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竹千代と国千代(1)

著者不詳

時は慶長十九年。
大御所徳川家康は、駿河城に二人の孫を呼び寄せた。
二代目将軍秀忠の息子、長男竹千代と次男国千代である。
いわずもがな、家康は今、徳川家の第三後継者を決めんとする最中であった。
長子相続制にすれば、難なく竹千代に行き当たる。
しかし、それで良いものだろうか。国千代の方が前途有望なのは明らかである。
…愚かなる兄か、聡明なる弟か。
家康の考えは、いつまでもまとまることはなかった。
その頃。
頭を抱える祖父を尻目に、竹千代は駿河城の地下牢に入り込み、自慰に耽っていた。
大人なら入り込めないような隙間をすり抜ける柔軟性は、やはり十一歳だと感嘆せざるを得ない。
「あ…っ、はぁ…ぁ…ん」
小さな声をもらしながら、彼は手を動かし続ける。
彼にとって自慰は、知らない場所に来ているという恐怖を和らげる為の特効薬であった。
「ん…あ…ゃあっ…!」
一瞬、つりそうなくらいぴんと伸びる足。
彼はフィニッシュを迎えた。
事が終わって気の抜けた彼は、ふと地面に目を落とした。
通風口から射す後ろからの光に、人型の影がふたつ。


…誰かいる!
おかしいぞ、阿福(竹千代の乳母・後の春日の局)は城内でまいてきたはずだ、それにあの狭い隙間を通れる人はいないはず、他に何か計算違いが起こったのなら、何故、何故!
彼は固まったままパニックに陥った。
茫然としたまま、ゆっくりと振り返ってみる。
影が口をきいた。
「あ…兄上?」
…はたせるかな、それは竹千代の弟その人であった。
「国千代…」
「兄上!」
国千代は鉄格子をするりと抜け、兄に近付こうとしてくる。
竹千代は焦りつつ、うつむいて服の乱れを直した。
「兄上」
顔を上げると、そこには国千代の笑顔があった。
「何をしておられたのじゃ?」
直球ストレート。竹千代は更に焦って、そっぽを向いて曖昧に答えた。
「別に…それより国千代、どうして此処がわかったのだ?」
「国千代は、兄上の後をずーっとつけておったから」
そう言って彼はにかっと笑う。
不覚、気付かなかったとは何たる不覚であろう。
国千代はたったの九つであるのに、おれはいよいよ駄目だなあ。
竹千代は自己嫌悪に陥った。