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勇人と翔

王子たま氏

ある冬の夜
塾帰りの二人は、雪に埋もれた狭い道を、
1mと互いの距離を離す事無く、横に並んで歩いていた。
二人は小学校の頃からの友人で、同じ塾に通っている。
「腹減った…コンビニ寄ってくべ?」
二人の内の一人、勇人(ハヤト)が、一言めを発した。
勇人は、野球部所属の半幽霊部員で、眼鏡の似合う可愛い奴。
こいつが部活に参加しない理由はただ一つ、
こいつの友達なら誰でも口を揃えて言うだろう、【めんどうくさいからだ】と。
「良いけど、帰ったら夕飯じゃないの?」
微笑を讃えながらに、もう一人の少年、翔(カケル)が訪ねた。
「今日、母さん居ないから」
翔の顔を見る事もなく、無表情にそう返した。
昔からそうだ、二人は仲良しだし、互いの悩み事も相談する。
けれども、こいつが笑うのは、自分の冗談に対して自分で勝手にウケたとき、
それから自分が失敗をしたとき。何故だろう。翔は最近、勇人の底知れない深い面に、
興味を持つ様になった。


「あ、そうなんだ…でもほら、コンビニ弁当は身体に悪いよ?」
なおも小さな笑みを浮かべながら、相手を気遣う様にして、翔は勇人の肩を
叩いて、その顔を覗き込んだ。やっぱり無表情。
「んぁ…?別に作れるけど、めんどくせーし」
自分は、この【んぁ?】が好き。
そんなことはどうでも良いけれど。
勇人も勇人で、尚もつまらなさそうな顔をしながら、
けれども翔の隣に寄り添ったまま、肩に乗せられた手を避けることもなく
歩き続けた。
「面倒くさいってなー…アレ、勇人って、料理出来る子なんだ」
こいつは面倒くさがりや。そのくせして人一倍他人のことを気遣うくせに。
けれどもこいつは偽善主義者。けれどもこいつの偽善は、他人を傷つけたくない
という思い故の偽善。自分は、勇人のそういう所に魅力を感じる。
そんなことはどうでも良いけれど。
と、そんなことを考えている間中も、勇人の肩に乗せた手が、避けられる事は
なかった。流石に恥ずかしくなって、翔はその手を避け、何を思ったか、自分の胸部に置いた。
「ん…基本的に何でも出来るけど」
勇人は無表情に。けれども自慢気にそう言うと、小さく鼻で笑った。
「凄いな、卵料理しか出来ない奴とは大違い…」
翔は尊敬の目を送る事で、勇人の様子を伺った。
自分の為にシャープペンの芯の一本を差し出すという動作すら
面倒くさいという様な奴が、料理なんて出来るのだろうか。
そう些か疑問に思ったからだ。
けれども、自分の心中には、まだ何かあるような気がする。
そんなことはどうでも良いけれど。


「…どうかした?」
翔は、知らず知らずのうちに俯いていた。
何を考えているのかは解らないまでも、勇人は翔の様子を悟り、
翔の顔をヒョコッと覗き込んで、そう言った。
「ん、いや、歩の料理、食べてみたいなー…と。よく何か考えているの解ったな」
翔も翔で、決して取り乱す事は無く、平然とした笑みを浮かべて問い返した。
けれども、返答が返ってくる事は無く、不思議に思って、翔が首を傾げながらに
勇人に再び視線を向けると、相手の視線も同様に、自分の瞳を見据えていた。
「…御前が喰いたいのは俺だろ」
語尾をあげる事も無く、そう確信しているかの様に、
勇人は突然に問いかけて来た。
悪いけれど、その通りだ。勇人がこのようなことを言って来るのは訳もない。
いつもこいつに対するセクハラ発言は絶えなかったし、
好きだ。と隠語を使って何度も告げようとしたくらいだ。
けれども、今の問は、自分の想いに気付いている、と。
そう言っている様な物だ。どうでも良いと避けていた感情が一気に
結合した。目の前に居る友人が、桃色のオーラを纏っている様に見える。
嗚呼、末期だ。
「食べて良いの?………って、御前何言ってんだよ!」
「るせーな…違うの?」
【るせーな】と微かに頬を染めて視線を下げる勇人が、100倍可愛く見える。
【違うの?】と今度は語尾をあげて問う勇人が、100倍光って見える。
「…そっか、そういうことか。素直に愛を伝えられないから、
そうやって誘っているんだな!」
嗚呼、末期だ。自分の発言すらも自主規制出来なくなった。
こんなことを言ってしまったなら、もう決して親友では居られなくなるだろう。
それが良い意味でも、悪い意味でも。
「んぁ?……もう良い、帰ろ」
勇人は、先程の翔を真似て、翔の肩に手を乗せた。