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陶器の人形のようだ、と雅人は思った。
孝彦の顔には、およそ感情と呼べるものは窺えない。
度々こういうことがある。何も感じていないはずはないのだ。
なのにこうやって、雅人を拒むかのように、心を見せようとしない。
「たか君、本当に東京に行っちゃうの?」
「うん、父さん転勤だから。仕方ないよ」
微笑とも、苦笑ともとれない笑みが孝彦の口元に浮かぶ。
「なんで…、なんで」
鼻の奥がつんっとする。
「たか君、こっちに残ればいいだろ」
「…僕だって、こっちには友達がいるし、雅人と離れたくない。でも、」
聞きたくない。
「無理だよ。わかるだろ?子供には、無理だよ」
孝彦はいつもそうだ。
できないことをできるとは決して言わない。
ほんのちょっとだけ現実から目を逸らすような、そんな一時凌ぎの嘘でさえ。
「2度と会えないわけじゃない」
また会おう、とは言わない。会いに来れるか判らないからだろう。
遠くても、電車でなら会いにいける。
でも飛行機に乗って行くのは、孝彦にとっても、雅人にとっても簡単なことではない。
孝彦と、会えなくなる。
遊べなくなる。
一緒に自転車に乗ることも、ゲームをすることも、野球をすることも、もうできない。
また会えるかもしれない。
だけど、孝彦が明言を避けたのだ。もう一生会えないかもしれない。
それらなせめて、雅人のことを忘れないで欲しい。

最後の思い出に2人だけでなにかしたい。
そう思って、人気のない場所を探していたら、体育用具室に辿りついた。
体育用具室というのは、なぜこうもジメジメとして薄暗くて、人の不安を煽るのだろう。
しかし孝彦は落ち着いたもので、床に転がっているロープを足でクルクルと弄んでいる。
「それで、」
囁き声とともに、孝彦の顔がゆっくり雅人のほうを向く。
闇色の瞳が雅人をみつめる。
暗がりに溶け込むような髪、対象に白く浮かび上がる顔と肢体。
暗闇に孝彦はとても似合っている、と雅人は思った。
「ここでどうするの?」
「え、えと…」
何も考えていなかった。
「その…」
いや、本当はやりたいことがある。
ずっと、願っていたことがある。
いつか、今ではなく『いつか』叶えたいと切望していたこと。

――孝彦とキスがしたい。