿だ。
「うん、たぶん大丈夫だと思う」
「大丈夫なわけないなのに、ごめんね」
私は博に近づき、そっと抱き寄せ、頭をなでてあげる。
高校受験を控えたこの夏に弘はすっかり私を追い抜いていて、慰めるというより私が
しがみついているみたいだった。

もう辺りはすっかり暗くなっていた。それでも私は弘にしがみついて頭をなで続けていた。
嗚咽も聞こえないのに、弘の流す涙が私の首筋に熱く打ちつける。
「ただいまー」
玄関から母の声が聞こえる。足音が近づいてくるのが判る。
「どうしたの、電気もつけないで、、、、びっくりした。どうしたの」
姉弟が居間で抱き合っている姿に一瞬驚いた表情を浮かべた母だったけど、
気配を察したらしく不安げに聞いた。
「弘の友達が、交通事故で亡くなったってさっき電話が。。。」
「・・・・そう」
亡くなったという言葉に目を見開いた母の瞳は次の瞬間慈愛の視線に変わり弘を見つめた。
音の無い時間が流れていく。蛍光灯特有の静かな高い音が妙に耳に付く。
「オレ・・・ちょっと」
そういうと弘は私から身体を離し居間を出て行こうとする。

「ひろっ」「ひろし」
私と母の声が重なる。
「ちょっと、散歩してくる。ごめん。」
「気をつけてね」
私は何も言わず弘の背中を見つつ、そういえば初めてオレって言ったかもって思っていた。
「うん。ありがとう。」
扉の閉まる音がして弘が出て行ったことが判る。
「おねえちゃん、行ってあげて」
「でも」
「いっしょにいてあげて。」
そういって頷く母は私と弘の何もかもが判っているようだった。
「ほらっ、弘はおねえちゃんのなんでしょ?」
それは私が生まれたばかりの弘を見て言ったことだ。
『おかあさん、この赤ちゃん私にちょうだい』やれやれ、昔の私に赤面させられつつ私は
居間をでて玄関に向かった。
このときの私は、弘を『わたしがもらった弘』を慰めてあげることができるって思ってた。
根拠なく思い込んでいた。