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「にーちゃん、おかわりー」
「はいはい、わーったよ」
元気よく突き出された漆塗りの椀を、苦笑しつつ受け取る。豆腐とネギだけの
シンプルな味噌汁を注いでいるあいだも、足をぱたぱたさせながら高良の話は続く。
「それでそれで、先生がね、兄ちゃんのことすごく良いお兄さんだねって言ってくれたの」
「そっか…一回面談行っただけなのに、よく覚えてるなあの先生も」
高良の担任と会ったのは、忙しい父親の代わりに行った面談の一回きりだったはずだ。
高校生の兄が行っても良いものなのだろうか、とひやひやしたけれど、家庭の事情を知って
いる初老の教師はあたたかく俺を迎えてくれて、ひどく安心したことを覚えている。
けれど、相手のほうも俺を覚えているとは思わなかった。炊き込みご飯を食べながら、にこにこと高良が笑う。
「だっていつもおれが兄ちゃんの話してるんだもん! 父ちゃんの代わりに勉強教えてくれたりするよー、とか、
いっつもおいしいご飯作ってくれるんだー、とか」
「よせよ、恥ずかしいな」
照れているのを悟られたくなくて、別に喉が渇いたわけでもないのに何度もコップに口をつける。
高良が小さいうちに死んだ母親の代わりを、どうやら務められているらしいと知って内心ほっとしながら。

「あとねあとね、このまえぎゅーってしたまま一緒に寝てくれたのー、とか」
「ぶふぁっ!」
不意の爆撃に、俺は思わず盛大に烏龍茶を噴き出してしまった。慌てて布巾をつかみ、テーブルを拭く。
「に、兄ちゃん大丈夫!?」
「お、お前、それ言ったのか!?」
「それって?」
小首をかしげた高良に訊かれ、一瞬言葉に詰まる。
いや、別に兄弟だし、男同士だし、うなされる弟を思ってやったことだし、ええと、……なんで俺うろたえてるんだ?
「…いや、なんでもない」
「ほんとに?」
「ああ、大丈夫。ありがとうな、高良」
心配そうに俺の顔を見つめる高良に、どきどきしながら応じる。そうだ洗い物しないと、と言い訳のように呟いて
食卓を離れる俺の背中に、見なくてもわかるほど顔を輝かせた高良の声がかかった。
「兄ちゃん、今日も寝るときぎゅーってしてくれる?」
「………ああ、いいよ」
何かを諦めて返事をしながら、俺は一体何を動揺しているのだろう、と今更のように考えた。