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夜も明けようとする頃、俺の隣で黙って俺の保守ぶりを見ていた守がポツリと呟いた。
「この字、僕とお兄ちゃんみたいだね」
守を見ると視線はディスプレイに向けたままだ。
普段はよく笑いよく泣きよく怒る、そんな表情豊かな守だが、今はやはり退屈そうにしている。
俺の隣の椅子で自分の膝を抱く様な姿勢で、無表情にじっとレスの並ぶ画面を見つめているだけだ。
俺も再びディスプレイに向き直り、再び保守作業に戻る。
「そうだな、俺の名前が保、お前が守だもんな」
何の気なしに言った。
しかし、
「うん、いつも隣に並んでるね」
その言葉を聞いた瞬間、ディスプレイに映り込んだ守と目があった。
心臓がドクンと鳴ったのが分かった。
ディスプレイの中で、守はじっと俺を見つめていた。

俺はディスプレイの中の守から目がそらせなくなった。
しかも、動かないのは目だけではない。保守を続けなければならないのに、キーボードに乗せた指も、少し前のめりになったままの胴体も、ゆったりした椅子の上で胡座をかいた状態の足も、まるで凍りついたかの様に少しも動かない。
そのかわり、心臓だけがいつもより早く、大きな音をたてて脈打っている。
俺は一体どうしてしまったんだ………、どこか遠くでそんなことを考える。
その時、
「お兄ちゃん…」
ディスプレイの中の守が俺から視線を外し、俺自身を見て来た。
同時に、ギッ…と守の座っている椅子が軋んだ音を立てた。

俺が保守している時、だいたい守は俺の隣にいる。
そして、レスの行方にばかり集中している俺に、学校であった出来事や、友達のこと等を取り留めもなく話して来る。
時には今日の様に、明け方まで俺の部屋で保守作業に付き合ってくれたりもする。

守はいつも俺を見ている。

そんないつもは当たり前のことが、今はまるでディスプレイの中だけで起きていることの様に現実感がない。
守の視線はすでに俺の目からはそれた、今は現実の俺を見ている。
「お兄ちゃん…」
左の耳から守の声が滑り込んでくる。
なのに、俺はディスプレイにから目をそらすことが出来ないでいる。

「ねぇ…、こっち向いて………」