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赤い目(3)

防空壕ってどんくらい深いんだろう氏

俺は失意の溜め息をもらした。
彼の狂言か。そんなこと言う子には見えんのにな。
「あれ?もっとよく見て?」
それでも彼は不思議そうに首をひねる。
「よく見ても何も…」
俺は少し集中して彼の目を見てみた。
…若干、黒目が薄い気がするが、それだけだ。
「異常、無無し!」
俺は宣言すると、彼の額に俺の顎を軽くぶつけた。
「嘘吐きは地獄に落ちるぞ」
「嘘じゃないもん…」
彼が涙声になる。
ふと見下ろすと、彼の泣き顔。
さっきは暗闇で見えなかったが、いやはやなんとも、可愛い顔で泣くものだ。
「じゃあ、何て言っていじめられるんだ?言ってみろ」
俺は意地悪く彼に問うた。
彼は上目使いではっきりと俺に言う。
「赤目は、裏切りドイツだって」
その瞬間、俺の体に電流が走った。
ドイツが第二次世界大戦において無条件降伏をしたことを知ったのはいつだったか。
日独伊三国同盟もついに崩れたるか、と呆れた記憶は確かに残っていた。
「ドイツ…赤目…な」
俺は苦笑いをした。
「ごめんな。お前は嘘吐きじゃないかも知れんな」
「うん、僕、嘘吐きじゃないもん」
「ごめんな、地獄なんて言って」
「ううん、良いよ」
「ごめんな」
「いいってば」


彼は少々くすぐったくなってきたのか、頬を染めて俺の胸にうずもれた。
…俺が彼の赤目を見抜けなかったのは、先天性の色盲を患っているからであった。
俺には、赤と緑の区別がつかないのだ。
このうら若き健康な男子に収集令状が来ないわけも、健康診断で色盲をカミングアウトしたからである。
知識のおぼつかない上役は、わけもわからず俺を狂人のように見たのか、リストから外したのだ。
運が良かったとしか言いようがない。
しかし、このご時世、いつ自分のような身体障害者(は大分大袈裟だが)にも赤紙が舞い込んでくるかわからない。
そのことは俺も充分知っているつもりである。こいつを構ってやれるのも、あと少しかも知れないな。
そう思うと俺は、いつしかこの名も知らぬ少年に一生をかける決意をしている自分に気付いた。
あまりにも自然な決意だった。


「お前は俺が守る」
突然の俺の言葉に彼は驚いて顔を上げたが、その顔はすぐに笑顔になった。
「うん」
「絶対、守るからな」
「うん」
「絶対、絶対な」
「うん」
俺はいつしか、号泣していた。
「お兄ちゃん、泣かないで」
「僕もお兄ちゃんを守るよ」
彼は優しくそう言った。
「馬鹿、お前は大人しくしてればいいの」
涙声で格好の悪い俺の強がりに、彼は笑って応じた。
「僕が守るんだからね」
俺の頬に、彼のキスが降った。